宇宙そのものであるモナド

生命または精神ともよびうるモナドは宇宙そのものである

『シグナル』関口尚(ヒサシ)(1972生)、2008年、幻冬舎文庫

2012-03-17 21:15:07 | Weblog
   1 杉本ルカ:銀映館の映写技師
 杉本ルカ、映画館、銀映館の技師長(映写技師)、21歳。祖父、剛造さんも銀映館の映写技師で、彼女はその跡を継いだ。
 彼女は高校卒業後、丸3年間、映画館から一歩も出ていない。映画館の中で暮らす。

   1-2 宮瀬恵介:銀映館のアルバイト
 ぼくは宮瀬恵介。映写技師の杉本ルカが足にケガをしたので、それが治るまでぼくが、銀映館で映写助手のアルバイトをする。
 支配人の南川さんが採用条件を3つ示す。①杉本ルカに、過去について質問しない。②彼女は月曜日に神経質になるので注意する。③恋愛は御法度。

   2 授業料が払えず大学を休学:恵介
 銀映館には、第1から第3映写室まである。第1映写室は、杉本ルカが眠る部屋。
 ぼく、宮瀬恵介(21歳)は大学3年が終わったが休学。授業料がない。地元の足利にもどってアルバイトで金を貯める予定。
 恵介は小学校の教師になりたい。

   3 母親に金をせびりに来る:恵介の父親
 恵介の父親は、彼が高2の時、家を出る。父親は、競馬・パチンコに狂い、サラ金から300万円の借金。母親が借金を肩代わりした。
 親父が、母親に金をせびりに来る。弟の春人(高2、17歳)が、父親を撃退する。
 母親は、「結婚したからには、夫に対し責任がある」、「夫が犯罪に手を染めるのを防ぐため」と思い、父親に金を渡す。

   4 人生に負け続け身内をいたぶる:オヤジ
 恵介の親父は、人生に負け続けた。大学も2浪してあきらめる。
 外ではおとなしく、いい人。しかし身内をいたぶる。恵介は子供の頃、父親から「最低」、「低能」、「最悪」と言われ続けた。
 しかし恵介が14歳の時、弟10歳をいたぶる父親の背中を思い切り蹴飛ばす。あの一蹴りで世界が逆転。オヤジがビクビクするようになった。

   5 ウルシダセブンと「月曜日のルカ」
 チケット売り場の江花さんが、技師長のルカのうわさ話を、恵介に言う。
 高校二年の時、東高にウルシダという美少年がいて、彼には曜日ごとに1人ずつ、7人の彼女がいた。彼女らはウルシダセブンと呼ばれた。
 技師長のルカは「月曜日のルカ」だった。彼女は嫉妬から「日曜日のアンナ」を屋上から突き落とし、他の曜日の子を不登校・引きこもりに追い込んだ。

   6・7 恵介の独り立ち祝い:ルカ
 技師長のルカのチェックなしに、恵介、初めてフィルムをかけ映写できる。
 恵介の独り立ち祝いを、ルカが映写室でしてくれる。
 昔、ルカが独り立ちしたとき、おじいちゃんの剛造さんから御祝いしてもらってうれしかったので、恵介にも御祝いしたとのこと。

   8 支配人の南川さん:「杉本のこと、頼む」と恵介に言う
 ルカの足のケガが治る。恵介のアルバイトは終わりのはずだった。しかし遅番担当で、恵介、銀映館の映写助手のアルバイトを続ける。
 支配人の南川さんが「杉本のこと、頼む」と恵介に言う。また「宮瀬君がいつか杉本を外に連れ出してくれるんじゃないか」と言う。
 ルカが、「移動映写機を持ってあちこち出かけたい」。「出張映写したい」と言う

   9 柏木礼二:「いつも女につきまとわれ、大変!」
 午前中、恵介は、あしかが運輸でアルバイト。午後は、銀映館で遅番のアルバイトをし、その後、ルカとビールを飲む生活パターン。
 銀映館からの帰り、モデルみたいな外見の見知らぬ男が、恵介に声をかける。「お前の他に映写技師は居ないのか?」と質問。「居ない!」と恵介が答える。
 翌日、あしかが運輸でその男もアルバイトをしていた。名前は、柏木礼二。「いつも女につきまとわれ、大変な思いをしてきた」とレイジ。

