日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





(シリーズ:成都にメイド喫茶出現【1】)



  



 ……むう。

 と唸ることしか私にはできません。御覧の通り、四川省の省都・成都市に
メイド喫茶がオープンしてしまいました。

 噂を聞きつけた地元メディアが早速取材しているのですが、写真から察するになかなか本格的な、いわばアキバ系の本流をしっかりと踏襲した王道路線のメイドカフェのようです。

 ●『天府早報』(四川在線 2008/02/20/05:51)
 http://sichuan.scol.com.cn/sczh/20080220/200822055132.htm

 報道によると、店内は広さ約80平米とこじんまりとしたものですが、暖色系でまとめられたフローリング仕立てでテーブルが7つばかり置かれているほか、ソファなどがあって実にくつろげる雰囲気。

 壁際の書架にはマンガや雑誌が並んでいて自由に読むこともできます。やや高い一角に備え付けられたモニターからは「メイド文化を紹介するドキュメンタリー」が流されているとのこと。

 ……そうでしたメイドさんの話をしなければなりません。店内に一歩足を踏み入れるなり、

「お帰りなさいませ、御主人様♪」

 と、
メイド姿な妙齢のロリ系女子が楚々とした風情にて優しく微笑みつつ日本語(!)で出迎えてくれるそうです。何も知らずに入ってきた客はその異次元ワールドぶりに度肝を抜かれることでしょう。

 ――――

 メイドさんは合計4名。いずれも
『動漫』(アニメとマンガ)が大好きなアルバイトの学生です。ウエイトレスとしての仕事をこなすだけではなく、客の雑談に付き合ってくれたり一緒にトランプをやってくれたりする模様。この点からも、この店が「ブロパ」「神戸屋」「馬車道」「アンミラ」といった萌え制服系ファミレスからの派生型ではなく、アキバ流の正統派メイド喫茶であることがうかがえます。

 しかもピアノとバイオリンの写真からわかるように、
フェチ志向の萌芽も垣間見えるのは驚嘆すべきところです。

 実際に演奏してくれるのかどうかは不明ですが、ピアノは手つきからして素人のようです。バイオリンはそれっぽく見えなくもありませんが、弓を持つ右手が隠れているので断定しかねるものの、左手の握り方にやや疑問が残ります(御家人は少しだけバイオリンを使えます)。たぶん、どちらも記者のリクエストに応じてポーズをとってみただけではないかと。

 それでもこうした大道具小道具を配している心憎さはどうでしょう。アキバ文化の代表的存在のひとつである
「メイドさん」に対し中国流解釈が行われていることに感嘆せずにはおれません。いやこれは四川風味による「萌え」の発露というべきでしょうか?人類は麺類。

 ちなみにメイドさんたちと記念写真を撮ることができるかどうかについては、遺憾ながら記事は言及しておりません。

 ――――

 店長によると「店はまだ内々限定の試運転状態」だそうで看板なども出ていませんが、記者が取材したときには大学生風の若者が数人ずつ座る形でテーブルは全て埋まっていたそうです。記者はこの店を形容するに、

「これこそ日本のACGファンが好むメイド喫茶だ」

 として「ACG」を、

「アニメ、コミック、ギャルゲー」

 の頭文字だと紹介しています。いや「ギャルゲー」は違うだろ、ただの「ゲーム」だろ!……とACG系出版社の東京駐在員である私は内心大いに憤慨したのですが、どうせ店長が記者にそう説明したのでしょうからこれも四川風味ということで許してやりましょう。

 ただし正確には「ACG」は
「アニメ、コミック、ゲーム」の略称であって、「G」は断じて「ギャルゲー」ではないことを強調しておきます。

 そうでなきゃ「空母戦記」「鈍色の攻防」「戦闘国家3」「パンツァーフロント」「サカつく」しか遊ばない私の立つ瀬がありません。ギャルゲー絡みの制作物を手がけたことだって一度たりともありません。……PCエロゲー専門のソフトハウスを取材したことはありますけど。

 ――――

 閑話休題。記者は4名のメイドさんの中のひとりであるイサミちゃん(isami・22歳)にインタビューを敢行しています。景観デザインを専攻する大学生で、中学生のころから日本のマンガやアニメに親しむようになり、数年前から「メイドさん」にハマってしまったという
腐女子。コスプレの経験者なのかも知れません。

 両親はイサミちゃんのこうした趣味に表立って反対してはいないそうですが、大学から処分を受けて卒業できなくなるのを案じていると語っています。それでもメイドさんをやめられないでいるところに
業の深さを感じずにはおれません。

