木の花で好きなもののひとつがセンダンだ。
長崎から佐賀、福岡と、クルマで移動中にこの花をたくさん見ることができて幸せだった。
センダンは四国や九州など暖かい地方に多い。そういえば、昨年も同じころに長崎は島原でこの花をよく見たことを思い出した。
もっとも、初めて花を見たのは去年の3月、台湾に行ったときのこと。巨樹ツアーのとき、高速道路の両側に薄く紫がかった白い花が見えて、パーキングエリアで停まったときに、花の名前を聞いて写真を撮った。
木に出合ったのはそれより以前で、鎌倉駅近くのお寺の境内だった。
春のころで、「栴檀は双葉より芳しといいます。花の咲くころは本当にいい香りがしますから、またお越し下さい」と書かれた絵馬の形の札が下がっていて、それ以来、いつかはこの花を見たいと思うようになったのである。
しかし、調べてみると、双葉より芳しと例えられたのはセンダンではなく、白檀。また、台湾のものは似ているがセンダンではなく、センダン科の似た花だとS野さんに教えられた。
双葉のころから香しいと思っていた木ではなかったのだが、センダンの花はとてもいい香りがする。楚々とした花の形や色も初めて見たときから好きになった。木の近くを通っただけで香りが漂ってくる。もし、庭があったら、ぜひ植えたい木の1本だ。暖かい場所でないとよく育たないらしいから、日当りのいい場所を与えてやらなくては……。
さて、気になったので、ビャクダンの花を調べてみた。
花はセンダンのように繊細ではなく、鐘形で柿の花の形にも似ている。色も赤紫のような色でこちらは私好みとは言いがたい。香りもないという。
では、幹が香るのかというと辺材は香りがない。
いい香りのオイルが採れ、粉末が線香になる、彫刻や高級棺材に使われるのは心材のほうらしい。香りの高い心材のほうは黄褐色で、辺材は白いと植物図鑑に書かれていた。
鎌倉のお寺のご住職は諺に例えられた木がビャクダンだと知らないのだと思っていたが、じつはすべてを承知のうえで、あのように書いたのかもしれない。
いまごろはきっと、センダンがさわやかな香りを境内に放っていることだろう。