   10 「自分を傷つけた。謝れ。」と泣き続ける:ウルシダレイジ
 恵介が大学の話をすると、大学に行けなかったレイジが「自分がいい大学に通って、俺を傷つけた」と、突然怒る。そして、21歳の男、レイジがぼろぼろと泣く。
 レイジは「自分を傷つけた。謝れ。」と30分ぐらい泣き続ける。仕方なく恵介が「悪かったよ。」と謝る。
 レイジが「携帯の番号とアドレスを教えてくれ」と恵介に言う。恵介が教える。
 バイトの時も、レイジは我が儘を言って泣いたり、仕事をさぼるという。「バックレレイジ」で有名。
 親が離婚したのでレイジは姓が変わった。旧姓はウルシダレイジ。東高のウルシダセブンの相手。

   11 恵介とルカ:ほんの短いキス
 ルカが元気なく、恵介に「知らないアドレスからのメールは、見ないで!」と言う。
 恵介が「好きだよ、ルカ」と言う。ルカが「あたしも好きだよ、恵介」と答える。二人のほんの短いキス。

   11-2 「レイジは寂しがり屋、しがみついて泣きながら射精する」
 レイジのことで、バイトの同僚の知り合いの女性から、電話が恵介に来る。
 「レイジから謝れ、謝罪しろとメールが大量に来て大変」、「レイジの話の90%が嘘」、「職場のたくさんの女の子がレイジに引っかかる」、「レイジはその職場の女は全部、自分のものと偏執的に思う」、「一夫多妻気取り」とのこと。
 さらに「レイジは女の子を何人も妊娠させた」、「レイジは寂しがり屋、しがみついて泣きながら射精する」という。

   12 ルカ:恵介にキスは望むが、それ以上は拒む
 
   13 ウルシダレイジ:漆田医院の息子。女の子を「七股」する(=ウルシダセブン)

   14 「ルカと別れろ」とレイジが恵介に言う
 レイジが金で、高校生など男6人を雇い、恵介を脅す。「銀映館に他に映写技師(ルカ)が居たのに、『居ない』と嘘をついた」とレイジが恵介を非難する。
 「恵介と別れて俺とつきあえ!」とレイジがルカに強要し、「全裸の写真を恵介に送る」と脅したと言う。
 レイジは、恵介にも、「ルカと別れろ」と言う。「俺の女だ」とレイジ。
 恵介が「ルカと別れない」と言うと、レイジは、男6人に恵介を暴行させる。恵介は、かろうじて暴行から逃れる。
 
   15 ルカはレイジとつきあっていた
 ケガで恵介は、銀映館も、あしかが運輸も、アルバイトを休む。
 恵介が、ルカと話す。「かわいそうなのよ、あの人は!」とルカ。
 ルカはレイジとつきあっていた。彼に頼まれ、ルカはアパートを借りる。レイジは月曜日に来る。
 17歳のルカはレイジの「七股」を知っても、どうにもならなかった。

   15-2 「日曜日のアンナ」の自殺
 レイジと一番つきあいが長かった「日曜日のアンナ」が自殺。その直前に、アンナからルカに遺書のメールが来る。
 「疲れた」とアンナ。レイジは、東高で、他に6人の相手とつきあう。「あの人は、嘘まみれ」とアンナ。彼女はレイジの子を2度、妊娠。3度目の時、「赤ちゃんと3人で幸せになろう!」とレイジは平気で嘘を言った。
 「未来なんていらない。思い出もいらない。私という人間もいらない。」とアンナ。
 そして「彼を信用したり、救おうとしても駄目」と言う。

   15-3 ルカが「まっとうに生きたい」と思う:レイジが非難する
 ルカはアンナのメールを、「レイジのことが好きなので、公表しないでほしい」という女の子がいたため、公表しなかった。
 ルカは「なんておかしな人と、つきあってるんだろう」と気づき、「まっとうに生きたい」と思う。
 するとレイジの態度が変わる。「俺をちゃんと愛せないのか?」とののしる。
 高3のルカが受験勉強しようとすると「一人にしないでくれ」とレイジが泣きわめく。
 末期ガンのおじいちゃんに付き添うと「何で会ってくれないんだ」とレイジ。

   15-4 レイジ:不安をいつも抱える
 レイジは女の子に捨てられるのが怖くて、色んな女の子と関係を持つ。
 彼は6歳の時、双子の兄が目の前で、頭を車に轢かれ、死ぬのを目撃。以後、不安をレイジはいつも抱える。
 ルカは、レイジに優しくしようと思い、「最後の月曜日」と決め、レイジと会う。「寂しい」と泣きじゃくるレイジ。
 しかし、この日、おじいちゃんは亡くなり、死に目にルカは会えなかった。

