(15)三つの指輪
A 王様が、ユダヤ人の金持ちに難題を課し、罠にかけ、ユダヤ人から金を略奪しようとした。
B ところが、ユダヤ人は賢くて、王様に「三つの指輪」の話をし、王様と信頼関係を築いた。
C 王様は、ユダヤ人から平和的に金を借り、利子をつけて金を返した。
《評者の感想》
「三つの指輪」の話は、複雑でゴチャゴチャ。その話が理解できて、敬意を払い合えたということは、「二人とも頭が大変よかった」ということである。王様が愚鈍だったら、ユダヤ人は殺され、財産は没収されたろう。
(16)ゴルゴーンの首
A 3人姉妹の怪物ゴルゴーンの一番下が、メドゥーサ。
B 英雄ペルセウスが、ゴルゴーンの首を切りに行く。成功し、帰りにアンドロメダを助ける。
B-2 ペルセウスが、ゴルゴーン(メドゥーサ)の首を女神アテナに贈る。
C 正義の神アテナと軍神アレースが、戦う。
C-2 ゴルゴーンの首で石化された人間には、石化能が残る。その石を集め、アテナとアレースは石化能を武器に戦った。
C-3 石化能の影響が神々にも徐々に及び、ついに神々は滅び、みな石となった。
D 人間はたくさんいたので、石化しない者もいて、生き残った。
《評者の感想》
① 神々の黄昏の物語。神は、ゴルゴーン(メドゥーサ)の首の石化能によって、死んだ。
② 石化能とは、放射能のパロディだろう。
②-2 人間が生き残ったのは数が多いからで、その昔の「核兵器で5億人殺されても、1億人残る」論である。
(17)故郷
A 貧しい家出身の男が大金持ちになり、「錦を飾る」ため故郷に帰る。
B 男の兄は札付きで今は監獄。父は飲んだくれ。妹は、父か兄の子を2人産み、旅籠をやっている。旅人を殺し、金品を奪う。
C 二人に会うため、息子が、この旅籠に泊まる。しかし身分は明かさなかった。
C-2 父と妹が、夜、旅人(=息子)を殺そうと襲う。
C-3 その時、役人が踏み込み、二人は捕まり、縛り首になる。
D 実は、父・妹の二人は、旅人が息子・兄であると知りながら、殺そうとした。
《評者の感想》:「邪悪な心と強欲には、家族愛など無意味だ!」と著者の主張。リアルあるいは悲観的。
(18)パンドーラーの壺
A プロメーテウスが神から火を盗んだことに怒り、ゼウスが“賢明さ”のないパンドーラーを泥から作る。
A-2 好奇心の強いパンドーラーは、神からもらった「開けてはいけない蓋」を開けてしまう。「嫉み」などあらゆる悪徳が飛び出し、人々は不幸となる。
B しかしパンドーラーは、“賢明さ”に欠け無知蒙昧なので、何も悩むことなく、夫と幸せに暮らした。
《評者の感想》:「知らぬが仏」のパンドーラー版である。
(19)ある恋の物語
A 王女プシューケーは、美の女神アプロディティーより、美しかった。アプロディティーが怒る。
A-2 子のエロースに、「プシューケーが醜い男に恋するよう矢を放て」と命じる。
B エロースが自らの矢で傷つき、プシューケーに恋をする。
B-2 エロースはアポロンに頼み、「恐ろしい領主青髭と結婚せよ」との神託をプシューケーに対し下してもらう。
B-3 青髭は、プシューケーを毎晩、愛撫するが、夫婦の契りはしない。
B-4 プシューケーは、青髭が、「可愛いい坊や」のエロースだと知る。
C アプロディティーが、この時、プシューケーの前に現れて怒る。
C-2 プシューケーは、隠しておいた、エロースの矢で、アプロディティーとエロースのお尻を刺す。
C-3 母子は恋人となり、プシューケーのことなど忘れる。
D スキャンダルなので、神々がプシューケーを呼んで、形の上だけ、エロースと結婚させる。
《評者の感想》
① 「母子の恋愛はスキャンダル」で、「神々はスキャンダルが嫌い」というのが話の前提。
