日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





 これはすごいですね。

 ●暴動急増、10年で7倍に=昨年は7万4000件-中国(時事通信)
  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050727-00000067-jij-int

 中国の公式発表なのですが、昨年1年間で暴動・騒乱・抗議活動などが7万4000件発生して、376万人がそれに参加しているとのことです。

 単純計算で、その種の事件が1日平均202回も起きていて、1日平均約1万人がそれに参加していることになります。公式発表でこれですから、実情はもっと深刻だと思います。

 中共指導部には「このままいけば潰れる」という感覚に似た強い危機感があるでしょう。

 ただそういう危機感にどれほどの人が同調し、行いを正してくれるかが問題です。

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 強い危機感が存在する証拠に、『人民日報』(2005/07/27)が諸名論評を掲載しました。

 ●安定を擁護し、発展を促進しよう
 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/27/content_3274042.htm

「……わが国の改革・発展はまさに正念場にさしかかっている。それは『黄金発展期』でもあり、『矛盾突出期』でもある。改革が絶えず深化していくなかで、必然的に利益関係の調整にも影響が及び、異なる人、異なる集団の間で改革・発展の成果を享受する程度が違ってくるのは避けられないことだ……」

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 論調としては今年3月の全人代(全国人民代表大会)における温家宝首相の「政府活動報告」のスタンスを踏襲しています。むしろ胡錦涛政権がスタートした昨年9月の「四中全会」(第16期党中央委員会第4次全体会議)において胡錦涛総書記が発表したコミュニケ、そこからの一貫した流れと言うべきかも知れません。以前から当ブログで再三指摘していますが、この「危機感」こそが胡錦涛政権の核心をなすものだと私はみています。

 その危機感の強さ、切迫感は、恐らく1989年の天安門事件(六四事件)やベルリンの壁崩壊、また東欧各国の共産党政権が相次いで打倒されていく中で「和平演変(平和的手段の形をとって共産党政権を打倒すること)を防げ」ということが盛んに言われた当時に匹敵するといえるかも知れません。

 それにしても「矛盾突出期」という言葉、何か最近どこかで見た覚えがあると思ったら、党中央が共産党員に行いを正すよう呼びかけたとき(共産党員の先進性保持教育活動)に用いられていました(「政府は『集団的事件』に打つ手なしかよオイ」2005/07/16

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 なるほど。今度は同じことを、党員だけでなく全国民に向けて言っている訳ですね。

「改革が深化していくなかで、ある種の格差や不公平、不平等も激化していくだろうが、それは極力是正していくから、みんな心をひとつにして、社会の安定を揺るがすようなこと(暴動・騒乱・抗議活動)はしないでくれ」

 そりゃ無理でしょう。

「国家の利益、民族の利益、人民の利益は永遠に国民ひとりひとりが第一に追い求めるものだ」

 という一節がこの論評記事にはあるのですが、果たして「国家の利益=民族の利益=人民の利益」という図式は成立するのでしょうか?だいたい中共政権自体が民意に拠って成立したものではないのに、よくもまあぬけぬけと。「民族の利益=人民の利益」というのもおかしな言い方です。ここでいう「民族」とはウイグル族やチベット族などもひっくるめた「中華民族」という虚構のことなんでしょうけど、誠に空々しい限りです。

 「黄金発展期」という言葉も空々しい。学生やニートのような生活を背負わない連中はともかく、社会人がそれを心から信じているなら、かくも多くの暴動・騒乱・抗議活動が起こる筈がないですよね。仮に「黄金発展期」が事実だとしても、大多数の国民はその果実を手にすることができない。だから冒頭に掲げた「1日平均202回」という数字になるのだと思うのです。「失地農民」(※1)という、実に悲惨な語義を有する言葉が昨年の十大流行語に選ばれたのもその反映でしょう。

 「発展こそが大原則」(發展是硬道理)というお馴染みの言葉も登場していますが、発展すればするほど、経済が成長すればするほど格差が拡大していくのですから、どうにも説得力に欠けてしまいます。

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 当ブログでもしばしば紹介しているように、土地収用などをめぐる暴動が全国各地で頻発しています。暴動になるのは、主としてそこに不公平・不平等があり、汚職があるからでしょう。でも暴動にならない土地収用や住民移転だからといって、不平不満も出ずにきれいに処理されているとは限りません。

 国営通信社の電子版「新華網」が最近、新華社系の『半月談』誌に出た文章を転載しています。土地収用・住民移転という作業、その実務部門の元担当者による赤裸々な経験をまとめたものです。

 http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-07/25/content_3263895.htm

 一読に値する記事です。これを読むと暴動のような騒ぎにならなくても、様々な形で党幹部による汚職がまかり通っていることがわかります。ここでいう汚職とは第一に公的資産の蚕食であり、庶民を泣かす行為でもあります。ただ泣かされ、泣き寝入りするしかない筈の庶民が汚職の片棒を担いでいるケースもあって、考えさせる内容です。

 以下にかいつまんで訳出し、その手口をみていくことにします。

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 ●移転者と結託して補償金を余計にせしめ、その分を移転作業の実務担当者と移転者で山分けする