   15-5 ルカ:レイジと決別する
 ルカは、「レイジと決別する」と他の女の子たちに宣言する。すると彼女たちもレイジから離れる。
 レイジは、あわて、「月曜日のルカ」のでっち上げ物語を、チェーンメールで広める。

   15-6 映写室に3年閉じこもると、ルカが決める
 ルカは、おじいちゃんの死に目に立ち会わなかった罰で、映写室に3年閉じこもると、決める。
 「深い体の結びつきはいらない。安心して眠るための優しいキスだけほしい」とルカが恵介に言う。
 「ルカを思う俺の気持ちは、ずっと変わらない」と恵介。「好きだ」とルカ。

   16 東京の大学へもどると決める:恵介
 恵介、大学にもどるため足利を発ち、東京へ行くと決める。
 「教師になりなさい」とルカ。そして「時々、お休みを貰って恵介に会いに行く」と言う。
 恵介が、裸のルカを抱く。
 「思い返せば誰もが誰かにシグナルを発していた。届くか届かざるかに関係なく。」と恵介が思う。

   16-2 始発、日の出前の列車
 翌朝、恵介が、「母ちゃんをよろしく」と弟の春人に頼む。
 始発、日の出前の列車に恵介が乗る。
 しばらくして、電柱と電柱の間に張られたスクリーンに、移動映写機でルカが映写する映画を、恵介は車内から見る。

 《評者の感想》
   1
 高校生の女の子の初めての恋愛、その危うさ。ルカは、ウルシダセブンの一人と知りながら、恋人の男を許し受け入れる。
 これは、ただし著者が男ゆえの、願望の表現でもあるから要注意。
   2
 ウルシダレイジの自己中心性、非社会性、虚言癖。彼はこの物語の要の人物だが、彼のシグナルに意義があると思えない。
 双子の兄の死を目撃すれば、心的外傷を受け、病気だから、レイジは何をしようと許される。
 このようなシグナルは、無意義である。
   3
 ルカと恵介の関係は、純情ゆえに強い。人と人の関係は、心と心の関係に基づくとき、最強となる。

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『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦(1979生)、2007年、角川文庫

2012-03-07 01:32:59 | Weblog
  第1章 夜は短し歩けよ乙女
   A
 5月の終わり、「私」は、クラブOBの結婚式に出席。(新婦が東堂奈緒子さん。)
 この時、クラブの後輩の「彼女」に「私」は一目惚れ。追いかけるが見失う。
   B
 「彼女」は一人でお酒が飲みたい。
 錦鯉センターの東堂さんと会う。彼は竜巻で錦鯉を失い失意。
 東堂さんが「彼女」の乳を揉む。
   C
 歯科衛生士の羽貫さんが東堂さんを追い払い、「彼女」は救われる。
 天狗の術を使う樋口君が一緒にいる。
 詭弁論部が、留学する高坂先輩の壮行会をやっていた。彼は奈緒子さんに振られた。
   D
 金貸しの李白翁から、借金の支払いを東堂さんは迫られ。
 東堂さんは、春画を売って金にしようとする。
   E
 詭弁論部のOBの還暦お祝いに羽貫さん、樋口君、「彼女」が合流。
 OBたちが、鰻をまねた詭弁踊りを踊る。
   F
 錦鯉センターの東堂さんは、奈緒子さんのお父さん。
 東堂さんは閨房調査団の会で春画を売ろうとするが、途中、プッツンし死のうとする。
   G
 東堂さんの借金をかけて、「彼女」が李白翁と偽電気ブランの飲み比べ。
 李白翁が「ただ生きているだけでよろしい」、「夜は短し歩けよ乙女」と「彼女」に言う。
   H
 「彼女」が李白翁との飲み比べに勝つ。
 東堂さんの錦鯉の群れが、空から池に降ってくる。
 「夜は短し歩けよ乙女」と「彼女」がつぶやく。

