ブログ「教育の広場」(第2マキペディア)

 2008年10月から「第2マキペディア」として続けることにしました。

教育の広場、第 171号、小泉首相の再訪朝に思う

2005年09月01日 | 政治関係
 〔2004年〕05月22日、小泉首相が突然、再度北朝鮮に行って
むこうの最高権力者のキム・ジョンイル(金成日)と会談しま
した。拉致被害者の家族5人を連れて帰りました。期待と不安
で見守った国民と関係者は、その後失望や怒りや評価の様々な
反応を示しました。

私も考えをまとめたいと思っていたところ、05月29日の朝日
新聞に、アメリカのコロンビア大学の教授で日本の政治を研究
しているジェラルド・カーチスさんの文章が載りました。

 それは「首相の説明が不十分」なために「いくつもの謎がつ
きまとう」とした上で、それを6個の謎にまとめたものでし
た。とても適切な文章だと思いますので、まずそれを復習しま
す。

第1の謎は、「準備が整うのを待たずに急いだのはなぜか」
という謎です。つまりタイミングの謎です。

第2の謎は、「政府高官」が来れば(拉致被害者の)家族を
返すと言うのに、なぜ「自分が行かなければ子供たちの帰国は
実現しない」と判断したのかという謎です。

第3の謎は、ジェンキンスさんのアメリカへの身柄引き渡し
の件で、アメリカから確約を得る前に「私が保証する」と伝え
たのはなぜかという謎です。

第4の謎は、安否不明の10名の方々について「再調査」とい
う「あいまいな約束」だけで済ませたのはなぜかという謎で
す。

第5の謎は、核兵器とミサイルの問題でキム総書記に「遠慮
のない意見をじっくり展開するチャンスをみすみす逃した」の
はなぜかという謎です。

第6の謎は、首相の再訪朝という「大きな外交カード」を早
々と使ってしまったのはなぜかという謎です。

さて、私の感想をまとめます。

第1に言いたい事は、小泉首相に典型的に現れている日本の
外交下手、あるいは国際社会での存在感の薄さ、です。

私見では、カーチスさんの言う第5の謎と第3の謎は関係し
ていると思います。キム総書記は小泉さんが核やミサイルで何
を言っても腹の底で「フン」と笑って適当に応対するだけだと
思います。キム総書記は日本から、名前や形はどうであれ、経
済援助を引き出せば好いとしか思っていないと思います。

そして、この小泉さんの話が聞いてもらえない理由の1つ
(多分、最大の理由)がアメリカに対してきちんと意見を言え
ない腰抜け根性にあると思います。

しかも、小泉さんは靖国神社公式参拝を続けているほどの狂
った国際感覚の持ち主です。こんな人の話を誰が聞くものです
か。

そして、小泉さんは5人の家族だけを連れて帰ってきまし
た。しかし、日本の世論は7割近くの人がこれを評価しました
。これが第2の問題です。

思うに、ここには日本人の政治感覚のお粗末さがよく出てい
ると思います。「ともかく5人でも連れて帰ってきたのだか
ら、それだけでも評価してあげるべきではないか」という考え
です。

その時、カーチスさんの指摘しているような事柄は度外視さ
れているのです。それ自体としては善である事柄でも大きな視
点から見ると善とは評価できないこともある、ということは全
然考慮されないのです。

私の連想した事は、イラクに対するいわゆる「人道復興支
援」に対する世論の肯定的な評価です。「困っているイラクの
人達を助けているのだから、好いではないか」というもので
す。

この時でも、その「人道復興支援」とやらが日米軍事同盟の
緊密化や日本の軍国化に役立っているとかいった事は度外視さ
れていますが、そこまで行かなくても、同じお金を使っても、
私が提案していますように、イラク人を日本に招待するような
形で使ったらもっと大きな援助になるのではないか、といった
事は全然考慮されないのです。
 もちろん、小泉首相の靖国神社参拝への批判も日本人の間で
は弱すぎます。これだけ外国との関係も深まったのにです。朝
鮮人強制連行問題まで言わなくてもいいですが、もう少し日本
人の国際感覚は上がっても好いのではないでしょうか。

家族会の怒りについて思った事は、たしかにあれ〔家族会の
怒り〕を非難するのはおかしいと思いますが、外交問題には秘
密にされている事が多いということを理解して、まず小泉首相
の説明をしっかり聞いて、質問することに重点を置いた方が良
かったと思います。

 例えば安否不明の10人の方々についても、「再調査」ではた
しかに不十分ですが、その「再調査」としか表現されなかった
事の本当の内容はどういう事なのか、推測し質問するくらいの
冷静さはあってもよかったと思います。

カーチスさんが第2の謎としている点については、その後、
「川口外相ではだめだ。小泉首相が来なければ(5人も)返さ
ない」ということだったと明らかにされました。

もちろん、だからといって、先方の言いなりになってしまっ
ていいとは思いませんが、それは別問題として、ここで私の言
いたい事は、外交には秘密が多いから、その秘密を知り得ない
人々はその点を考慮に入れて考えるべきだということです。

しかし、いずれにせよ、小泉さんの説明が、事前にも事後に
も、適切ではなかったし、不十分だったとは思います。

第4に考えた事は、中国残留孤児に対する政府の対応と拉致
被害者に対する対応とでは、違いが大きすぎるということで
す。数も違いますが、そのほかに、前者の根本原因は日本政府
にあり、後者の原因は相手にあるという違いもあるかと思いま
す。

しかし、こういうバランスを考える事も政治のモラルの問題
ではあると思います。実際、中国残留孤児の皆さんは、拉致被
害者への手厚い支援をどういう思いで見ているのでしょうか。

 全体として考えて、私としても、やはり、今回の訪朝はあま
り評価できません。その最大の理由は、カーチスさんの言う第
6の謎です。切ったカードに比して、成果が(少なくとも現在
まで明らかになった成果が)小さすぎると思います。あるいは
今後の交渉にとって却ってマイナスになるかもしれないとさえ
思います。

なお、前回2002年の09月の訪朝の時のメルマガは次の通りで
す。
 いわゆる拉致事件に思う(その1、キム総書記の肩書につい
て)   (2002,09,21, 配信)
 いわゆる拉致事件に思う(その2、政府が国民を守れなかっ
たという点)   (2002,10,08, 配信)
 いわゆる拉致事件に思う(その3、日本の朝鮮人への犯罪と
の関係)   (2002,10,11, 配信)
 いわゆる拉致事件に思う(その4、日本はどう謝罪してきた
か)   (2002,11,03, 配信)
 いわゆる拉致事件に思う(その5、太陽政策と北風政策)
   (2002,11,14, 配信)
 いわゆる拉致事件に思う(その6、理想を目指した社会主義
がなぜ拉致事件を引き起こしたか)(2002,12,18, 配信)

  (2004年06月06日発行)