かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

馬場あき子の外国詠171(中国)

2017年07月31日 | 短歌一首鑑賞

  馬場あき子の外国詠22(2009年10月実施)【紺】『葡萄唐草』(1985年刊)
    参加者:Y・I、T・S、藤本満須子、T・H、渡部慧子、鹿取未放
    レポーター:渡部 慧子
   司会とまとめ:鹿取 未放

171 長江の彼方より春は来るといふ雨はれて上海の桃ほころびぬ

     (レポート)
 上海は江南と呼ばれる長江下流の南部に位置し、気候温暖な地として知られている。ちょうど杜牧の「江南の春」という七言絶句があり、それを念頭にしての掲出歌ではないだろうか。中国の春は桜ならぬ桃が喜ばれ、中国人の憧憬としての桃源郷を、私達もよく知るところだ。おりしも「雨はれて」よろこばしく当地上海を讃えるべく「桃ほころびぬ」と詠いあげたのだ。(慧子)
       江南春
     千 里 鶯 啼 緑 映 紅
    水 村 山 郭 酒 旗 風
    南 朝 四 百 八 十 寺
    多 少 楼 台 煙 雨 中


          (当日意見)
★上海への挨拶歌である。「長江の彼方」と言って場所を限定しなかったところも良い。(慧子)
★きれいすぎる。先生らしくない。(T・S) 


     (まとめ)
 1983(昭和58)年3月30日から4月4日まで朝日歌壇選者として訪問した馬場にとって初めての外国旅行である中国での作。馬場の中国旅行は3回、その旅行日程と旅行詠掲載歌集を馬場あき子全集別巻などより抜粋する。

○1983(昭和58)年3月30日~4月4日
  上海(魯迅記念館、玉仏寺など)
  杭州(西湖、六和塔、霊隠寺など)~拙政園、獅子林など
  蘇州(西園、虎丘斜塔など)~上海
○1985(昭和60)年4月27日~5月3日
  蘇州、西安、北京
○1998(平成10)年
  シルクロード(ウルムチ、トルファン、敦煌、莫高窟、天山など)


■『葡萄唐草』   1985(昭和60)年11月   立風書房
   「紺」13首
■『雪木』     1998(昭和62)年7月      角川書店
   「向日葵の種子」11首
■『飛天の道』   2000(平成12)年9月      砂子屋書房
    「飛天の道」21首
          「李将軍の杏」18首
          「砂の大地」21首

 異国に初めてやってきたわくわく感が、大づかみな景の捉え方と弾むようなリズムから伺える。
まさに憧れの土地への挨拶歌で、土地褒めとして長江、桃の花をたたえている。そういうわけでT・Sさんの「きれいすぎる」という非難は当たらない。レポーターが引いた漢詩「江南の春」の書き下し文は次のとおり。(鹿取)
      江南の春
   千里鶯啼いて緑紅に映ず
   水村山郭 酒旗の風
   南朝 四百八十寺(しひやくはつしんじ)
   多少の楼台煙雨の中



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