※“The Nightingale and the Rose” (Oscar Wilde: 1854-1900)
(5)《赤い薔薇》が欲しいなら、あなたは月光の音楽から形作った薔薇を、あなた自身の心臓の血で染め上げなければならない!
So the Nightingale flew over to the Rose-tree that was growing beneath the Student's window.
そこでナイチンゲールは学生の窓の下に生えている薔薇の木に飛んで行った。
‘Give me a red rose,’ she cried, ‘and I will sing you my sweetest song.’
「赤い薔薇を私にください」とナイチンゲールは叫んだ。「私は甘美な歌をあなたに歌いましょう。」
But the Tree shook its head.
しかしその薔薇の木は首を振った。
‘My roses are red,’ it answered, ‘as red as the feet of the dove, and redder than the great fans of coral that wave and wave in the ocean-cavern. But the winter has chilled my veins, and the frost has nipped my buds, and the storm has broken my branches, and I shall have no roses at all this year.’
「私の薔薇は赤い」とその薔薇の木は答えた。「鳩のように赤いし、海の洞窟で波に洗われる珊瑚の大きな枝よりも赤い。でも冬が私の葉脈を凍らせ、霜が私の蕾を枯らし、嵐が私の枝を折り、だから今年、私は花をつけないでしょう。」
‘One red rose is all I want,’ cried the Nightingale, ‘only one red rose! Is there no way by which I can get it?’
「私が欲しいのはただ1本の赤い薔薇です」とナイチンゲールは叫んだ。「たった1本の赤い薔薇!私が赤い薔薇を手に入れる方法は何もないのですか?
‘There is a way,’ answered the Tree; ‘but it is so terrible that I dare not tell it to you.’
「ひとつ方法がある」と薔薇の木が答えた。「でもそれはあまりにも恐ろしいものなので、あなたに告げたくない。」
‘Tell it to me,’ said the Nightingale, ‘I am not afraid.’
「私に教えてほしい」とナイチンゲールが言った。「私は恐れない。」
‘If you want a red rose,’ said the Tree, ‘you must build it out of music by moonlight, and stain it with your own heart's-blood. You must sing to me with your breast against a thorn. All night long you must sing to me, and the thorn must pierce your heart, and your life-blood must flow into my veins, and become mine.’
「もしあなたが《赤い薔薇》を欲しいなら」と薔薇の木が言った。「あなたは薔薇を月光の音楽から形作り、そしてそれをあなた自身の心臓の血で染め上げなければならない。あなたはあなたの胸に棘を突き刺して私に歌を歌わなければならない。一晩中ずっとあなたは私に歌い続けねばならない。そしてその棘があなたの心臓を貫かねばならない。あなたの心臓の血が私の葉脈へと流れ入り、そして私の血にならなければならない。」
《感想5》「薔薇を月光の音楽から形作り、それをあなた自身の心臓の血で染め上げる」とは恐ろしい提案だ。しかしナイチンゲールは《愛に真に生きる人》(the true lover)のみが知る「愛の神秘」(the mystery of Love)を知りたかった。
(6)《愛》は《命(life)》以上です!
‘Death is a great price to pay for a red rose,’ cried the Nightingale,
「死は赤い薔薇に支払うべき偉大な対価です」とナイチンゲールが叫んだ。
‘and Life is very dear to all. It is pleasant to sit in the green wood, and to watch the Sun in his chariot of gold, and the Moon in her chariot of pearl. Sweet is the scent of the hawthorn, and sweet are the bluebells that hide in the valley, and the heather that blows on the hill. Yet Love is better than Life, and what is the heart of a bird compared to the heart of a man?’
「《命(life)》はすべての人にとって大切なものです。緑の森に巣をつくるのも、黄金の車に乗る太陽、また真珠の車に乗るを月を見るのも楽しいです。サンザシの香りは甘く、谷間に隠れたブルーベル、そして丘で風に揺れるヘザーは愛らしい。でも《愛》は《命(life)》以上(better than)です。そして鳥の心は、人の心と比べたら、いったい何ほどのものでしょう?」
So she spread her brown wings for flight, and soared into the air. She swept over the garden like a shadow, and like a shadow she sailed through the grove.
