ケイの読書日記

個人が書く書評

香山リカ 「老後がこわい」

 | 香山リカ
 『もう親を捨てるしかない』という幻冬舎新書を探していたら、隣にこの『老後がこわい』講談社現代新書があった。香山リカだから、こっちを読もうと借りてきた。
 
 香山リカ氏。1960年生まれなので、私より2つ年下。という事は…立派な50代。未婚で子ナシだけど、なんといっても、ちゃんとした精神科のお医者様で大学教授。それにTVではコメンテーターも務めているし、著書も多数。一般の人より、うんと恵まれている人生だと思うが、それでも先々いろいろ考える事はあるんだろう。

 自分が死んだ時、誰が喪主になるんだろう、親やペットの死をどうやって乗り越えればいいか、自分の入院時の保証人を誰に頼むか、いつまで働けるんだろう、お墓はどうしよう…などなど。

 香山リカさんは、一人っ子ではない。弟さんがいるし、そこには子供も生まれているので、彼らに頼ればいいのよね。弟さんとは仲がいい。リカさんの育った家庭って、エリート家庭にしては珍しく、家族全員仲がいいようだ。特に同業の医者であるお父さんとは、一緒に旅行に行くほど親密。そのお父さんも、数年前に亡くなったけど。

 香山さんの友人が急逝した場合、高齢の親が喪主になることが多いようだ。でも、以前、子どもの葬儀の喪主に、親はなれないと聞いた事がある。逆縁といって。しかし、この少子高齢化の時代、そんなことは言っていられないんだろう。

 
 いろんな心配事があるが、比重が高いのは住居の心配。賃貸の場合、高齢になると、大家さんが更新してくれない事もあるという。だから、気心の知れた友人たちで、グループホームを作ろうという動きがある。
 香山さんには、シングル女性たちが助け合い、適度な距離を保ちながら、一緒に暮らすグループホームを題材にした『眠れる森の美女たち』という小説もある。(小説です。ノンフィクションでない!)かなり前、読んだことがある。
 素晴らしいが…そんなに上手く行くだろうか?というのが正直な感想。

 そういえば、群ようこさんも、老後は友人3人で住もうと約束していて、実際、物件を見に行ったとか。しかし、3人の経済状況もそれぞれだし、要求するものも違うので、買う所まで行かなかったとか。

 親しい友人たちでグループホームを作るというのは、夢のような話だが、一番考えてしまうのは、60~70歳になってから住居を替えると、一気にボケるんじゃないかという不安。特に女って家や家具に執着するから。
 いくらバリアーフリーで新しくキレイな所に住み替えても、朝、目が覚めて「あれっ?ここどこ?私どこにいるの?早くお家に帰らなくっちゃ」と徘徊するんじゃないかと、不安。

 少々段差があっても、古くて隙間風が吹きこんでも、昔から住んでいる家を手直ししながら住み続けた方が、本人の精神にとって良い事なんじゃないかと思う。
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筒井康隆 「ロートレック荘事件」

 | その他
 面白いが、かなりアンフェアな作品。どのくらいアンフェアかと言えば、綾辻行人の『どんと橋おちた』の次くらい。『どんと~』を読んだときは、こんなんアリかよーーーと文句たらたらだった。
 でも、筒井康隆は優しい。この作中にはヒントがいっぱい。あれ!? おかしいな?と違和感を覚え、前のページを読み直すことも多い。だいたい、推理小説作家がミスリードするのは当たり前なんだ。

 ロートレック荘2階平面図が載っている。どの部屋に誰が割り当てられたかの記載があるが、みな、姓か名前で書いてあるのに、フルネームで書かれてあるのが大きなヒント。それに、別荘番の金造の呼びかけ。人々の容貌についての記述…。ヒントはいっぱいある。
 途中で「あれ? これってひょっとしたら…」と考える人も多いと思う。


 
 ロートレックの作品があちこちに飾られている瀟洒な洋館に、才気あふれる青年たちや美しい娘たちが招待される。優雅な夏の終わりのヴァカンスが始まったが、2発の銃弾が惨劇の始まりを告げる。1人、また1人と、美女が殺される。いったい、なぜ?


