ケイの読書日記

個人が書く書評

衿野未矢「依存症の男と女たち」

2009-06-28 10:23:10 | Weblog
 これも前作と同じテーマ。前作の評判が良かったのだろう。つまりイジワルな言い方をすれば、フリーライターの衿野未矢さんは“依存症”という金の鉱脈を掘り当てた事になる。これからも、どんどん依存症患者は増え続けていくだろうから。

 このルポでは、第1章「もたれあう人々」の所が強く印象に残った。
 資格に逃げる雅夫さん。彼は自分の能力と学歴に並々ならぬ自信を抱いている。その一方で、その能力と学歴はまだ彼の生活を支えるに足る収入を生み出していない。というより、自力では食えずにいる。

 裕福で高学歴な人に、こういった人は結構いるんじゃないかな。
 しかし…「資格有でコミュニケーション能力の低い人」と「資格無でコミュニケーション能力の高い人」では、どちらが生きていく上で有利かといえば、後者であることは間違いない。

 人に頭を下げるのは好きじゃない人が、自分で事務所を開くという事は無理。顧客をどうやってつかまえる気なんだろう。親のコネ? でも顧客をずっと維持していくのは人間的魅力も必要だと思う。

 まず、どこかの事務所で実地に働かなければ。弁護士だっていきなり開業する人はいないだろう。
 彼はこの先どうするんだろう。親の資産が無くなるまで勉強するんだろうか?
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衿野未矢「依存症の女たち」

2009-06-23 11:24:15 | Weblog
 筆者は元レディスコミック雑誌編集者で、28歳でフリーライターとなり36歳から依存症をテーマにして書いている。
 編集者時代に精神のバランスをくずし、買い物依存症になる。それがきっかけで依存症をテーマにすることになった。

 『買い物依存症』と言う名を初めて聞いた時、なんて幸せな病気なんだろう。はたして病気と言えるのか、とも思ったが、実際に本やテレビで事例を見ると、なかなか大変な病気です。
 私の亭主も少し『買い物依存症』っぽい所がある。

 この本には色んな人が出てくる。印象的なのは『海外旅行依存症』のユミコさん。後悔するのが分かっているのに「楽しいのは初日だけ」の海外旅行に出かけて行く。なぜ?「現実逃避」なのだ。

 物書きになりたいと言う主婦キヨコさん。筆者がライターだときいて自分の書いた原稿を持って来た。
 新人賞に応募するんじゃなくて、自分の原稿を筆者に依頼して編集者に読んでもらおうとする。
 よくある話だ。断られると、物書きになるのをあっという間にあきらめ、陶芸家の元に弟子入り。初めは夢中になっていたが、だんだんに愚痴が出てきて、最後は陶芸家と大ゲンカして家に戻った。 
 その次が、農家に滞在し米つくりの手伝いをしているという。
 よっぽど彼女の中で「何かしなくちゃ。私は何のために生まれてきたの?」という葛藤があるんだろう。

 最後に、正義に酔うノブコさんの例。実は私の性格もこの人にダブる所が多い。友人があまりいないんだろう。サークルとか部活とか、そういう小規模の組織に依存して自分の存在意義を確かめるのだ。
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角田光代「人生ベストテン」

2009-06-18 11:01:54 | 角田光代
 私の中の『角田光代ブーム』が終わらない。ついつい読んでしまう。

 中短篇6作品が収められている。みな良いが、その中で表題作の「人生ベストテン」が一番印象に残った。

 もうすぐ40歳という仕事熱心な独身女性が主人公。同窓会の幹事に初恋の人の名前を見つけ、気合を入れて(服も靴もかばんもみな新調)出かけるが…そこからが、よくある不倫ものにならないのが角田光代らしい。

 私が興味を持ったのはそんなストーリーではなく、彼女のちょっとした習慣。彼女は寝付けない夜はベッドの中で薄い水割りを飲みながら、自分の人生のイベントベストテンを考えるのだ。
 この場合、ベストだけでなくワーストも入っているから、自分史の重大事件10という事だろう。
 彼女のそれらは、すべて18歳までに集約されているのだ。という事は残りの22年は何やってた?

 主人公本人は「まったく驚きを通り越して恐怖すら感じてしまう」と言っているが、そんなもんだろうか?
 現在の彼女の職場は大変居心地がよく、仲の良い同僚4人とランチやアフターファイブに食べ歩き、女子高生のノリなのだ。

 私も彼女にならって自分の中の人生ベストテンを考えてみる。でも…これからも生きるつもりなので、なかなか真剣にならない。しかし第1位は今後も不動だと思う。えっ?何かって?それは『出産』です。
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角田光代「あしたはうんと遠くにいこう」

2009-06-13 11:05:25 | 角田光代
 帯には

   今度こそ幸せになりたい。
   ある女の子のせつない恋愛生活15年を描く
   角田光代のはじめての恋愛小説。

 と書かれてあるが、江國香織のような恋愛小説を期待したらまったくのハズレ。
当たり前だよね。だって角田光代だもの。

 高校3年生(1985年)から32歳(2000年)までの、ある女性の恋愛遍歴を書いている。オトコはつぎつぎ代わりオトコの質もどんどん低下していく。あんた、シノザキさんなんて、どっから見てもストーカー予備軍だよ。早く逃げるんだって!と作中の女の子に怒鳴ってやりたくなる。

 とにかく疲れる。読み終えてグッタリ。しっかしこの女の人もなぁ。子どもは要らないとはっきり決めているなら、どうしてオトコと暮らしたがるのかなぁ。外で会えばいいのに。
 一緒に暮らすということは、余分な荷物を背負い込むのと同じ。なまじっか人間なだけに一方的に放り出す訳にもいかなくなっちゃうよ。

 オトコがいなくなって、空間にポッカリ穴が空いて寂しいなら、ピカチュウの縫いぐるみでも置いとけ!! ハム太郎でもいいぞ!

 まだ誰とも付き合ったことが無い人でも、読み終えれば、オトコはもうコリゴリと思わせる一冊。
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二階堂黎人「鬼蟻村マジック」

2009-06-08 10:27:25 | Weblog
 長野県、黒姫山と妙高山のふもとの小さな村、鬼蟻村。そこで先祖代々造り酒屋を営んできた上鬼頭家に起こる不可解な連続殺人。
 実はこの家には70年も前にも、鬼が人を斬り殺し消失したという奇妙な事件が起こっていたのだ…。

 二階堂黎人の作品ってとても親切だと思う。手掛かりはちゃんと提示されていて「こんなんアリーっ?!」って読者が憤慨するトリックも少ない。とくに70年前の鬼が消失する事件はとてもわかりやすい。

 水乃サトルのシリーズは蘭子シリーズの禍々しさが薄く、平易な文章でとても読みやい。

 ただ、動機が…ね。あまりにも無理なこじ付けではないだろうか? 旧家物ってそういうことが多い。
 横溝正史の『本陣殺人事件』も、秀作だとは思うが、動機には納得できない。片田舎の潰れかけた旧家の体面がそれほど大事だとは思えないけど。それよりも「殺人事件が起こった家」という方がよっぽど体面が悪いと思う。


 それに、この「鬼蟻村マジック」は計算するとどうも平成7年頃の長野県の山奥の話だが、中1の女の子が市松人形を抱きかかえていたり、造り酒屋の家業を継がせようと、跡取り息子を進学させずみっちりと酒蔵で修行させようとしたり…
 昭和20年代だったら分かるけど、平成7年にはそぐわないよ。時代錯誤。

 そういった違和感はあるけど、トリックがしっかりしていて出来の良い作品。
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