こうしてナイチンゲールは飛ぶために茶色の翼を開き、空中に上昇した。ナイチンゲールは庭の上を影のように飛び過ぎ、そして影のように木立を通り抜け飛んだ。
《感想6》《命(life)》以上の《愛》とは何か? Cf. 江戸時代の人形浄瑠璃『曽根崎心中』(近松門左衛門)(1703)は相愛の若い男女の心中の物語だ。「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」と道行の最後の段は始まり「未来成仏うたがひなき恋の手本となりにけり」と結ばれる。、お初と徳兵衛が命がけで恋を全うした美しい人間として描かれている。これは1703年、大坂堂島新地天満屋の女郎「はつ」(21歳)と内本町醤油商平野屋の手代「徳兵衛」(25歳)が曾根崎村の露天神社(お初天神)の森で情死した事件を題材とする。この演目を皮切りとして、「心中もの」ブームが起こる。こうした心中ものの流行の結果、「来世で二人の愛が結ばれる」ことを誓った心中事件が多発したため、江戸幕府は享保8年(1723年)より上演や脚本の執筆や発行を禁止し、また心中者の一方が生存した場合は極刑を申し渡すなど心中事件に対して苛烈な処置を行った。
《感想6-2》さまざまの「愛」がある。
①ナイチンゲールが問題にする「愛」は男女(Cf. カップル)が互いにいとしいと思い合うこと。Ex. 『舞姫』(1890)〈森鴎外〉「貧きが中にも楽しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛」。
①-2 性愛(エロース)。Cf. (a) 古代ギリシア・ローマ神話の神「エロス」は、元はカオス、ガイア、タルタロスと同じく、世界の始まりから存在した原初神である。「エロス」は恋心と性愛を司る神である。後に軍神アレースと愛の女神アプロディーテーの子とされた。さらに近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿(キューピッド)で描かれ、手には弓と矢を持つようになった。Cf. (b)サンスクリット語の「カーマ」は性愛である。Cf. (c)仏教では「性愛」の抑制を説いたが、真言密教には、男女の性的結合を絶対視するタントラ教の影響を受け、男女の交会を涅槃あるいは仏道成就とみなす傾向もあった。性愛を表す「愛染」はこの流れにある。
②動物を非常に気に入って、いちずにかわいがる「愛」もある。Ex. 『堤中納言』(11C-13C頃)「虫めづる姫君」「この虫どもを朝夕(アシタユフベ)にあいし給ふ」。
③好意を相手への行動として示す。また特に、なでさする、愛撫する。
④物事に対して心が引かれる。(品物などに)ほれこんで大切に思うor愛玩する。Ex.「慈照院殿、愛に思召さるる壺あり」(『醒睡笑』(1628)「八」)。Ex. 「硯」を愛(メ)でる(『今昔物語』1120頃?「一九」)。Ex. おいしい食べ物を「愛し食らふ」(『今昔物語』「二〇」)。Ex. 「春を愛する」(『去来抄』(1702‐04)「先師評」)。
⑤子供などをかわいがること。幼児をあやすこと。Ex. 鷺(サギ)伝右衛門本狂言『縄綯(ナワナイ)』(室町末‐近世初)「てうちゃくは致しませぬ愛を致しました」。Ex. 『今鏡』(1170)「八」「若宮」を「あいし申給ける」。
⑥人が一般に、相手の人格を認識し理解して、いつくしみ慕う感情。Ex. 親子、兄弟の愛。
⑦人との応対が柔らかいさま。あいそ。Ex. 浮世草子『好色二代男』(1684)三「まねけばうなづく、笑へばあいをなし」
⑧「愛」とは 顔だちや態度などがかわいらしくて人をひきつけることだ。あいきょう。Ex. 浮世草子『風流曲三味線』(1706)二「都に名高き芸子瀬川竹之丞といへる美君に、今すこし愛(アイ)の増たる生れつき」
⑨キリスト教の「アガペー」(愛)。あらゆるものをいつくしむ神の愛。Ex. 詩人ブラウニング(1890)〈植村正久訳〉「我は上帝を信じ真理を信じ愛を信ずるなりと」。