  第2章 深海魚たち
   A
 「彼女」が古本市に行くという情報を仕入れ、「彼女」に会うため「私」も古本市に行く。
 『ラ・タ・タ・タム―小さな機関車の不思議な物語―』という昔、自分が読んだ絵本を、「彼女」は探す。
   B
 李白翁が個人的売り立て会を開催。
 古本市の神と名乗る少年が登場。
   C
 個人的売り立て会で、李白翁が、激辛の火鍋をギブアップせず最後まで食べ続けた者に、欲しい本をやると言う。
 『ラ・タ・タ・タム』を「彼女」に渡したい一念で、「私」が勝利。
   D
 ところが古本市の神が賞品の本を盗み、絵本『ラ・タ・タ・タム』も行方不明となる。
 「彼女」が「なむなむ」と祈り絵本を探す。
 「私」が絵本を発見し、指差し、「早く買うように!」と「彼女」に言う。
 古本市の書棚の下を泳ぎまわる人々は「海の底のお魚のようですね!」と「彼女」が言った。

  第3章 御都合主義者かく語りき
   A
 御都合主義とは、己に有利な形で幕を引くこと。
 「私」は学園祭に「彼女」が来るというので、学園祭に出かける。
 「私」はなるべく彼女の目に留まる作戦、ナカメ作戦を遂行中。
 ゲリラ演劇『偏屈王』が、上演される。
   B
 「彼女」は巨大な緋鯉の縫いぐるみを背負う。「なむなむ」と射的で当てて取ったもの。
 樋口さんの「韋駄天コタツ」も出没。
 「パンツ総番長」が、好きな彼女と付き合いたい一心で、洗わないパンツをはく。
   C
 巨大な「象のお尻」のチクチクする展示がある。
   D
 映画サークル「みそぎ」が演劇『偏屈王』を撮影。
 偏屈王の恋人プリンセス・ダルマの代役を突然、「彼女」が演じることとなる。
   E
 「万国大秘宝館」は女性入場禁止。
   F
 「パンツ総番長」が一目ぼれした彼女は、「象のお尻」を作った女性。
   G
 学園祭事務局は、ゲリラ演劇『偏屈王』を取り締まる。
   H
 校舎から校舎への危険な綱渡りを、「彼女」が見る。
   I
 ごはん派対パン派の論戦が、行われる。
   J
 「彼女」は、新プリンセス・ダルマとして有名となる。
   K
 取り締まる側の学園祭事務局長も、時に騒ぎたくなる。
   L
 パン食連合・ビスコ派の群が、現れる。
   M
 演劇『偏屈王』49幕上演中に、プリンセス・ダルマ(=「彼女」)が学園祭事務局に連行される。
   N
 「象のお尻」の須田紀子さんが、プリンセス・ダルマ(=「彼女」)を救出。
 なおも学園祭事務局長たちが、「彼女」を追いかける。
 紀子さんが、緋鯉の縫いぐるみを背負って、「彼女」の身代わりとなり逃げる。
   O
 偏屈王の正体は「パンツ総番長」だった。
 「私」は屋上から転落するが、綱渡りの綱と竹竿で助かる。
 演劇『偏屈王』50幕(最終幕)が、「風雲偏屈城」で演じられる。
   P
 「私」が偏屈王の役を奪う。『偏屈王』50幕はハッピー・エンドで、「私」が「彼女」(=プリンセス・ダルマ)を抱きしめる。神様の御都合主義①。
   Q
 落ちた林檎がぶつかった仲の「パンツ総番長」と「象のお尻」の紀子さんが出会う。神様の御都合主義②。

