ケイの読書日記

個人が書く書評

京極夏彦X柳田國男 「遠野物語拾遺retold」

2016-11-29 13:48:59 | 京極夏彦
 明治に『遠野物語』が出版され話題になったのち、そこからこぼれて入らなかった話が、再び柳田國男のもとに集まり、それを『遠野物語拾遺』として出版した。本作は、その『遠野物語拾遺』を京極夏彦が語り直したものです。

 遠野地方とは、現在の岩手県釜石市や地震で壊滅的な被害をうけた大槌町の内陸部にある地方のこと。
 私の中では、江戸時代や明治時代の東北って、すごく貧しかったというイメージがあるが、これを読む限り、そうでもない。
 飢饉で娘を女郎屋に売ったが、娘は故郷を恋しがり幽霊になって帰ってきた、なんて話がいっぱいあるのかと思ったが、無い。唯一、間引きの話が一話出てくる。生まれてすぐ間引かれて埋められたが、土の中から細い手を出して動かしたので、生き返ったことが分かり、掘り返されて育てられることになったそうだ。
 間引きなど、よくある話なので、あっけらかんとしたものである。

 貧しい男の話もあるが、長者様の話はそれ以上あり、どんな時代どんな土地柄でも、持ってる人は持ってるんだ。
 それとも、この遠野地方の民話を語ってくれた佐々木喜善君(遠野出身者)が、その土地では裕福な家に生まれたから、意識して長者様の話を集めたんだろうか?

 長者と言っても栄枯盛衰があり、座敷童の話も出てくる。遠野地方では、座敷童とはいわず『御蔵ボッコ』と言うようだ。この子たちが、その家にいる間は栄えるが、いなくなると一気に家運が傾くらしい。
 ただ、どうしていなくなるのか、その理由がはっきりしないのがもどかしい。『御蔵ボッコ』の悪口を言う、とか『御蔵ボッコ』を捕まえようと罠をしかけるとか、何かきっかけがあるなら納得できるが、いつの間にかいなくなるなんて、悲しい。

 それと、管狐(くだぎつね)の話も出てくる。管狐は、平安時代の京で陰陽師が使役していた話は聞くが、こんな所で出てくるとは。ごくごく小さい狐で、これを使って情報を集め占いに用いる。(もちろん架空の動物)
 やっぱり狐は悪役ナンバーワンで、狐にたぶらかされた話は、どっさり出てくる。その次は狸かな?馬は貴重な財産なので善玉役。意外なのは、猫の話が多い事!! 遠野は内陸部なので、米があまりとれず、きこりや猟師を生業としている人が多いから、犬は相棒。その犬が多く話に出てくるかな?と思ったがさほどでもない。
 なんと!! 猫川なんて川もあるのだ。(犬川はない)現在でも猫川として、地図に載っているようだ。どうして猫川かというと、その川の主が猫だから、だそうだ。ナマズとか河童とか巨大魚ならまだしも、猫が川の主なんて、なんて川だ! 猫は水が嫌いです。
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藤木稟 「バチカン奇跡調査官⑤ 血と薔薇と十字架」

2016-11-24 11:02:03 | 藤木稟


 シリーズ第5弾! 英国での奇跡調査からの帰り、悪天候で交通事故にあい、ホールディングスという田舎町に滞在することになった平賀とロベルト。
 その町には、黒髪に赤い瞳のハンサムな吸血鬼が現れ、次々と人を襲っていた。教会が退治に乗り出すが、逆に牧師様がやられてしまう。警察は、吸血鬼は教会の管轄だと言って動こうとしない。宗派は違うが、バチカンの神父である平賀とロベルトがかかわることになる。
 不死身の吸血鬼は、現代でも本当に存在するのか?