⑩仏教で「愛」は「十二因縁」の一つで、ものを貪(ムサボ)り執着すること。広義には「煩悩」を意味し、狭義には「貪欲」と同じ。欲愛(性欲)・有愛(生存欲)・非有愛(生存を否定する欲)の三愛その他がある。Ex. 道元『正法眼蔵』(1231‐53)「十二因縁といふは、一者無明、二者行、三者識、四者名色(みゃうしき)、五者六入、六者触、七者受、八者愛(※苦楽の受に対して愛憎の念を生ずる段階)、九者取、十者有、十一者生、十二者老死」 。
⑩-2 また仏教で「愛」は、浄・不浄の二種の愛、法愛と欲愛、善愛と不善愛などをいう。
⑪仏教で「愛」は「慈悲」を意味する場合もある。大乗仏教では「愛」を「慈悲」として説く。仏や菩薩が人々のことを思い喜びを与えることを「慈」、人の苦しみを取り除くことを「悲」と言い、それらをあわせて「慈悲」という。一切衆生に対する純化された想いとしての慈悲。
⑫儒教では、「仁」は人の間の愛であり、また徳である。孔子は仁の根源を血縁愛であるとした(「孝弟なるものはそれ仁の本をなすか」)。「仁」は自己犠牲としての愛、また自己保存欲としての血縁愛を基礎として、さらに恭(道に対するうやうやしさ)、寛(他者に対する許しとしての寛大)、信(他者に誠実で偽りを言わぬ信)、敏(仕事に対する愛)、恵(哀れな人に対するほどこし)などを含む。
(5)《赤い薔薇》が欲しいなら、あなたは月光の音楽から形作った薔薇を、あなた自身の心臓の血で染め上げなければならない!
So the Nightingale flew over to the Rose-tree that was growing beneath the Student's window.
そこでナイチンゲールは学生の窓の下に生えている薔薇の木に飛んで行った。
‘Give me a red rose,’ she cried, ‘and I will sing you my sweetest song.’
「赤い薔薇を私にください」とナイチンゲールは叫んだ。「私は甘美な歌をあなたに歌いましょう。」
But the Tree shook its head.
しかしその薔薇の木は首を振った。
‘My roses are red,’ it answered, ‘as red as the feet of the dove, and redder than the great fans of coral that wave and wave in the ocean-cavern. But the winter has chilled my veins, and the frost has nipped my buds, and the storm has broken my branches, and I shall have no roses at all this year.’
「私の薔薇は赤い」とその薔薇の木は答えた。「鳩のように赤いし、海の洞窟で波に洗われる珊瑚の大きな枝よりも赤い。でも冬が私の葉脈を凍らせ、霜が私の蕾を枯らし、嵐が私の枝を折り、だから今年、私は花をつけないでしょう。」
‘One red rose is all I want,’ cried the Nightingale, ‘only one red rose! Is there no way by which I can get it?’
「私が欲しいのはただ1本の赤い薔薇です」とナイチンゲールは叫んだ。「たった1本の赤い薔薇!私が赤い薔薇を手に入れる方法は何もないのですか?
‘There is a way,’ answered the Tree; ‘but it is so terrible that I dare not tell it to you.’
「ひとつ方法がある」と薔薇の木が答えた。「でもそれはあまりにも恐ろしいものなので、あなたに告げたくない。」
‘Tell it to me,’ said the Nightingale, ‘I am not afraid.’