② 著者の独創は、アプロディティーとエロースの「母子相姦」を導入したことである。
(20)鬼女の島
A 天竺の豪商・僧伽多が難破し、鬼女の島に流れ着く。
A-2 島で、鬼女に襲われ、仲間が食われ、僧伽多は何とか逃げ帰る。
B 鬼女の一人が、美女のすがたで都に来て、王様をたぶらかす。
B-2 王様が、鬼女に殺される。
C 僧伽多や王の家来たちが、鬼女の島に遠征し、鬼女を皆殺しにする。
C-2 島に、僧伽多と家来たち、つまり男ばかりが住むこととなる。
D 島の男たちは、寄り付く船の男を殺し、女たちを嫁にするようになる。
E 何百年か後、島は女ばかりとなり、男がいなくなった。
《評者の感想》
① 男ばかりでは、子孫が残らない。男は、子が産めない。
② 女なら、子を産むことが出来る。種は、たまに来る船の男たちからもらえばよい。
③ 島は小さく、食料が不足気味なので、用済みの男は食べてしまう。
④ 物語の前提は、「女が集団として、男を敵視し、したがって男を利用するが、不要なら殺す」という思想。
(21)天国へ行った男の子
① 貧しい百姓の男の子が、聖母様の木像を見て、「いつも赤ん坊(イエス)を抱いて疲れるだろう」と、赤ん坊を受け取るが、妙に温かく気持ち悪いので物置に放り込む。
② 聖母様が痩せているので、男の子は「食べ物が足りないのだろう」と思い、自分の食事を半分与え、さらに下男から残飯をもらい、木像に差し上げる。
②-2 なんと聖母様の木像が、片膝を立て、がつがつ食べる。そして木像が、太ってくる。
③ ある日、木像が男の子に抱き付く。男の子は下敷きになり、木像の重さで圧死する。
③-2 木像の腹が割れ、中から臭気を放つ大量の汚物が出てくる。
④ 神父様が説教の時、「男の子は聖母様に抱かれ天国に行った」と村人たちに話す。
《評者の感想》
A すさまじい話。聖母様は木像なのに、抱いている赤ん坊が温かく、片膝を立てて食物をがつがつ食べ、しかも腹の中に大量の汚物がたまる。聖母様は、木像のはずなのに、人間の身体と同じ。
A-2 聖母様は、木像であって、非木像である。論理的に矛盾する。矛盾(=偽)が真であるから、奇蹟である。「汚物」にまみれた奇蹟。
B 神父様は嘘をついていない。事実を宗教的に解釈すれば、「男の子は聖母様に抱かれ天国に行った」。
C 著者は、宗教の奇蹟、宗教的解釈を、冷笑する。
(22)安達ケ原の鬼
A 安達ケ原で、旅の坊さんがある家に泊めてもらう。その家のおばあさんが夜、出かける。
A-2 「見てはいけない」と言われた次の間の襖を、坊さんが開けると、腐った死骸の山。
B 坊さんは、お経を唱えながら逃げる。死骸の山が起き上がり、追いかけてくる。坊さんは掴まり、殺される。
《評者の感想》
著者は、坊さんも、お経の宗教的力も信じない。著者は、無神論者あるいは、宗教否定者である。
(23)異説かちかち山
A 狸(=弟狸)が、爺様と婆様に、狸汁にされ食べられる。
B 兎がやってきて、爺様に、「婆様は実は狸が化けている。爺様は婆汁食った」と言う。
B-2 爺様に追われ、婆様は逃げる。
C 兎が、「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、「柴をお土産に爺様を喜ばせれば、婆様のことを狸とは思わない」と柴を刈らせて、背中に火をつける。
C-2 兎が、また「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、蓼味噌を薬と称して、婆様の火傷に塗り、痛い目に合わせる。
C-3 兎が、さらに「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、泥船に乗せ、溺死させる。