 イギリスは、ほとんどの人が英国国教会の信者なので、ここではバチカンの威光は通用せず、冷たくあしらわれる。(イギリスではカトリックは1割にも満たないそうだ) それに、一応21世紀の話のはずだが、このホールディングスという町は、中世の城下町のようで、領主を筆頭に、その親せき・遠戚、聖職者、中間層、貧しい人々と身分が固定化していて、読んでいてグリム童話を読んでいるみたいな気になる。
 なんせ、領主の城で舞踏会がある時、招待された人々は、馬車で城の門まで行って、門の前でずらりと並び、お城の執事に名前を呼ばれると、粛々と中に入っていくのだ。シンデレラかよ!この話は!!
 領主様はとても裕福で、小作料を取らず、土地を領民に貸し与えている。

 でも、本当は、労働党政権下のイギリスでは、屋敷や土地にべらぼうな税金がかかり、貴族様はとっても大変だという。だから、観光客に城の一部を公開し、入館料を取っているんだろう。

 最後に、平賀やロベルトが、城や吸血鬼の秘密を科学的に解明しようとしているが、成功したとは言えない。ホラー小説としてもイマイチ。吸血鬼物としても、とにかく官能が足りない!! 大幅に。

 シリーズ物は進んでいくにつれ作品としての魅力は薄れるが、キャラに対しては、どんどん愛着が増す。しかし、このシリーズでは…。主人公は平賀だが、あまりにも淡白で愛着を持ちにくいね。作者も書きあぐねているんではないか?まだロベルトの方が、魅力を感じる。 
 そのせいなのか、この第5作では、ロベルトの方が活躍している。
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群ようこ 「衣にちにち」

2016-11-19 08:40:12 | 群ようこ
 前回読んだ『衣もろもろ』で、群さんが結構オシャレさんだと知った。
 群さんのデビューは30歳。それから30年以上も売れっ子作家として活躍できているのはスゴイこと。昔ほど本は売れなくなっているらしいが、他の作家さんよりは売れている。そこで稼いだお金を、いったい何に使っているのか、前々から不思議に思っていた。
 群さんには、金遣いが荒い母親はいるが、子どもも配偶者もおらず、住む所も賃貸マンションで、美食家というわけではなく基本は自炊。それでも老後が心配だとエッセイに書いてあるので、お金の行く先が謎だった。
 でも、この本を読んで、疑問が解けた。
 キモノです。着物、和服。

 そんな金のかかる趣味があるなら、お金が残らなくても仕方ない。
 しかも伊勢丹で買うみたいだし、作家物もお好きなようだ。着物だけが高価なわけではない。帯など、それ以上に高価だし、帯留め、帯揚げ、帯締めなども凝りだすと、天井知らずの金額になる。
 このエッセイ本に、こんなエピソードが載っている。
 群さんが、デパートでプラダのコートのすごく素敵なのを見つけ、買おうと思ったが、なんと40万円もするので泣く泣く断念。洋服に40万円も出せないと言って…。でも、付け下げ(着物の訪問着の一種)になら、40万円ポンと出せるのだ。
 外出用としてお召しになるだけでなく、冬など自宅でウールの着物を着ていらっしゃる。本当に着物が好きなんだね。
 そうそう、彼女は三味線と小唄も習っているらしい。
 それに、着物友だちと月に一度、集まってランチ。こうやって強引にでも和服を着る機会を作っている。くうぅぅぅぅ、優雅ですなぁ。


 もちろん、いつもの群ようこ節も健在で、大笑いする箇所もあちこちにある。
 インターネット調査で男性の嫌いな女性ファッションのダントツ第1位が「トレンカ」らしい。わかります?男性諸兄。かかととつま先が無い地厚いタイツみたいなの。それに「お前は足軽か」というコメントが付いていて笑ったようだが、私も大爆笑。
 しっかしねえ、私個人としては、トレンカはGoodだと思う。なんてったって大根足が視覚のトリックで細く長く見える。

 他には、群さんとしては古着はNGらしい。オバちゃんが古着を着ると「古い」の二段重ねになって難しいそうだ。ああ、私は古着屋を漁るのが好きなのに…。
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山本文緒 「アカペラ」

2016-11-14 09:05:56 | その他
 帯の惹句に「あなたの心を温める物語3篇」とあったので、もっとハートフルな話かと思ったが…ちっとも心が温まらなかったよ。
 山本文緒は、甘い恋愛話の中に少し毒があるのが魅力の人だったが、少し変化したのかな? 親や祖父母の病気や介護や死の話が出てきて、ああ、この人もそういう年代になったんだ、そうか、私と同い年じゃない?! などと気づく。

