「鈴木邦男をぶっとばせ!」
2011/08/01 鈴木邦男
林眞須美さんは無罪だ!
①「流れ」は変わってきた!
そうか、13年前の今日(7/25)だったのか。和歌山カレー事件は。今日のように暑い日だったんだ。
7月25日(月)、「和歌山カレー事件を考える人々の集い」が行われ、行ってきました。エル大阪6階大会議室です。満員でした。マスコミの人々も多かったです。関心の高さが伺えます。
だって、勢いがついてます。流れがあります。足利事件、布川事件…と冤罪が晴れ、無罪になりました。東電OL殺人事件も、「証拠」に問題があり、やり直し裁判になります。ゴビンタさんは犯人ではなかったのです。近々、釈放されるでしょう。
次々と冤罪が晴れ、無罪になっています。「次は、和歌山カレー事件だ!」という声も強いのです。
この日、発売された『週刊朝日』(8月5日号)には、〈スクープ!和歌山カレー事件。ヒ素混入の紙コップは「青色」ではなかった!〉という記事が出てました。唯一の、重大な「証拠」とされたものに大きな疑いが出てきたのです。
元刑事の飛松五男さんも助っ人に〈写真=安田さん、神田さん、飛松さんと〉
元々、物証は全くなく、自白もない。状況証拠だけで逮捕された事件だ。本当なら事件として立件されないものが、無理矢理、「犯人」を作り上げ、そこに向けて人々の怨みを晴らそうとする。
1974年の「甲山事件」でもそうだが、園児2人が死亡した。「事故のはずはない」「誰かが殺したんだ」「ともかく犯人を捕まえろ」という声に押されて、警察は保母さんの山田悦子さんを逮捕した。
周りの人たちも、それに「協力する」証言をする。下手なことを言って、かえって自分に捜査の目が向いては大変だ。そう思い、捕まった「犯人」を攻撃する。マスコミもそうだ。しかし、冤罪だったのだ。
こんなケースは他にも多かったのだ。「ともかく犯人を捕まえろ!」「警察は何をしてるのだ!」という声に押されて、「怪しい人間」を捕まえる。
刑事はプロだ。どんな人間でも自白させられる。「布川事件」の桜井、杉山さんは、「ワル」だった。地元の不良だった。本人たちがそう認めている。
だから、「目撃証人」(これも怪しいのだが)の「証言」で、2人が捕まった時は、マスコミも新聞も、「これで解決した」「彼らに違いない!」と書きまくり、人々も「安堵」した。
冤罪が晴れて、自由の身になった2人に対して、今でも、まだ疑っている人はいるし、「まだ捕まってた方がよかった」と言う人もいる。桜井さんから直接、聞いた。
それだけ、若い時の2人はワルかったのだ。又、ワルだから殺人だってやっただろうと人々の偏見がある。捕まった時も、「やっぱり、あの2人だ」「彼らならやりかねない」と人々は思い、「納得」したのだ。そんなワルい人々を常に警察は見張り、リストアップしている。
カレー事件の林眞須美さんもそうだ。警察にとっては、最も「理想的な犯人像」だ。だって、実際、ワルだ。保険金詐欺を何件もやっている。
又、夜中、家の中で騒いでいる。高級外車で、得体の知れない人たちがしょっちゅう、出入りしている。そこらへんに違法駐車する。トラブル・メーカーだ。
又、取材陣に、ホースで水をかける。朝から晩までの執拗な取材で頭にきて、カーッとなってやったのか。あるいは冗談か。あるいは、暑いので、お水をサービスしたのか。
そのたった1回の「悪ふざけ」がテレビにかかると、何百回、何千回と流される。それを見た人たちは、「ひどい女だ」「ふてぶてしい女だ」「それに保険金詐欺までやってるじゃないか」「きっと殺人だってやってるさ」「他に、こんなことをやれる人間がいるか」…と、エスカレートする。取材すればするほど、怪しい女だ。「平成の毒婦」とまで言われた。さんざんだ。
②物証も、自白もないのに…。無理な逮捕だ
