日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 これはすごいです。久々の大規模な農村暴動。しかしそれだけではありません。特筆すべきことがいくつかあって、どこから手をつけていいのか迷うくらいです。

 まずは舞台となった場所ですが、広西チワン族自治区の博白県。隣接する広東省との境界に近い地域です。この博白県下の各鎮(県の下の行政単位)でタイトル通り、地元農民による前代未聞の同時多発的な暴動が発生、一部の鎮庁舎は農民たちの襲撃を受けて炎上、警察車両も破壊され焼き打ちに遭うなどしています。

 原因は地元当局による計画出産政策の押しつけです。その徹底ぶりが常軌を逸し、「官匪」といっていい暴力と収奪が横行したため、農民たちの堪忍袋の緒がついに切れて、自衛のため鎮ごとに「官」への逆襲に転じたというもの。どこまで組織的なものかは不明ですが、

「官逼民反」(「官」の横暴に追いつめられた「民」が成否を問わずに蹶起する)

 の典型例といっていいでしょう。とりあえず暴動系のタレ込みサイトとして重宝されている「博訊網」に掲載された現場写真をどうぞ。

 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/05/200705200252.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/05/200705200250.shtml
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/05/200705200248.shtml

 特筆すべきことがもうひとつ。今朝(2007/05/21)の香港各紙はこのニュースを揃って報じています。……いや、新聞が出た時点では、親中紙の『香港文匯報』と『大公報』だけはこの事件をスルー。

 この「なかったこと」扱いになっていることにも異常さを感じます。恐らくこの事件について、広西チワン族自治区当局ひいては党中央が「定性」(政治的な善悪評価)を未だ示していないからかと思います。

 そういう迷いが生じても不思議ではないほど今回は地元当局による「官匪」ぶりが際立っています。護民官たるべき当局が、民衆を農奴扱い。ここまでできるのか、と思えるほどの暴虐がここ3カ月余り、まかり通っていたようです。

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 そもそもの発端は博白県当局が上級部門から、計画出産政策のノルマが達成されていないとしてイエローカードをつきつけられ、

「今年はノルマを達成しないとお前らみんなクビ」

 と警告されたことによります。たぶんこのノルマにしても実際の人口に基づいた合理的なものではなく、県当局にしてみたら「そんな無茶な」というべき硬直した指標だったのでしょう。後述する実例からすると人口抑制より罰金集めがノルマの重点であるように思われます。

 ともあれノルマをクリアしないと我が身が危ない、と県当局は隷下の各鎮政府に厳命を下しました。そして実施されたのが香港紙『東方日報』が報じるところの
「三光政策」です。いわく、

 ●手当り次第に不妊措置(結紮)を実施する。
 ●計画出産政策に反した農民から罰金をとりまくる。
 ●家財道具でも家畜でもカネになるものを収奪する。

 というもの。県当局はこのために定職に就いていない若い衆800余名を駆り集め、さらに各部門からも職員を抽出して実行部隊を編成。県下各鎮各村を連日襲撃して上記「三光政策」を実施しました。

 いや正に「襲撃」としか表現しようがありません。「博訊網」が伝える実例によれば、実行部隊は棍棒や手錠を装備してトラックなどで各地を急襲。

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 ●実行部隊が城廂鎮の製衣工場を襲撃して女工たちを拘束、トラックに乗せて病院に連行し不妊手術を施した。逃げようとした女工は全身血まみれになるほど殴打された。

 ●通学途中の16歳の女子高生を通りがかった実行部隊が拘束し、不妊手術を実施。類似例として50歳の婦人も同様の目に遭っている。

 ●白平村の老人が8歳の孫と歩いていたところに実行部隊のトラックが通りかかり、有無を言わせず子供を奪い取って走り去った。子供の消息はいまなお不明。

 ●江寧鎮蓮花村の農民が一日の畑仕事を終えて帰宅してみると、村中の全ての家がドアをこじ開けられ、家財道具など金目のもの全てを持ち去られていた。

 ●草堂村の農民が畑仕事をしていたところに実行部隊数百名が来襲。一部の兵力で村の出口を封鎖しつつ、全ての家から金目のものを奪取。鍋や釜はもちろん、アルミサッシまで取り去られた。

 ●松旺鎮の林さんが親戚の営む小さな養豚場で働いていたところ、実行部隊のトラック数台が出現。百人余りの襲撃に村人たちは悲鳴を上げて自宅に逃げ帰りドアも窓も閉め切ったが、豚を守ろうとした林さんは袋叩きにされ、翌月には市場に出す予定だった豚32頭が強奪された。

 ●譚連鎮の日用雑貨商である劉さんが店を開けたところに折悪く実行部隊が来襲。数十人が店内に押し入って次々と商品を強奪し、アルミサッシまで取り去られた店にはビニール袋しか残っていなかった。

