付け焼き刃の覚え書き

 本や映画についての感想とかゲームの覚え書きとかあれこれ。(無記名コメントはご遠慮ください)

「石投げ令嬢2」 みねバイヤーン

2024-01-04 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「命を奪う、その感触を忘れないようにしなければ、驕りが出ます。生き物と自然に対して、驕り高ぶれば、人間は滅びます」
 そう領地で教えているのだとミュリエルは語る。片手で人間の首を折れなければ領主は務まらないと。

 田舎男爵の娘ミュリエルが王弟アルフレッドと結婚した。それはそれで大事件なのだが、結婚したといっても式は挙げてないし、そもそも王宮には知らせてなかったし、国王の印を勝手に使いまくって手続きを進めたので後始末に文官が奔走。その慰労も王弟の義務だ。
 さて、石投げだけで大方の野生の獣は狩れるミュリエルだが、王宮でのマナーは心許ない。そのあたりを誰か貴族につつかれてしまったら、結婚そのものがご破算になる窮地にあった。しかし、そこで公爵令嬢ルイーゼが言い放った。
「男たちは的外れなのです。女の気持ちなど、何ひとつ分からないのです」
 だから、女の戦いをしましょうと……。

 物語としては、今回の巻頭で「王弟殿下が婿入りした」のでタイトルを回収。それからは後日譚的に群像劇っぽくミリーの周囲の人々の物語が語られ始めます。特に中盤以降、ミリーの親友イローナのキャラ立ちが加速し始めます。イローナというよりイローナの父親ですね。ミリーが周囲を引っかき回すことによって起きた混乱に商機を見いだす商売人の娘。そして彼女が何か新たな商売を思いつくと、どこにいてもパッパが反応するのです。「パッパに任せなさい」と。次第にパッパことレオナルド・サイフリッドの活躍場面が増えていきますっていうか、本来、内政ものなら主人公がやるべきことを全部パッパがやっている気がします。主人公もキャラが濃いし、彼女の家族も十二分に濃いのだけれど、サイフリッド家の面々はそれを凌駕しちゃうんです……。
 イラストも婚約式、人形、剣を抜いたところと、この巻の山場をきちんと抑えてます。挿絵イラストもちゃんとポイントをついたセレクトです。こういうイラストが付くと、楽しく読めますね。

【石投げ令嬢2~婚約破棄してる王子を気絶させたら、王弟殿下が婿入りすることになった~】【みねバイヤーン】【村上ゆいち】【GAノベル】【溺愛恋愛小説】【小説家になろう】【ドギーバッグ】【寝袋】【ランタン祭】【魔剣】【くるみ割り人形】
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「最後のユニコーン」 ピーター・S・ビーグル

2023-12-24 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「ユニコーンを捕らえるためには、黄金の馬銜など必要ない。それはおとぎ話の作り事だ。心を純潔に保つだけで良いのだ」
 美しい1頭のユニコーンがライラックの森にたったひとりで住んでいた。もともとユニコーンはひとつの土地にひとりぼっちで住む習性だったのだが、そのため自分が最後のユニコーンになっていたことをなかなか知ることはなかった。
 狩人たちの会話から、ただひとり生き残ったユニコーンであることを知った彼女は、本当に自分しかいなくなったのか、ちょっと見に行ってみようと森から離れたのだが……。

 仲間を探すために旅に出た、この世でもっとも美しい生き物ユニコーンが、恐ろしい魔物や魔法使いに出会ったり、傷ついた人間に出会ったりする探索行の顛末。
 新版のイラストは天野喜孝。巧くて綺麗だけれど少し妖艶すぎて、ちょっとイメージが違うかな。

【最後のユニコーン】【ピーター・S・ビーグル】【Frank & Jeff Lavaty】【ハヤカワ文庫FT】【モダン・ファンタジイの最高傑作】【赤い牡牛】【竪琴弾き】
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「『人斬り』少女、公爵令嬢の護衛になる」 笹塔五郎

