因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

Whiteプロジェクト公演『White-あの日、白い雪が舞った-』

2012-10-20 | 舞台

*井伏銀太郎脚本 西澤由美子・井伏銀太郎演出 公式サイトはこちら 新宿タイニイアリス 21日の千秋楽は13時、16時の回あり アリスフェスティバル2012「競演東西南北」参加
 仙台の演劇人が「被災地の想いを演劇で世界へ」を合言葉にWhiteプロジェクトを結成した。  
 本作は仙台で唯一被災を逃れたクオータースタジオで今年3月に初演され、この秋は東京と仙台、来年は石巻、南三陸町、気仙沼など、東北沿岸部のツアーが計画されている。東京公演の会場であるタイニイアリスでは、草の根の国際フェスタが今年で30回を迎えた。日本国内のみならず中国や韓国からも劇団を招き、9月末より来年3月まで開催中だ。本公演は東京と他都市をつなぐ目的もあり、東京の劇団ING進行形とともに、11月24日~25日は仙台市宮城野区文化センター開館記念事業に参加する。直接間接に多くの方々の協力と理解、共感によって作り上げられた舞台なのだ。

 井伏銀太郎と西澤由美子の舞台は、昨年秋に相鉄本多劇場で行われた『BLACK-家族の肖像-』が記憶に新しい。優しい丸顔に少し甲高い声の井伏銀太郎、シャープなボブヘアがよく似合う凛としたたたずまいの西澤由美子が舞台に現れると、ずっと以前から知り合いのご夫婦に会うような親しみがわいてきた。
 震災から3年後の宮城県の港町、ある結婚式場の新族控室が舞台である。これから結婚式が始まろうとしていることはすぐにわかり、そわそわと落ち着かない父(井伏)、あれこれと周囲に気を使う母(西澤)などはごく普通に新婦の両親なのだが、彼らのひとり娘は津波で行方不明のままであること、父親が頑として葬儀を拒否していることもあり、今日の式は花嫁のお祝いと別れを行うためのものなのだった。

 婚約者を失くした新郎はじめ、親戚たち、式場のスタッフなどが、演じる俳優の個性を活かしながら実に巧みに配置され、それぞれの立場からあの震災を乗り越えようとしている様子が伝わってくる。当日リーフレットには「宮城の方言解説」が掲載されており、とくにジャージーを「ジャス」と言う父親の台詞が大変効果的に、しかも温かく活かされており、夫婦、親戚、友だちの会話もテンポがよく、おもしろい。余興の準備に大はりきりの父を冷ややかにみつめる母や親族など、月並みな言い方だが、まるでほんとうにどこかの親族控室をのぞいているかのようだ。

 わたしたちは「大震災の被災者」と決してひとくくりにはできないことを忘れてはならないだろう。苦難に襲われたとき、そのことじたいはもちろん辛い経験であるが、同じような苦しみを味わった人々のあいだにも微妙な温度差があって、体験をたやすく共有、共感できないことを知るとき、苦しみはますます強くなり、心の傷は深くなる。

 父親が終幕近くになって、「がんばれって言われるけれど、何をどうがんばったらいいのか。いったいいつになったら無理やりがんばらなくてもよくなるのか」と吐露する。「がんばろう」「がんばって」という励ましが、ときに残酷な響きをもつことはすでにさまざまなところで指摘されていることである。しかしそれでもつい非被災地にいる自分は「がんばって」と言いそうになる。
 そして震災を扱ったドキュメンタリーや演劇や映画に触れるたびに、「自分は非被災者である」ことを思い知らされる。いかに想像力を働かせても、直接体験していないことはどうしようもない。そして「がんばれとは言わないで」と訴えられると、もうどんなことばをかけたらよいのか途方に暮れるのである。震災から1年半以上が経ったいまも、この繰り返しである。
 「被災地にもどんどん旅行に来て」という呼びかけは多く聞く。しかしそのいっぽうで、現地に住む友人からやんわりと「来てほしくない」と言われたこともまた重い事実なのである。「何もできなくて申し訳ない」という自分に、友人はさっぱりした口調で「そんなことはあまり考えないほうがいい」と言った。「自分を責めなくてもいい」という慰めであり、「あなたが申しわけながっても、何にもならない」と諌められているとも考えられる。

  前述のとおり、本作は来年東北沿岸部のツアーを予定している。大道具や小道具類も最小限に抑え、もっと練り上げて上演を続けてゆきたいとのことである。具体的にどの場面をどのように・・・ということはこの場では控えたい。「被災地の想いを演劇で世界へ」という志をしかと受けとり、それが各地でより多くの人々に届くように祈ろう。震災から3年後と設定された舞台の時間は、あっという間に現在になり、過去になる。「あのとき」にこだわりながら、「これから」を考える作品となって、繰り返し上演されることを願っている。

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