日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 たぶん私の気のせいでしょうけど、最近、温家宝・首相の影が薄くなっているようにみえます。

 いや、東アジアサミットなどの華やかな外交舞台に姿をみせるなどしていますし、以前当ブログから「政治的に心電図ピー状態」と大切に扱われた黄菊・前党中央政治局常務委員(故人)のように「干されている」訳ではありません。ただ困難きわまる現実に直面して手をつかねてしまっているというか、

「これは自分の手に負えない」

 と半ば投げてしまっているような気配を感じるのです。

 例えばロシア訪問中に香港の記者団から経済政策について問われたとき、大方向や具体的政策を述べればいいところで、

「これからも真心を込めてやっていく」

 といった無用の精神論までを吐露しちゃっているあたりに、

「困っているのかなあ」
「疲れているのかなあ」

 という印象を受けます。先日発表した一連の中国経済に関する談話も建前論や原則論に終始していて、庶民にしたら
「だから何?」という内容だったように思います。

 そういえばその際、深セン市が金融引き締めと闇業者撲滅を狙って市内の銀行に対し、1日当たりの預金引き出しに限度額を設けたことについて、温家宝は11月19日に反対の意を表明したのですけど、香港の最大手紙『蘋果日報』(2007/11/22)によると、21日時点では深センの多くの銀行で改められることなく限度額制度が続けられていたそうです。

 中国の株価暴落(A株)では投機目的の個人投資家がネット上で逆ギレしていました。温家宝の責任を問う声や「首相を辞めろ。辞めてくれ」といったスレッドまで立つ有様。もちろんすぐに削除されたようですけど、やはり『蘋果日報』(2007/11/23)がこれを問題スレ画像つきで報じています。



 ひとつひとつのスレタイを読みたい方は拡大版をどうぞ。なかなか楽しめます(笑)。

 全国各地の地方当局という大小様々な「諸侯」という抵抗勢力の面従腹背などもあって(深センの銀行の件はその一例)、首相というのは国内においてなかなか風当たりの強いものなのです。

 だいたい毎年3月に開かれる全人代(なんちゃって国会)における首相の「政府活動報告」において、年間のGDP成長率を過去5年間、温家宝は常に「8%前後」などひと桁台と目標値を示し、

「経済を過熱させることなく緩やかに減速させてソフトランディング」

 というカタチを狙ってきました。

 ところがこの5年間,毎年のGDP成長率は常に温家宝の思惑を裏切る2桁台で、2桁台と判明すると全人代での目標値は忘れたことにして「健全な高度成長」と中共系メディアが自画自賛して取り繕い、現状を追認することの繰り返しでした。……ああ今年はまだ終わっていませんけど11%台になるだろうというのが内外の観測です。

 目標値が裏切られて2桁成長になることが抵抗勢力による面従腹背の証拠であることは、その経済成長に無駄が多く非効率的で、一方で環境汚染や格差拡大などを深刻化させる不調和なものだったことが示しています。さもなければ「科学的発展観」とか「和諧社会建設」なんてスローガンを高々と掲げるとともに、党規約にも織り込むなんてパワープレーをする必要はありませんから。

 ――――

 そうした困ったあれこれを温家宝は「庶民派」を偽装することでゴマカしてきたのですが、そろそろ化けの皮が……てなところでしょうか。温家宝自身としては、いい加減首相職を投げ出したいんじゃないかなあ、と私は最近思うようになっています。タイミングのいいことに、来春の全人代で首相職は任期満了になります。

 とはいえ有力な後継候補がいないことに加え、「胡温体制」と胡錦涛・国家主席と併称されているくらいですから、まず周囲が辞めさせないでしょう。でも首相としての能力や実行力では朱鎔基・元首相の半分ほどもない温家宝は、自分の限界を感じ、また疲れているのではないかと。わがままが通るなら首相を辞めたいのではないかと私の目には映ります。

 温家宝といえば保身の名人でもありますけど、その感覚に照らしても2008年から5年間の経済運営を担当することは「ヤバい」ということになるのではないでしょうか。来春で辞めれば、

「庶民派で弱者救済に心を砕き、和諧社会建設や科学的発展観に基づく経済発展のあり方に道を開いた名宰相」

 という評価で花道、ということになりますが、さらに5年間の続投となれば、価格改革(現在進行中)など痛みの伴う措置を講じなければならなかったり、経済そのものが懸念される状態なのですから、庶民の敵に回らざるを得ない場面が増えてくる可能性が増えることでしょう。

