唯物論者

唯物論の再構築

補足1:価値と価格

2010-11-16 15:00:59 | 資本論の見直し
価値vs価格

 商品価値を価格表現するための基礎は、価格の1単位である。価格の1単位は、貨幣の1単位であり、そして貨幣の1単位は、等価物商品の1単位である。この等価物商品としての貨幣は、かつては金であり、金と交換可能な債券であったが、今では国家が価値表現の同一性を保証した特殊な債券である。ただしこの価値表現の同一性を保証すべき対象も、金や銀では無く、かつては基軸通貨であった。しかし基軸通貨としてのドルの地位低下に伴い、今では基軸通貨の役割を果しているのは、消費者物価である。いずれにせよ価格による価値表現の結果は、貧者の生活水準を保証するものとなる必要がある。一方で商品価値そのものの基礎は、労働力の再生産に要する生活資材の量である。この必要生産物量は、貧者の属する社会が許容する貧者の生活水準が決定する。そしてこの必要生産物量を価格表現したものが、労賃である。つまり価値が貧者の生活水準に対する絶対的評価であるのに対し、価格はそれを基準にした相対的評価にすぎない。したがって労賃の額面が変わらないのに労賃自体の内包する必要生産物量が増大するなら、商品の価格表現は全体として減少にシフトしたことを示す。つまり貨幣価値の増大であり、デフレへの進行を示す。逆に必要生産物量が減少するなら、それらの価格表現は全体として増大にシフトしたことを示す。つまり貨幣価値の減少であり、インフレへの進行を示す。
 労働力商品は. その特性により、価格の下方硬直性をもつ。このために生産性向上により必要労働時間が減少しても、労賃は減少しない。したがって生産性向上により生活資材の価格が安くなれば、労賃は額面として変化しなくても、実質的に労賃の表す価値量は増加する。つまり物価動向はデフレ局面に入る。
 生産性向上により労賃が実質的に増加する例を以下に示す。
 例証にあたり想定する可変資本減少の前の資本主義社会の状態は、先行ページで想定したものと同じである。(==>過剰供給vs利潤減少 [例証で想定する資本主義社会の初期状態])

 ただし労賃の額面変更が入らないように、以下の想定9を追加する。

 想定9) 貧者1人あたりの労賃、つまり生活資材1単位あたりの価格を、6円とする。

上記の想定9は、分かりやすいように、初期想定での商品1単位の生産に要する時間を、円表示にしただけの価格想定である。つまり6円で1日の生活をするのを、一般的な生活水準と想定している。

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
3人分の生活資材1人分の生活資材4人分の生活資材
18時間6時間24時間
18円6円24円


可変資本比率 100%
人間生活維持に必要な労働時間 6時間
利潤率 33.33%


労賃が実質的に増加する例

 最初の想定での労働生産性を1.5倍向上させる。このため想定5の内容を以下の想定5bに変更する。なお生産性向上の方法は、先進的な協業方式の導入や生産過程簡略化などの相対的な剰余価値増加方法でも、労働強度増大や搾取強化などの絶対的な剰余価値増加方法でもどちらでも良い。

 想定5b) 8時間で1人の貧者は、2人分の生活資材を生産する。

 これだけでは先行ページ(過剰供給vs利潤減少)と同一の変更内容と結果になる。しかし生産性向上の結果、4円で1日の生活をするのが一般的な生活水準となるのに対し、労賃の額面を変更させないように、以下の想定9bを追加する。

 想定9b) 貧者1人あたりの労賃を6円のまま維持する。
 この変更で、1日の商品生産での生産物と労働時間の内訳は、次のように変わる。

貧者A・B・Cの必要生産物(=労賃)および必要労働時間貧者A・B・Cの剰余生産物(=利潤)および剰余労働時間貧者A・B・Cの生産物全数および総労働時間
4.5人分の生活資材1.5人分の生活資材6人分の生活資材
18時間6時間24時間
18円6円24円