2023-11-30 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 護衛のための剣士として育てられたシュリネだったが、護衛としての初任務に就くその日に護衛対象を殺したとの濡れ衣を着せられた。彼女を陥れた上に口封じで殺そうとした敵を斬りまくって逃走し、文字通り『人斬り』となった少女は、異国の地で刺客に襲われている公爵令嬢と出会った。今まさに次期王選定のまっただ中。公爵令嬢であるルーテシアは第一王女支持のため会議に出席する道中であったのだが、その列席を阻止せんと第一王子の刺客が狙っていたのだ。
 路銀にもことかく逃走中のシュリネは、ルーテシアに取引を持ちかけた……。

「わたし、ちょっとお金に困ってるんだ。護衛が必要なら、たった今から雇われてあげるけど」

 タイトルままの話で、少女がその任務を全うするまでの物語。いろいろ伏線っぽい小ネタがちりばめられているけれど、「王女を王位につけるべく都へ向かう公爵令嬢の護衛になる」話はここまで。ボディガードものと旅物の良いとこミックスです。

【『人斬り』少女、公爵令嬢の護衛になる】【笹塔五郎】【ミユキルリア】【GCN文庫】【少女たちの剣戟バトルファンタジー】【2人の少女の出会いから始まる、剣戟バトルファンタジー】【小説家になろう】【カクヨム】
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「旅立ちのスーズ」 ピーター・S・ビーグル

2023-11-29 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「よき妻は夫と言い争わないって、母さんは言うの。だんなさんが外出するか、眠るかするまで待っていれば、あとは好きにできるって」
 スーズは夫婦の関係についてそう語った。

 スーズはもうすぐ10歳。けれど、村の近くの森にグリフィンが棲み着き、村の羊や山羊を食い荒らし、ついには人間まで襲うようになった。村の訴えで王様は騎士を送ってくれたけど彼は森から戻らなかったし、兵隊をどんどん送り込んでもどうにもならなくて、村人はとうとう王様に助けを求めることすら諦めてしまった。
 けれど、スーズは村を守るために王様に会うたびに出た。王様は本当の勇者だ。それもいい人なのだ。でも、ユニコーンに愛され、ドラゴンや巨人を退治したリーア王ももうすっかり年老いていた……。

 トップクラフトもアニメ化したファンタジー『最後のユニコーン』の続編というか、後日譚が出ました。中編2本を収録した『旅立ちのスース』。45年ぶりになるのかな?

【旅立ちのスーズ~最後のユニコーン】【二つの心臓】【スーズ】【ピーター・S・ビーグル】【牧野千穂】【ハヤカワ文庫FT】
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「太っちょ貴族は迷宮でワルツを踊る2」 風見鶏

2023-11-26 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー

 迷宮でユニーク個体のトロルの討伐に成功したミトロフは、ギルドで一躍時の人となる中ではたと気がついた。もともと追放された太っちょな貴族の三男である。もっと良いものを食べたいし、宿だってもっと上等な方が良い。そのためには何が必要なのか? ミトロフはそこで帳簿作りが必要だと考えた。迷宮探索で得られる金額と出て行く金額、これらをしっかり把握してこそ、上を目指せるというものだ。
 そんな上の生活を目指す探索のさなか、ミトロフとカヌレは魔物に襲われている獣人の少女アペリ・ティフを救った。しかし、彼女は迷宮人。地上世界で暮らせなくなって迷宮に逃げ込んで棲み着いた人々の一員だった……。

 嫡男の予備の予備として育てられ、気晴らしも許されず常に嫡男に相応しい教養や学術、武芸を学ぶことを強いられ、ストレスで過食になって太っちょになったあげく「もう要らんわ」と実家を追放された少年が、呪われた少女カヌレと共に迷宮に挑む中で巻き込まれた事件の数々。今回は迷宮人のもたらすアイテムを手に入れてしまい、ギルドや貴族の謀略に巻き込まれそうになる話と、実家に幽閉するためにカヌレを連れ戻しに来た白銀の騎士との対決がメインのエピソード。やっぱりウサギは強敵です。

【太っちょ貴族は迷宮でワルツを踊る2】【風見鶏】【緋原ヨウ】【オーバーラップノベルス】【追放された太っちょな貴族の、優雅な迷宮攻略譚】【ミルクビール】
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「拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた」 AteRa

