日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 前回寄せて頂いたコメントに啓発されつつ、香港の「一二・四」民主化デモの話を続けます。

 私個人の見方としては、社会が転換期を迎えた香港にあって、今回のデモは香港人が「植民地の奴隷」から「市民」に昇格できるかどうかの切所だと思います。

 中共もそれをわかっているから、懐柔工作に全力を挙げているようにみえます。その姿は「必死だなw」そのものです。

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 かれこれ七、八年前くらいから、香港社会は転換期に入っているように私にはみえます。具体的な事象として、大学の数が一気に増えました。それまでは大卒=エリートだったのが、大卒が量産されるようになって、その価値が下落しつつあります。

 なぜ大学が増えたかというと、これは香港社会における階層間の対流が減少したことによるものでしょう。要するに「香港ドリーム」と称された成り上がりの出現する可能性がほとんどなくなったのです。

 香港では戦後の混乱期を利用して成り上がり、富豪にまで登りつめた成功者が何人もいます。長江実業の李嘉誠はその代表格です。初代行政長官を務めた董建華は父親が成り上がって成功した、その二代目です。成り上がり富豪となった連中は一種の財閥を形成し、香港経済の主役となりました。

 いまはその二代目が仕切る時代になっています。社会は固まり、財閥支配が定着することで、「香港ドリーム」も過去の話となりました。「勉強ができなくても、商才と運があれば」という従来の考え方が通用しなくなったのです。

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 代わりに必要とされたのが、大量のホワイトカラーです。極端な言い方をすれば、財閥の手足となる兵隊への需要が高まったということになるでしょう。大学急増=大卒量産=大卒の価値下落は、ひとつにはそれを背景としているように思います。一方で庶民の側でも「香港ドリーム」が神話の世界になったことを実感していますから、自分の子供にせめて学歴をつけさせてやろうという考え方に変わってきています。

 印象的なのは、予備校が産業として成立したことです。1990年代初頭の香港には予備校なんてものはほとんど存在せず、家庭教師を雇うのが普通でした。ところが現在は予備校が乱立し、進学のための統一試験(会考)でAランクの教え子を毎年多数輩出する予備校教師がカリスマ扱いされています。関連広告が増えているのも、予備校産業が香港で伸びつつある証明といえるでしょう。

 むろんこれも、香港社会が成り上がり志向から学歴重視へと転換しつつあることを示しています。以前のような蛮性を残した香港人、その蛮性が魅力でもあり欠点でもあったのですが、いまの若い世代ではそういう香港人が減り、以前に比べれば小さくまとまった、小粒な印象の連中が大量生産されています。世代でいえば、港英政府つまり植民地時代に成人した世代あたりが、「やったもん勝ち」的価値観&行動原理といった蛮性を有する最後の香港人ではないかと思います。

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 底辺の教育的水準が高まり、社会が成熟していわゆる民度が高くなると、政治的権利を主張するようになることは自然の成り行きです。知識人や大学生のようなインテリ層だけではなく、2003年の50万人デモが示すような社会全体を取り込んだ民主化論議は、香港社会がそういう段階に達したことを示しています。私からみると、うれしくもあり、淋しくもあり、といったところです。――ただ前回「香港居民」さんが「香港不信」として御指摘の部分、

>50万人デモが不景気を背景としていたものであることは、そう思います。
>逆に言えば、最近つくづくここの人たちは懐が潤えば、大義を捨てるんだなと感じます。
>その現金さにつけこんで施策を次々と打ち出す中共の巧妙さにも感心します。

 いや、これは私も強く感じているところです(笑)。それだけに、今回のデモを一種のリトマス試験紙として眺めたいという気分が私にはあります。まあキリスト教グループが合流を表明して陣容をいよいよ固めた汎民主派の動員力からすれば、雨さえ降らなければ5万から10万、あるいはそれ以上という参加者数になっても不思議ではないと思います。デモを一種の「祭」と捉える向きもありますし、もともと香港は狭い割に人間がたくさんいますから。

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 デモの動員力については、たぶん中共政権を背景とした香港製府(曽蔭権政権)も私と似たような見方をしているのでしょう。多寡をくくりつつ万一に備えておこうという認識なら、ここまで「必死だなw」にはならないと思うのです。

 実例を挙げますと、まず民主派の懐柔という点では、胡錦涛政権において香港・マカオ問題を担当する曽慶紅・国家副主席が香港を訪問した際、主催したパーティーに民主派の立法会議員ももれなく招いています。その後、民主派議員を含めた立法会の広東省視察も行われています。以前なら中国本土入りを拒否されていた議員も含まれていますから、出血大サービスと言えるでしょう。

 これらは民主派の懐柔だけでなく、初代行政長官で市民から愛想を尽かされていた董建華を更迭し、香港基本法(ミニ憲法)によって自動的に行政長官へと昇格した曽蔭権(蝶ネクタイ)に対する側面支援でもあるかと思います。

 曽蔭権は英国統治による植民地時代から政府高官だったため董建華に比べると親中色がずっと薄く、有能な官僚であることは実証済みです(政治家としての実力は不明ですが)。実際、曽蔭権政権発足後の世論調査では董建華時代にはあり得なかった高い支持率を叩き出しています。