 明治30年代から90年くらい後という事なので、平成になるかならないかという時代設定ではないか?
 でも、それにしては、ずいぶんクラシックな雰囲気が漂う。美しい令嬢たちをスリーヴァージンズと呼ぶのも古臭いし、それに、こんな素晴らしい別荘を所有する実業家の一人娘が、女子短大卒というのも、時代に合わないんじゃないか?
 昭和9年生まれの筒井先生は、いくら良家の出身でも、女は短大卒で十分という考え方なのかな?


 ところどころにロートレックの絵やポスターが挿んであって、それの説明を、小説内の登場人物がしているので、とても楽しい。ロートレックといえば、ムーランルージュや女優さんのポスターで有名だけど、結構、油彩画も描いているんだね。
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津村記久子 「くよくよマネジメント」

 | 津村記久子
 先々回「自律神経を整える あきらめる健康法」を読んだから、次もこういった傾向の本を…と思われるかもしれないが、全く違う。単なる偶然。
 私は津村記久子さんの小説が好きなので、図書館に行くと、つい彼女の名の付いた書架を見るが、新作が出ていたので借りてみただけ。
 エッセイでもない、落ち込んだ時の自分の心を、どうマネジメントするかというハウツー本。一種のビジネス書なのかなぁ。


 下がったモチベーションを上げて、仕事の効率をUPしよう、なんて書いてあるわけじゃないが、対人関係で擦り減ったココロをいやし、明日を向こうというカンジ。
 森下えみこさんのイラストも可愛いし、4コママンガも面白い。


 これは、私の勝手な思い込みで、間違っているかもしれないが、津村さんって、バブル世代がすごく苦手なんじゃないかなぁ。
 彼女は就職氷河期世代。だから、就活ですごく苦労した経験は、彼女の色んな作品の中に出てくるし、新卒で入社した会社で、直属の女性上司にパワハラみたいな事をされて、退職に追い込まれた苦い経験は、彼女の作品の核になっているような気がする。

 このエッセイの中にも、バブル世代を揶揄しているような文章がチラリ。

人もうらやむ「余裕のある人」は、いったいどこにいるのでしょうか?それは、わたしにはよくわかりませんが「余裕」を装う人が、一定以上の年齢に一定以上分布していることは知っています。肩肘張らず、今まで流されるままにやってきたから、と笑って言うような人です。適当にやってきたから、とさえ言う人もいます。どうも「余裕」は、ある世代にとっては、1つの絶対的な美徳の基準になっていると見受けられます。(本文13pより抜粋)

 うーーーん、なかなかシビア。「余裕」を装う人からすれば、ただ少し謙遜しているだけ…かもね。でも、就職氷河期世代からすれば、イラっと来ることなんだろう。「余裕」を装う余裕なんてないんだよ!!!ってね。

 でも、津村さんの世代は、堅実で地に足をつけて行動して…本当に素晴らしい事だと思うよ。


























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「佐野洋子 追悼総特集 100万回だってよみがえる」 河出書房

 | 佐野洋子
 2010年に佐野洋子が72歳で亡くなった後、出版された追悼集。やっぱり、売れっ子は違うよね。こんな立派なムック本を出してもらえるなんて。
 いろんな人との対談や鼎談、追悼文、単行本未収録エッセイ、短編小説、そして、もちろん佐野洋子の画が、たくさん載っている。それを読んだり見たりして、一番驚いた事!!佐野洋子の2番目のダンナって、谷川俊太郎なんだ!! これには本当に驚いた。といっても彼女が52歳から58歳の間の、短い期間だけど。
 えっ?! みんな知ってた? 知らないの、私だけ?
 イラストレーターの沢野ひとしが、以前、佐野さん宅で窓拭きしていたら(沢野ひとしは、佐野家の掃除係なのだそうだ)谷川俊太郎が入って来て、勝手知ったる台所というカンジで、戸棚からグラスを取り出しビックリした、その後しばらくして「谷川さんと結婚する」と報告を受けた、という追悼エッセイが載っている。