  第4章 魔風邪恋風邪
   A
 「彼女」は、『偏屈王』の劇の「先輩」(=「私」)を思い出しボーっとしてしまう。
   A-2
 歯科衛生士の羽貫さんが風邪。「彼女」がお見舞いに行く。
 樋口さんも風邪。「彼女」が見舞う。
   B
 「私」は、恋わずらいにかかる。
   C
 元詭弁論部員で還暦の内田内科医院長は、風邪の患者多数を見て多忙。
 風邪の学園祭事務局長を、「彼女」が見舞う。
   D
 「私」が風邪になる。なるべく「彼女」の目に留まる作戦、ナカメ作戦の遂行は中断。
   E
 「パンツ総番長」が成し遂げた演劇『偏屈王』を、映画サークル「みそぎ」が撮影。
   F
 京都は雪。「私」はこの半年、恋の「永久外堀埋め立て機関」だった。
   F-2
 「彼女」が、古本屋蛾眉書房主人の風邪を見舞う。東堂さん、京料理千歳屋主人も風邪。
 冬至の日、風邪の流行で、クラブの忘年会中止。
   G
 「私」は、「彼女」にお付き合いの申し込み提案をしようと思う。
   H
 「彼女」が、錦鯉センターの東堂さんの風邪を見舞う。
 風邪の神様に「嫌われている」と彼女が思う。
   I
 このところ、「先輩」と会っていないと「彼女」が思う。
 数日に一度は奇遇で「先輩」と出会った。「先輩」は風邪かもしれないと思う。
   J
 古本市の神様の少年に勧められ、「彼女」が『傷寒論』を読む。
 先輩に「潤肺露(ジュンパイロ)」を持っていこうと「彼女」が思う。
   K
 風邪の李白翁にも、「潤肺露(ジュンパイロ)」を持っていこうと「彼女」。
   L
 李白翁の住まいの三階建て電車が、魔風の竜巻に襲われる。
 窓ガラスが割れ、室内がバラバラになる。
 「彼女」が、風邪の李白翁を看病する。李白翁が「夜は短し歩けよ乙女」と言う。
   M
 風の神様の竜巻に「彼女」が連れ去られる。
 「私」には妄想と現実をゴチャゴチャにする才能がある。
 「私」が、空中を飛ばされていく「彼女」を、「奇遇ですね!」と言って助ける。
 「彼女」が「なむなむ」と叫ぶ。
   M-2
 「私」の夢が終わったとき、「彼女」がちょこんと目の前に座っていて、「風邪、大丈夫ですか?」と言った。
   N
 李白さんの快気祝いのとき「一緒に行けますか?」と「私」が「彼女」に尋ねる。
 「ご一緒します」と「彼女」。
   O
 4時P.M.に「私」は「彼女」と待ち合わせ。何を喋るべきかと「私」は悩む。
 「彼女」が「先輩」(=「私」)を見つける。
 二人、お辞儀をする。
 「こうして出会ったのも何かの御縁」と「彼女」がつぶやく。

 《評者の感想》
 洒落たプラトニックな恋物語。
 ごちゃごちゃと遊園地のような出来事の洪水。
 一部、妄想と現実の混合。
 「彼女」の純情が輝く。
 著者は物知り。
 気の利いた心理分析。
 楽しい物語。
 羽海野(ウミノ)チカ氏の「かいせつにかえて」が素晴らしい。

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『悼む人』(上下)天童荒太(1960生)、2008年、文春文庫

2012-03-03 22:46:06 | Weblog
  プロローグ
 「悼む人」は亡くなった人について「誰に愛され、誰を愛し、誰に感謝されたか?」を尋ねる。

  第1章 目撃者(蒔野抗太郎Ⅰ)
   1 醜悪、卑猥、非道を描く週刊誌の記者:蒔野抗太郎
 蒔野は週刊誌の記者。「エグノ」と呼ばれる。エログロの蒔野。悪意と汚辱にまみれているのが人間だと蒔野。醜悪、卑猥、非道を描く。
 蒔野の父親は母親を捨て、女と暮らす。息子の蒔野にも冷たい。
 小3の息子が蒔野にはいるが、妻とは離婚。その後、妻は再婚。妻は息子には蒔野は死んだと言っている。
 ある日、蒔野は「人の死んだ場所をうろつく男」、坂築静人(サカツキシズト)について知る。

   2 坂築静人:「誰に愛され、誰を愛し、誰に感謝されたか?」のみ問う
 坂築静人は人が死んだ場所を探して歩き、「誰に愛され、誰を愛し、誰に感謝されたか?」を尋ね、そしてその人を「覚えておく」ために「悼む」。

   3 「確かに生きていたこと」を胸に刻む:静人
 「確かに生きていたことを胸に刻みます」と坂築静人は祈る。
 「何だこいつは、何だこの野郎は!」と蒔野は思う。

   4 悪人も善人も同等:静人
 坂築静人は悪人も善人も同等に扱う。軽重はつけない。

  第2章 保護者(坂築巡子Ⅰ)
   1 在宅のホスピスケア:坂築(サカツキ)巡子
 坂築(サカツキ)巡子は58歳。末期ガンで病院を退院。在宅のホスピスケアに入る。
 夫・鷹彦は64歳。
 巡子は、息子・静人が「自分探しの旅」に出ていると人に言う。
 娘・美汐(ミシオ)27歳。