2023-11-07 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「その剣は誰が為に」
 冒険者パーティー《黄金の水平線》のリーダー、ベアトリクス・アウシュタッドの口癖。

 奴隷商に拐われて売り飛ばされそうになっていた少女たちを助けて育てたアリゼは、もうアラフォー。少女たちが巣立って彼の元を旅立ってからは、魔物が跋扈する<魔の森>の最深部にある村で、村人を護りながら後進を育成していたのだが、そちらも目処がついたので10年ぶりに娘たちを訪ねに街に出ることにした。
 ところが王都についてみれば、自分と同じ名前のアリゼという男を「魔王を倒した勇者」たちが探しているという。なんでも、彼女らの師匠という伝説の人物らしいのだが、その手配書に描いてある顔は、もちろん彼とは似ても似つかぬイイ男だ。
 しかしながら、どうやら探し人は彼のことだったらしい。深淵の魔女、慈愛の聖女、始原の妖精、世界の王女、豪傑の女勇者などと呼ばれる英雄たちは、本当に彼が育てた娘だったのだ……。

 「ただのしがないおっさんですよ?」と言い張る男が実は魔王を退治した英雄の師匠で、娘たちを訪ねて回る道すがら魔王復活を企む陰謀に巻き込まれることになります。でも、主人公の自己評価が低すぎでした。だって、S級冒険者パーティーに育てられ、その師匠たちがパーティーでこなしていた仕事をソロでやっているのに弱いはずがないじゃないですか。
 イラストはすごく良い出来です。なんといっても、しょぼくれたタレ目気味の主人公がイメージバッチリです。良いタレ目キャラです。

【拾った奴隷たちが旅立って早十年、なぜか俺が伝説になっていた】【AteRa】【toi8】【TOブックス】【超弩級のおっさん孝行ファンタジー】【小説家になろう】【カクヨム】【生きる伝説】【魔王大戦】
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「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り:アート&メイキング」 エレニ・ルソス

2023-10-30 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 映画公開直後に刊行されたアートブックの日本語版。本当なら、こういう本こそ公開時に劇場で販売すべきものですよね。原書も買いましたが日本語版も当然購入。

【ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り:アート&メイキング】【エレニ・ルソス】【ボーンデジタル】
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「異世界刀匠の魔剣製作ぐらし2」 荻原数馬

2023-10-23 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「馬鹿は常に予想の斜め上をいく! 常識という鎖でケダモノは飼い慣らせんのだ!」
 騎士ジョセルは刀匠ルッツに非常識な真似をするやつは何処にでもいると教えた。

 王国が蛮族と見下す隣国の連合国に大敗し、かなり不利な条件で講和することになったのだが、その際の贈り物交換に向こうが用意してくる巨大なピンクダイヤモンド『覇王の瞳』に匹敵する贈答品が用意できない。そもそも用意できるくらい財政に余裕があれば戦なんぞしていないのだが、相手方の使者が言うには第三王女リスティルを代わりに嫁に出すことにしても良いという。どちらも互いの国の宝なのだからと。
 とはいえ、王女は13歳。対してカサンドロス王は70歳で第五夫人に迎えるというのだが、かわいい王女をド変態王の全裸幼女抱き枕にするのは忍びないと王国側が雁首つき合わせて相談しているところに、ベオウルフ・エルデンバーガー侯爵が預かっていた「鬼哭刀」を差し出した。この国にはこんな凄い刀を打つ刀匠がいるのだ。この刀なら贈答品として文句はなかろうと。……。

「世界中の全ての女の子に、恋をする権利があります。身分とか使命とかそういうのは関係なしに、求める権利があるのです」
 商人クラウディアの言葉は王侯貴族にはありえない話だった。