D 兎が、婆様の死体を、「狸が婆様に化けている」と言って爺様をだまし狸汁として食べさせる。
D-2 爺様が、婆汁をたっぷり食べた後、兎の皮を脱ぎ捨て、狸出現。兎は実は兄狸が化けたもので、弟狸の仇を取った。
D-3 その後、爺様は気分が悪くなり、死ぬ。
《評者の感想》
① 大変よくできた推理小説風の物語。「兎が実は兄狸だった」と、最後に謎解き。
② 「人間が人間を食べる」というカニバリズムの話。
(24)飯食わぬ女異聞
A ケチな男が、飯食わぬ女と結婚する。
A-2 その女房は、頭の上に口があり、そこから物を食べる山姥(ヤマンバ)とわかる。
A-3 「誰にも言わなければ、お前を食わない」と山姥が、男に言う。
B そのうち女房は、外で物を食べてきて、それを口から戻し、男に食べさせるようになる。
B-2 おいしいので、男は、女の頭の上の口移しに、食べさせてもらう。
C やがて男は容態が悪くなり、女に「最後のお願いだ。俺を食ってくれ」と言う。
C-2 男は、女に食われる。
C-3 女(=山姥)は、どこかの山へ駆け去った。
《評者の感想》
究極の愛の物語。山姥に口移しに吐いた物を食べさせてもらう快感&食われる快感。
(25)魔法の豆の木
A 母親はジャックが小さい頃、家を出ていった。
A-2 父親が、「お母さんは天国に行って、幸せに暮らしている」とジャックに言う。
A-3 ジャックは天国に行き、母親に会いたい。
B ジャックは、牛と交換に、魔法の豆の木の種を、手に入れる。
B-2 お母さんに会いに、天国へ登って行けるため。
C 大きく育った豆の木を登り、ジャックが天国へ行くと、お母さんは大男の妻になっていた。
C-2 「あの甲斐性なしに産まされた餓鬼は嫌だ!」と母親。
D 結局、母親はジャックを一気に絞め殺した。
《評者の感想》
出ていった母親を慕う息子と、その息子を嫌う母親の物語。著者は「ありうる事例」として突き放し語る。
(26)人は何によって生きるのか
A 貧しい靴屋が、冬、裸の(堕)天使を助ける。靴屋は天使を居候させる。
B 天使は神から3つの問題を出された。それが解けるまで天国に帰れない。
B-2 「(a)人間にあるものは何か?(b)人間にないものは何か?(c)人間は何によって生きるか?」
C 答えは、(a)人間には「愛」がある、(b)人間は自分の死がいつか知らない。しかし「(c)の答えが、まだわからない」と天使が言う。
D 飢饉が起き、ついに人が人を食べる状況となる。天使は(c)の答えを知る。「人は人を食べることによって生きる。」
E 天使は天国に帰ることとなるが、「居候して食べた分のお礼をしてくれ!」と靴屋とその女房に言われる。
E-2 村人もやってきて「天使の肉には不老不死の薬効がある」と、天使を殺す。そして天使を煮て、靴屋を含め村人たち全員で食べてしまう。
E-3 以後、村人たちは、みな長生きした。
《評者の感想》
「人は何によって生きるか?」という問いへの答えは、駄洒落風に、「人は食べ物を食べて生きる」である。天使の肉は、不老不死の効能もあり、美味しいようである。村人たちが、みな長生きしてよかった。
あとがき
「全体として、残酷というよりも、救いのない話が並んでいる」と著者が言う。
《評者の感想》
① 「残酷というよりも、救いのない話」との著者のまとめは、その通り。
② これらの話には、「世の中、自業自得だから愚行に気をつけよ」との「教訓」があると、著者は言う。しかし、そのような教訓は、読み取れない。
③ あるのは、「虚無」のみである。
③-2 人間の「悪意」、「嫌がらせ」、「いじめ」、「くだらなさ」だけを、描く。虚無の極。
③-3 「人間の世に、価値あることはない」、「連帯はない」、また「人は信用できない」。
③-4 人にあるのは「悪意」と「強欲」だけ。
