前にちょっと書いたことがあったけど、その続編が出ていた。
もうね、驚愕の本ですよ!
またもやフォレットさんがやってくれましたよ!!
素晴らしい、の一言ですわ。
「映画化されて欲しい本」のランキング
今2巻目まで読み終えたところ。
1冊1冊がかなり厚いので(尊敬すべきアガサの巨大本ほど厚くはないよ、勿論)、初めての方には抵抗感があるかもしれないが、完読できることうけあい。喩えて言えば、大河ドラマを観ていくような感じなので、分量が気になるということはないだろうと思う。
この中で繰り広げられる世界は、これまで私の関心事であったことに多くの示唆を与えてくれるものであった。あまりにピンポイントをついてくれているので、自分のために書かれた物語なのではないかと錯覚するくらいだ。
うまく書評を書けるわけではないので、是非とも実際に読んでもらいたいが、個人的感想を簡単にいうと、多くを学べる大変良い教材となっているな、ということである。例を挙げてみよう。
・経済活動(生産、イノベーションや市場等)、経済成長といった昨今の話題の核心部分が物語の軸となっている
・守旧派勢力との闘争がある:
既得権益を守ろうとする勢力には、教会勢やギルド勢などがいる。そういう人々の全部が守旧派ではないことも重要。新たなチャレンジなどに協力的な人々も多く登場する。現代でもありがちな話なのだ。
・裁判、特に行政裁判:
現代の裁判や司法制度とは異なるけれども、行政裁判的な話が数多く出てくる。「原告適格」(!)というような論点さえも出てくるので、過去にブログに書いてきたことが思い出された。大都会の弁護士(笑)は、現代とあまりによく符合している、と思わず膝をうってしまいそう。裁判は必ずしも物事の解決の為にあるのではない、ということを思い出させてくれる。
・公共事業:
前作でも大聖堂建設にまつわる大きなテーマではあったが、今回ではより具体的な現代風テーマが加わっている。いわゆる公共事業というものだ。しかも橋だ。橋建設のプロジェクトという公共事業の視点で見てゆくので、物語の重要な骨格を作っている。経済活動の運送・運搬といった話とも密接であるし、市場というものもよく捉えられている。PFIっぽい話とか、そういうのも学べる点だ。
それと、共振現象で落ちた橋のこととか、拙ブログに書いたことが思い出された。
・医療のこと:
旧来の呪術的なものとか祈りとかとの対立。自然科学的、経験科学的立場と、宗教的立場やこれまでの権威とか古い手技に拘るとか、そういう重要なテーマがある。外科医バーバーや、薬師ならぬ薬草調合師などが見られる。看護の伝統としての修道女や修道院などの役割も描かれる。地下鉄サリン事件の時、聖路加に運び込まれていった多くの被害者たちの情景が、大聖堂一杯に運び込まれる怪我人たちの光景と脳裏で重なった。
また、出産に伴う大量出血や出産死というものが(当時の)生活者の感覚で描かれており、現代では忘れ去られている女性たちの偉業を再認識させてくれる。物語中全体に言えることだが、「女性たちからの視線」に好感が持てる。産婆さんも、出産にまつわる女性たちも、修道女も、それぞれの女性がどんなふうな立場でどんな関わりで、というのがとてもよい。
・そして大聖堂:
欠かすことのできない、底流にある存在。もう定番中の定番というか、これは必然ね、という部分ではある。
今回は、主にミスや事故といった原因究明のあり方とかテーマが関わっている。
やや外れるが、建築関係だけではなく、筏とか歯車とかそういう工学系っぽい話も出てくるので、職人さんとか数学や物理学といった科学への共感が深まるんじゃないだろうか。
ま、いずれにせよ、私からは「今すぐ嫁」と言ってあげたい。
これはもう、大絶賛。
無駄なビジネス本&ハウツー本や、著名人が執筆している役立たずのウソ八百本(笑)なんかを読むくらいなら、『大聖堂』を読んで自ら考えるべし。