 これはそのままの内容です。移転に伴う補償金を水増し申告。例えば本来30万元の補償金であるところを70万元にしてしまうのです。これは移転作業の実務を行う党幹部と移転者の間で話がついた際に成立するケース。70万元のうち35万元が移転者にわたり(5万元余計にもらう訳です)、残り35万元は党幹部の懐へ。その際に一部始終を目にしていた党幹部の部下に対し、口止め料が払われたりもします。

 ●不動産証明書のない住宅に証明書をでっち上げ、補償金を余計にせしめた補償金を党幹部が着服する

 移転作業に伴う汚職では最もポピュラーで、成功率の高い汚職だそうです。補償金額は移転者が住んでいた住宅の評価(等級)によってかなり変わってきます。ある移転作業では不動産証明書のない住宅に居住していた者には1平方メートルあたり268元、これが不動産証明書のある住宅だと1038元になるというように、大きな差が出ます。ここでは不動産証明書のない住宅に対して架空の売買取引をでっち上げることで不動産証明書を発行し、補償額を大きくして差額をせしめるというものです。

 ●実在しない架空の移転者をでっち上げる

 移転者の中に架空の人物を作り上げ、それに対する補償金を懐に入れるやり方です。「架空の人物」とは実在しない者だけではありません。すでに他の場所に引っ越していて移転対象地区に住んでいない住民の名前を使ったり、物故してこの世にいない住民をまだ生きていることにして関係書類を作成することもあるそうです。

 ●書類偽造

 まず上にも出てきた不動産証明書、これを「手続き資料の作成に必要だから」と騙して移転対象者から取り上げます。そて上級部門には本来の補償額で申請する一方、不動産証明書を改竄(専有面積を小さくするなど)し、移転者にはその改竄後の条件に応じた補償金を渡し、差額を着服するというものです。

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 ●住宅評価等級をランクダウンさせる

 移転者の住んでいた住宅の評価は専門の評価師が担当するのですが、すでに他の部門に転出している評価師の証明印を盗用し、評価ランクを不当に下げてからそれを移転者に通知し、一方で上級部門には本来の評価ランクで補償金を申請。その差額を党幹部がせしめるという訳です。

 ●強制収用をチラつかせて賄賂をとる

 読んで字の如しです。移転予定者の元に足を運び、「この住宅はこのままだと強制収用するしかないが、そうなると補償金は激減する。だが×万元を私に払うなら強制収用を回避するようにしてあげよう」というパワープレイ。移転予定者は泣く泣く賄賂を払うことになります。

 ●分割支給によって補償金の一部をせしめる

 これはまず住宅評価を細切れにすることから始めます。本来1件で澄むはずの評価証明書を何件かに分けて作成し、補償金の大半を移転前に支給し、残りを移転後に払うという分割支給の形にしてしまいます。例えば住宅1戸の評価証明書を6件に細切れにして移転前に5件に相当する金額を支払い、「残り1件分の金額は移転後に」という形にしておきながら、その残った1件の評価証明書を破棄して知らん顔を決め込む。破棄した分の補償金が党幹部の懐に入ります。移転者は不服でしょうが権力の報復を恐れて泣き寝入りするしかありません。

 ●暴力を以て脅し上げ、こちらの言いなりにさせる

 これは荒技の中でも最たるものです。移転を拒む住民に対し、水や電気といったライフラインをカットしたり、夜間に窓ガラスを割ったり、屋根に上がってそのあたりを引き剥がすなどの嫌がらせをします。公安(警官)や裁判所の支援を得て、罪をでっち上げて拘束した上で暴行を加えたり、司法の力によって故なく検束したりもします。それでもダメなら強制収用を断行するまでです。

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 この元担当者は最後に、

「もし移転作業が全て国の規定する補償基準にそのまま則って行われるなら、強制収用に伴う官民衝突事件などがあんなにたくさん起きる訳がない」

 と語っています。汚職があるから事件が起きる、ということです。

 確かに上に挙げたテクニックの多くは移転作業を行う「官」たる党幹部の汚職によるものですが、中には住民と結託するもの(住民の懐にもカネが入る)もありますから、根は深いと言わざるを得ません。

「みんな心をひとつにして……」

 なんて寝言同然。まさに孫文が嘆いた通り、中国人は「一盤散沙」で常にまとまらない(一握の砂の如く握っても指の間からこぼれ落ちてしまう)、という表現がぴったり当てはまるように思えます。その眼中には国家もなければ公の精神もない、と。

 ただこれはこれで歴代の統治者による苛酷な搾取ゆえに長い年月を経て自然に身に付いた知恵と言えなくもありません。庶民がいまなおその防御本能を働かさなければならないところに、中共政権の本質が透けてみえるように思うのです。


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 【※1】土地を収用され指定された移転先に引っ越す農民。移転先の土地が農業に適していないケースが多く、支給された補償金がわずかなため転業資金にもならない。いきおい移転前の生活レベルを維持できず、日雇い労働のようなその日暮らしの生活に堕ちてしまうことが多い。中国の歴代王朝が滅亡する前兆として発生する流民に等しい存在、といえなくもない。



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