④ 「救いがない」のは、人間の世の事実的一面である。
A 王様が、ユダヤ人の金持ちに難題を課し、罠にかけ、ユダヤ人から金を略奪しようとした。
B ところが、ユダヤ人は賢くて、王様に「三つの指輪」の話をし、王様と信頼関係を築いた。
C 王様は、ユダヤ人から平和的に金を借り、利子をつけて金を返した。
《評者の感想》
「三つの指輪」の話は、複雑でゴチャゴチャ。その話が理解できて、敬意を払い合えたということは、「二人とも頭が大変よかった」ということである。王様が愚鈍だったら、ユダヤ人は殺され、財産は没収されたろう。
(16)ゴルゴーンの首
A 3人姉妹の怪物ゴルゴーンの一番下が、メドゥーサ。
B 英雄ペルセウスが、ゴルゴーンの首を切りに行く。成功し、帰りにアンドロメダを助ける。
B-2 ペルセウスが、ゴルゴーン(メドゥーサ)の首を女神アテナに贈る。
C 正義の神アテナと軍神アレースが、戦う。
C-2 ゴルゴーンの首で石化された人間には、石化能が残る。その石を集め、アテナとアレースは石化能を武器に戦った。
C-3 石化能の影響が神々にも徐々に及び、ついに神々は滅び、みな石となった。
D 人間はたくさんいたので、石化しない者もいて、生き残った。
《評者の感想》
① 神々の黄昏の物語。神は、ゴルゴーン(メドゥーサ)の首の石化能によって、死んだ。
② 石化能とは、放射能のパロディだろう。
②-2 人間が生き残ったのは数が多いからで、その昔の「核兵器で5億人殺されても、1億人残る」論である。
(17)故郷
A 貧しい家出身の男が大金持ちになり、「錦を飾る」ため故郷に帰る。
B 男の兄は札付きで今は監獄。父は飲んだくれ。妹は、父か兄の子を2人産み、旅籠をやっている。旅人を殺し、金品を奪う。
C 二人に会うため、息子が、この旅籠に泊まる。しかし身分は明かさなかった。
C-2 父と妹が、夜、旅人(=息子)を殺そうと襲う。
C-3 その時、役人が踏み込み、二人は捕まり、縛り首になる。
D 実は、父・妹の二人は、旅人が息子・兄であると知りながら、殺そうとした。
《評者の感想》:「邪悪な心と強欲には、家族愛など無意味だ!」と著者の主張。リアルあるいは悲観的。
(18)パンドーラーの壺
A プロメーテウスが神から火を盗んだことに怒り、ゼウスが“賢明さ”のないパンドーラーを泥から作る。
A-2 好奇心の強いパンドーラーは、神からもらった「開けてはいけない蓋」を開けてしまう。「嫉み」などあらゆる悪徳が飛び出し、人々は不幸となる。
B しかしパンドーラーは、“賢明さ”に欠け無知蒙昧なので、何も悩むことなく、夫と幸せに暮らした。
《評者の感想》:「知らぬが仏」のパンドーラー版である。
(19)ある恋の物語
A 王女プシューケーは、美の女神アプロディティーより、美しかった。アプロディティーが怒る。
A-2 子のエロースに、「プシューケーが醜い男に恋するよう矢を放て」と命じる。
B エロースが自らの矢で傷つき、プシューケーに恋をする。
B-2 エロースはアポロンに頼み、「恐ろしい領主青髭と結婚せよ」との神託をプシューケーに対し下してもらう。
B-3 青髭は、プシューケーを毎晩、愛撫するが、夫婦の契りはしない。
B-4 プシューケーは、青髭が、「可愛いい坊や」のエロースだと知る。
C アプロディティーが、この時、プシューケーの前に現れて怒る。
C-2 プシューケーは、隠しておいた、エロースの矢で、アプロディティーとエロースのお尻を刺す。
C-3 母子は恋人となり、プシューケーのことなど忘れる。
D スキャンダルなので、神々がプシューケーを呼んで、形の上だけ、エロースと結婚させる。
《評者の感想》
① 「母子の恋愛はスキャンダル」で、「神々はスキャンダルが嫌い」というのが話の前提。
