ケイの読書日記

個人が書く書評

ジョン・ディクスン・カー「剣の八」

2006-06-29 14:59:06 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 「これって本当にカーの作品?!」って驚いた。悪い意味で。
 
 いつものカーらしいオカルトっぽさが全然無い。フィル博士も登場するが、いつもの毒舌に切れが無く、気が抜けたような作品。


 それに、探偵役が多すぎる。プロの警察関係者を始め、いろんなアマチュア犯罪研究家が出てくるから、すごく散漫な印象を受ける。

 褒めるのが難しい。駄作だと思う。


PS.作品の内容とは関係ないのだが、カーって割合、日本について関心があったんじゃないかと思う。例えば、この「剣の八」という作品の中に「敏捷な日本人」という文章がある。
 また以前読んだ「白い僧院の殺人」の中にも「目つきの悪い日本人」という文章があった。(1930年代の作品だから、日本に対して良い印象がなくても仕方ない。日本では「鬼畜米英」って言ってたしね)

 
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群ようこ「またたび読書録」

2006-06-24 22:35:08 | Weblog
大好きな本・読んだ本

 群ようこの小説はあまり良いとは思わないが、エッセイ、特にこういった読書エッセイは抜群に面白い!

 面白い読書エッセイを書く人は多くない。年末になると新聞や週刊誌に「今年読んだ私のイチ押し3冊」とかいった企画が載るが、堅い本ばかりで私にはつまらない。


 しかし、この群ようこの読書エッセイはひと味もふた味も違う。彼女は濫読家で有名らしく、本当に様々なジャンルの本を読んでいるのだ。

 例えば「生活図鑑」あるいは「宝運暦」。もちろん、いっぱい売れてるんだから読む人は多いだろうが、それを材料に読書エッセイを書いて、出版させちゃう人は他にいないんじゃないだろうか?

 読書エッセイといっても、その本のことはあまり書かず、すぐ自分の日常のてんやわんやや、家族との軋轢などに話がワープし、それがまたすごく面白い。

 また、正統的にその本を取り上げている章もある。例えば、私がぜひ読みたいと思ったのは、若林つや著「野薔薇幻相」。
 戦前の有名女流作家たちの内輪話が正直に書かれている。

その中で若林つやが「私には会わなければ良かったと思っている有名人が3人いますが、その中の一人が与謝野晶子さんです」と書いた箇所があるらしい。

    ‥‥‥‥‥‥‥与謝野晶子って、いったい‥‥

 群ようこは、この箇所を読んで「むむぅ、これは面白い!」と喜びに震えたそうだが、私も喜びにふるえたいね。
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木々高太郎「人生の阿呆」

2006-06-19 14:32:52 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 たしかに殺人事件は起こるし、暗号文も出てきますが、これを探偵小説と呼ぶんでしょうか…?

 むしろ、思想小説というか恋愛青春小説というか紀行文というか……ごちゃまぜになっています。
 その中で一番優れているのは、ウラジオストックからシベリア鉄道に乗ってモスクワに行く紀行文の部分。
 1932年(昭和7年)ソ連に行けるなんて人は本当に少数でしょう。

 それに、いろんな写真もたくさん使ってあり、とても興味深い。


 探偵小説の部分は、犯人が早い段階でわかってしまう。(さすがに暗号文は解けませんが)


 恋愛青春小説の部分は……戦前の上流階級のおぼちゃま・お嬢ちゃまの生態がよくわかります。
 良吉おぼっちゃまは学生時代、階級運動にのめりこむが検挙され転向。良吉の恋人、達子は良吉が捕まっている間、親戚に説得され外交官と結婚しモスクワに赴任する。

 良吉は父親から「日本を離れヨーロッパに留学するよう」命じられ、シベリア鉄道でヨーロッパに向かうが、実はモスクワで達子と落ち合い、2人で出奔することを計画する。(達子の3歳の子どもはどうするのでしょう?)


 しかし、日本の良吉の実家の周辺で連続殺人事件が起こり、結局良吉は重要参考人として日本に連れ戻される。



 しかし、この良吉おぼっちゃまにはイライラさせられっぱなし。
 
 シベリア鉄道の三等車の中でいっしょになったロシア人が時計を持っていないのを知って、その貧しさに驚き「日本では三等車の人でも大部分が懐中時計を持っている」と書いてあるが、本当?!
 その当時、時計ってとっても高価なものだったと思うよ。


 だいたい、戦前の日本で私費で2年も3年もヨーロッパ留学できる家というのは、限られた大金持ち。家が何軒も建つぐらいのお金がいるだろう。

 アメリカドルをしこたま懐にねじ込んで出掛け、よくもまあヨーロッパに行くなぁと思う。
 恥ずかしくないのか。
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大阪圭吉「銀座幽霊」

2006-06-12 14:50:35 | Weblog
大好きな本・読んだ本

 「とむらい機関車」があまりにも面白かったので、同じ創元推理文庫にあるこの「銀座幽霊」も読んでみる。

 期待があまりにも大きかったので、ちょっとガッカリした作品もあるが、それでも全体的に優れていると思う。


 ただ「三狂人」を除いて他の作品は、発表当時さんざんな悪評だったらしい。
 どうしてかなぁ。地味な展開だけど、きちんとした論理的な推理で、私には好感が持てます。


 この作家の最大の特長は、正統的本格派というよりユーモアセンスにあると思う。描写がどことなくユーモラスなのよね。こうゆう探偵小説家ってすごく珍しい。

 例えば、惨殺したいの描写など、横溝正史だったら死臭が漂い死肉にわいたうじ虫が這い上がってくるような感覚がするものだが、大阪圭吉の場合、あまりにもストレートに描写してあるので、死体が白骨化し理科室の標本のようなカラッとしたイメージになる。
 それは決して作者の力量が不足しているからじゃなくて、そういった持ち味なんでしょうね。

 短所としては、探偵役にあまり魅力が無いこと。青山喬介など、もっと多くの小説に登場させたら、キャラクターもはっきりしてきたかもしれない。残念。


 昭和12年7月に日中戦争勃発。戦争は、彼の小説の中にも暗い影を落としています。昭和20年7月2日フィリピン・ルソン島で戦病死。享年32歳。

 ああ、無事に生き抜いたら、どんな探偵小説を書いたでしょうか。
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泡坂妻夫「奇術探偵 曽我佳城全集」

2006-06-07 09:56:26 | Weblog
大好きな本・読んだ本


 伝説の女流奇術師『曽我佳城』の推理が冴えわたる短篇集。

 それなりに面白いけど、なにせ長すぎる。なんと1冊に22編も収められています。最初の方は、伝説の女流奇術師が探偵役という目新しさもあり、作品としての出来も良いのでしょう。スラスラ読めますが、後半はさすがに食傷気味。
 作品の質も落ちていると思う。


 こういうのは月刊誌に連載され、月に1度ぐらいの割合で読むと、待ち遠しいでしょうが。


 また、主人公が若く美しく大金持ちの未亡人、しかも奇術師としての腕も超一流で、性格も穏やかで優しく頭もいい、といった男の願望が体現したような女性だと、ヒロインとしての魅力はイマイチですねぇ。
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