 中国政治が「改革派vs保守派」で綱引きをしていた時代だと、経済運営に失敗した担当者は失脚したり干されたりしたものですけど、現在だとどういうことになるのでしょう。それを検証する上でも温家宝にはぜひ続投してほしいところです(笑)。

 そういえば「庶民派」という偽装自体ももう通用しなくなっているように思います。少なくとも都市部ではそういえるのではないかと。上述した個人投資家の反発などもありますけど、温家宝夫人が中国有数の宝石商であることは有名ですし、息子も特権ビジネスのようなことをしていた筈です。温家宝も所詮は中国人である以前に「中共人」だということでしょう。

 このあたりを抵抗勢力から突つかれるとアキレス腱だけに温家宝も諸事やりにくくなることでしょうけど、むしろ胡錦涛以下がこのスキャンダルをチラつかせて温家宝に首相続投を強要するのではないか、と考えたりしています。……ええ、たぶん私の気のせいでしょうけど。

 ――――

 別な話を書くつもりだったのが、話の枕が長くなってしまったので単体のエントリーにしてしまいました。余太話と受け止めて頂ければ幸いです。

 折角ですから本来書きたかったことのひとカケラについてふれておきましょう。国家統計局の謝伏瞻・局長が11月22日、中国の消費者物価指数(CPI)が月間値で前年同期比6%前後の上昇というペースは今後もしばらく続くだろうとの見方を示しました。今年通年のCPI上昇率について謝伏瞻は「4.5~4.6%台」との見方を示し、この状況を「依然として受け入れられるレベル」だとしています。

 ●「新華網」(2007/11/23/11:42)
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-11/23/content_7131987.htm

「依然として受け入れられるレベル」

 という物言いはすでに現実に対し「守りに入っている」ように思うのですが、如何でしょう?物価上昇率が今後しばらくは月間で6%台とか通年で4.5~4.7%になるとのことですが、今年の物価上昇の最大の原因は食品価格で、これだけをみると庶民には相当キツい状況です。例えば9月の月間値でいうと、全国平均が前年同期比16.9%増、都市部が同16.1%増、農村部が同18.6%増です。

 参考までにいうと18.6%台というのは1988年にスーパーインフレが発生したときのCPI上昇率とほぼ同じです。もっとも1988年は全体値、今年9月の18.6%はCPI上昇率の中の食品価格に限定し、さらに農村部のみに絞った数値ですから単純に比較することはできません。

 そのことを踏まえての物言いとなりますが、1988年の場合は経済運営の失敗を保守派に叩かれた趙紫陽・総書記(当時)が主導権を保守派の李鵬・首相(当時)に奪取され、経済政策は引き締め路線へと一変。そのことに危機感を強めた改革派のブレーンや知識人が様々な形で異議申し立てをしたり色々策動したりしたことが、翌1989年の民主化運動~天安門事件、そして趙紫陽失脚へとつながっていきます。

 マクロ経済に関するシステムがこの20年近くで相当成熟したこともありますので以上は余談にすぎませんけど、庶民目線でみると現状が楽観できるものでないということはできるかと思います。

 そもそもこの数字では日々深刻化している「格差」に応じた状況をみることはできません。謝伏瞻のような高級幹部や富裕層にとっては痛くも痒くもない「受け入れられるレベル」かも知れませんが、「中流」以下の民衆にとってはシャレにならない物価高、というのが実感ではないかと勘繰りたくもなるのです。

 ――――

 ともあれタイトルに掲げた通り、現状に手も足も出ない無能な温家宝には例の着古したジャンパー羽織ってボロ靴履いて、とりあえず農村視察で「庶民派」を再演出しておけ、と言っておきます。もはや通用しないむなしい作業ではあります。だけどいまの温家宝にはそのくらいしか、できることないでしょ?