② 著者の独創は、アプロディティーとエロースの「母子相姦」を導入したことである。
(20)鬼女の島
A 天竺の豪商・僧伽多が難破し、鬼女の島に流れ着く。
A-2 島で、鬼女に襲われ、仲間が食われ、僧伽多は何とか逃げ帰る。
B 鬼女の一人が、美女のすがたで都に来て、王様をたぶらかす。
B-2 王様が、鬼女に殺される。
C 僧伽多や王の家来たちが、鬼女の島に遠征し、鬼女を皆殺しにする。
C-2 島に、僧伽多と家来たち、つまり男ばかりが住むこととなる。
D 島の男たちは、寄り付く船の男を殺し、女たちを嫁にするようになる。
E 何百年か後、島は女ばかりとなり、男がいなくなった。
《評者の感想》
① 男ばかりでは、子孫が残らない。男は、子が産めない。
② 女なら、子を産むことが出来る。種は、たまに来る船の男たちからもらえばよい。
③ 島は小さく、食料が不足気味なので、用済みの男は食べてしまう。
④ 物語の前提は、「女が集団として、男を敵視し、したがって男を利用するが、不要なら殺す」という思想。
(21)天国へ行った男の子
① 貧しい百姓の男の子が、聖母様の木像を見て、「いつも赤ん坊(イエス)を抱いて疲れるだろう」と、赤ん坊を受け取るが、妙に温かく気持ち悪いので物置に放り込む。
② 聖母様が痩せているので、男の子は「食べ物が足りないのだろう」と思い、自分の食事を半分与え、さらに下男から残飯をもらい、木像に差し上げる。
②-2 なんと聖母様の木像が、片膝を立て、がつがつ食べる。そして木像が、太ってくる。
③ ある日、木像が男の子に抱き付く。男の子は下敷きになり、木像の重さで圧死する。
③-2 木像の腹が割れ、中から臭気を放つ大量の汚物が出てくる。
④ 神父様が説教の時、「男の子は聖母様に抱かれ天国に行った」と村人たちに話す。
《評者の感想》
A すさまじい話。聖母様は木像なのに、抱いている赤ん坊が温かく、片膝を立てて食物をがつがつ食べ、しかも腹の中に大量の汚物がたまる。聖母様は、木像のはずなのに、人間の身体と同じ。
A-2 聖母様は、木像であって、非木像である。論理的に矛盾する。矛盾(=偽)が真であるから、奇蹟である。「汚物」にまみれた奇蹟。
B 神父様は嘘をついていない。事実を宗教的に解釈すれば、「男の子は聖母様に抱かれ天国に行った」。
C 著者は、宗教の奇蹟、宗教的解釈を、冷笑する。
(22)安達ケ原の鬼
A 安達ケ原で、旅の坊さんがある家に泊めてもらう。その家のおばあさんが夜、出かける。
A-2 「見てはいけない」と言われた次の間の襖を、坊さんが開けると、腐った死骸の山。
B 坊さんは、お経を唱えながら逃げる。死骸の山が起き上がり、追いかけてくる。坊さんは掴まり、殺される。
《評者の感想》
著者は、坊さんも、お経の宗教的力も信じない。著者は、無神論者あるいは、宗教否定者である。
(23)異説かちかち山
A 狸(=弟狸)が、爺様と婆様に、狸汁にされ食べられる。
B 兎がやってきて、爺様に、「婆様は実は狸が化けている。爺様は婆汁食った」と言う。
B-2 爺様に追われ、婆様は逃げる。
C 兎が、「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、「柴をお土産に爺様を喜ばせれば、婆様のことを狸とは思わない」と柴を刈らせて、背中に火をつける。
C-2 兎が、また「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、蓼味噌を薬と称して、婆様の火傷に塗り、痛い目に合わせる。
C-3 兎が、さらに「さっきの兎ではない」と言い婆様をだまし、泥船に乗せ、溺死させる。
D 兎が、婆様の死体を、「狸が婆様に化けている」と言って爺様をだまし狸汁として食べさせる。
