かまくらdeたんか   鹿取 未放

「かりん」鎌倉支部による渡辺松男の歌・馬場あき子の外国詠などの鑑賞

 

愚息を語る会

2013年10月17日 | エッセー
 出身大学の同窓会組織に誘われて食べ歩きの会に参加した時、「愚息を語る会」というのがあると聞いた。まだ参加したことはないが、語る材料なら山ほどある。まあ、この親にしてこの子ありで、息子が自分に似ているだけなのかもしれないが。


 ある時は、外国にその晩発つのに、ふと気がついたら替えのズボンがなかった。あわててタクシーでユニクロに買いに走ったらタクシー代の方が高かった、そうだ。
 またある時は、銀座で友人と食事をしていたら、ケータイに電話が入って、大事な書類を忘れたから飛行場まで届けてと言われて、横浜の自宅にとって返し、成田まで届けさせられた。


 そしてある時、夜の12時過ぎに帰宅して、明日の朝早くの飛行機を予約したが、始発の電車に乗っても間に合わないことに今気がついた、と言う。仕方がないからタクシーで行くしかない、お金は私が出すから、と言ってみたが、それでは早朝格安のチケットを手に入れたかいがない、という。
 結局、大学の後輩に車で送ってもらう交渉が成立し、午前3時半に近くの国道の交差点まで迎えにきてもらうことになった。後輩に気の毒だは、交通事故も気になるは、心配でこちらは眠れなかった。
 やがて、息子の部屋の目覚まし時計が鳴った。3時だった。起き出してシャワーを浴びる音がする。3時10分、浴室から出て自分の部屋に入った。ばたんばたんと荷物を開け閉めする音がする。まもなく静かになった。そしてずーと静かだ。3時20分、待ち合わせ場所まで5分はかかる、気が気ではないが、口出しするとおせっかいだと怒るに決まっているので、自分のベッドで黙って我慢した。21分、22分……がまんできなくなって起きだし、息子の部屋をノックして開けた。
 息子は、のんびりとベッドに腰掛けて、5本指の靴下を履いているところだった。