因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

劇団印象第20回公演『匂衣~The blind and the dog~』

2014-10-22 | 舞台

*鈴木アツト作・演出 公式サイトはこちら 下北沢 シアター711 26日まで 23日(木)14時の回は「ベイビー・パパママシアター」 ゼロ歳児から入場可。小さい人たちがお父さんお母さんといっしょに観劇できる。24日(金)14時の回はアフタートークがあり、劇作家の松田正隆が登壇する。東京公演のあとは11月1日~2日バンコクシアターフェスティバル2014に参加を控える。(1,2,3,4 5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,16,17,18,19
 本作が4年前に初演されたときの高揚感は、いまでもはっきり覚えている。冷たい春の雨が降っていた。今夜は季節は秋だが、あのときと同じ冷たい雨が降りつづく。韓国でも上演されて高い評価を得た作品が、タイ俳優との共同制作でどのように生まれ変わるのか。

 物語の流れや、登場人物の関係にはほとんど手が加わっていないと思われるが、出演俳優は大幅に変わった。
 なかでも来日して3年めの売れない外国人舞台女優が、韓国のベク・ソヌからタイのナルモン・タマブルックサーになったこと、盲目の少女彩香が龍田知美から山村茉梨乃に替わったことが大きい。初演にも出演した唯一の俳優は泉正太郎であるが、前回は女優の恋人役で、今回は化粧品のセールスマンを演じている。

 初演のべク・ソヌにくらべると、今回のナルモンは少々年上であろう。褐色の肌にしなやかなからだつき、深く柔らかい声はたどたどしい日本語であってもこちらの耳に優しく響く。
 また彩香役の山村茉梨乃はふっくらとした可愛らしい顔立ちで、痛々しいほど懸命の演技を見せる。こちらも初演の龍田知美の知的でシャープな雰囲気を思うと、大胆な配役変更だ。

 タイ人女優ホムの恋人・広一郎役も鈴木穣に替わった。ホムに年齢を合わせたのか、中年といってもよい年まわりである。
 必死で犬を演じるホムと彩香の攻防?のあいまに、ホムが広一郎と過ごす場面が挿入される。一生懸命なホムを広一郎は大人の余裕か、実に優しく受けとめる。しかし恋人たちは最後に別れてしまうのである。
 何が原因かは明確にされない。ふたりは多少ぎくしゃくするものの、決定的な諍いや決裂が示される場面もないのである。舞台がはじまる前からふたりは何らかのわだかまりを抱えていて、その終わりのときが来ただけにすぎないとも、またふたりはとうの昔に別れており、舞台のやりとりはホムの幻想であるとも考えられる。

 彩香とホムのやりとりが作品の軸であるが、ホムの恋人との別れはどう位置づけられるのか。前回につづいてここがよくわからなかった。しかしはっきりと理解することが本作を味わう目的ではなく、作者の筆の運びにも、今回広一郎を演じた鈴木穣は、より自然な話し方、素に近い表情や生の声で演じており、少し方向性のことなる演技をしており、作品ぜんたいの方向性に適切かどうかは判断ができなかった。

 目の見えない彩香が、見えないゆえに抱える悲しみはたしかにある。しかし娘を傷つけまいと人間の女優に犬をさせたり、すぐに新しい犬を買ったりする母親もまた、何かがほんとうには見えていないのではないか。彩香はそんな母親の気質やふるまいを受けとめ、母を信じたふりをしつづけるのだ。

 本作は、これからもタイプのちがう新しい俳優を大胆に配して上演を重ね、劇団印象のレパートリー演目になることが可能ではないだろうか。初日の今夜はなぜか年配のお客さまが多かったが、明日はゼロ歳児と親御さんがいっしょに観劇できる「ベイビー・パパママシアター」であり、客席の雰囲気の変化にともなって、舞台も変容すると想像される。

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