事件の起きたのは、13年前の1998年7月25日。和歌山市園部の自治会の夏祭り会場で出されたカレーにヒ素が混入され、それを食べた住民4人が死亡。63人が急性ヒ素中毒に襲われた。
林眞須美さんは犯人として逮捕され、2009年に死刑判決が確定した。だから我々は会えない。会えるのは、弁護士と家族だけだ。眞須美さんは、一貫して無実を主張し、再審請求を行っている。
夫の林健治さんによると、眞須美さんの体調は悪く、拘禁症の症状が見えているという。私は、三浦和義さんに誘われて、この事件の支援に携わるようになった。
林健治さんに初めて会った時、言ってた。「確かに保険金詐欺はやってました。金にも執着があります。だからこそ、一銭の金にもならない殺人なんかしません」と。
ウッと思った。これは説得力があった。普通の人は、「ワルだから」「保険金詐欺をした人間だから」と思い、「だから殺人事件もやってるはずだ」と思う。
でも、違うのだ。簡単に、「だから」とは言えない。これは、ワルの人なら分かる。「ワル」と「殺人」の間には越えがたい壁があるのだ。ワルいことをしたことのない人には分からない。裁判官にも分からない。
それに、眞須美さんには全く「動機」がない。町内の人に煙たがられたから、その復讐だろう。と言う人もいるが、そんなことで、めげる人ではない。ホースで水をかければ気持ちも晴れる。それで終わりだ。
「でもヒ素を持ってた」というだろう。しかし、林家では白アリ駆除をしていた。そのためにヒ素を持っていた。又、和歌山では、白アリ駆除や、又、ミカンを甘くするために少量のヒ素を使うという。だから、ヒ素を持ってる家庭が多いのだそうな。この事件でも、「あそこでも持ってる」「ここでも持ってる」とどんどん出てきた。
そのヒ素を持ってる中で、1番、目立ち、「犯人」として、捕まえるのに(キャラクター的に)ピッタリだったのが、眞須美さんなのだ。
前に、大阪の「たかじんのそこまで言って委員会」でこの事件を取り上げた時も、辛口の三宅さん、勝谷さん、宮崎さんらも皆、「この事件はおかしい。動機も証拠もないじゃないか!」と言っていた。ざこばさんは、わざわざ眞須美さんの面会にも行ってくれた。
それに林さんの一家は実に明るいし、信頼の絆で結ばれている。これは驚きだった。だって13年前、事件が起こると、もう凄い騒ぎになった。そして両親は逮捕。幼い子供3人は施設に預けられる。こんな極限情況に放り込まれたら、人間も変わる。親を怨む。グレる。
ところが子供たちは親を信じ切っている。明るい。怨まない。少しでも変なところがあったら、家族として気がつく。暗くなる。そんなことが全くないのだ。
又、眞須美さんは、一貫して潔白を主張してる。「やってないのだから、当然だ」と言うが、何年も捕まると、誰だって、やってもない事を「自白」する。それで冤罪も生まれる。
しかし、眞須美さんは、全く動揺しない。やってないからだ。大体、その「動機」が全くない。
③何から何までおかしい裁判だ
警察、検察側は、「目撃者がいる」というが、それも、極めて怪しい。弁護側が立証しているが、実際はよく見えない所から見た「目撃」だ。
そして、唯一、残るのは「ヒ素」だ。「週刊朝日」で書いてるが、眞須美さんの自宅台所で発見された「白アリ薬剤」と書かれた白いプラスチック容器に付着していたヒ素と、夏祭り会場のゴミ袋に捨てられていた紙コップに残っていたヒ素が、カレーに混入されていたヒ素と同一のものだという。
白いプラスチック容器のヒ素を青色の紙コップに入れて持ち出し、カレーに混入させたと、裁判所は認定した。
しかし、安田好弘弁護士が、実際に検証すると、「青色」だといわれていた紙コップは、「白色」だったという。そして、プラスチック容器もよく見ると、表面に大きなキズや、土や植物等がついていた。