 そして、佐野洋子は『100万回生きたねこ』『おじさんのかさ』がすごく印象に残っているので、絵本作家として有名だけど、それほど絵本を描いている訳ではない。特に、人生後半は、依頼を受けて文章を書くことが多く、小林秀雄賞といった高名な賞を受賞している。
 そうだよね。私も絵本をあまり読まないという事もあるが、エッセイの方が好きだな。本音そのままの、おしゃべりの延長のようなエッセイ。


 谷川俊太郎と広瀬弦の特別対談も、印象的。前述している通り、谷川は2番目のダンナだし、広瀬弦は、最初のダンナとの間の一人息子。(この人も絵描きで、お母さんに性格が似てる)ただ、弦が谷川姓になったことはない。一定の距離を置いている。それが良かったのか、2人は仲良く、佐野洋子の思い出話をしている。
 彼女は一人息子を溺愛していて、息子が思春期に入って手を焼いていた時、友人からも息子本人からも「みっともない母親」と言われたそうだ。
 でも…そういう所に親近感がわく。あの佐野さんでもそうなのか…って。ここらの事情については、あちこちのエッセイに書かれてあるし、『し-ん』という短編小説にも書かれている。

 そうだ。すべての母子が通る道、通らなくてはならないんだ。
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小林弘幸 「自律神経を整える あきらめる健康法」

 | その他
 自分では、こういった健康法ハウツー本は絶対読まないが、実家の母が、あまりにも毎日「私は自律神経失調症だ」と騒ぐので、数年前、買って読んでみたらと渡したのだ。当時は、話題になっていた本。
 最初から予想できたが、当然、母は一ページも読まず、ほったらかしにしていたので、それではもったいないと私が読むことに。


 ネバーギブアップ 絶対最後までやり遂げる!とシャカリキに頑張るのではなく「あきらめる」と肩の力が抜けて、自律神経も整い、かえって良い結果が得られますよ、という当たり前のことが書いてある。
 その具体的方法も色々書いてあって、呼吸法(3~4秒でゆっくり鼻から吸って、6~8秒で口をすぼめてゆっくり吐く)など、すぐにでも役に立ちそう。
 他には、ストレスを10個書き出して、4段階のレベルに分けていく、そしてそれを解消するための具体的な対応策を書いていく、という方法がある。実はこれ、学生時代に知人に教えてもらって、やったことがある。
 しかし、上手くいかなかった。ストレスの素を書き出すのはいくらでもできるが、具体的な対応策がみつからない。みつからないから悩んでいる、ストレススパイラルに陥り、よけい症状がひどくなる。

 私の場合、ストレスを軽減しようと思うと、やっぱりおしゃべりかな? 友人相手にエンドレスに愚痴を垂れまくると嫌がられるのは分かっているので、「こころの電話」にかけた事もある。自分の心の中のどす黒いものが、だんだん薄くなっていくのが分かる。
 ただ、今でこそ理解できるが、当時はボランティアの人の大変さが分からなかった。電話の相手の人、本当に大変だろう。精神的に疲れると思うよ。ボランティアのなり手がいないという話もうなずける。


 最後の方に「自律神経のバランスを整える日記の書き方」という項目があり、それはとっても役に立った。私も、その日から実践している。
 ①その日、いちばん失敗したこと  ②その日、いちばん感動したこと  ③明日の目標
 ③の明日の目標は、業務連絡みたいに、別の紙に書いてある。本来はもっと高い志を書くのだろうけど、1年の目標も立てることができないので、業務連絡でも仕方がない。しばらく続けてみようと思っている。
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エリック・キース 森沢くみ子訳「ムーンズエンド荘の殺人」

 | 翻訳もの

 探偵学校の卒業生のもとに、校長の別荘・ムーンズエンド荘での同窓会の案内状が届いた。山の上にあるムーンズエンド荘に行くには、つり橋を渡るしか方法がなく、9人の招待客が別荘にたどり着いた後、つり橋は爆破され、彼らは孤立する。そして、密室など不可能状況下で、1人また1人と殺されていく招待客たち。
 アメリカ版・雪の山荘の『そして誰もいなくなった』。

