中国が日本人の死刑執行 国交正常化以来初めて
asahi.com2010年4月6日11時6分
【大連(中国遼寧省)=西村大輔】中国・大連の大連拘置所の関連施設で6日午前9時30分(日本時間午前10時30分)、麻薬密輸罪で死刑判決が確定していた日本人、赤野光信死刑囚(65)=大阪府出身=の死刑が執行された。遼寧省高級人民法院から在瀋陽日本総領事館大連出張駐在官事務所に連絡があった。日本政府は中国当局に対して、死刑執行が与える日本人の対中感情への影響などについて懸念を表明してきたが、中国側は通告の最終期限だった5日より1日遅れで刑を執行した。日本人に対する死刑執行は、1972年の日中国交正常化以来初めてとなる。
赤野死刑囚は5日午前、親類らと約1時間にわたり面会していた。
中国当局は1日にも、武田輝夫死刑囚(67)、鵜飼博徳死刑囚(48)、森勝男死刑囚(67)の日本人3人に対して「7日後に死刑執行する」と日本政府に通告。数日間に日本人4人が立て続けに死刑となりうる事態になっている。
相次ぐ死刑通告に対し、日本政府は、国民感情や邦人保護などの観点から中国当局に懸念を表明してきた。だが、中国当局は、麻薬犯罪の深刻化や、慎重に扱ってきた外国人の死刑執行に対する国内の不満への配慮から刑を執行するものとみられる。
日本人が関与した麻薬密輸事件が多発している遼寧省と吉林省では、今回、死刑執行を通告された4人のほか、同罪で逮捕や起訴された8人の日本人が確認されている。押収された麻薬や覚せい剤の量からみて、今後、死刑判決を受ける日本人もいそうだ。
中国メディアなどによると、日本人の死刑執行は、新中国成立1周年となる1950年の国慶節(中国の建国記念日)に、北京の天安門で毛沢東ら中国共産党幹部を暗殺する計画に関与したとして、翌51年に日本人とイタリア人の男2人が処刑された記録がある。また、日本外務省によると、第2次大戦後、海外で刑事犯として日本人が死刑執行されたという報告例は確認できないとしている。
判決文など中国側の資料によると、赤野死刑囚は2006年9月、遼寧省瀋陽で韓国人らから覚せい剤を入手。ラップに包んだ覚せい剤約2.5キロを茶筒に隠し、日本から呼び寄せた別の男=麻薬密輸罪で懲役15年判決が確定=とともに大連の国際空港から大阪に密輸しようとしたとされる。中国刑法では麻薬類の製造、運搬などにかかわった場合、覚せい剤で50グラム以上から死刑になる可能性があり、薬物犯罪に対する規定は日本よりも格段に厳しい。
赤野死刑囚は08年6月に、大連市中級人民法院(地裁)で死刑判決を言い渡された。容疑は大筋で認めたものの、「補助的な役割だったのに量刑が重すぎる」などとして上告したが、09年4月に退けられていた。
一般の中国人死刑囚の場合は死刑確定直後に執行されることが多く、家族との面会も通常なら認められない。中国当局は赤野死刑囚に対し、死刑確定から執行までに1年の猶予を与え、家族との面会も認めた点などで一定の配慮を示したといえる。
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中国死刑執行見通しで首相「残念だがいかんともしがたい」 法相は刑事手続きに疑問
4月6日10時34分配信 産経新聞
鳩山由紀夫首相は6日朝、中国で麻薬密輸罪での死刑判決が確定した赤野光信死刑囚(65)の死刑が同日中にも執行される見通しになっていることについて、「司法制度の違いとはいえ、死刑の執行は日本から見れば残念なことだ。ただ、ある意味で、いかんともしがたいというところもある」と述べた。首相公邸前で記者団に答えた。
千葉景子法相も同日午前の記者会見で「日本の制度と比較すると、かなり刑罰が重く、刑事手続きも日本ほどの適正な手続きが担保されているのかという意見がある」と疑問を呈した上で「中国の対応が日本の世論の反発を招くことにならないか懸念している」と語った。平野博文官房長官も会見で「(日本の)国民感情的にみて懸念がある」と指摘した。
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中国、死刑強硬の背景に世論の支持
2010年4月3日(土)08:00
【北京=川越一】中国外務省は2日、赤野光信死刑囚に続き、麻薬密輸罪で死刑が確定している3人の日本人の死刑執行を通告したことについて、「法に基づいて処理する」との談話を発表し、厳格に対応する姿勢を示した。「政治的配慮」で抑制されてきた外国人の死刑執行が加速している背景には、麻薬犯罪の急増と世論の支持がある。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(本部ロンドン)の報告書によると、中国では2009年に少なくとも千人以上の死刑が執行された。07年は少なくとも470人、08年には1718人に上るとされ、不透明な裁判経過と相まって「死刑天国」と揶揄(やゆ)されてきた。
国際社会におけるイメージの改善に向け、中国の最高人民法院(最高裁)は06年に「死刑適用を厳格に抑制する」として、死刑執行件数を削減していく方針を示した。今年2月にも「寛容」と「厳格」を使い分け、犯罪の性質や情状、社会に与える危害の程度などから刑の軽重を判断すべきだ、との意見をまとめた。
一方で、同法院は「罪状が極めて重大な犯罪分子については死刑判決を下すべきだ」とも主張している。昨年12月には、ブラウン英首相らによる減刑嘆願にも耳を貸さず、英国人に対する死刑を執行した。そして今回、日本人死刑囚について先の1人に加え、今回新たに3人の死刑執行を通告してきたことは、中国政府が、麻薬犯罪をいかに深刻な問題としてとらえているかを物語っている。
中国統計年鑑によると、中国で08年に摘発された麻薬犯罪は約27万件に上る。05年は約9万8千件といい、わずか3年で約3倍に増加したことになる。麻薬常習者は08年10月の時点で約108万人。それが09年6月には約122万人にまで膨れあがっている。
19世紀半ばのアヘン戦争で経験した屈辱を、中国が麻薬犯罪に厳罰で臨む要因に挙げる向きもある。近年、死刑に限らず死亡事故の損害賠償金についても、外国人と中国人の間の“格差”が論じられるようになっている。英国人に対する死刑が執行された際の世論調査では98・8%が死刑を支持。今回の日本人のケースでも、インターネット上には死刑支持の書き込みが多数寄せられている。
麻薬犯罪の急増と国民の不満の膨張は、社会の安定を揺るがしかねない。死刑執行がたとえ外交問題に発展するとしても、国内に向け強硬姿勢を示す必要が中国政府にはある。
◆中国、邦人に死刑執行(通告)。日本も中国人《陳徳通死刑囚》に2009/07/28死刑執行している
◆「いい加減な裁判でたまらぬ」《中国》赤野光信死刑囚が不満
◆中国の邦人死刑執行通告~「日本はどんなことでも中国の言うことを聞く」