 貧者3人の1日の労働は、6人分の生活資材を生産している。必要生産物は3人分の生活資材なので、単純な見方で良ければ、貧者3人の商品生産は、自分たち 3人と富者1人の社会全体の需要を満たすだけでなく、剰余生産物を3人分の生活資材に増加した形の単純再生産状態に拡大再均衡していたはずである。しかし上記の内訳では、剰余生産物を1.5人分の生活資材に増加した形の単純再生産状態に拡大再均衡しただけに留まっている。しかも労賃支出も利潤も、額面として初期想定時とまるで変化が無い。それでも労働生産性向上のおかげで富者は、以前より1.5倍の服を着込み、1.5倍の食事をし、1.5倍の家に住めるようになっている。しかもこの同じだけの所得増加が、富者だけでなく、貧者にももたらされている。生産性向上は、額面として変化しなくても、富者にも貧者にも等しい割合で、所得の実質的増加をもたらす。

 実際にはもともと4人だけのこの資本主義社会だと、需要が4商品、供給が6商品の需給不一致が発生する。つまり、貧者も富者も1.5商品を市場に出しても、1商品だけが売れるだけであり、0.5商品が売れ残る。貧者も富者も手元に実体化する所得は、相変わらず1人分の生活だけである。しかし過剰供給でも貧者と富者の所得が減少するわけではない。貧者も富者も裕福になるのに失敗するが、ただ単に無駄な商品生産が行われただけとなる。

 資本主義が行う需給ギャップの克服方法を別の箇所(==>過剰供給vs必要生産物量)で述べているが、贅沢消費自体は、消費節約と違い、実行するのは簡単である。額面の変化にかかわらず、労賃の実質的増加分が貧者の必要生産物量を底上げするなら、労賃の増加分は必要生産物として貧者に消化され、そもそも増加分として現われなくなる。

 なお上記内容の物価動向はデフレ局面となるはずだが、金余り状態なので、むしろ反対にインフレ局面になる。しかしこの全く正反対の結末は、景気過熱に伴う一般商品の便乗値上げが原因ではない。一般商品の値上げは、商品市場の価格調整機能が抑止するものである。ただし所得の実質的増加に伴って商品の質的向上が 進む場合は別である。その場合、商品生産に必要な労働力量も増大しているはずだからである。一般商品の値上げがインフレの引き金を引く形になるにせよ、インフレの根本原因は地代の高騰である。一般商品の値上げは、地代の高騰に連動して引き起こされたものにすぎない。生産性向上により社会全般にもたらされた 所得の実質的増加は、地代に全て吸収される。貧者の所得は額面上増大したが、その生活は以前と何も変わっていない。一時の小春日和は、過ぎ去って見るとやはり冬なのである。

 デフレ局面では、労賃の下方硬直化が、労働者の生活水準向上に作用し、全般的に資産の実質的増大が進む。貧者と富者の区別無く、資本主義社会も健全な合理性を保って維持される。これがインフレ局面になると、全てが正反対に作用する。インフレ局面では、労賃の実質的減少により貧者の生活水準が悪化し、全般的に資産の実質的減少が進む。デフレを無視しても、インフレを国家が許容する場合、それは国家の役割放棄ないし信用崩壊を意味する。貨幣は、国家が資産全般の価値表現の同一性を保証した特殊な債権だからである。もしインフレに火がついて預貯金の意義が消失した場合、資産の海外逃亡に成功する一部の富者を除いて、ほぼ全ての国民の資産がバブルのように消失する可能性もある。これが日本で発生した場合の国家的損失は、バブル崩壊で消失した414兆円が屁のようなものに見える規模となるはずである。
 昨今の長期不況では、デフレが目の敵のようにされており、インフレ期待論まで浮上している。しかしインフレ期待論は、現代版の徳政令を期待するだけの中身にすぎない。インフレが景気浮揚をもたらすという思い込みは、デフレが景気悪化の元凶であるという思い込みと同じ起源をもつ勘違いである。同様の思い込みは、地価高騰が景気浮揚をもたらすという錯覚にも見られる。これらの錯覚については、恐慌の発生経路の分析において説明する。(==>過剰供給vs恐慌)。
(2010/11/16 ※2015/08/15 ホームページから移動)


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資本論の再構成
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           ・・・ 過剰供給vs利潤減少
           ・・・ 搾取人数減少vs利潤減少
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           ・・・ 過剰供給vs必要生産量
           ・・・ 労働力需要vs商品市場
           ・・・ 過剰供給vs恐慌
           ・・・ 補足1:価値と価格
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