五感では、触覚がベースであると前から思っている。ヘレン・ケラーは、視覚・聴覚が使えない中で触覚、嗅覚、味覚を使って、とりわけ触覚を使って、物には名前があることを知り、実際に思うところを喋れるようになった。恋愛過程は、視覚から入って聴覚、嗅覚、味覚を経由して最後は触覚に至る。とにかく触覚はベースであり、最後の目的でもある。ところで、実際、視覚は他の感覚を代替している面も持つ。梅干を見ると酸っぱく感じて唾も出てくるのである。視覚だけでそのものを見た時に、他の4感を使っての経験が、呼び出されるのだ。それらを私は、視覚聴覚(鐘を見た時にその鐘の音が分る)、視覚嗅覚(それを見た時にその臭いが分る)、視覚味覚(それを見た時にその味が分る)、視覚触覚(それを見た時にその触り具合が分る)と呼んでいる。しかし、それらはあくまで視覚を通じて呼び出された過去の他の感覚体験であって、体験が全くないばあいは、判断があいまいになる。その意味で、視覚○覚は、半リアルな○覚といえよう。最後はリアルな○覚で確かめないといけないのだ。熱心な建築家が、建物、材料を「触りまくる」傾向のあることは、私の考えからは当然であるのだ。
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