因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

戯曲『ハンナとハンナ』リーディング上演と難民をめぐるディスカッション

2017-07-11 | 舞台

*ジョン・レタラック作 中山夏織翻訳 田中萌観訳詞 鈴木アツト演出(劇団印象 1,2,3,4 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21,22) 公式サイトはこちら 政策研究大学院大学 想海塿ホール 11日のみ

 制作は国際演劇協会日本センター、制作協力にNPO法人シアタープランニングネットワーク、国立大学法人政策研究大学院大学の共催で行われた一夜のリーディングとディスカッションである。舞台下手のスクリーンには英語の字幕が映され、ディスカッションには日英の通訳が置かれる。「できるかぎり言語の障壁をなくして国際的な議論・交流を行う」(チラシより)試みだ。客席にはジンバブエやコートダジュールなどの大使も来場し、その一方で出演者のつながりであろうか、若い観客も多い。

 1999年、ハンナという名の16歳の少女がイギリスの港町・マーゲイトへ母、兄とともにコソボから命からがら逃れてくる。町で出会った同じハンナの名を持つ少女は、外国人避難民のハンナを露骨に嫌悪するが、ある事件がきっかけで二人は急接近する。やがてハンナがコソボに帰国する日が訪れるが…。

 舞台には椅子が2脚あるだけで、オーディションで選ばれたコソボのハンナ(𠮷岡花絵)とイギリスのハンナ(木村飛鳥)は椅子に掛けて台本を読む基本的なリーディングの形を取る(アンダースタディとして瀧澤幸奈)。初対面でイギリス人ハンナが投げかける言葉や振る舞いは激烈である。難民を嫌悪し、排斥する社会の空気が、少年や少女たちにまで及んでいることがきれいごとでなく描かれている。コソボのハンナは傷つきながらも冷静で、相当なところまで食い下がる。ここで「可哀そうな避難民VS冷たく理解のないイギリス人」の構図は次第に影を潜めはじめる。イギリス人側が圧倒的な強者のようでいてそうではない。彼らもまた家族や友人のなかで意見の相違があり、失業者の多い世相にあって、葛藤と苦悩があることが示唆されるのである。

 異なる国で生まれ育った二人が最初は反発しながらも仲良くなる物語…と漠然と想像していたが、最初の二人のやりとりの緊迫感に、外国人難民問題がいかに困難なものであるかが只事ではない現実味をもって迫ってくる。

 オーディションで選ばれた二人が大変魅力的である。イギリス人ハンナ役の木村飛鳥は1996年生まれ。ドイツ人の父と日本人の母を持つ。両親ともに声楽家で、兄が主宰する劇団はじめ、他劇団の公演にも参加している。コソボ避難民ハンナ役の𠮷岡花絵は2001年生まれ。児童劇団でミュージカルに出演し、劇団四季の『ドリーミング』や、丸美屋ミュージカル『アニー』で主役を演じた。

 本作は劇中で歌われる歌が重要な役割を果たす。はじめのうちハンナはそれぞれ一人で歌う。物語が進むにつれて、互いの好きな歌を聞き、覚え、いっしょに歌いはじめる。木村は貫禄といってもよいくらいの堂々たる立ち姿で、声量も豊かだ。客席の空気をあっという間に自分のものにしてしまう。対するコソボ避難民ハンナは、生真面目なほど丁寧に歌いぶりで声も美しい。

  二人は自分の役だけでなく、祖母や母、兄や恋人も演じる。イギリス人ハンナの祖母は、柔軟な思考を持ち、恐れることなく自分の主張を貫く。コソボ避難民ハンナの母は祖国では医師をしており、娘に起こったことを冷静に受けとめ、すべてを包み込む。一方で、外国人のみながらず、パートナーをも暴力的に支配しようとする恋人は、紛争の地で敵方の女性を凌辱する兵士に通ずる。

 後半のディスカッションは聞かずに退出したが、国際演劇協会日本センターは、今夜のイベントを基に、日本の中高生の学習素材の提供などの活動を展開し、9月初旬には特設ウェブサイトにおいて、本作を公開予定とのこと。
 昨年12月に観劇した「紛争地からの演劇8『ジハード』」のリーディング公演を思い出す。今夜の『ハンナとハンナ』も、次なる上演の場が生まれ、共有の輪が広がっていくことを願っている。

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