唯物論者

唯物論の再構築

搾取人数減少vs利潤減少

2010-11-16 05:30:34 | 資本論の見直し
恐慌と失業増

 旧来のマルクス経済学での恐慌の説明では、利潤率低下が過剰供給を必要とし、過剰供給が富者の利潤を減少させ、さらなる利潤低下と過剰供給の連鎖により恐慌が発現する。つまり過剰供給が、富者の利潤を減少させる役割を果している。過剰供給の一つの原因として労働力の相対的過剰状態、つまり失業者の増加がある。失業者の増加は需要の減少として 富者の利潤減少に関わるが、重要なのは失業者の増加による必要労働力の減少である。なぜなら利潤の源泉は、貧者からの搾取部分だからである。しかし可変資本の減少、つまり必要な労働力の減少は、富者の利潤の減少を意味するとは限らない。可変資本の減少により目減りした剰余価値をカバーするだけの生産性向上がされるなら、残りの可変資本でより多くの剰余価値を産みだすからである。

 失業増加による可変資本の減少が富者の利潤減少にならない例、および可変資本が減少しても利潤が増加する例を以下に示す。
 例証にあたり想定する可変資本減少の前の資本主義社会の状態は、先行ページで想定したものと同じである。(==>過剰供給vs利潤減少 [例証で想定する資本主義社会の初期状態])

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材1人分の生活資材4人分の生活資材
18時間6時間24時間

可変資本比率 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間
利潤率 33.33%



可変資本減少でも富者の利潤が増加する例

 最初の想定での労働生産性を1.5倍向上させる。このため想定5の内容を以下の想定5bに変更する。なお生産性向上の方法は、先進的な協業方式の導入や生産過程簡略化などの相対的な剰余価値増加方法でも、労働強度増大や搾取強化などの絶対的な剰余価値増加方法でもどちらでも良い。

 想定5b) 8時間で1人の貧者は、2人分の生活資材を生産する。

 これだけでは先行ページ(過剰供給vs利潤減少)と同一の変更内容と結果になるので、加えて可変資本を33.33%減少させる。このため想定1の内容を以下のものに変更する。

 想定1a) 社会構成員は、富者1人と貧者2人の計3人。(および社会構成員ではない失業者1人の計4人)

 この変更で、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のように変わる。

貧者A・Bの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・Bの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・Bの生産物全数および総労働時間失業者Cの必要生産物および可能労働時間
2人分の生活資材2人分の生活資材4人分の生活資材1人分の生活資材
8時間8時間16時間8時間


  貧者2人の1日の労働は、4人分の生活資材を生産している。つまり貧者2人の商品生産は、自分たち2人と富者1人の社会全体の需要を満たすだけでなく、単純な見方で良ければ、剰余生産物を2人分の生活資材に増加した形の単純再生産状態に拡大再均衡している。つまり労働生産性向上のおかげで富者は、以前より2倍の服を着込み、2倍の食事をし、2倍の家に住めるようになった。ちなみに可変資本比率・貧者一人当たりの必要労働時間・利潤率は、次のようになる。

初期想定可変資本減少後
可変資本比率     100%     100%
人間生活維持に必要な労働時間     6時間     4時間
利潤率   33.33%     100%


しかし富者が本当に裕福になるためには、最初の想定に加えて、次の想定7を必要とする。

 想定7) 富者は、1日あたり貧者2人分の生活を行う。

上記の想定をしないと、もともと失業者を除いて3人だけのこの資本主義社会だと、需要が3商品、供給が4商品の需給不一致が発生する。つまり、富者が4商品を市場に出しても、3商品だけが売れるだけであり、1商品が売れ残る。富者の手元に実体化する利潤は、相変わらず1人分の生活だけである。したがって富者は、裕福になるのに失敗する。ただしその場合でも資本主義も経済危機に陥るわけではなく、富者の恒久的な貧者支配も可能である。
 なお富者の贅沢消費は、貧者の消費節約と違い、実行するのは簡単である。過剰供給と必要生産物量の需給ギャップに恐慌の原因を求めるのは、無意味である。想定7に対応する資本主義が行う需給ギャップの克服方法を別の箇所(==> 過剰供給vs必要生産量)で述べる。


可変資本減少でも富者の利潤が減少しない例

 上記例に即して失業者1人を出す形で可変資本減少して、なおかつ利潤を増加するためには、労働生産性の向上が1.125倍(=9/8倍)を超える必要があ る。労働生産性の向上が1.125倍だと、貧者2人の1日の労働は、3人分の生活資材だけを生産する。つまり貧者2人の商品生産は、自分たち2人と富者1人の社会全体の需要を満たし、かつ無駄な供給も無い単純再生産状態に縮小再均衡する。それ以下の生産性向上レベルでは、可変資本減少がすると、富者は利潤の増加が無理になる。この場合の変更内容は、以下のような想定5cの変更となる。

 想定5c) 8時間で1人の貧者は、1.5人分の生活資材を生産する。

 この変更で、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のように変わる。

貧者A・Bの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・Bの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・Bの生産物全数および総労働時間失業者Cの必要生産物および可能労働時間
2人分の生活資材1人分の生活資材3人分の生活資材1人分の生活資材
10時間40分5時間20分16時間5時間20分


 ちなみに可変資本比率・貧者一人当たりの必要労働時間・利潤率は、次のようになる。

初期想定可変資本減少後
可変資本比率     100%     100%
人間生活維持に必要な労働時間     6時間  5時間20分
利潤率   33.33%      50%


 労働生産性の向上が1.125倍でも、利潤率は33.33%から50%に増加する。ただし増加したのは利潤率であり、利潤が増加したわけではない。利潤は、この想定変更の前も後も、1人分の生活資材であり、増えも減りもしていない。したがって富者にとってこの場合の利潤率増加は、とりあえず嬉しいわけでも楽しいわけでもない。一方の失業した貧者には、彼に必要な生活資材も生産されていないので、自らの生活のために他者から生活資材を強奪する義務が生ずる。

 上記例のように失業者を出す形の可変資本減少でなく、失業者を出さずにワークシェアで可変資本減少を企てても結果は同じで、利潤増加も可能である。=>ワークシェア
(2010/11/16 ※2015/07/05 ホームページから移動)


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資本論の再構成
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