   2 余命3ヵ月:巡子
 巡子は胃ガンの末期。余命3ヵ月と宣告される。静人が帰ってくるのを期待。

   3 美汐が妊娠する
 巡子の甥の怜司27歳。小さい頃から美汐と仲がいい。
 美汐の彼氏、高久保。そして美汐が妊娠する。
 巡子の兄の継郎は、病弱の巡子に「代わってあげる」と16歳で亡くなる(白血病)。

   4 高久保と美汐が別れる
 高久保は政治家の家柄。美汐の兄・静人が不審者で警察の世話になるので親族が、高久保と美汐の結婚に反対。
 高久保がそれに従う。美汐は高久保と別れる。

   4-2 静人とヒヨドリの死
 静人6歳の時、死んだヒヨドリの雛を、忘れないよう胸に抱いた。

  第3章 随伴者(奈義倖世(ナギユキヨ)Ⅰ)
   1・2 倖世28歳:夫・甲水朔也(コウミズサクヤ)を殺した
 倖世は夫・甲水朔也(コウミズサクヤ)を殺した。懲役4年。出所し今、28歳。
 展望公園で、倖世は朔也を殺す。

   3 朔也の首が現れる
 倖世にとって朔也は死んでいない。朔也の首が、倖世の右肩に現れる。
 静人は「ただ悼みたいから、悼む」、「病気のようなものです」と言う。

   4 亡くなった方を自分の中に刻む:静人
 倖世が、静人の「悼み」の旅に、付いて行く。
 「亡くなった方を『ほかの人と代えられない唯一の存在』として自分の中に刻む」と静人が言う。
 朔也の首が、静人について「死者をもてあそぶ病人」と呼ぶ。

  第4章 偽善者(蒔野抗太郎Ⅱ)
   1・2 人間の醜悪のみを描くことに疲れる:蒔野
 蒔野はインターネットにサイトを作って「死者をたずね歩く男」を捜す。
 人間の醜悪、卑猥、非道のみを描いてきた蒔野(週刊誌記者)は疲れた。
 「悼む」男について、「甘ったれた話だ」とも蒔野は思う。例えば戦争の現場では多数の死体があるのに、それをどう悼むというのか?

   3 ガンで気弱になり息子(蒔野)に会いたがる:蒔野の父親
 蒔野の父親は母親を捨て、女と暮らし散々、我儘な生活をした。その父親がガンで気弱になり、息子の蒔野に会いたいという。父と住む女性、『スナック玩具荘』の尾国理々子が蒔野に伝える。
 蒔野は「会わない」と言う。尾国理々子が「たかをくくってるんじゃないよ。少しばかり気持ちを殺して、会ってやればいいでしょう!」と非難。

   4 焼き殺された少女の事件
 死んだと思われ、間違って火をつけられ、生きたまま焼き殺された18歳の少女の事件あり。

第5章 代弁者(坂築巡子Ⅱ)
   1 失語症的な鷹彦
 巡子の夫、鷹彦は3歳のときの空襲で5歳の兄を失い、その時以来、失語症的になる。

   2 静人の「悼み」の旅の意味
 巡子が静人の「悼み」の旅の意味を理解しようとする。
 ① 始まり:祖母が、静人3歳のとき死ぬ。チューブを装着されていた祖母が紙に「おぼえてて」と書く。巡子が「おばあちゃんは『おぼえてて』と言ったのよ」と伝えると、静人がうなずく。
 ② 静人6歳の時、死んだヒヨドリの雛を忘れないよう胸に抱いた。(⇒第2章4)
 ③ かつての空襲の日、息子(巡子の兄)と(教員だった)祖父の教え子多数が、死んだ。その命日の日に、祖父が自殺。静人は8歳で、強いショックを受ける。
 ④ 医療機器会社に勤めた静人は、小児病棟で、死んでいく多くの子どもたちを目撃する。
 ⑤ 親友の研修医が、疲れて浴槽で寝てしまい溺死。これがきっかけとなり、これまでの死のすべてが、静人の心に流れ込む。
 静人は、道端に献花を探すようになる。死者を「覚えていられたら」と静人は思う。(これは「冥福を祈る」こととは違う。)

   3 自分なりの「悼み」の方法:静人
 死者のことを「覚えておく」と静人。
 「悼み」を始めてしばらくすると静人は死に捉えられる。自分の死に怯える。自殺の心配。「生きるのよ」と巡子が言う。
 静人が死に囚われ自分を見失うことはなくなる。
 自分なりの「悼み」の方法に静人はいたる。死者について、肯定的な面3つのみを覚えておく(=心に刻む)。「誰を愛したか」、「誰から愛されたか」、「何を人に感謝されたか」。
 「誤解、思い込みでも構わない。人と人の関係は思い込みの積み重ねだ。」と静人。