 ところで店の現状を「内々限定の試運転状態」と店長が紹介したように、このメイド喫茶に来るお客さんは目下のところ顔見知りのオタク仲間?に限られており、どういう空間なのかを承知の上で来店しているようです。メニューもまだミルクティー、レモンティー、ポップコーン、フライドポテトの4つしかありません。

 いちばん値段の高いものとしてコーヒーを一杯35~40元で出す予定だそうですが、目下のところはまるで
文化祭か学園祭の出店のようなもの。……とふと思えばこのメイド喫茶、何やら同人サークルの出し物のようでもあります。そもそも店長の白一宏君からして大学3年生。

「学生が立ち上げたベンチャービジネス」

 と表現してもいいのでしょうが、それよりも「仲間っぽさ」が前面に出ている観があります。

 同人の拠点として機能させようというのが狙いなのかも知れません。
一種の部室です。店長の白君も、

「御主人様とかメイドといったキャラ設定と独特な呼び方が社会に受け入れられるかどうかについては心配していないけど、噂を聞きつけてメイド見たさにACGファンが殺到して、お客さんをさばき切れなくなるのが不安」

 と語っています。社会的に認知されることには自信があるようです。

 ――――

 しかしオトナはそう見てはくれません。地元メディアによるこの記事もメイド喫茶について、

「日本の『動漫』におけるメイド文化をテーマにした喫茶店が、このほど一群の『動漫』ファンたちの喝采を浴びつつ密やかにオーブンした。この店の重点はメイドではなく『動漫』だと店長は強調しているが、こうした舶来品が一体どういうものなのか、国外ではどう扱われているのか、店のコンセプトを現実とすり合わせることができるのか。全てに疑問符がつくところだ」

 として、ある種のいかがわしさを漂わせる筆致となっています。またこのメイド喫茶について集めたコメントも、



 ●中華民族には優れた文化と伝統がある。たくさんたくさんの文化伝統を我々は伝承しなければならない。だから日本文化を過度に模倣する必要はない。特に上っ面だけを真似するなんてもってのほかだ。現代社会において人々はみな平等で、実際にはお手伝いさんがいたりもするが、それも平等の基礎の上に存在しているもの。メイドという呼び名はよくない。多様化した社会において模倣の出現は避けられないが、この喫茶店には規律を遵守し法を守り、また人の道から外れないようにしてもらいたいものだ。
(四川省社会科学院社会学所・胡光偉副所長)

 ●メイドや召使いというのは昔の社会での呼び方だ。それを現代社会で用いるのは穏当ではないね。結局は店の質とサービスで勝負は決まる。成都では過去にも奇怪なレストランが色々登場しては、社会に受け入れられずに消えていった。
(成都飲食店協会・彭小平副会長)

 ●メイド?召使い?そりゃ昔の言葉だろ。いま使うのはおかしいよ。時代が逆戻りした訳でもあるまいに」
(街のお爺さん)



 ……など、半ば新手の風俗扱いのニュアンスも含めて否定的なものに傾斜しています。何やら風当たりは強そうですね。

 ――――

 私は、ただ驚くのみです。「中国の特色ある社会主義」とは「中国は特殊な国情だから社会主義の歩み方も独特なものになる」ということで、要するに
何でもアリというスタンスなのですが、メイド喫茶まで許容する懐の深さがあったとは思いませんでした(笑)。

 まあ30年前にこれをやったら
反革命罪で銃殺刑は堅いところですし、20年前でも「ブルジョア自由化主義者」のレッテルを貼られて投獄されるか労働教養所送りは間違いないでしょう。政治的なハードルが低くなったことと引き換えに拝金主義が台頭している現状を反映しているもの、といえるかも知れません。

「いまの中国は最悪の資本主義をやっている」

 と喝破したのは今は亡き趙紫陽・元総書記ですが、逆に銭ゲバ全盛時代の到来によって非生産的な政治運動が過去のものとなり、おかげで極めて歪んだ形ながらも経済発展を実現したことで、中国にも「動漫」ひいてはメイド喫茶のような、
腹の足しにもならないサブカルチャーが呼吸する空間が生まれた、とみることもできます。

 そもそも……と私は思うのですが、開店資金をどうやって工面したのでしょう?もし親が出してくれたのなら、いかにも一人っ子世代だなあ、という感想が浮かびます。

 ――――

 私の世代ですと中国の大学=エリート養成機関で、大学生といえば全国から選り抜かれた俊秀、というイメージがあったものです。白君やイサミちゃんたちがこれほど趣味の世界に没入できるのも、大学がホワイトカラー量産工場へと質的転換を遂げたおかげでしょう。仕事柄「頑張れ」と応援してやりたい気持ちもありますが、

