くじら図書館 いつかの読書日記

本の中 ふしぎな世界待っている

「今だけのあの子」芦沢央

2017-06-13 21:06:09 | ミステリ・サスペンス・ホラー
 おもしろいと聞いたので、借りてきました。芦沢央「今だけのあの子」(東京創元社)。
 「(動詞)ない(名詞)」のタイトルがついた短編が五つ。
 「届かない招待状」は、親友の結婚式に招かれない「私」(恵)がたどり着いた真相。
 「帰らない理由」は、交通事故で亡くなったくるみの家を訪ねた親友と恋人とが、それぞれの事情をさぐり合う物語です。くるみは全国大会にも出場した卓球選手とのことで、時期はソウル五輪。懐かしい。このオチは、なんか分かる気がします。先輩がやっぱり本棚の裏に隠していると言っていたなあ。
 「答えない子ども」は、絵画教室でのトラブルをめぐる物語なのですが、わたしはこの主人公は苦手なタイプ……。
 「願わない少女」は、マンガ家デビューを果たした高校生園田ユウと友人との葛藤です。園田ユウは、他の短編にも名前が出ているので、その後のこともイメージできますよね。
 「正しくない言葉」は、くるみの祖母にあたる澄江が、老人ホームで過ごす日々。
 ここで、ある宗教にすがった朝子(澄江の娘)が、くるみの遺骨を海に撒こうと相談するエピソードが胸に残りました。
 いつかどかで、あのときの自分を冷静に振り返ることができるようになった場合、骨は戻ってこないのです。
 五編が少しずつ影響しあっていて、読み直す楽しみがありました。