漫画喫茶から進化を遂げ、すっかり街の風景に定着し、最近では公共インフラ的機能まで云々されるようになったネットカフェであるが、その不健康さ加減は前身となる漫画喫茶の比ではないだろう。
皆がぬくぬくと長時間漫画を読み耽っていた漫画喫茶にも、書架からお目当ての本を取ってくる、本を何冊も重ねて運ぶ、そして頁をめくるといった客の動きに、わずかながら筋力を使いカロリーを消費する瞬間があった。
しかし、ネットカフェはどうだ。漫画の品揃えも豊富なところが多いとはいえ、ほとんどの客がネット端末にかじりつく中、そこでの動きといえば、たまに姿勢を変える動きのほかは、ただただマウスを動かしクリックするというセンチメートル単位の動作程度であり、そこに基礎代謝以外のカロリー消費はほとんどないと言ってよい。薄暗い空間で青く光る画面に照らされた青白い顔の群れが、その不健全さを象徴している。
ただ、そういう不健全なものに惹かれるのもまた人の性である。自らの行動に常に健全さを求める輩はネットカフェなどに寄り付かずその辺をジョギングでもしていればよいのだ。「あー、今俺、ただただ時間をやり過ごしているなあ」と思う時に感じる倦怠感と、それに伴う幼児退行的・退廃的な快さに心当たりがないものはいるまい。
今回私が足を運んだ「171号西宮店」をはじめ、関西では27店舗、東北から関西まで計約130店舗を展開する快活CLUBには、そんな後ろ向きの悦びを後押しするトルコライスが、2種展開で用意されている。
「トルコライス」はミートソーススパゲティと炒飯が並ぶ上にポークカツという、長崎型の亜種のような組み合わせで、ポークカツには中濃ソースと共にマヨネーズがかけられている。メニューによれば、ミートスパと炒飯はどちらもそれぞれ一人前の量であり、楕円の皿の上での重量感はかなりある。
一見ナポリタンに見えるほどソースが満遍なくパスタに絡んでいるミートスパは、ガーリックが効いていてパンチがある。しからば箸休めにと炒飯にスプーンを伸ばすと、これまた見た目以上の油っぽさに胃袋と味覚神経をガツンと直撃される。カツもマヨネーズの力でもったりした重量感がある。結局どこから攻めても濃く、ハイカロリーであることを認識した瞬間、「これ絶対身体に悪いわ」という呟きが口から思わずもれるのだが、その言葉とは裏腹に、暴力的な味の濃さにつられ右手が勝手に次のひと口のためにスプーンを運んでしまうのだ。良薬は口に苦し。ならば毒薬は蜜の味であるはずだ。快楽を優先し自ら毒薬をあおる退廃的行動のうちに、いつしか口の端にはニヤリとした笑みが薄く浮かぶ。いわば悪魔的な一品であるといってよい。
「スペシャルトルコライス」はさらに迫力ある見た目だ。「トルコライス」の構成要素からカツの上の中濃ソースとマヨネーズを引き、カレールーを足した一品である。カレーのキャッチーな風味の後に二枚腰で襲いかかってくる炒飯のオイリーさは少し食しただけで発汗を促し、食べ進むうちカレールーと混ざったミートソースは辛味・酸味・甘味の暴力的コンビネーションで食べ手を驚かせる。もうこうなったら体のためにカツくらいは残した方がよいのではないかとわずかに残った健全たる理性が訴えかけるのだが、カレーとカツの相性の良さの前ではそんなものは嵐の中の小鳥の囀り程度に過ぎず、結局完食してまたニヤリ、となる。
あくまで個人的な感覚だが、成人が一日に必要とする摂取カロリーのほとんどをこれ一皿でまかなってしまうほどのハイカロリーさではあるまいか。「メタボまっしぐらだな」と呟きつつパソコン画面に向き直れば、気分は世捨て人である。
問題は「世捨て人」と「小太り」の相性の悪さだが。
トルコライス 890円
スペシャルトルコライス 990円
各店舗情報は
http://www.kaikatsu.jp/cafe/store.html