「母の日」に考えたこと--「弔うチンパンジー」母、死んだ子と離れず

2010-05-10 | いのち 環境
中日春秋
2010年5月10日
 幼い子どもを失った野生のチンパンジーの母親が、わが子の死骸(しがい)を背負っている本紙の写真に衝撃を受けた。動かない子どもの体の毛づくろいをしたり、ハエを追い払ったり。群れの他のメンバーは、悪臭を嫌がらず、受け入れていたという▼京都大霊長類研究所(愛知県犬山市)によると、<弔うチンパンジー>はアフリカ・ギニアのある地域の群れに過去三例が確認された。この群れ固有の行動で、研究所は「弔いの原点のようなものでは」と注目する▼思い出すのは、空襲中に背中の幼子を亡くしながら、遺体を背負い続けた母親のことだ。東京大空襲を生き延びた人たちなどの証言には、幾度もそういう母親のことが出てくる▼子どもを思う母の感情の深さは、男たちの想像力をはるかに超えている。「炊事も洗濯も抱っこもしたが、おっぱいをあげているお母さんにはかなわない」。自治体の首長として、初めて育児休暇を取ったとされる東京都文京区の成沢広修区長が育休明けに語った感想だ▼<弔うチンパンジー>と対極にあるのが、後を絶たない児童虐待だろう。それでも「理解できない」と切り捨ててしまえば、独りぼっちで子育てに悩む母親たちの孤独な叫びを受け止められないと思う▼子育てする母親を孤立させることなく、地域の子どもの表情の変化に敏感でありたい。「母の日」に考えたことだ。

弔うチンパンジー 母、死んだ子と離れず

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