   3-2 怜司:高久保を非難
 妊娠した美汐を捨てた高久保を、怜司が非難。怜司が「美汐の子の父親になってもいい」と言う。

   4 静人の「悼み」に「意味」があるのか:蒔野
 週刊誌記者(蒔野)が巡子をたずねて来る。静人の「悼み」について、「つまらない」、「意味がない」と思いませんかと、聞く。
 「肝心なのは、あなたに静人が、どう映るかです」と巡子が答える。

  第6章 傍観者(奈義倖世(ナギユキヨ)Ⅱ)
   1 「悼み」など「ばからしい」との疑い:倖世
 倖世(ユキヨ)は「悼み」について「ばからしい」「くだらない」との疑いを持つ。朔也の首が彼女にそう言う。
 いじめで殺された知的障害の子を静人が「悼む」。実は、このいじめ殺人はもみ消された。実情を話した母親が「覚えておいてください」と静人に頼む。

   2 静人は約束を守る
 父親を過労死で失った娘が、「静人の『悼み』がうそでないなら、毎年、命日の日に電話をかけろ」と言った。静人は約束を守り、毎年、電話する。

   3 倖世は、静人の真意がわからない
 静人は1日、10から5人を「悼む」。「懐かしい友人の思い出のように覚えておく」と静人。倖世は、静人の真意がわからない。

   4 DVシェルターに、倖世、逃げる
 倖世(ユキヨ)が6歳のとき両親が離婚。母親が倖世を引き取るが38歳で、くも膜下出血で死ぬ。倖世は祖母に引きとられるが、高校中退し、荒れる。
 倖世は、死んで忘れられることが恐怖で、生きていた。
 祖母が死に、その時、親切に面倒をみてくれた警官と結婚。しかし夫からのDV。
 DVシェルターに、倖世、逃げる。シェルターを運営していた甲水朔也(コウミズサクヤ)と結婚。

   4-2  5歳のとき母親が駆け落ち:朔也
 朔也が5歳のとき、母親が駆け落ちする。朔也の父親は、その後再婚。

   5 人間はゾウリムシと同じ:朔也
 甲水朔也は、「君と結婚したのは殺されるためだ」と倖世(ユキヨ)に言った。
 人間が生きる理由は、「愛」や「夢」でなく、「細胞の力」だと朔也。自分の生にも死にも意味はなく、人間はゾウリムシと同じ。
 ただしゾウリムシにもプライドがあり、愚かな細胞に笑われたくない、負けたくないと思う。これが、朔也が生きる理由。
 「(お前に私を殺させるという)私の願いを聞くのが、私の本当の妻だ」と朔也が倖世に言った。

  第7章 捜索者(蒔野抗太郎Ⅲ)
   1 覚えていてもらう:永遠性
 「覚えていてもらいたい。それによって永遠性を得る」、「誰でもいい、悼む人になってほしい」と妻を事故で失った男が、蒔野に言う。
 蒔野は「悼む人」というサイトを立ち上げ、静人を追う。

   2 父親の葬式に出席:蒔野
 父の臨終に蒔野は会いに行かなかったが、葬式には出席。父の事実婚の妻、理々子が礼を言う。
   3 焼き殺された18歳の少女:蒔野が記事を書く
 生きたまま焼き殺された18歳の少女に、川に落ち死んだ娘(3歳)がいた。助けようとした父親(=少女の夫)も死んだ。以後、彼女は荒れた生活に陥る。
 彼女の復権のため、蒔野が彼女の生活歴を追った記事を書き、大ブレイク。

   4 「悼む人」だけが自分を思い出してくれる:蒔野
 中学生売春の少女に「お前など、誰からも忘れられるのだ」と言い、蒔野が首を絞め脅す。
 その報復で、少女の仲間に暴行され、蒔野が、生き埋めにされる。救出されるが失明。
 生き埋めにされた時、蒔野は、「『悼む人』だけが自分を思い出してくれるだろう」と思う。
 死者を忘れ去ることに罪悪感がある限り、「悼む人」はあちこちに出現するはずと、蒔野。