 翻訳ミステリは最近読んでないので、とても楽しめた。犯人の手がかりが、登場人物たちの会話や描写の中にちりばめられていて、フェアな作品だと思う。

 こういった外部との接触を絶たれ、犯人が自分たちの中にいるだろうという状況下の中、私だったらどういう行動をとるか、クローズドサークル物を読むといつも考える。それぞれ個室になっている自分の部屋にこもるか、互いをけん制しあいながら、一塊になって行動するか。
 だいたいのミステリは前者だけど、私は絶対、後者だね。いくら鍵がかかる部屋と言っても、その中に一人でポツンといたら、命が助かっても気が狂いそう。
 でも、多くの推理小説では、それぞれ自分の部屋にこもって用心しているはずなのに、次々殺されていく。まあ、そうじゃなかったら、推理小説として成り立たないけど。

 私だったら、トイレなども戸口まで集団で移動してもらう。たえず人の目に触れる場所に自分を置いておきたい。寝るのも広間で2~3人ずつ交代で眠る。
 そして食事。こういった作品の中で一番違和感を覚えるのが飲食。殺人鬼が徘徊している屋敷の中で、皿に盛った料理をどうして食べる? 封が切ってない、注射針の跡がない缶詰を、缶からじかに食べる。

 この『ムーンズエンド荘の殺人』の中でも、最初の遺体が転がり出てきて、その後、すぐに厨房で夕食を用意している。そして一人が毒殺されている。いわんこっちゃない!アホか!あんたらは、それでも探偵か!!

 そうそう、探偵学校という存在も不思議な気がした。でもアメリカでは私立探偵はライセンス制だから、専門学校があってもおかしくない。だけど、卒業試験に本当の事件を扱わせるかなぁ。まあ、解決できなかった15年前の卒業試験の事件が、この『ムーンズエンド荘の殺人』の伏線となっているけど。
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フカザワナオコ 「おひとりさまのはじめて料理」 角川書店

 | その他
 フカザワナオコさんのコミック「毎日がおひとりさま」「あいもかわらず毎日がおひとりさま」「いまだに毎日がおひとりさま」(主婦の友社)は、3冊とも、以前とっても面白く読んだ。
 なんといっても、この人は愛知県在住なので、私が勝手に親近感を抱いているのだ。ご近所さんかもしれないと。
 今度は角川書店か…。いやぁ、出世しましたね。フカザワさん。

 作者のフカザワさんは、1973年生まれのマンガ家&イラストレーター。実家を出て、一人暮らしをはじめて10年以上。でもお料理1年生。と書いてあるが、料理が上手でないというだけで、基本は自炊なのだ。ご飯はちゃんと炊いて、おかずはテキトーなものをササッと作る。そして、夜は晩酌が何よりも楽しみ。365日アルコールは欠かさない。といってもほとんど発泡酒だけど。
 独身だったら、誰でもそんなもんだって。凝ったものは作らないよ。ホームパーティが趣味の人なら別だけど。自分を責めないで。
 とにかく彼女は「一人暮らしだし今まで料理なんてしなくても別にいいやって思ってたけど、ここまで何もできずに年だけ取るのは、やばいような気がしてきた」「もしも、このままずーっと一人で生きるってなった時、80歳になった時点で、歯もまだあるし内臓も元気ですと、せめて健康面だけは死守したい」と一念発起して、料理に取り組むことになる。
 
 ハンバーグ、出汁、肉じゃが、野菜炒め、カフェ風ワンプレート、乙女スイーツ、唐揚げ、常備菜、そしてカルフォルニアロールとテリーヌを作って、友人宅の持ち寄りパーティに持って行き大好評。すごいなぁ、めきめき腕を上げたね。
 