 曽慶紅のパーティーへの招待や広東省視察のゴーサイン、といった上述のイベントだけなら民主派懐柔で済ますこともできます。ところが民主化へのロードマップは示しても敢えてタイムテーブルを付け加えない曽蔭権政権の煮え切らなさに「曽蔭権も所詮は中共の犬か」と市民は焦れたのでしょう。『蘋果日報』(2005/11/30)によれば、香港大学が11月18-23日に実施した世論調査によると、曽蔭権の支持率は0.3ポイントだけ上昇したのですが、香港政府、つまり曽蔭権政権に対する支持率は10月末に比べて6ポイント下がっています。

 「一二・四」デモが意外に盛り上がりそうな空気が醸成されつつあるのでしょう。中共政権・曽蔭権政権はデモ直前となったここにきて慌ただしく手を打ち始めました。

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 まずは「あんのうん」さん御指摘の、この動きです。

 ●香港行政長官:07年までに「普通選挙制度」確立目指す(2005/11/30/10/45 サーチナ・中国情報局)
 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20051130-00000007-scn-int

 香港特別行政府政府の曽蔭権(ドナルド・ツァン)行政長官は29日、普通選挙制度の実施に向けた専門委員会について、今後、2段階に分けて検討作業を行い、2007年の行政長官任期終了前までには結論を出したいとの意向を示した。中国新聞社が伝えた。
(後略)

 ポーズだけで実質の伴わない動きです。少なくとも現時点においては。……そもそも今回の問題は曽蔭権政権がまとめた政治改革ロードマップにタイムテーブルがついていないことに端を発したものです。そのタイムテーブルは任期内にまとめるからロードマップだけでとりあえず勘弁してくれ、という口約束。

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 続いてこちら。

 ●曽蔭権が新提案、中国側を交えたタイムテーブル討議を(『明報』2005/11/30)
 http://hk.news.yahoo.com/051129/12/1j4is.html

 全人代(全国人民代表大会=立法機関)常務委員会の喬暁陽・副秘書長が香港政府の要請で深センに出向き、民主派議員19名を含めた約100名による会合を持ち、普通選挙制移行への具体的な討議を行おうと曽蔭権が提案。

 中共の意を受けた曽蔭権の動きですね。これもデモによる影響を極力軽減するための時間稼ぎです。

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 そして極め付けがこちら。

 ●曽蔭権がテレビ演説「目の前のチャンスを逸してはならない」
 http://hk.news.yahoo.com/051130/12/1j5lg.html

 タイムテーブルなしの政治改革ロードマップを受け入れろ、さもないと普通選挙の機会は逆に遠のくだろう、という脅しとも哀願ともとれる内容です。行政長官によるテレビ演説は2003年の50万人デモの直後にも董建華がやっているのですが、それほど切迫した事態になっているのでしょうか。ちょっと疑問です。いずれにせよ、なりふり構わぬ動きがここ数日で相次いで出てきたことで、「中共必死だなw」ということになるのです。

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 50万人も集まる訳でもなかろうに、どうしてここまで必死なのかちょっと理解に苦しみます。最近民主派が欧米を訪問してライス米国務長官やEUの要路に遊説したりしていますが、これは毎度のことです。

 実のところ、香港に普通選挙制を導入したところで、中共の高圧的なイメージが露わになってしまうかも知れませんが、実際には痛くも痒くもない筈です。どういうことかといえば、香港基本法の附則に行政長官選出制度と立法会議員選挙制度の改変についての規定が明記されています。

 行政長官選出制度を改めるには、まず立法会で採決された後、行政長官がそれに同意した上で、全人代常務委員会による批准が必要になります。要するに最後には中共がOKしないと駄目なのです。仮に中共が普通選挙制に同意しても、当選した行政長官は全人代常務委の承認がなければ当選と認定されませんから、当選者が中共の意に沿わない人物の場合、中共は選挙を無効としてしまうことができるのです。

 立法会の普通選挙化も似たようなもので、制度案を立法会で採択し行政長官がこれを承認した後、全人代常務委に届け出ることになっています。「届け出る」と「批准が必要」では全く意味が違うのですが、そこは全人代常務委が無理矢理な法解釈(釈法)で、立法会の選挙制度改革にしても「批准が必要」ということにしてしまうでしょう。

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 ……これが、香港なのです。たとえ普通選挙制が導入されて、自分たちでトップ(行政長官)を選べるようになっても、中共政権(全人代常務委)が「そいつはダメ。気に入らないから」と却下してしまえばそれまでなのです。

 要するに実態は植民地のまま、ということです。しかも統治者が英国ならまだしも、民度でいえば香港より半世紀は遅れているであろう中共が主人として君臨しているところに悲劇があります。水も電気も中国本土に依存していますから、逃げることもできない。

 そういう意味において香港はすでに終わっていると私は思うのですが、かように救いのない政治的環境においても「せめて普通選挙を」と叫ぶ香港市民には痛々しさとある種の哀しみを感じます。まあ、他人事ではありますが。



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