「キズの具合、植物の付着などから、台所で使用していたとは思えない。屋外で白アリ駆除の作業用として使用していたとしか考えられない」と安田弁護士は言う。
「週刊朝日」でこれが大々的に報じられた。これは大きい。この日の集会も、新聞やメール、ツイッターなどで報じられた。「カップの色が青色が白に変じるなんてありえない。おかしい」と、元刑事の飛松五男さんも断言していた。
この日の集会では、神田香織さんの講談があり、そのあと、神田さんと私の対談があった。その時、来ていた飛松さんにも「元刑事から見たカレー事件」を話してもらった。「検察の証拠を全部検証したらいい。刑事の中にも、これはおかしいと思ってる人はいるはずだ。その人たちも声を上げてほしい」と言う。飛松さんの発言は心強かった。
安田弁護士も、終わって、じっくり話し合っていた。これからカレー事件も転機を迎えるだろう。飛松さんと安田さんのタッグは頼もしい。最強だ。まるで薩長連合だ。両者を引き会わせたのは現代の竜馬だ。
ところで、「和歌山カレー事件を考える人々の集い」だ。6時45分開始。
まず、講談師の神田香織さんが新作講談をやる。題して、「和歌山カレー事件=シルエット・ロマンスを聴きながら」だ。カレー事件の全貌と、眞須美さん家族の愛と信頼の物語だ。
獄中のお母さんに聞かせたいと、ラジオに子供たちが、リクエストするのだ。お母さんの名前は出せない。子供たちも姓はいわない。でも名前だけで分かる。獄中でむせび泣く眞須美さん。素晴らしい講談だ。
そのあとは対談。「林眞須美さんの師匠」神田香織さんと、「林眞須美さんを支援する会代表」の鈴木邦男さんだ。(そう書いている。当日のパンフに)。
神田さんは眞須美さんを講談の弟子にしたのだ。このキャラクター、この話しっぷり。この明るさ。まさに講談師にピッタリだと見抜いたのだ。
でも、毎日、稽古をつけるわけにはいかない。一応、「外神田の会」の弟子にした。出所したら、みっちり稽古をつけてやろう、ということだ。
もう1人、「林眞須美さんを支援する会代表」だ。この役は、元々は三浦和義さんがなっていた。ところが、三浦さんは三年前に亡くなった。
「三浦さんの後任といったら、鈴木さんしかいないでしょう」と安田弁護士に言われて、なった。私は、言われるがままだ。
④三浦和義さんのあとを私が…
2008年10月に三浦さんが亡くなった。「自殺」だと報じられたが、「殺されたのだ」と言う人は多い。
その2ヶ月後、12月20日に三浦さんの本が出た。三浦さんが代官山でトークライブをし、いろんな人と話をした。それをまとめたものだ。
でも、まさか三浦さんが亡くなるとは思わない。この本の三浦さんの「あとがき」が「最期の手記」になってしまった。三浦和義『敗れざる者たち』(ぶんか社)だ。なかなか、いい本だ。ここには、カレー事件の夫の林健治さんも出ている。連合赤軍の植垣康博さんと、民族派右翼の蜷川正大さんも。元刑事の北芝健さんも。そして私までもが…。
そうだ。この『敗れざる者たち』にはサブタイトルがついている。〈「うしろ指さされ組」の記録〉だって。フーン、私らは、うしろ指さされてんのか。
そして、出版から2ヶ月後、和歌山で、「和歌山カレー事件を考える人々の集い」があり、私も行った。この時の講師は「甲山事件」の冤罪被害者の山田悦子さんだった。とてもいい話だった。(それで、今年の7月16日の西宮ゼミには、来て頂いて、話してもらったのだ)。
3年前の和歌山集会の時、安田弁護士から、「三浦さんが亡くなったから、支援する会代表は、もう鈴木さんしかいませんよ」と言われたんだ。
7月25日の大阪集会でも、その話をした。じゃ、神田香織さんとはいつからの知り合いなんだろう。5年位前かな。
