ケイの読書日記

個人が書く書評

小倉千加子「シュレーディンガーの猫」

2007-06-26 15:03:08 | Weblog
 最近イマイチのミステリばっかり読んでいたので、今度はちょっと別のジャンルのものを読もうと、図書館の書架の前をぶらぶらする。

 そこで小倉千加子の名を見つけ読んでみる。実はこの本の隣に小倉千加子と中村うさぎの対談集があったのだ。最初、そちらを借りようと思ったが、あまりにも小倉千加子が中村うさぎを持ち上げるので、ちょっとウンザリして、借りるのをやめた。

 確かに中村うさぎのエッセイはすごく面白いけど、税金を払わない(払えない)のを作家としての売り物にするのは、どうかと思う。

 なお、小倉千加子を知らない人もいるだろうから、一応のプロフィールを紹介する。
 
 1952年大阪生まれ。早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻博士課程修了。あちこちの大学の教授をへて、執筆、講演活動に入る。
 一言で言えば、気鋭のジェンダー・セクシュアリティ論客ということでしょうか。



 子育てを終えた専業主婦が「私の人生は何だったんだろう。もう一度学生時代に戻ってしっかり勉強し、社会的に認められる業績を残したい」という悩みを、小倉先生はよく相談されるので、自分のゼミの学生には「専業主婦信仰を捨て、しっかりした職業(国家公務員上級とか一流企業総合職など)に就くよう指導しているが、学生が聞く耳を持たない、と嘆いておられる。

 しかしはたして、人生の黄昏時を迎えた人で、自分のいままでを振り返り後悔しない人がいるだろうか?

 バリバリのキャリアウーマンはキャリアウーマンで「これで良かったんだろうか、別の生き方もあったんじゃないだろうか?」という気持ちの揺れを感じない人は少ないだろう。

 結局、どういう人生を歩もうが、後悔や心残りはあるのが普通だろう。



 時給800円の仕事より、国家公務員上級を目指しなさい、と学生にはっぱをかけるのは、指導教官としてあたりまえだが、では、誰が時給800円の仕事をやるのか?
 誰かが引き受けてくれるからこそ、私達はリーズナブルな価格で美味しいものが食べられたり、快いサービスが受けられるのだ。

 私達は、彼ら(彼女ら)のボランティア精神と言うか、犠牲の上にあぐらをかいているということを忘れてはならない。



 小倉先生も、時給800円で大学の先生をやってくれたら、学生の父兄は大喜びでしょうね。学費が安く済んで。
 
 
 
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山口雅也「生ける屍の死」

2007-06-21 15:58:04 | Weblog
 非常に変わった作品。"生ける屍”とあるので、ドラッグで廃人同様になった人が活躍する話なんだろうか?と見当をつけて読み始めるが、正真正銘”生きる屍”つまりゾンビが探偵役なんである。
 出来の悪いドタバタコメディ映画を見たような気分。


 主人公グリンはお茶会で毒殺され、自分を殺した犯人を突き止めようとする。
 生き返ったとしても、不死の生命を約束された訳ではなく、数日後あるいは数週間後に朽ち果てる運命。
 グリンは自分の肉体が崩壊するまでに真相を掴もうと懸命になる。


 生き返った死人はグリンだけでなく、続々と甦ってくる。そんな死人たちが、別の死人や生きている人間に殺されるのだ。何度も。

 なぜ彼はあの時殺されなかったんだろう? そうだ、彼はもう死んでいたのだ。何てややこやしい!!

 後頭部をパックリ割られ、心臓にナイフを突き立てられても、ピンピンしているゾンビには本当に困る。


 アメリカでは今でも土葬が一般的というのには驚いた。やはりキリスト教の「最後の審判の時、生者も裁かれるが死者も墓場から甦り裁きを受ける」という宗教観によるんだろうか?
 しかし、100歳で死んだ人が、100歳の肉体で墓場から甦り、永遠の命を神様からもらったとしても、あまり嬉しくないような。

 やっぱり”輪廻”の方がいい。甦るのではなく、生まれ変わるのよ。
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鮎川哲也「黒いトランク」

2007-06-16 10:42:44 | Weblog
 読み始めて35P目で時刻表が出てくる。とたんに読む気が失せる。
 ああ、鉄道ミステリって、私本当に苦手なんだよね。生理的に受け付けない。リタイアしようかとも思ったが、とても有名な作品なので頑張って最後まで読んだ。

