因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

タイ・インドネシア・日本共同プロジェクト2015-2017 『Oceans Blue Heart』

2017-02-25 | 舞台

*公式サイトはこちら 作 翻訳 鈴木アツト(劇団印象 1,2,3,4 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19,20,21
 STORE HOUSE Collection No.9「アジア週間ー「私」なるものをめぐってー」において、3本の舞台が連続上演される。この日はそのトップを飾るタイの演出家ニコン・セタンの呼びかけで、日本、インドネシアを交えた新しい仮面劇創作プロジェクトによる舞台を観劇した。プロジェクトの1年めはフィールドワークやショーケースを行い、2年めになる今年は影絵や日本、タイの伝統音楽など、仮面以外の要素も加えた本作に取り組んだ。2016年11月、タイのバンコクで初演された舞台が日本でお目見えとなったわけである。

 高層ビルの建築現場で作業員の転落事故が起こった。彼の霊魂はビルの屋上に閉じ込められ、ビルの設計士は罪の意識に苦悩するうち、巨大なエイの夢をみる。当日リーフレット記載の人物相関図を見ると、山の神、海の神、村人たち、ビルのオーナー、作業員たち、設計士、その妻、娘とその元恋人や今の婚約者など、なかなか複雑である。

 実に不思議なのは、仮面じだいの顔は変わらないはずなのに、話の流れによって、仮面の顔に喜怒哀楽のみならず、困惑や恥じらい、失望などの複雑な感情の変化が現れる、ように見えることである。俳優がみな優れた身体性と豊かな表現力を持っていることは確かであるが、それは人物の心の動きが観客に伝わるような大仰な演技をするわけではなく、むしろ控えめなのである。観客の心が舞台に引き込まれ、仮面の表情を読み取ろうとしているためか、そもそも仮面には人の心を動かし、想像力を膨らませる力があるのか。

 あいだに観客を舞台に上げたりする場面があって少し驚いたが、仮面の俳優さんの導きは、お客さんがあまり緊張せず対応できるような大変優しく上品なもので、ぜんたいとして実に素朴で楽しい舞台であった。舞台作りにはさまざまな困難があったと察するが、文化庁の海外研修を終えてロンドンから帰国した鈴木アツトの舞台を久々に観劇した喜びも大きく、これをステップに、さらなるチャレンジを楽しみにしている。

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