コメント ( 5 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
庶民にはつらい・・・ (町方同心)
2007-11-25 21:25:41
確かに、かつて中国政府は物価上昇率に関し3%が警戒線と言っていました。現在、予想される水準は、それを遥かに上回っているため、今のうちから予防線を張っておくことはあり得ると思います。物価上昇の結果、庶民(特に都市部の一般の人々)にとっては、預金金利が実質的に目減りするので、不満もさぞ大きいでしょう。少しづつ利上げしているようですが、貸出金利も同時に上げるため、成長力の劣る農村部には厳しい状態になっているのではないかと想像します。国内で格差がここまで広がると、どこを焦点に経済政策を行えばいいのか、温家宝もさぞ眼が泳いでいることでしょう。農産物の上昇は、農民にとっては、福音となる可能性もありますが、農業が潤った分、彼らが出稼ぎを止めるかもしれませんね。その結果、都市部や沿海部の賃金が上昇する可能性もあります。そうなれば、単に食料品価格のみではなく、物価全体の上昇に繋がる可能性もありますね。
 
 
 
Unknown (fouch)
2007-11-26 06:43:49
今年前半に二度も暴落があったにもかかわらず
懲りずに株を始める人が相次いでいますからね。
学生も借金してまでやっている始末ですし
外資でバブル化していた時はともかく、今は
不味いでしょうね。
 
 
 
Re:庶民にはつらい・・・ (御家人)
2007-11-27 06:14:54
>>町方同心さん
>国内で格差がここまで広がると、どこを焦点に経済政策を
>行えばいいのか、温家宝もさぞ眼が泳いでいることでしょう。
 私もそう思います。途方に暮れているのかガンジガラメにされているかはともかく、既得権益層の抵抗もあるでしょうし、温家宝の器量では能動的に大きく一歩を踏み出すことは難しいでしょう。

>農産物の上昇は、農民にとっては、福音となる可能性もありますが
 ところが『経済参考報』あたりの報道によると生産財というかコストも上昇しているのであまり旨味がないそうです。豚肉なども同じ状況で、ホクホクしているのは流通段階の連中だとか。私は出稼ぎ農民の就業率を知りたいです。大都市に出てみたものの職にあぶれて……というケースもかなりあるのではないかと思います。

 何はともあれ、人大杉なのが最大のガンですね。衣食住も資源も追っ付きません。半減すれば格差社会でもまだ打つ手はあるかも知れませんが、もちろんそれは無理な相談。となるとマクロコントロールがあまり機能していない状況なども含めて、故・司馬遼太郎氏が指摘していた「国家としての適正なサイズ」の話に落ちることになりそうです。
 
 
 
Re:Unknown (御家人)
2007-11-27 06:17:09
>>fouchさん
 上で町方同心さんが指摘なさっているように、物価高で銀行に預金していると財産がどんどん目減りしていく状況です。不動産を扱うほどの資金力のない庶民としては自己防衛策として株に手を出すしかないのでしょう。いまは第三の暴落期といえるかも知れませんけど、新華社電によると毎日10~20万人が新規参入しているそうです。

 株価が下落したときのネット上の関連掲示板をのぞくたびに感じるのですが、連中はリスクは自分持ちなどとはカケラすら思わずに「株価は下落してはいけないもの」と信じて疑わずにいるかのようです(だから暴落するたびに逆ギレ)。

 テレビでたまたま目にしたのですが、いま中国ではポップアートの絵画がオークションにて高値で競り落とされているそうです。当然ながら一攫千金を狙う若手画家などもいます。一種の「過熱」が美術品にまで波及しているとは思いませんでした。こういう状況もいつかは終わりが訪れるでしょう。どういう幕引きになるのか激しく気になります。
 
 
 
Unknown (町方同心)
2007-11-28 23:24:18

町方同心です。

> ところが『経済参考報』あたりの報道によると生産財というかコストも上昇しているのであまり旨味がないそうです。豚肉なども同じ状況で、ホクホクしているのは流通段階の連中だとか。私は出稼ぎ農民の就業率を知りたいです。

なるほど、農業生産のコストアップ分を出荷価格に完全には転嫁できないのですね。原油価格が暴騰しており、中国の農村でも化学肥料や輸送コストが大幅に上昇していると推察します。「中国には農協に相当する農民団体がなく(政府が組織させない)、流通に対してたいへん弱い立場に立たされている」という話を聞いたことがあります。流通業者は、農民の無知にも乗じて、実勢価格との差を抜くというわけですね。さて、出稼ぎ農民の就業率・・・これは是非、私も知りたいところです。都市の最下層民には、物価(特に食品の)上昇が文字通り死活問題として効いて来ますので。経済問題がどの程度の政治性を帯びているかとの一種のバロメーターというわけですね。勉強してみます。
 
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