「私に教えてほしい」とナイチンゲールが言った。「私は恐れない。」
‘If you want a red rose,’ said the Tree, ‘you must build it out of music by moonlight, and stain it with your own heart's-blood. You must sing to me with your breast against a thorn. All night long you must sing to me, and the thorn must pierce your heart, and your life-blood must flow into my veins, and become mine.’
「もしあなたが《赤い薔薇》を欲しいなら」と薔薇の木が言った。「あなたは薔薇を月光の音楽から形作り、そしてそれをあなた自身の心臓の血で染め上げなければならない。あなたはあなたの胸に棘を突き刺して私に歌を歌わなければならない。一晩中ずっとあなたは私に歌い続けねばならない。そしてその棘があなたの心臓を貫かねばならない。あなたの心臓の血が私の葉脈へと流れ入り、そして私の血にならなければならない。」
《感想5》「薔薇を月光の音楽から形作り、それをあなた自身の心臓の血で染め上げる」とは恐ろしい提案だ。しかしナイチンゲールは《愛に真に生きる人》(the true lover)のみが知る「愛の神秘」(the mystery of Love)を知りたかった。
(6)《愛》は《命(life)》以上です!
‘Death is a great price to pay for a red rose,’ cried the Nightingale,
「死は赤い薔薇に支払うべき偉大な対価です」とナイチンゲールが叫んだ。
‘and Life is very dear to all. It is pleasant to sit in the green wood, and to watch the Sun in his chariot of gold, and the Moon in her chariot of pearl. Sweet is the scent of the hawthorn, and sweet are the bluebells that hide in the valley, and the heather that blows on the hill. Yet Love is better than Life, and what is the heart of a bird compared to the heart of a man?’
「《命(life)》はすべての人にとって大切なものです。緑の森に巣をつくるのも、黄金の車に乗る太陽、また真珠の車に乗るを月を見るのも楽しいです。サンザシの香りは甘く、谷間に隠れたブルーベル、そして丘で風に揺れるヘザーは愛らしい。でも《愛》は《命(life)》以上(better than)です。そして鳥の心は、人の心と比べたら、いったい何ほどのものでしょう?」
So she spread her brown wings for flight, and soared into the air. She swept over the garden like a shadow, and like a shadow she sailed through the grove.
こうしてナイチンゲールは飛ぶために茶色の翼を開き、空中に上昇した。ナイチンゲールは庭の上を影のように飛び過ぎ、そして影のように木立を通り抜け飛んだ。
《感想6》《命(life)》以上の《愛》とは何か? Cf. 江戸時代の人形浄瑠璃『曽根崎心中』(近松門左衛門)(1703)は相愛の若い男女の心中の物語だ。「此の世のなごり。夜もなごり。死に行く身をたとふれば、あだしが原の道の霜」と道行の最後の段は始まり「未来成仏うたがひなき恋の手本となりにけり」と結ばれる。、お初と徳兵衛が命がけで恋を全うした美しい人間として描かれている。これは1703年、大坂堂島新地天満屋の女郎「はつ」(21歳)と内本町醤油商平野屋の手代「徳兵衛」(25歳)が曾根崎村の露天神社(お初天神)の森で情死した事件を題材とする。この演目を皮切りとして、「心中もの」ブームが起こる。こうした心中ものの流行の結果、「来世で二人の愛が結ばれる」ことを誓った心中事件が多発したため、江戸幕府は享保8年(1723年)より上演や脚本の執筆や発行を禁止し、また心中者の一方が生存した場合は極刑を申し渡すなど心中事件に対して苛烈な処置を行った。