 王女を差し出す代わりの刀を打つべく、刀鍛冶の馬鹿夫婦とロマンティストな変態と筋肉ジジイ、つまり刀鍛冶ルッツ(と妻クラウディア)、装飾師パトリック、付呪術師ゲルハルトが呼び出され、至高の一振りを生み出すべく挑む回です。あいかわらず、「尻穴のシワまで数える」とか「あの尻は俺の尻だ」「女神が目の前にいたら尻を差し出してもいい」「あの尻なら敷かれて本望」等々、誰も彼もが尻にこだわっているのは何でしょう?
 ところで、イラストの方もぐんぐん良くなっています。もともと巧い人ですし、胡散臭いオヤジから美女まで描き分け、いろんなシーンを構図を工夫しながら具象化してるんですけど、今回のポイントは3つ。
 そもそも前面に女性キャラが出てこず、ムサいおっさんたちが酒かっくらってるような表紙イラストの本は良い本。背後で人妻が豪快に酒かっくらっているのも良いアクセント。さすがクラウディアさんだ!
 次に無気力で無能と評されていたツァンダー伯爵の一癖ありげな顔。一見して頼りなげでありながら、どこか食わせ物っぽいキャラになってます。
 最後にでっぷり太った男とヒゲのおっさんが対峙するシーン。地味な絵面なのに、ここがクライマックスだからとセレクトするだけでなく、思いっきり見開きを使って描いてるんですよ。シビれます。全然3職人とは関係ないところでの話なのに、ここをちゃんと選んできっちり描ききってるってだけでスゴいですよ。トルメキアの第1・第2皇子とかウェネグ王子みたいなキャラは大好きです。

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「魔女と傭兵2」 超法規的かえる

2023-10-22 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「力とはいつか必ず、より強い力に押しつぶされるものだ」

 冒険者となって着々評価を高めていく魔女シアーシャと、その荷物持ち兼護衛の傭兵ジグは街に居場所を確保できていたが、この大陸での傭兵の評価は低い。せいぜい武器を持ったゴロツキというのが相場なので、ジグを見る目も厳しい。
 そんなことは気にしないジグだったが、この街の中で若い冒険者を中心に辻斬りの被害が急増。犯人がジグと同じ両剣を使っていたことから最有力の容疑者にされてしまう……。

 表紙はマフィア組織と互角に勢力圏を築いている移民集団ジィンスゥ・ヤの〈白雪姫〉ことイサナ=ゲイホーン。今回はジィンスゥ・ヤの連続児童誘拐から辻斬りの話までです。
 殺しが好きで好きで大好きなライカに対して「それならしょうがないじゃないか」と軽く流すジグは、さすが自分も殺しを生業にしていると自覚してるだけあります。

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「魔女と傭兵」 超法規的かえる

2023-10-21 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「失敗を恐れるな、とは言わん。だがいつか、今日のことを思い出して笑えるようにやってみろ」
 それがジグからシアーシャへのアドバイス。

 その大陸には、もはや生き残っている魔女は多くない。人の姿でありながら、超常の力を振るう魔女は人々から恐怖の象徴として恐れられており、ほとんどはひっそりと暮らしているのだが、ときおり威信を高めようとか名声を得ようとか魔女討伐を言い出す王や領主が出現し、そういうときはたいてい魔女の生死はともかく辺り一面焼け野原になるのが相場だ。
 今回も相続争いで優位に立ちたい領主の息子が魔女討伐軍を立ち上げ、案の定、バカ息子以下全滅するはめに陥ったのだが、如才なく立ち回って何とか生き残り、魔女を追い詰めることに成功した傭兵のジグに、魔女シアーシャは誰にも追われない場所まで連れて行って欲しいと依頼した……。

 報奨金を支払うべき依頼主が死んだので次の依頼主に乗り換えた傭兵と、その気になったら国の1つや2つ滅ぼせそうな力はあるけれど世慣れていない魔女の新大陸道中記。この大陸にはもう居場所がないよと、隣にあるらしい未知の新大陸を探検しようという船団に潜り込んだものの、あちらは未だに魔獣が跋扈する世界。2人以外の探検隊はあっという間に全滅するけれど、そこはそれで普通に適応した人々が暮らしている……いわゆる剣と魔法の世界でしたという物語です。
 現代日本人が異世界に行くのではなく、異世界の男女がまた少し常識の違う世界に紛れ込もうとこっそりしようとしながら、ついつい耳目を集めてしまうところがポイント。ちょっと変わったバディものとしても楽しめましたです。