「何言ってんですか。19年前ですよ」と言う。そんな昔なの。「あの時、5才の娘が、今、24才ですから」と言う。ビースボートに乗って私は屋久島に行ったんだ。その時、神田さんは、娘さんを連れて、乗船していた。船に弱い私は、ダウンして、ずっと寝ていた。
「右翼のクセにダラシないわね」とオバちゃんたちに言われた。船酔いと〈思想〉は関係ないだろう、と思ったが、反論する気力もない。
でも屋久島に上陸してからは元気になる。縄文杉や弥生杉もあるし、屋久島を元気に歩いた。神田さんも一緒に歩いた。その時、5才の子供の面倒を見てくれたんだそうな。私が。全く忘れていた。「じゃ、証拠の写真を見せるわよ」。ぜひ見たいですね。
この2人の対談の時に、元刑事の飛松五男さんにも話してもらったんです。「この事件はおかしい」と断言してました。
このあと、和歌山カレー事件再審弁護団の「報告」。安田好弘弁護団長をはじめ、新しく入った弁護士も紹介された。再審請求の具体的な話を聞いた。
⑤翌日、辻井、宮崎氏らと会う
終わって、近くの居酒屋で打ち上げ。アムネスティの人が、「布川事件の桜井さんに話してもらったけど、“右翼の人と対談した”って言ってた。鈴木さんでしょう」「ハア、そうです」
「そうよね、鈴木さんしかいないよね」という会話がありました。「鈴木さん、これから東京に帰るの?」と聞かれた。iPhoneを取り出して時間を見たら、もう11時近い。「新幹線ないんじゃないの」「夜行バスがありますよ」。でもなー。学生じゃないんだから、夜行バスはきつい。そんで、梅田の近くの「ホテル関西」に泊まりました。
次の日は、昼、東京に帰り、一旦家に帰ってから、6時半、池袋に。元日本共産党にいた3人と会い、沖縄居酒屋で飲みました。
辻井喬さん(作家)、宮崎学さん(作家)、川上徹さん(同時代社)の3人です。辻井さんは三島由紀夫とは親しかったし、「楯の会」の制服は西武で作った。又、「野村秋介さんともよく会ってました。意気投合してました」という。
驚いた。政治の話は余りしなかった。2人とも(詩人)として意気投合したのだろう。と私は思った。
次の日、郵便の中に、「産経新聞」(7月26日付)を送ってくれた人がいた。25日の集会の時、私の隣にいた人だ。たまたま三浦和義さんの本を持ってたので、借りて、対談の時に、紹介した。
なぜ私が「支援する会代表」になったかというと、三浦さんとの付き合いで…と。対談の中で話した。その本を貸してくれた人が「産経新聞」を送ってくれたのだ。カレー事件のことが出ていた。
〈「鑑定紙コップは別物」毒カレー事件弁護団が主張。再審請求審〉
他にも、新聞は取り上げているようだ。産経も大きく取り上げている。これは〈流れ〉が変わった証拠だ。支援する会代表としても頑張らなければ、と覚悟を決めた。
◎上記事は[鈴木邦男をぶっとばせ! ]からの転載・引用です
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◆ 【和歌山毒物カレー事件】最高裁 判決文 【主文】本件上告を棄却する。 平成21年4月21日 2009-04-21
◆ 和歌山毒物カレー事件 10年(中日新聞 2008/07/26)
◆ 【毒物カレー事件】当時の捜査1課長「日本警察の威信かけた」
◇ 和歌山毒カレー事件(2018.7.25)から20年 〈来栖の独白〉林真須美死刑囚の犯行とみて、間違いないだろう
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◇ 和歌山カレー事件が題材 帚木蓬生著『悲素』 ヒ素という秘毒を盛る「嗜癖の魔力」 毒は人に全能感を与え、その〈嗜癖〉性こそが問題
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