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中東危機再来なのに経産省が石油部をなくしていた拙速

2023年10月27日 | 経済

 

エネルギー政策の主柱が脱炭素化では

2023年10月27日

 イスラエルとイスラム組織ハマスが激突し、中東危機で世界が激震に襲われています。今年は第4次中東戦争を契機(1973年10月)とする第1次石油危機からちょうど50年あたりにます。石油危機が再現し、物価高騰、経済停滞が再来するのかが懸念されています。

 

 第1次石油危機の時は、通産省(現経産省)はタイミングよくその直前の7月に、組織改革を行い、資源エネルギー庁を新設していました。鉱山石炭局を公益事業局を統合して資源エネルギー庁に改組し、石油部、石炭部などを新設しました。

 

 この組織改正が的中し、原油の輸入削減、トイレットペーパー騒ぎもあったオイルショックを乗り越え、それを機に日本は省エネルギー構造に大転換し、高度経済成長へと進みました。

 

 今回の危機勃発で、当時の花形であった石油部の活躍がまた注目されるのだろうと思っていましたら、なんと「石油部」は経産省・資源エネルギー庁の組織からこの夏、姿を消してしまっています。タイミングが悪い。

 

 「えっ、どうしてそんなことが」と気がついたのは、今月中旬にオイルショック対策の第一線にいた官僚(すでに高齢のOB)と、記者クラブに在籍し取材に走り回った新聞記者(同)が「石油危機50年」の縁で何十年ぶりに合同の懇親会を開いた時です。

 

 懇親会に合わせ、官僚と記者の合作で編集した小冊子「石油危機回顧録」の一節にこういう下りが目に入ってきました。「石油危機から50年を迎えた今年、奇しくも資源エネルギー庁の組織変更によって、『石油』の名前が部名、課名からなくなることになった。今後のエネルギー危機を考える時、『石油』は引き続き、汲みつくせない経済安全保障上の教訓の井戸であるはず」と。それが実際に起きつつあるのです。

 

 当時は課長補佐クラスで、最後は古巣の資源エネルギー庁長官になった方が「そんな組織変更は知らなかった。脱炭素化時代に向けた組織改正とはいえ、『石油部も石油課』という名前まで消してしまったいいものだろうか」と、嘆くことしきりでした。

 

 政府は「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律」を成立させ、6月に施行しました。化石燃料への過度な依存からの脱却、省エネルギー、水素・アンモニアを使った燃料転換、蓄電池産業の強化、原子力、再生可能エネルギーなどの電源の活用などを目指しています。これにあわせた組織再編で「石油」がなくなったのです。

 

 西村経産相は今年6月の記者会見で、組織改編、脱石油路線の明示、それに伴う7月の人事異動を説明しています。脱炭素化政策を目立たせるために、石油という名称を消し去ったということになります。いくつかの新聞を調べますと、記事には多少なりとも書いてはいるようで、印象は薄い。

 

 日本のエネルギー政策は「温室効果ガス対策が主柱となる。気候変動対策と安全保障の二兎を負うことになった」と、あるOBは解説します。それにしても、「石油」を部課名からなくしてしまと、今回のような中東激動の中で石油を確保することの優先順位は印象として下がってしまいかねない。 

 

 資源エネルギー庁の組織図をホームページで調べますと、「省エネルギー・新エネルギー部、資源燃料部、電力・ガス事業部」の3部構成です。かつての主柱である「石油部」は存在しない。部名の下の課名にも、かつての「石油計画課」「石油流通課」など「石油」は一字も見当たりません。

 

 では経産省・資源エネルギー庁は石油行政から一切、手を引くかといういうとそうではない。資源燃料部の下部組織の「政策課」の説明として、「石油、天然ガス、石炭に関する政策を行う」とある。同部の任務として「石油製品の販売、需給調整」なども規定されていますから、さすがに脱炭素政策だけに特化することではない。

 

 日本はまだ第1次エネルギーに占める石油の比率は36%、石炭25%,LNG21%で、化石燃料が83%という高率(21年度)です。石油の99%は輸入で、その9割が中東から輸入されています。

 

 長期的には、化石燃料の比率を下げていくにせよ、この83%から一挙に「ゼロカーボン」というのは無理でしょう。まだまだ石油確保、資源外交という役割は大きい。それにもかかわらず、「石油」という部名、課名まで一掃してしまった経産省は拙速だったのでなはいか。

 

 中東激突が始まった直後にNY原油は1バレル87㌦(5%高)に跳ね上がりました。日本の輸入原油の8割はホルムズ海峡を通過しますから、中東情勢によっては、サプライチェーン(供給網)の断絶もあり得ます。

 

 コロナ危機で減った石油需要は復活し、23年に過去最高(IEA)の見通しです。化石燃料によるエネルギー供給(石油、石炭)の優先度が高い国が多い。5月のG7首脳会議も「脱炭素化には複数の道筋がある」とし、脱炭素化一本やりではなく、エネルギー効率の改善が前面にでてきました。

 

 日本というか経産省は、「ゼロカーボン」の国際世論、環境派の主張に押されすぎた。中東危機の再現で今頃、「ちょっと拙速だったかな」と、反省してくれなければ困ります。

 

 

 

 


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1 コメント

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Unknown (にしむら)
2023-10-30 14:47:12
記事を拝読させていただきましたが、記事中いくつか事実誤認の箇所が見られますので、修正いただくことをおすすめいたします(以下、いくつか抜粋して記載します。)

「なんと「石油部」は経産省・資源エネルギー庁の組織からこの夏、姿を消してしまっています。」
→今夏の組織改編においてそうした事実はございません。
(出典)https://www.meti.go.jp/press/2023/06/20230627007/20230627007.html

「資源エネルギー庁の組織図をホームページで調べますと、「省エネルギー・新エネルギー部、資源燃料部、鉱物燃料部」の3部構成です。」
→省エネルギー・新エネルギー部、資源・燃料部、電力・ガス事業部の3部です。鉱物燃料部はございません。
(出典)
https://www.meti.go.jp/intro/pdf/a_soshikizu.pdf

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