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「異世界刀匠の魔剣製作ぐらし」 荻原数馬

2023-10-04 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「女は刀に似ている。妖しいまでに美しく、危険である。そうと知りつつ離れられない」

 刀鍛冶ルッツは組合に所属せず、城壁の外で気ままに暮らす鍛冶師だが、そんな彼が会心の一振りを打ってしまった。誰もが見惚れる妖しいまでに美しい刀だ。しかし、モグリの鍛冶師にそんな名刀を売りさばく伝手があるはずもない。
 仕方なしに刀を転がしておいたルッツだったが、ある日、いつも仲介を頼んでいる女商人クラウディアが騎士に逮捕されてしまう。いつも使う道を阻んでいる盗賊たちに通行料を払っていたのを、盗賊への利益供与と言いがかりをつけられてしまったのだ。
 ルッツは不当逮捕されたクラウディアの保釈金代わりに、打った刀を叩き付けてきたのだが……。

 短気で愛想のない刀鍛冶の青年と、口八丁で尻が魅力的な女商人が、魔剣を求めてやってくる胡散臭いジジイや高圧的な騎士を相手にあの手この手のやりとりをしているうちに、マニアが意気投合してしまうという恐ろしい結末をむかえる、物作りファンタジー。剣1本ごとのエピソードが物語を進めていきます。
 結局、どいつもこいつも業が深いのだ。

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「売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした」 遥透子

2023-09-22 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 どんな地図にも載っていない幻の街、ゼニスの奴隷商に顔を出したヴァイス・フレンベルグは、そこで売れ残りのエルフを見つけた。なんでも何者かによって皆殺しにされた貴族の館の地下牢に奴隷が取り残されているのが見つかり、その売れ残りなのだという。
 その貴族を皆殺しにしたのはヴァイスだが地下牢には気づかなかった。それはともかくその傷物扱いされているエルフが、実は絶滅したはずのハイエルフであることに気がついたヴァイスは捨て値で買い取り、自分の娘として育てることを決意したのだが……。

 国内トップの才能と称された若き魔法使いが宮仕えを厭って蓄電し、法秩序の及ばない無法の都市で好き勝手に生きてきたのだけれど、ふいに思い立ってハイエルフの幼女を引き取ってしまったことからでろんでろんのに変貌していく物語で、つまり親バカ日誌。

【売れ残りの奴隷エルフを拾ったので、娘にすることにした】【遥透子】【松うに】【電撃の新文芸】【不器用なパパと純粋無垢な娘の、ほっこり優しい疑似家族ファンタジー】【小説家になろう】【親バカ】
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「ルチルクォーツの戴冠」 エノキスルメ

2023-09-16 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 それは規模としては神事で起きた小規模な火事に過ぎなかったのだが、それによって国王フレードリク・ハーゼンヴェリア以下直系の王族がことごとく死亡してしまったのだ。
 お鉢が回ってきたのが写本家の母が急死して、葬儀がやっと終わったばかりの青年スレイン。一国民として平凡に育ったスレインだったが、実は国王の庶子であったのだ。
 右も左も分からない状況の中、人口およそ5万人の小国、ハーゼンヴェリア王国の王になるよう宰相以下の貴族たちに懇願されるのだが……。

 ウェブ連載作品だけれど未チェックで、イラストで購入。巧い作品に芸のないイラストがつくことはよくあるけれど、巧いイラストがわざわざ用意された作品に拙いものはまずないと思っていいのです。あとは好みの問題で好き嫌いは出てくるけど、そこは仕方がない。今は出版点数もレーベルも多いので、昔のように新刊すべてチェックは不可能なのです。
 タナボタで国王になった青年の奮闘記。物語的には王道展開、ルチルクォーツ(金紅石)の冠を戴いて王座に就いたところまでです。タイトルをきちんと回収して終わってますが、ウェブ版では一章「王の誕生」までに該当します。六章まではアップされているのでまだまだ続きます。
 あれよあれよという間に王太子(庶子)に祭りあげられますが、状況に流されるだけでなく、ちゃんとその責務を理解した上で覚悟を決めて受け入れながら、それでもなお試行錯誤が続く過程が描かれているのが良いですね。