D-2 爺様が、婆汁をたっぷり食べた後、兎の皮を脱ぎ捨て、狸出現。兎は実は兄狸が化けたもので、弟狸の仇を取った。
D-3 その後、爺様は気分が悪くなり、死ぬ。
《評者の感想》
① 大変よくできた推理小説風の物語。「兎が実は兄狸だった」と、最後に謎解き。
② 「人間が人間を食べる」というカニバリズムの話。
(24)飯食わぬ女異聞
A ケチな男が、飯食わぬ女と結婚する。
A-2 その女房は、頭の上に口があり、そこから物を食べる山姥(ヤマンバ)とわかる。
A-3 「誰にも言わなければ、お前を食わない」と山姥が、男に言う。
B そのうち女房は、外で物を食べてきて、それを口から戻し、男に食べさせるようになる。
B-2 おいしいので、男は、女の頭の上の口移しに、食べさせてもらう。
C やがて男は容態が悪くなり、女に「最後のお願いだ。俺を食ってくれ」と言う。
C-2 男は、女に食われる。
C-3 女(=山姥)は、どこかの山へ駆け去った。
《評者の感想》
究極の愛の物語。山姥に口移しに吐いた物を食べさせてもらう快感&食われる快感。
(25)魔法の豆の木
A 母親はジャックが小さい頃、家を出ていった。
A-2 父親が、「お母さんは天国に行って、幸せに暮らしている」とジャックに言う。
A-3 ジャックは天国に行き、母親に会いたい。
B ジャックは、牛と交換に、魔法の豆の木の種を、手に入れる。
B-2 お母さんに会いに、天国へ登って行けるため。
C 大きく育った豆の木を登り、ジャックが天国へ行くと、お母さんは大男の妻になっていた。
C-2 「あの甲斐性なしに産まされた餓鬼は嫌だ!」と母親。
D 結局、母親はジャックを一気に絞め殺した。
《評者の感想》
出ていった母親を慕う息子と、その息子を嫌う母親の物語。著者は「ありうる事例」として突き放し語る。
(26)人は何によって生きるのか
A 貧しい靴屋が、冬、裸の(堕)天使を助ける。靴屋は天使を居候させる。
B 天使は神から3つの問題を出された。それが解けるまで天国に帰れない。
B-2 「(a)人間にあるものは何か?(b)人間にないものは何か?(c)人間は何によって生きるか?」
C 答えは、(a)人間には「愛」がある、(b)人間は自分の死がいつか知らない。しかし「(c)の答えが、まだわからない」と天使が言う。
D 飢饉が起き、ついに人が人を食べる状況となる。天使は(c)の答えを知る。「人は人を食べることによって生きる。」
E 天使は天国に帰ることとなるが、「居候して食べた分のお礼をしてくれ!」と靴屋とその女房に言われる。
E-2 村人もやってきて「天使の肉には不老不死の薬効がある」と、天使を殺す。そして天使を煮て、靴屋を含め村人たち全員で食べてしまう。
E-3 以後、村人たちは、みな長生きした。
《評者の感想》
「人は何によって生きるか?」という問いへの答えは、駄洒落風に、「人は食べ物を食べて生きる」である。天使の肉は、不老不死の効能もあり、美味しいようである。村人たちが、みな長生きしてよかった。
あとがき
「全体として、残酷というよりも、救いのない話が並んでいる」と著者が言う。
《評者の感想》
① 「残酷というよりも、救いのない話」との著者のまとめは、その通り。
② これらの話には、「世の中、自業自得だから愚行に気をつけよ」との「教訓」があると、著者は言う。しかし、そのような教訓は、読み取れない。
③ あるのは、「虚無」のみである。
③-2 人間の「悪意」、「嫌がらせ」、「いじめ」、「くだらなさ」だけを、描く。虚無の極。
③-3 「人間の世に、価値あることはない」、「連帯はない」、また「人は信用できない」。
③-4 人にあるのは「悪意」と「強欲」だけ。
④ 「救いがない」のは、人間の世の事実的一面である。