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マンション共用ロビーでの喫煙について

2008年01月15日 02時56分31秒 | 法関係
中々面白いテーマであると思ったので、少し考えてみたい。
自分の首を絞める喫煙者 - NATROMの日記

こちらで紹介されている元記事は、読むと笑える。
とはいえ、最近はこうした高齢者同士のイザコザは結構増えていると予想され、時には過激な騒動に発展して、殺傷事件となっている例も散見される。できるだけ近所での紛争がないように暮らしていけばいいと思うのだが、現代はそれが難しいのかもしれない。都市化が進んでいなかった昭和の時代であれば、庭で落ち葉を燃やしたり(焼き芋も焼いた?)、七輪でサンマを焼いたりして、周辺に煙を撒き散らしていても、さしたる紛争などには発展していなかったのかもしれない(見たわけではないので知らないけど、笑)。サザエさんとかでも、そういった描写が出てきたりするからね。しかし、現代では細かいことに気にする人々が増加して、「歩く足音がうるさい」「公園の子どもの声がうるさい」「学校の吹奏楽の練習がうるさい」「バーベキューの煙が来るのがウザい」…考え付かないけど、そういう色々な問題を抱える人たちが大勢いるのだろう。中には、何かと「訴えてやる!」みたいに、某丸山弁護士が出演していたような番組タイトルみたいなことになってしまったりするのかも。

本題に戻ろう。
元記事の登場人物は「愚生」「管理人(爺さん)」「婆さん」で、パイプ愛好家の愚生という方の言動が中々に味わい深い(笑)。普通の人はこうした対応を取ることは少ないと思われ、わざわざ紛争を呼び起こしているようなものであるという印象ではある。これを「常識に欠ける」という非難をされる可能性は高いと思われるが、「愚生」殿の言動が何故発生したかについて、興味があるのである。これは小学生とかが、「廊下は走ってはいけないんだよ」と他の児童に注意された時に、「誰が決めたんだよ、何時何分何秒に決めたんだよ」的な反駁を想起させるものである。「~してはいけない」という主張に対して、そんな決まりなんてないんだよ、と自己を正当化しようとする試みに似ている。通常であれば、仮に明示的なルールとして決まっていないとしても、集団生活というか社会的な行動を考慮する場合には、一般的にいう「その他大勢」の集団構成員が「ルールを破っている」とか「禁止されている」と考える(判断する)ような行為を敢えてやるべきものとは考えないであろうし、「注意されれば行為を止めるであろうことが期待される」ということを知っているであろう。それが普通の「常識的振る舞い」である、ということ。そういう普通の反応から大きく逸脱すれば、一般的には「非常識ね」という評価を受けるだろう。

前置きが長くなってしまったが、本件において「愚生」殿(以下面倒なので、愚生とする)の行為について法的に何らかの規制が働くのかどうかを検討してみたい。

要点を書くと、
・愚生はマンションロビーにおいてパイプで喫煙を行った
・居合わせた老女(以下、婆さん)が喫煙を止めるよう注意(要請)した
・愚生は止めなかった
・婆さんは管理人に訴えに行った
・管理人は止めるように注意した
・愚生は管理規約の禁止行為にロビーでの喫煙がない旨主張
・管理人は他の人の迷惑だから止めるよう主張
・愚生は認めず、管理人や婆さんに協力する気がないと主張

まあ一連のやり取りからすると、愚生は本当に愚生だな、と誰しも思うであろうが、ここではおいておこう(笑)。


ここからは論点を分けて考えてみる。

①「マンション共用ロビー」という空間は何か?

まず、電車内のような公共性の高い空間であるかどうかが問題となろう。そこで、ロビーとは何か、ということを考えるが、見解は若干分かれる可能性はあるものの、公共交通機関の中であるとか、学校や施設内といった空間とみなせるかというと、否であろう。参考になるのは、ビラ投函事件である。
東京新聞政党ビラ配り 逆転有罪判決の要旨注目の要旨・全文特集・連載TOKYO Web

ちょっと特異な事件なのですが、この事件の本質的問題とかはおいておくとして、マンションのような集合住宅での共用空間(ホール、階段、ロビー等)は、郵便などを入れる限定的空間を除けば「住居」であるという認定です。すなわち、家の中とほぼ同じであって、それ故「住居侵入罪」の成立が認定されているのです。無罪判決であった1審判決でも居住空間であるとする認定となっています。よって、マンションロビーは乗り物や公共施設などの公共空間(公共性の高い空間ということで、こう呼ぶこととします)と同一ではなく、より私的な性格の強い空間である、ということです。ほぼ住居と同じ意味合いを持つ居住部分、ということです。

②健康増進法は?