 ●計画出産規定に違反した者の罰金がそれまでの数百元から数万元へとはね上がり、また過去の違反者に対しては1980年時点までさかのぼって「社会扶養費」(計画出産規定に違反している子供を社会が養ったという罰金)を重ねて請求。3日以内に支払わなければ家財没収のうえ家屋を破壊。

 ……県下各鎮の村々で連日こうした土匪まがい(というか土匪そのもの)の行為が繰り返され、家財道具一切を奪われた農民たちはただ呆然とするばかり。

 夜襲も頻繁に行われるため、夜になると子供が連れ去られないよう一家で山中に避難する村民たちが相次ぎ、その際に毒蛇に咬まれて死亡した農民もいます。

 実行部隊800名に襲撃された東平鎮のある村では村民が必死に裏山へ避難。子供が泣き出したため、その声を聞かれるのを恐れた母親が懸命に子供の口を手で塞いでいたところ、気付いたら子供が窒息死していたというケースも。

 ●「博訊網」(2007/05/20)
 http://www.peacehall.com/news/gb/china/2007/05/200705202227.shtml

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 これら悪行三昧が全て地元政府である県当局の指示で行われていること、その上級部門の玉林市当局は見て見ぬふりであること、というのは驚くべきことです。まさに「官匪」ではありませんか。

 そして、こうしたやりたい放題の暴虐は恐らく頂点である広西チワン族自治区政府の預かり知らぬところでしょう。その自治区党書記や自治区政府主席が胡錦涛直系の「団派」(共産主義青年団人脈)であろうと「太子党」(二世組)であろうと「上海閥」であろうと、そんなことは関係ありません。「諸侯」と呼ばれる本当の地方のボスは市や県レベルに根を張っているのです。

 このことは注目していいと思います。中共による統治機構がこのレベルから下では立ち腐れ始めていることを示しているからです。現に「法治の実現」だの「和諧社会の建設」だの「社会主義新農村建設」といった、中央レベルで打ち出される方針をあざ笑うかのような事態が進行しているではありませんか。

 もちろん、今回のケースは香港メディアなどに報道されたから明るみになったものの、似たような「官」の横暴が恐らく全国各地で発生しているであろうことは想像に難くありません。

 というのは、これは計画出産政策に名を借りた新たな搾取という見方もできるからです。農民に対する農業税が廃止されて「胡温体制」とくに温家宝・首相の善政が中央で強調されましたが、末端レベルの地方当局はその農業税に代わる収奪がなければオイシイ思いができません。

 あるいは以前、当フログで取り上げた謎の官民衝突事件もこの計画出産絡みのものかも知れません。少数民族という要素がどれほどあるのかはわかりませんけど。

 ●またまた広東省で官民衝突、謎の4死6傷事件。(2006/02/14)

 ……襲撃された農民たちはいずれも生活の術を失って流民同様の境遇に堕ちてしまったといっていいでしょう。幸い被害に遭っていない農民にしても、いつ実行部隊のトラックが出現して村の出口を封鎖し、収奪の限りを尽くされるかわかりません。

 家財道具はもちろん、計画出産ノルマを達成するために子供までもが無理矢理連れ去られるのです。連れ去られた子供がどうなるのかは、ちょっと想像したくありません。

 ともあれ、ここまで「官」に追いつめられれば、農民たちも自衛のために立ち上がらざるを得ないでしょう。博白県下の各鎮で同時多発的、あるいはドミノ倒し的な農民暴動が発生することとなります。

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 香港各紙の報道によると、暴動は農民たち数千名が鎮政府庁舎に押しかける形で先週木曜か金曜(5月17日~18日)に大�鎮、安永鄉、英橋鎮、頓谷鎮などで発生。いずれも政府庁舎は放火され、水鳴鎮では博白県公安局トップの警察車両も焼き打ちされた模様です。

 当ブログでこれまでに紹介してきた数々の暴動で明らかなのは、いったん暴動が起きてしまうと地元当局の警察力では対応し切れず、上級部門からの応援を要請するしか手がないことです。この17~18日の暴動でも博白県当局は玉林市の警察に増援を求めましたが、その大半は途中で農民たちに行く手を阻まれたそうです。

 各紙の電話取材によると県当局は「騒乱」が発生したことは認めていますが、計画出産政策の極端な遂行ぶりが原因かどうかについては口を濁しています。

 横茂鎮の警察署によると県下32カ鎮のうち7~8カ鎮で暴動となり、最大規模の騒乱は日曜日である19日、沙陂鎮で発生しました。

 同鎮の農民たちが「三光政策」への抗議のため政府庁舎前に屯集したところ、それを見た職員が正門に頑丈な鍵をかけて農民の侵入を阻むと、いよいよ大勢の農民が集まって庁舎建物への投石が始まり、警察がかけつけて一触即発の険悪なムードに発展。……したところで、よりによって計画出産部門の職員が政府庁舎の屋上から投げた拳ほどの大きさのレンガが農民1名の頭部を直撃。