《感想6-2》さまざまの「愛」がある。
①ナイチンゲールが問題にする「愛」は男女(Cf. カップル)が互いにいとしいと思い合うこと。Ex. 『舞姫』(1890)〈森鴎外〉「貧きが中にも楽しきは今の生活、棄て難きはエリスが愛」。
①-2 性愛(エロース)。Cf. (a) 古代ギリシア・ローマ神話の神「エロス」は、元はカオス、ガイア、タルタロスと同じく、世界の始まりから存在した原初神である。「エロス」は恋心と性愛を司る神である。後に軍神アレースと愛の女神アプロディーテーの子とされた。さらに近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿(キューピッド)で描かれ、手には弓と矢を持つようになった。Cf. (b)サンスクリット語の「カーマ」は性愛である。Cf. (c)仏教では「性愛」の抑制を説いたが、真言密教には、男女の性的結合を絶対視するタントラ教の影響を受け、男女の交会を涅槃あるいは仏道成就とみなす傾向もあった。性愛を表す「愛染」はこの流れにある。
②動物を非常に気に入って、いちずにかわいがる「愛」もある。Ex. 『堤中納言』(11C-13C頃)「虫めづる姫君」「この虫どもを朝夕(アシタユフベ)にあいし給ふ」。
③好意を相手への行動として示す。また特に、なでさする、愛撫する。
④物事に対して心が引かれる。(品物などに)ほれこんで大切に思うor愛玩する。Ex.「慈照院殿、愛に思召さるる壺あり」(『醒睡笑』(1628)「八」)。Ex. 「硯」を愛(メ)でる(『今昔物語』1120頃?「一九」)。Ex. おいしい食べ物を「愛し食らふ」(『今昔物語』「二〇」)。Ex. 「春を愛する」(『去来抄』(1702‐04)「先師評」)。
⑤子供などをかわいがること。幼児をあやすこと。Ex. 鷺(サギ)伝右衛門本狂言『縄綯(ナワナイ)』(室町末‐近世初)「てうちゃくは致しませぬ愛を致しました」。Ex. 『今鏡』(1170)「八」「若宮」を「あいし申給ける」。
⑥人が一般に、相手の人格を認識し理解して、いつくしみ慕う感情。Ex. 親子、兄弟の愛。
⑦人との応対が柔らかいさま。あいそ。Ex. 浮世草子『好色二代男』(1684)三「まねけばうなづく、笑へばあいをなし」
⑧「愛」とは 顔だちや態度などがかわいらしくて人をひきつけることだ。あいきょう。Ex. 浮世草子『風流曲三味線』(1706)二「都に名高き芸子瀬川竹之丞といへる美君に、今すこし愛(アイ)の増たる生れつき」
⑨キリスト教の「アガペー」(愛)。あらゆるものをいつくしむ神の愛。Ex. 詩人ブラウニング(1890)〈植村正久訳〉「我は上帝を信じ真理を信じ愛を信ずるなりと」。
⑩仏教で「愛」は「十二因縁」の一つで、ものを貪(ムサボ)り執着すること。広義には「煩悩」を意味し、狭義には「貪欲」と同じ。欲愛(性欲)・有愛(生存欲)・非有愛(生存を否定する欲)の三愛その他がある。Ex. 道元『正法眼蔵』(1231‐53)「十二因縁といふは、一者無明、二者行、三者識、四者名色(みゃうしき)、五者六入、六者触、七者受、八者愛(※苦楽の受に対して愛憎の念を生ずる段階)、九者取、十者有、十一者生、十二者老死」 。
⑩-2 また仏教で「愛」は、浄・不浄の二種の愛、法愛と欲愛、善愛と不善愛などをいう。
⑪仏教で「愛」は「慈悲」を意味する場合もある。大乗仏教では「愛」を「慈悲」として説く。仏や菩薩が人々のことを思い喜びを与えることを「慈」、人の苦しみを取り除くことを「悲」と言い、それらをあわせて「慈悲」という。一切衆生に対する純化された想いとしての慈悲。
⑫儒教では、「仁」は人の間の愛であり、また徳である。孔子は仁の根源を血縁愛であるとした(「孝弟なるものはそれ仁の本をなすか」)。「仁」は自己犠牲としての愛、また自己保存欲としての血縁愛を基礎として、さらに恭(道に対するうやうやしさ)、寛(他者に対する許しとしての寛大)、信(他者に誠実で偽りを言わぬ信)、敏(仕事に対する愛)、恵(哀れな人に対するほどこし)などを含む。