和歌山毒物カレー事件 『マスメディアが伝えない・超リアルな死刑会議』2017/5/5

2017-05-08 | 死刑/重刑/生命犯

2017年5月5日 (金) 10:00 ニコニコニュースORIGINAL 
和歌山毒物カレー事件・林眞須美死刑囚はなぜ報道陣にホースで水を撒いたのか。マスコミの過剰報道で作られた死刑囚の人物像と冤罪の可能性

 個性豊かな言葉のスペシャリストたちが集結し、今年も熱く燃え上がったニコニコ超会議2017超トークステージ。その中でも、『マスメディアが伝えない・超リアルな死刑会議』と題したトークステージでは、1998年の和歌山毒物カレー事件が題材として取り上げられました。
 林眞須美死刑囚の弁護人である安田好弘弁護士、慶応義塾大学の小林節名誉教授、ローリングストーン日本版シニアライター・ジョー横溝さん、社会学者の宮台真司さんをパネリストに迎え、ジャーナリストの堀潤さんがコーディネーターを務めました。「再審を開始するという事は、今までの判決が間違っていたことになり司法の権威が無くなってしまう」と語る安田弁護士。事件に対するメディア報道が裁判に与えた影響についても語られました。

■再審請求を棄却した経緯とその理由
堀:
 1998年7月に起きた和歌山毒物カレー事件。これはワイドショーも含めて異常に報道された事件の1つです。夏祭りに出されたカレーにヒ素が入れられており4人が死亡、67人が負傷した事件です。カレー番をしていた主婦の林眞須美がメディアが注目する中、10月に逮捕され、裁判では動機不明、自白も直接証拠もないまま、林の自宅にあったヒ素がカレーのヒ素と同一である、といった検察鑑定によって2009年に死刑が確定しました。
 後に京都大学の河合潤教授が検察鑑定の誤りを指摘。再審請求をするも、今年3月に和歌山地裁により棄却されました。どのような内容を河合さんが指摘して、一方で棄却されていったのか、その中身について教えて下さい。
安田:
 林さんの自宅ないし、親戚の家から6種類のヒ素が発見されました。科警研という政府の鑑定所、それから東京理科大学の鑑定書によって、同じヒ素だと鑑定されました。根拠は、現場に残っていた紙コップに付着した不純物と、カレーの製造過程に含まれる不純物が同じだ、という事で結論が出たんですね。
 しかし、河合先生がもう一度測定したデータを見直してみたんです。そうしますと、まず濃度が違うんです。彼女の家にあったヒ素は60%くらいしか濃度がない。ところが、カレーに入れられていたヒ素は98%。純粋に近い濃度のヒ素だった。(カレーに)入れた時に濃度が濃くなるという事は、物理的に有り得ない話なんですね。ですから、「全然別物だ」となって来る訳です。それを河合先生が解明されたのです。それで、再審開始決定になるかな? という期待が広がったんです。
堀:
 そうですね。もう一度、審議するべきだという風に。
安田:
 裁判所は色々な理屈を付けて、濃度の問題は、もう1つ別の入れ物を経由して入れたかもしれない。もしくは、(ヒ素濃度の)薄い所ばかりがカレーに入って、濃い所は残ったかもしれないという、新しい仮説を立てました。不純物が違うという指摘も、1回しか測っていない訳ですから、測り間違えかもしれないという様な理屈を立てる訳です。
 (現場に残されていた)ヒ素が同じだったとは言えないけれども、全く間違っているとも言えない。有罪の最大の決め手の、ヒ素が同じだったということが、崩れてしまったんです。それでもう一度裁判所で見直して、「ヒ素が同じじゃなくても、彼女が犯人らしいから、やっぱり犯人だ」という結論を出して、そして再審開始をしなかったんです。

■「再審をしない」というメッセージから読み取れる司法の権威と保身
堀:
 「犯人らしいから」の「らしい」という理屈が通る世界なんですか?
安田:
 ええ。最高裁まで有罪だと認めた事件ですから、それをひっくり返すとすると、真犯人を見つけてくるか、あるいはDNA鑑定のように、全くの他人が介在しているという様な物が出てくるか。そういう事でないと、裁判をひっくり返せないというのが、裁判官の考え方なんですね。
小林:
 だけど、それは酷い話ですよね。つまり、動機が無くて、自白が無くて、「(犯行)道具は貴方の物じゃないですか」で捕まった訳ですよね。道具はどこから出てきたか分からないって事なんでしょ? 当然、再審すべき話ですよね。有罪を決めるというのは、証拠を固めて、「これっきゃない!」という時に有罪にするのであって、疑わしきは被告人の利益に【※】というのは、古典的な憲法原則じゃないですか。
 ※疑わしきは被告人の利益に
 全ての被告人は無罪と推定される事から、刑事裁判では、検察官が被告人の犯罪を証明しなければ、有罪とすることが出来ない。
堀:
 裁判所は、何を誰に向けての「再審はしません」というメッセージなのでしょうか。
安田:
 再審を開始するという事は、今までの判決が間違っていたという事です。林さんの場合だと、一審から最高裁まで全て有罪だった。特に、最高裁は「事実は揺るぎない、明らかなんだ」とやった訳です。それが過ちだったとなると、司法の権威が無くなってしまう。
堀:
 権威を守るために再審請求を退ける事になったのでは? という事ですね。
安田:
 そうとしか、考えられないですよね。
小林:
 司法の権威は高まるけど、司法が尊敬されないようになるじゃないですか。
堀:
 そうですよね。一番は事実を知りたい。それを裁くのが司法の場ですから。
宮台:
 司法の権威というのは実は言い訳で、瀬木(比呂志)さん【※】に聞いた話だと例えば原発に関する訴訟で、電力会社に不利な判決を下した裁判官は全員例外なく左遷される。1つも例外が無いんだよね。行政官僚制の中でポジションを保とうとすれば、どういう事をすれば良いのかという事は示されているんですよね。
 ※瀬木比呂志
 元裁判官。現在は明治大学法科大学院教授。