 負傷した農民が血を噴いて昏倒したかどうかは定かではありませんが、群衆の怒りはこれで沸点到達。人海戦術のマンパワーで壁を引き倒すなり、敷地内になだれ込んで政府庁舎に放火。建物が炎上するなか駐車してあった車3台及びバイク20台も焼き打ちされ、一部は黒煙噴き上がる庁舎内に突入して事務室のPCやテレビ、ビデオなどを破壊。また門前に掲げてあった鎮政府の看板を引っぱがして皆で踏みにじるなど、これまでの憤懣を一気に爆発させました。

 なお、この日は土曜日だったため学生多数もこの抗議活動に参加しており、民衆の怒りをピークに到達せしめたレンガ投げは政府庁舎3階に隠れていた県党書記か副書記によるもので、学生に命中したとの説もあります。

 情報が錯綜しているため確度には難があるものの、防暴警察(機動隊)あるいは武警(武装警察。内乱鎮圧用の準軍事組織)が出動して民衆との大がかりな衝突に発展した鎮もあるようです。

 暴動は飛び火するかのように相前後して複数の鎮で相次いで発生し、那卜鎮では民衆5000名と警官・武警300名が白兵戦となり、当局側は野次馬も含め、老若男女の別なく手当り次第に棍棒で殴打して回り、多数の負傷者が出たうえ、50名前後の農民や学生が検束されたといわれています。

 事件が現在進行形でいまなお暴動が続いているのかどうか、なにぶん今回は同時多発的で「現場」がいくつもある訳ですから続報を待つしかありません。ただ香港紙の報道では死者5名との噂が流れているとのことです。

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 ちなみに、事件の情報はネットを通じて中国国内でも流れ、ネット世論の憤激を買った模様ですが、中国国内メディアはいまこのエントリーを書いている時点では事件については沈黙しているようです。ただし地元紙『玉林日報』の報道として、

 ●博白県、朱日祥を優秀な共産党員として追認(新浪網 2007/05/21/09:07)
 http://news.sina.com.cn/s/2007-05-21/090711861157s.shtml

 という記事がありました。今年の計画出産政策遂行の職務において殉職したそうです。殉職?計画出産部門職員が一体どこでどうなると殉職する訳?ということで暴動絡みで殺されたニオイを感じます。

 また、とりあえず博白県当局レベルでは遠因近因に知らんぷりして暴動を「悪」と認定したい姿勢であることが
「共産党員追認」でわかります。恐らく玉林市当局も同腹でしょう。これが自治区当局ひいては党中央となるとどうなるのか、結論が出ていないことは香港紙の中で親中紙がこの事件を全く報じていないことでわかります。

 ともあれ続報に期待しましょう。「自衛」を旗印に博白県の農民が鎮を超えて連携するようになると「官」にとっては恐るべき事態になりそうですけど、政府庁舎を炎上させて農民たちは満足してしまったかも知れません。

 それよりも暴動の遠因近因に照らして人民擁護を旗印にしている「胡温体制」がこの事件をどう裁くか、中央の権威度をはかる上でも注目したいところです。

 それにしても末端レベルは本当にやりたい放題なんですね。少なくとも「人民」を人間扱いしていないことは確かなようです。……ただ県当局も上級部門から無茶なノルマを課せられたためにかくなった、という部分もあります。計画出産部門の職員にしても板挟みの苦しみがあったかも知れません。所業からはそんな気配は微塵も感じられませんけど。

 ちなみに『太陽報』の記事に「実行部隊のものすごさは往年の日本軍のようだ」というものもありました。政治的背景のない同時多発的な暴動によって日本軍の現地司令部が焼き打ちされたなんて話、ありましたっけ?

 まあ香港人の書く記事ですから所詮はこんな程度、とはいえます。そのおかげで私の副業も成立している訳でw。

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 ●『明報』(2007/05/21)
 http://www.mingpaonews.com/20070521/cca1h.htm
 http://www.mingpaonews.com/20070521/cca2.htm

 ●『星島日報』(2007/05/21)
 http://www.singtao.com/yesterday/chi/0521eo01.html

 ●『東方日報』(2007/05/21)
 http://orientaldaily.on.cc/new/new_a00cnt.html
 http://orientaldaily.on.cc/new/new_a52cnt.html

 ●『太陽報』(2007/05/21)
 http://the-sun.on.cc/channels/news/20070521/20070521014757_0000.html
 http://the-sun.on.cc/channels/news/20070521/20070521014757_0000_1.html
 http://the-sun.on.cc/channels/news/20070521/20070521014757_0000_2.html




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