  第8章 介護者(坂築巡子Ⅲ)
   1・2 自宅で出産すると宣言:美汐
 末期ガンの巡子は胃の出口が狭窄。
 娘の美汐は妊娠26週で赤ん坊の心音が聞こえる。
 美汐が自宅で出産すると宣言。家で産むといえば、在宅のホスピスケアを受けている巡子がもう少し踏ん張るだろうと、美汐は思う。

   3 美汐と結婚したい:怜司
 怜司が母親の福埜みのりに「美汐と結婚したい」と言う。みのりは、「今は連れ子がいても再婚する時代だ。かまわない。」と答える。

   4・5 中心静脈栄養法:巡子
 巡子は、胃が閉塞。中心静脈栄養法を選択。
 失われてゆくものを嘆くのでなく、残されているものを慈しむと巡子。聴覚だけが最後に残る。
 巡子は夫の鷹彦に「自分が死んでも後を追うな」と言う。

  第9章 理解者(奈義倖世(ナギユキヨ)Ⅲ)
   1・2・3 「いつまで一緒に歩くのか」:静人が倖世に言う
 倖世がすでに3ヵ月、静人の後を追う。
 「いつまで一緒に歩くつもりですか」と静人が苛立つ。
 「おまえは、進むべき道が見出されなければ、静人を道連れに死ぬつもりだろう。」そう朔也の首が倖世に言う。
 「女は抱かない」と静人。

   4 自分失ったら他者を「悼む」ことができない:静人
 「人間をとらえるときには、必ず主観や想像がはいる」「だから亡くなった他者についての自分の理解が、誤りというわけではない」と静人が倖世に言う。
 「悪人も等しく悼む」、「彼らも、赤ん坊や小学校時代は、好かれたり感謝されたりした」と静人。また「殺人者については、被害者を3度悼んだ後に、悼む」と彼が言う。
 「死者に感情移入しすぎて、死ぬことばかり考えたことがある。母に『自分を失ったら目的を果たせなくなる』と言われ、救われた」と静人。

   5 無償の愛も神仏も否定、だが実は無償の愛を求める:朔也
 「甲水朔也の首は、亡霊でなく、私の妄想・罪悪感・もう一つの人格のようなもの」と倖世。
 朔也は「私を愛しているなら私を殺せ」と倖世(ユキヨ)に言った。「できないなら他の女を捜す」と朔也。
 嫌われるのがいやで、倖世は朔也を殺す。
 しかし「本当に愛しているなら、朔也に嫌われ悪まれても、殺さないはず」と倖世は今や気づく。
 朔也は、母に捨てられ裏切られ、愛(=無償の愛)を否定。神仏も否定。だが実は無償の愛を求めた。
 「甲水は、あなたが、母親のように彼を捨てなかったので、あなたの愛を実は信じたのだ」と静人が倖世に言う。
 倖世(ユキヨ)に、「『お前を愛しているなど』と、言わない」と、朔也が言ったことの意味が今、彼女にわかる。朔也の首が消える。

   6 静人と倖世、結ばれる
 倖世は、静人に「悼んでほしい」と思う。「生きていては、あの人(静人)の心に残れない」と彼女。入水しようとする。
 「あなたは、もう僕の心に刻まれています」と静人が、倖世の入水を止める。
 「あなたと旅して楽しい」と静人。二人は、結ばれる。

   6-2 倖世も「悼む人」となる
 二人、毎晩、抱き合う。
 「このまま一緒にいれば、あなたが『悼み』に専念できない。私を憎むようになる。お別れします。」と倖世(ユキヨ)が静人に言う。
 また「静人が『悼む人』であり続ければ、自分も悼んでもらえる」と倖世。そして「人が生きている、ただそのことに尊さを感じる。」と言う。
 倖世も「悼む人」となる。

  エピローグ
 在宅のホスピスケアを受けている巡子が亡くなる。
 静人は帰ってこなかったが、「たぶん彼が自分を悼んでくれる」と巡子が思う。
 巡子が「愛し合い、感謝しあう世界」に去る。それと同時に新しい生命が生まれる。(=美汐が自宅で出産する。)

  《評者の感想》
 ある宗教者の誕生の物語:「悼む人」静人。
 そして最初の弟子が生まれる:奈義倖世(ナギユキヨ)。
 天国は「愛し合い、感謝しあう世界」。死は天国へと去ること。
 「悼む」とは忘れずに覚えておくこと。ただしその人が「誰に愛され、誰を愛し、誰に感謝されたか」だけを覚えておく。
 つまり、地上のうちに天国が実現していると、静人は言う。


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