 とても優れたアリバイトリックで、こういうのが好きな人には本当に嬉しいだろうが、私のようなめんどくさがり屋は、国鉄のローカル線の地図や時刻表を見てもあくびを連発するだけで、トリックを崩そうと考える事ができない。

 それに、この鬼貫警部がアリバイトリックを見破る事ばかりに情熱を燃やし、犯人の動機について全く考えようとしないのは不自然。
 「気に入らないヤツ」というだけで社会的地位がある人間が、殺人を犯すだろうか? 
 後々その動機も出てくるが、あまりにも脆弱。

 また、鬼貫警部が犯人と疑っている人物が彼の旧友だと言うのに、その内面の葛藤がほとんど書かれていないのも不思議。旧友の心の内を思いやらず、嬉々としてアリバイを崩していく鬼貫警部は人間性に難があるね。

 悪口ばかり書いたが、アリバイトリックの本格としてはかなりの傑作。論理的思考が得意の人はぜひ読んで下さい。


 PS.クロフツの『樽』に似ているという話ですが、『樽』の中にも時刻表が出てくるでしょうか? もしそうなら、読むのやめよかな。
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フィルポッツ「闇からの声」

2007-06-11 14:39:48 | Weblog
 引退した名刑事リングローズは、旧領主館ホテルに遊びに来ていた。ところがその夜、彼の耳に闇をつんざく子どもの悲鳴、恐怖におののく叫びが聞こえてきた。
 不思議に思ったリングローズは、翌朝ホテルの中を探したが、それらしい子どもは見当たらない。
 不審の念にかられたリングローズに、同宿の老婦人が説明してくれた。…その子どもは亡くなったんですよ。このホテルで1年以上も前に…。


 つまらなくは無いが、さほど面白くも無い。前回読んだ「赤毛のレドメイン家」が傑作だったので期待したが、ハズレかな…。

 犯人が最初からわかっていて、その犯人を追いつめるところが読みどころのはずだが、たいした挫折もなしにスイスイと追いつめているので退屈。
 登場人物の魅力が乏しい事も、つまらない要因の一つ。
 また、犯人とリングローズの話が、とても観念的というか抽象的というか…。イギリス人って食事中やアルコールを飲んでいる最中に、こんな議論をするんだろうか? 消化不良をおこしそうです。


 この作品中、いいなぁと思ったのは次の一点だけ。
 登場人物の一人が度を超えた象牙細工コレクターで、そのコレクションの中に日本の根付があったのだ。とっても好意的に評価してくれていた。
 いいなぁ。(クリスティの小説の中にも、たまに日本の工芸品や美術品のことが書かれているが)1925年大英帝国の著名作家が、極東の島国の工芸品の事を作品中で褒めてくれるなんて、嬉しいです。
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きむらひろみ「ダンナがうつで死んじゃった」

2007-06-06 12:00:01 | Weblog
 「私はうつ病をこうやって克服した」とか「こうやってうつ病と付き合っている」といった本は数多くあるけど、これは患者の奥さんから見た”うつ病患者のいる家庭の実態”が書かれている。

 それも成功談ではなく失敗談。なんと、筆者のダンナさんは、うつ病発症後2年たって自宅マンションから飛び降り自殺したのである。


 その日、腰痛のため通院しようとした筆者は、ダンナさんから朝食について文句を言われ、今までの鬱憤がたまっていたのだろう、ダンナさんにカップ麺を投げつけ「あんたなんか、これで十分!!」と言い捨てて家を出発。
 病院に着く前に、警察からケータイに電話がかかってきた。「ご主人がマンションの踊り場から飛び降りたので、すぐ戻ってきてください。」


 ここだけ読むと、なんてひどい奥さんだろうと思う人も多いだろうが、発症以来、彼女も病気を理解しようとがんばってきた。

 でも、1年で治る、2年で完治という病気ではない。まるで出口のないトンネルに入ったようなもので、自分もいい加減、気が滅入ってきたのだろう。うつ病患者本人も大変だが、家族も本当に大変だ。


 お医者さんは「十分な休養を」とおっしゃるが、大の男が何日も何ヶ月も何年も休養ばかりしていたら、かえって精神がおかしくなるんじゃないだろうか?
 復職する前段階として、ボランティアや軽作業をする場があれば、そのほうが回復への近道のような気がする。
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