 3篇とも近親相姦みたいな雰囲気があり、それも嫌。

 第1話「アカペラ」では、異常に仲の良いおじいちゃんと孫娘がでてくる。孫娘は中3で、両親の不仲など問題を抱えているが、お友達がいっぱいでキラキラ楽しい中学生活を送っている。
 ああ、こういうの、わたしダメ。女子中学生っていうのは、村田沙耶香が書くようにスクールカーストの底辺で喘いでいたり、津村記久子の書くように家庭の問題で押しつぶされそうになっていたりしなくちゃ、共感できないんだ。

 第2話「ソリチュード」は、イケメンの男が、父親の死を機に家に戻り、昔の恋人と再開する話。冒頭「おれは駄目な男です」で始まるので、どれだけダメなんだろうかと楽しみに読み始めると、そのイケメンがいかに女にモテたかの話が、延々と続く。

 第3話「ネロリ」は、生まれた時から病弱で39年間一度も働いたことのない弟と、会社勤めして家計を支えている50歳の姉の二人所帯が登場する。弟と仲良くなり、家に出入りするようになる若い女の子と、姉にプロポーズする男も登場。
 最後に少し驚くどんでん返しがあるんだけど、これ、年齢的に無理なような…。


 三話ともファッションにこだわる人が出てくる。「秋物のセーターは、たぶんディーゼルで、椅子の背にかけてあるジャケットのタグはポールスミスで、スニーカーはパトリックです」(アカペラ)
「リーバイスを1本、レッドウィングのブーツを1足、カルバンクラインの下着を数枚買った」「バーバリブラックレーベルの店員に春物ジャケットを勧められた」(ソリチュード) 「彼女の服装が変」「色や素材の組み合わせがちぐはく」(ネロリ)

 そうだよね。山本文緒のエッセイも読んだことあるけど、彼女もブランドにはうるさい人みたい。
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藤木稟 「バチカン奇跡調査官④ 千年王国のしらべ」

2016-11-08 14:11:57 | 藤木稟
 最初に、主人公の平賀神父が心肺停止状態になったところから始まるので、すごくスリリング! 一体どうしてこんなことに…? と興味津々。


 バルカン半島の小国・ルノア共和国にいるアントニウス司祭は、多くの重病人を奇跡の力で治し、聖人の生まれ変わりと噂される。それどころか、銃で撃たれ死亡した3日後に、蘇ったというのだ!!
 その真偽を調査するため、平賀とロベルトは、ルノア共和国に飛び、あれこれ調べるが、いくら調べても疑いの余地がない、完璧な奇跡。
 しかし、死者が蘇ったなど、キリスト以外であるはずはない。ということはアントニウス司祭は、キリストの生まれ変わり? そんな事を認めたら、カソリックの教義が成り立たない。信仰と目の前の事実の板挟みになって悩む平賀とロベルト。
 そんな中、悪魔崇拝グループによって拉致された平賀は、毒物により心肺停止状態に陥った。
 しかし、医者が見放した平賀を、アントニウス司祭は、胸に胸、腹に腹を押し当て、耳から命の息を三度吹き込んで、平賀の耳元で「イエス・キリストの御名によって命ずる。汝よ、甦れ」とささやき、蘇生させる。まさに奇跡!!


 この小説は推理小説ではないので、ネタバレになるが書いてしまおう。これらの奇跡は、米ソ冷戦下のソ連で、研究開発された科学技術によって起こしたことになっている。冷戦下では、ソ連だけでなくアメリカも、色んなことをやっていたらしい。テレパシーの研究などを大真面目に。
 しっかし、暗示や催眠術で何もかもできるんだったら、どうしてソ連は崩壊したのかな? 国営放送で、国民に「もっと働け! もっと生産性を上げろ!」と暗示すればいいのに。

 今回の平賀とロベルトは操られっぱなしで、あまり良い所はなかったので、残念。チベット仏教の転生したダライ・ラマを探し出す方法など、雑学知識は面白かったけどね。
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