 料理のレシピも描いてあるし、料理豆知識や簡単テクニックも書かれてあるし、彼女のペットの金魚2匹のツッコミも面白いし、何より読んでいて楽しい。


 話は大きく変わるが、ドラマはめったに見ない私だけど『東京タラレバ娘』だけは見ている。(東村アキコ原作)
 アラサーの独身3人娘の恋と仕事と友情の話なんだけど、この3人娘が、たえず居酒屋で女子会をやってるんだ。エンゲル係数、めっちゃ高そう!! お金は大丈夫?!って思っちゃうよね。特に主人公の倫子はフリーの脚本家で、現在、仕事もなく家賃の支払いにも困っているくらいなのに、スーパーでキャベツ半玉148円を高いと言ってカゴに戻すほどなのに、スナックや居酒屋でご飯食べてる。自炊すればいいのに。友人を自宅に招いて、家飲みにすれば、すごく安くすむけど。
 まぁ、脚本家という仕事柄、人気の飲食店で情報収集も必要なんだろうけど、お財布がもたないよ。
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伊坂幸太郎 「フィッシュストーリー」

 | 伊坂幸太郎
 『フィッシュストーリー』の内容紹介で、「最後のレコーディングに臨んだ売れないロックバンド。いい曲なんだよ、届けよ誰かに。テープに記録された言葉は未来に届いて、世界を救う。時空をまたいでリンクした出来事が胸のすくエンディングへと一閃に向かう」と書いてあったので、すごーーーく期待して読んだが、たいして胸はすかなかったなぁ。設定は面白いがリンクが足りないと思う。でも、これって映画化されたんだよね。確か。

 他に『サクリファイス』『ポテチ』に、伊坂ワールドの人気者・黒澤が大活躍と書いてあるが、この本業・空き巣で、たまに探偵をやる黒澤って、そんな人気あるの? ちょっと貴志祐介の防犯探偵・榎本を思い出した。あの人も、本業は泥棒だから。
 この黒澤は、容色が整っていて、性格もヒドくないが、とらえどころがない。ハッキリ言うと魅力に乏しいような気がするなぁ。
 考えてみれば、伊坂幸太郎の主要キャラって、美男美女が多いような…。(たいして読んでないが)書きにくくないかな。美男美女キャラって。

 『動物園のエンジン』は…叙述トリックが仕掛けられていて「彼」が自分の思い込んでいた人物とは全く違うのには驚いたが、それ以外は無理があると思う。


 以上、あれこれマイナスの面ばかり書いた。確かに、伊坂幸太郎にしてはイマイチというだけで、水準高い作品集。
 一番良かったのは『サクリファイス』。黒澤が、人を探すため宮城と山形の県境にある小さな村に出掛けるが、そこには「こもり様」という奇妙な習慣が残っていた。現在は洞窟にこもるだけだが、昔は生贄をそこに閉じ込め、岩でふたをして神にささげた。
 人柱などもそう。この生贄の風習は、全国各地にあったろうが、その選び方は…。そうとう恣意的な物だったろうね。だって、村の有力者の息子が生贄になったなんて話、聞いた事が無い。
 権力者からみて、邪魔もの、死んでほしい者をを生贄に祭り上げるのだ。「葉を隠すなら森の中」じゃないが、殺したい相手がいるから、生贄をでっち上げた、なんてことが起こっただろうと推測される。
 不都合な真実を、宗教がらみでカムフラージュするって、よくあるだろうね。
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泉鏡花 「高野聖」

 | その他
 「高野聖」は日本文学史に残る名作なので、大昔に読もうと試みたが、途中で挫折したことを覚えている。やっぱり、明治時代の小説は読みにくい。
 でも、それではいけないと再チャレンジ。最初の方は我慢しながら読んでいたが、結構、通俗的で面白かった。適度なユーモアもあるし。
 
 内容は有名なので知っていた。
 年若いお坊さんが、飛騨の山を越えて松本に行こうとする時、深山で、色っぽい中年増と、知的障害がある年下亭主が暮らす一軒家にたどり着く。あまりに疲れていたので、一夜の宿を乞い、泊めてもらえることになる。
 家の下を流れる小川で、お坊さんは汗を流すが、女が背中を流したりさすったり、いろいろもてなしてくれる。若い僧はよろめきそうになるが、なんとかふみとどまる。