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「隻眼・隻腕・隻脚の魔術師 1」 すずすけ

2023-09-13 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
「き、気持ち悪いって……。僕は単純に君の魔術に興味があって見たいだけなんだよ、見聞のためにもさ」
 エインズにとって、悪い魔法使いもただのサンプル。

 エインズ=シルベタスは幼い頃、帝国軍の襲撃で村を焼かれ、自らも四肢を失った代わりに魔術に没頭することとなった。仲間や家族を失ったことよりも、自らの手足を吹き飛ばした魔術の存在の方に心を惹かれてしまったのだ。
 エインズは近くのタス村のエバンとシリカ父娘らの助けを借りながら、森の奥の小屋でひとり魔術の研鑽を積んでいったのだが、気がつけば2000年が経過していたらしい。既にシリカたちはおろかタス村もなく、そこには大きな都市だけがあった。伝説の魔術師アインズがもたらしたという、魔導書や魔法知識により高度に発展した魔法によって栄えるサンティア王国アインズ領自治都市である。
 その魔神とも称される魔術師アインズ=シルバータという人物が、実はエインズ自身のことであるというのに気づくのは、もう少し先のことであった……。

 森の小屋で魔術の探求に専念していたら外の世界では時間が流れていて、書き殴ったメモ書きは聖書とされる魔導書『原典』扱いされ、自身も魔神として崇められるようになっていた青年が、見知らぬ世界にまだ見ぬ魔術を求め、好奇心の赴くままに彷徨い歩く流浪譚。
 魔術・魔法という自分の関心事に関係ないなら困っている人もあっさり見捨てるし、逆に興味深ければ悪人だって助力して力を与えるサイコパス主人公。そりゃ封印されるわな……。

【隻眼・隻腕・隻脚の魔術師1~森の小屋に籠っていたら早2000年。気づけば魔神と呼ばれていた。僕はただ魔術の探求をしたいだけなのに~】【すずすけ 】【すみ兵】【TOブックス】【界の理に触れ、国々の均衡を打ち壊す天然魔神、降臨!】【禁則事項】
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「かくて謀反の冬は去り」 古河絶水

2023-08-23 | ヒロイックファンタジー・ハイファンタジー
 奇智彦尊(クシヒコノミコト)は王弟である。だが、生まれつきからだが不自由で、足曲がりと揶揄されている。
 そんな奇智彦が兄王から近衛隊長官に任命され指揮杖を授かった、その宴の席で披露されたのは大陸の皇帝から大王への贈り物。若く美しい女奴隷……とはいうものの、熊の毛皮を被った大女だ。ゲルマニアの大反乱で古の神を名乗って反乱軍を指揮し、三州七市を支配して2年間戦い続けた末に捕獲された、凶悪犯にして猛獣。処刑してしまえば逆に民族英雄として死してなお祭りあげられてしまうため、東の果ての王国に贈り物として放逐されることになったわけだ。
 その熊女はあっという間に王族間でたらい回しとなり、不本意ながら奇智彦が引き取り、荒良女と名付ける羽目に陥った。
 それから3週間。王が、死んだ……。

 突然の王の死に、継承権を持つ面々が疑心暗鬼になりながらも権謀術数を巡らす、王位を巡る争いを正面から描いた陰謀譚。表紙イラストで大きく存在感をアピールしている熊女シニストラこと荒良女さん、主役じゃないけどヒロインとはちょっと違い、脇役かといえば話の流れに大きく関わる重要キャラ。巨女ものです。
 大王だの尊だのから始まるので古代史ものかと思いきや、航空機ありラジオありなのでテクノロジーは20世紀レベル。和風な異世界かと思えば、ギリシャだ、アフリカだ、インドだときまして、その東の果ての国なので、どこかで歴史が変わった地球の話のようです。読みかけで置いておいたら妻が読み出して、面白いけど中身が濃くて読み飛ばせない!と悲鳴を上げながら読んでました。

【かくて謀反の冬は去り】【古河絶水】【ごもさわ】【ガガガ文庫】【血煙まとうスペクタクル宮廷陰謀劇】【大陸派遣軍】
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