「だから卒業即失業になるんだな。粗悪炭揃いって訳だ」

 というちょっと意地悪な見方がどうしても先に立ってしまうのは、たぶん、こうして
余暇を楽しめるだけのゆとりが中国社会全体で共有されている訳ではないからでしょう。

 ともあれ、香港の仕事仲間や台湾の知人友人による強制連行、それから日本サイドでの仕事上の絡みによってメイド喫茶と男装喫茶その他にデビューを果たしている私としては、白君の店をのぞいてみたいところです。……といっても現実には無理ですから、成都近在にご在住の方の突撃「萌え」レポートをお待ちしております。m(__)m

 それにしても
「メイド文化」という言葉には間口が狭すぎて違和感を感じます。「秋葉」とか「御宅」で括る方が自然ではないかと思うのですが、まあいいか。中国の「動漫」族はメイド喫茶で萌えて癒されて、アキバを疑似体験する気分に浸るのでしょう。糞青ども(自称愛国者の反日信者)が騒ぐかも知れませんね。地元メディアによる今回のこの報道、すでに大手ポータルはもとより新華社や中国新聞社でも扱われて全国ニュースになっていますから、各界の反応が楽しみです。



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コメント
 
 
 
成都!成都!成都!ハァハァ... (shoku)
2008-02-22 15:37:29
むかし、訳あって成都にいた事があるのです。
成都における当時の私は、まさに「自民のアイドル」のようでありました。

どんだけアイドルだったかというと、道行く人全てが、屈託の無い笑顔で接してくれる。
商店でも、食堂でも、名所旧跡でも、宿屋でも…
目の前で金髪の欧米人が「外国人料金」をぼったくられようが、私達(日本人)は「人民料金」で難なく通過。
屈託の無いニコニコ笑顔のおばあちゃん達が寄って来てはこう言います。
「うちの孫を見て頂戴!可愛いでしょう!一緒に写真を撮っておくれ♪」。(私は中道右寄りの人間ですが、“戦争を知る世代”にモテモテでしたぜ!何が“反日”ぢゃいっ!)
もちろん、大金を要求されるような事は全くありませんでした。ただただ、日本から来ためずらしい人に、自慢の孫を見てもらいたい一心のようでした。
宿のスタッフも気軽に話しかけて来ては、「写真を撮ろうぜ!」と誘ってくれます。もちろん意味不明な「金」など要求しません。みんな正直者でした。
成都の人々は、中国の中で最も親日なのではないかと疑ったぐらいです。(私の人徳かも知れません?)
…と、このように、ひたすらこんな「夢」のような日々が続いたのでした。

そんな成都でも、数年前に反日騒ぎがありましたね。
その時「あぁ…時代が変わったのだ…、私の記憶の中の成都は死んだのだ…orz」と愕然としたのを覚えています。

メイドカフェ、やりなはれ!動漫、はまりなはれ!
ハァハァハァ…
 
 
 
Unknown (sdi)
2008-02-22 15:56:55
「一日にして都と成った」あのミヤコにメイド喫茶ががオープンするなんて。ああ、泉下の諸葛丞相閣下や昭烈帝陛下はいかのことか「お喜び」でしょう。(んなわけあるか、ボケッ)
でも、成都にできるくらいだから他の都市にはとっくできてるんじゃないか?と思うんですが。
 
 
 
召使のほうがまだまし (エミル)
2008-02-22 22:15:26
中国には「召使のほうがまだましだ」とつぶやく人々がきっと何億もいるに違いない。
 
 
 
Unknown (SAKAKI)
2008-02-22 22:31:32
こんばんは
別の方もおっしゃっていますが、中国の田舎って「日本人がキタァ」ってカンジは確かにありますよ。不心得モノも多いですが、確かにあります。
 写真のおねーちゃんカワイイですね。人口多いから、美人もそれなりにいるのでしょう??
 
 
 
そういえば戦前の満鐵で… (きんぎんすなご)
2008-02-23 11:02:50
かの有名な「あじあ号」の食堂車の給仕係にはうら若きロシア系スラブ人を優先採用していたそうで…
ある意味。さすがであります。
 
 
 
Unknown (shoku)
2008-03-01 07:53:45
>まさに「自民のアイドル」のようでありました。×

>まさに「人民のアイドル」のようでありました。○

危ない、危ない…
でもこれは本当ですよ。
現在は、全く違うのでしょうがね。


 
 
 
Unknown (Unknown)
2009-05-03 10:10:34
hehehehehe
 
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