よく禁煙または分煙の根拠として取り上げられる法律としては、健康増進法があります。
受動喫煙防止対策について

ここでの規定は、次のようになっています(以下に引用)。

○受動喫煙とは「室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされること」と定義

○学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店が明示されているが、同条における「その他の施設」は、鉄軌道駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、金融機関、美術館、博物館、社会福祉施設、商店、ホテル、旅館等の宿泊施設、屋外競技場、遊技場、娯楽施設等多数の者が利用する施設を含むものであり、同条の趣旨に鑑み、鉄軌道車両、バス及びタクシー車両、航空機、旅客船などについても「その他の施設」に含むもの

つまり、マンションロビーのような空間は対象外、ということになります。そもそも「公共性等の当該施設の社会的役割」を考慮すべきとされるので、公共空間では禁煙や分煙の管理を行うことが管理者に求められる(努力)という性格の法律であって、私的空間については管理者の努力は求められていません。従って、マンションロビーにおいては、健康増進法に基づく禁煙又は分煙措置を管理者に求めることはできないように思われます。

③禁煙措置は可能か?

愚生のような居住者(笑)がいた場合に、対抗措置はあるかどうかでしょう。
普通に考えると、例えばルームシェアのような状態である場合に、部屋を禁煙にするとか、喫煙できる場所を決めるといったことは、居住者間の取り決めによって決定されるべきものであると思われます。一軒の家でもいいですが、夫の喫煙について禁止するとか、この場所で吸えとかを決定するのは、住んでる人たちの中で解決しないさい、ということであろうと思います。本来的には、私的空間である居住空間においては、法が介入して決定するべきものでもない、ということかと。よって、マンションの共用部分についての禁煙措置についても、居住者で決定すればよい、ということになります。

この居住者による取り決めとなれば、原則的には管理規約に基づくということになるでありましょう。多数の居住者たちに「禁煙とする」という共通認識が形成されていれば、必然的にロビーは禁煙にできるでしょう。ただ、この場合には各居住者に「ここは禁煙場所である」ということが明示的である必要があるでしょう。

本件の論争時点では規約にそうした規定はなく、愚生が主張した「管理規約にはない」とか、管理人の迷惑だから止めてくれという要望を「聞き入れる義務はない」ということは、あながち間違いとも言えないでしょう。喫煙について「禁止すべき行為」との認識が多数の居住者間に形成されていたことを示す証拠は特になく、もしも禁止したいのであれば規約に盛り込むべきでしょう。

以上から、簡潔にまとめますと
・マンション共用ロビーは公共空間ではない(=住居とほぼ同じ私的空間)
・健康増進法は禁止の根拠とならない
・管理規約で明示的に規定するべき
ということです。


ここからは法的にどうということではなく、行動の面白さを見てみます。

少なくとも愚生の言い分と管理人や婆さんの言い分を比較しますと、より「ルール重視」なのは愚生の方なのであって、法を重んじているかのようです(笑)。管理人や婆さんが言い負けたのは、法に訴えられなかった為である、ということです。愚生がこれほど自慢気に自分の武勇伝を書いているのは、こうした「法に訴えた結果」勝利したのだ、ということを知らしめるためでしょう。愚生のとった戦略とは、ルールに訴えることにより正当性の強化を図り、そのルールの不備を突くことだったのです。それが「管理規約を穴が空くほど精読」していた、ということで裏づけられています。

これと同じような光景を思い浮かべる人がいるかもしれません。そうです。ホリエモンがそうでしたね。
彼もまた、「法に書いてない」というルールの不備を突いて電撃作戦を敢行しました。招いた結果はご存知の通りであり、法の不備をつく不届き者が増える懸念が増大すれば、より面倒で複雑なルールが増やされてしまうということになるだけなので、社会全体にとっては良いことなどありません。愚生は恐らくかなりの年配の人間であり、管理人と同年代と言っていることから、「せいぜい長生き」していてもこの程度、ということが判明しただけです(笑)。

傾向としては、ルール(法)に訴え、これを盾に取るのは、大抵が良からぬ動機などを抱いていることが多いのかもしれません。法に頼らずとも、信義を重んじ、良識に従えば、多くの事柄は解決に向かうはずなのですから。それが、「愚生」などという高齢者しか用いない表現を用いるほどに人生経験を積んだ年配者であっても、理解できない・自覚できないような社会となってしまっている、ということなのでしょう。これでは若年層にお説教をしている場合ではありませんね。まずは、法の不備をつくような主張を恥ずかしげもなく行う高齢者をどうにかした方が宜しいでありましょう。





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