■報道番組の在り方を考え直さないと、確実に第2、第3の冤罪が起こる
堀:
 事件報道に関してのメディア報道の劣化というのは間違いない。死刑が確定して、「この事件はあの容疑者なんじゃないの?」「 あの死刑囚じゃないの?」という空気を作る1つの発端として、メディアの発信は罪深い。本当に酷かったオウムの松本サリン事件を目の当たりにして、僕はメディアの内側に入る事で改善されたら良いと思っていましたが、その構図は全く変わらない。無罪の推定【※】が取っ払われて、報道が先行して行く。ここは変えないといけないんじゃないですか?
 ※無罪の推定
 犯罪を行ったと疑われて捜査の対象となった人(被疑者)や刑事裁判を受ける人(被告人)について、「刑事裁判で有罪が確定するまでは『罪を犯していない人』として扱わなければならない」とする原則。
横溝:
 「最高裁の裁判官は何を気にするかと言うと、ワイドショーを一番気にするんだ」という事をジョーク半分で聞いた事が有ります。毒カレー事件も、犯人だと決めつけての報道がありました。何が真実かというよりも、見ている人が面白ければ、それで良いじゃないかと。メディアも数字が付いて、スポンサーからお金が入るから良いじゃないかと。こういう所に陥っている状況の中で、もう一度メディアの在り方、報道番組の在り方を考え直さないと、確実に第2、第3の冤罪が起こるでしょうね。
堀:
 林眞須美に関して言えば、報道陣にホースで水を撒くシーンが繰り返し繰り返し報道される事によって、人物像のイメージというのが固まっていく。安田さんは弁護士としてご本人と接する中で、どういう風にお考えでいらっしゃいますか。
安田:
 あまりにもマスコミがしつこくて、玄関先で取材して、家の中へ入ろうとする。それでもう、堪らずに水を掛けて玄関から追い払うんです。それをカメラが撮っている訳です。何度も何度も(このシーンの放送を)やるんですね。それによって、彼女が犯人だと決めつけられていく。

  

安田:
 これは彼女の家の白い壁なんですけれど。
堀:
 1998年に逮捕され、2000年に火災で家は焼失することになります。
安田:
 この家では、林さん夫婦と子供達が4人、合計で6人が住んでいたんですね。林さん夫婦は警察の中、子供達は施設に預けられることになります。家は無人状態になるものですから、誰もが見に来るんです。悪い奴をやっつける、という感じで、どんどん落書きをする。警察も警備をしないんですが、今でも私達(弁護人)が現場に行くと、警察が後を付けてくるんです。彼女を無罪の方向に動こうとする人間を警察は監視するけれども、有罪の方向で動く人には放置です。(逮捕から)1年半後に放火されて家は燃えてしまうんです。現在、この家は無く、広場になっています。
堀:
 世論を作る報道の多くが、警察の囲み会見、警察当局からのリーク情報を元にしています。たとえ現場で「私は違うと思います」という意見が有ったとしても、「それは警察は認めているの?」という(報道)デスクからの一言で、論調が固められてしまい、テレビや新聞を含む大手メディアで、こういう世論があっという間に作り上げられてしまう。これはどこかで変えなければいけないですね。

 ◎上記事は[ニコニコニュース]からの転載・引用です
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6月8日、池田小事件15年のこの日に、無差別殺傷事件について考える…映画「葛城事件」篠田博之 2016/6/8 


   

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和歌山カレー事件・林眞須美死刑囚の再審請求棄却決定に思うこと 篠田博之 2017/4/2
和歌山カレー事件 「保険金詐欺はやった。金にも執着がある。だからこそ一銭の金にもならない殺人なんかしません」
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「死刑弁護人」安田好弘弁護士の人間像に迫る/東海テレビ 2011/10/10/ 00:45~ 
【和歌山毒物カレー事件】最高裁 判決文 【主文】本件上告を棄却する。 平成21年4月21日
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