 夜になると、この一軒家の周囲に、おびただしい数の猿・ヒキガエル・コウモリ・羊・馬・むささび・牛・鳥などが集まり、ぐらぐらと家を揺らすほど。まるで畜生道の地獄絵。その一夜の怪奇陰惨を書いてある。


 この獣たちの前世は、お察しの通り、色っぽい中年増の色香に迷った者たち。特に、市で売り飛ばされようとする馬は、このお坊さんをバカにした富山の薬売り。宿場の飯盛り女が大好きといったタイプの男だったので、すぐに中年美女の罠にはまり、馬にされてしまった。
 馬になっても、女への執着は消えず、テコでもここを動くか!売られてたまるか!と必死に踏ん張っていたが、女が馬の前で裸になると、ふらふらくらくらと身震いし、すぐさま馬子に引かれていった。情けない。それだけ女の魔力が凄いんだろう。


 考えるに、この泉鏡花という人は、年上の女性が好きなんだろうね。清らかな乙女ではなく、芸者さんやお女郎さんといった玄人好み。

 話は大きく変わるが、この若い僧が一軒家にたどり着く前、巨大な蛇に何度も遭遇し、それもかなりゾッとしたが、それ以上に気持ち悪かったのは、大きな森の中の出来事。上から何かポタポタ落ちてくる、何だろう?木の実かしら?と振ってみたが、くっついて取れない。掴もうとすると、ずるずるすべって指の先へ吸い付き、ぶらさがる。みるみるうちに縮みながらブクブク太っていくのは、生き血をすう山蛭。
 木の枝の至る所に蛭がぶら下がり、恐怖のあまり叫ぶと、蛭の雨がザーッと身体に降りかかってくる。うげーーーーっっ!!!

 本当に恐ろしい。こんな所が、昔は飛騨の山奥にあったんだろうか? 恐ろしや。
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桐野夏生 「錆びる心」

 | その他
 表題作を含め6編の中短編集。みな粒ぞろいで読み応えあるが、特に印象に残ったのが「月下の楽園」。

 荒廃した庭園に異常に惹かれる35歳の男を主人公にした作品。
 彼は、きちんと手入れされた名園には魅力を感じない。かつて栄華を誇ったであろう名家が没落し、昔は大勢の客が愛でたであろう庭が、荒れ果てているのが好きなのだ。そういった物件を探し出し、その離れを借りるのに成功したが、離れと母屋の屋敷との間に高いコンクリートの壁があるので、庭を散歩するどころか、眺めることもできない。しかし、どうしても壁の向こう側の庭に行きたい男は、壁の際をうろついていると、戦時中に作ったと思われる防空壕の跡を見つけ出した。そして…。

 悲劇的な結末で終わる。自業自得だという人も多いだろう。
 しかし、私がショックを受けたのは、その結末ではなくて、この短編の中に「廃墟が好きな人は、死体愛好家だ」という意味の記述があったのだ。がーーーーん! 
 うっそぉぉぉぉ!!!

 廃墟マニアって結構いると思うけどなぁ。誰でも、友達と一緒に夕暮れ時に、町はずれにある廃屋を探検したことってあるんじゃない?!
 「なつくさや つわものどものゆめのあと」だったっけ?かって素晴らしく壮麗だったものが、落剝した姿って風情があってグッとくるけどなぁ。

 以前、クリスティの「スリーピング・マーダー」を読んでいた時、その中に出てくる広大な敷地だが荒れ果てた庭園、特に朽ちた温室の描写が好きだったなぁ。特にイギリスは、ガーデニングが盛んな国だから、お金持ちは庭師を何人も雇って、素晴らしいお庭と温室を整え、お客さま達を招待したんだろう。

 この「月下の楽園」の寂れた庭の描写も素晴らしい。特に、雪の降った後、月が出て、雪景色の庭を青白く幻想的に見せている。そういえば、雪見酒っていう娯楽も昔はあったそうな。時代劇に出てくる。雪景色のお庭を眺めながら、熱燗をキュッと一杯。


 日本庭園って手入れを怠ると、すぐに荒れるだろうね。日本家屋もそう。なんといっても木と紙の家だから。そして、ちゃんと維持しようと思うと、べらぼうにお金がかかるのだ。
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