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経済危機の一因は中国?

2009年01月23日 17時05分41秒 | 経済関連
ポールソン発言が発端となり、米国メディアの論説にも反感を覚えた中国、ということのようだ。

「金融危機の原因は中国の高貯蓄率」は責任逃れ -- pekinshuho


確かに、どちらの言い分も判らないでもない、という部分はある。この問題についてもう少し考えてみたい。


①「中国は被害者」という言い分

これは、間違いではないだろう。元々はサブプライム・ローンという米国発の借金が問題となったわけだから、その点においては中国側の言い分は間違いではない、ということだ。ただ、そのことは今回の経済危機全体の本質的な話と繋がっているかと言えば、そうでもないだろう。なぜなら、米国発の「この借金」が悪いことの原因であり、そこに全ての問題が集約されているなら、損害額は高々知れているであろう。これほどまでに大きなダメージとはならない。もっと世界経済全体を巻き込むような、大きな欠陥が潜んでいない限り、ここまで世界中に経済危機は拡散したりはしなかったであろう。


②ITバブル崩壊後に世界は何が変わったか?

世界的に起こった最も大きな変化を挙げよと言われれば、「中国の台頭」、これに尽きる。世界経済のうちの労働供給に大いなる貢献をしたであろう。これまでに国際貿易という世界経済機構に参加していなかった数億人が、一気に流入してきたのだから。これまで日本や欧米等の先進国で行われてきた労働のかなりの部分が、中国に移っていった。このモデルは新興国にも当てはまる部分はあるだろう。かつては先進国の住人の中だけで、靴やパンティやバスタオルを作ったりしていたのを、今度は中国やメキシコなどで作るようになったのだ、ということ。更には、台湾や韓国で組立ていたパソコンも、中国に部品を全部持ち込んで(一部は中国で生産して)組み立てられるようになった。中国は「世界の工場」となった。


③中国経済の傾向

貿易依存度が高く、名目GDPの約4割に達する(日本:約16%、米国:約12%)。逆に家計消費は過少であり、僅かに35%程度しかない(日本:約60%弱、米国:約70%)。政府最終消費支出も少ないので、中国経済は消費のウェイトが小さい、ということになるであろう。代わりに、固定資本形成が多い。

全体像としては、海外からの投資呼び込み(=人口規模、潤沢な低賃金労働力など)、ということが第一である。市場規模は、単独でもかなりの大きさを持つので、需要増が期待された。近年は都市部において賃金上昇率が高くなり、コスト競争では圧倒的優位ということではなくなってきたが、それでも一人当たり所得の低さなどは他の先進諸国に比べるとまだまだ優位である。
第二は、組立(加工)貿易等を中心とする輸出である。世界第三位にまで成長した輸出高によって、外貨を獲得し続けてきたということになろう。この外貨の使い道が恐らく問題になるのだ。
第三には上記で触れたように、国内の個人消費が弱く、貯蓄率が異常に高いということがある。


④「中国マネー」はどのような影響を与えたか?

米国以外の第三国への資金投入ということが行われるようになった。例えば、アフリカや中央アジアなどの途上国と呼ばれる国々に対して、中国マネーが向かうようになり、中国の政治的価値を高めることに用いられたという面がある。同時に、資源戦略ともいうべき先行投資とも見ることができるであろう。

そして、今回槍玉に挙げられたのは、中国マネーが米国に向かった、ということであろう。これは以前から謎とされていた現象の一部であるかもしれない。
「インフレ期待」封殺を目論む日銀総裁

この記事中で触れたけれども、米国長期金利(国債指標金利)が上がっていかない、という05年当時の謎のことだ。

米国の金利引き上げは続けられていたわけだが、短期金利が高くなるものの、国債金利が上がっていかないという現象があり、金利差だけでは説明が難しいという要因であったのだろう。判りやすいのは、記事中にも触れたように、新発米国債の需要がかなり多かったのではないか、ということだ。その買い手になっていたのは…そう、誰もが思うように、中国だった、というわけだ。


⑤中国の外貨準備高は08年末まで増加の一途を辿ってきた

中国国内には投資対象が限られるということがまずあって、投資資金や投資主体は主に海外勢であったのではないか、ということだ。日米欧の投資額は06年以降には既に減少(前年比マイナス)に転じており、それ以外の国々が対中投資をしていたのだ。また、中国が輸出で獲得した外貨は、中国国内投資にはあまり使われず、海外に資金が向かったものと思われる。それは、先の第三国投資や米国への投資、ということであろう。

その傍証としては、06年秋に日本を抜いて外貨準備高世界1位になったこと(約1兆ドル弱)、その後も増加を続け、08年末には1兆9千億ドル以上と、2年で約2倍の準備高となった。ドルの保有分のうち、米国債購入に充てられる額は増大を続けた。

MAJOR FOREIGN HOLDERS OF TREASURY SECURITIES

こちらの資料によれば、中国は日本を抜いて米国債保有1位となっている。08年11月時点の持ち高は6819億ドルで、日本より約1千億ドルも多いのである。
(この資料は中々興味深いので、後ほど別な話も書いてみたいと思う)

中国の外貨準備高約2兆ドル分あったうち、約6800億ドルが米国債だとして、残りは何なのか、というのが気になるところです。先日、この外貨準備金の損失が拡大して準備高が減ったという報道があったが(確か1兆6千億ドルに減った、とか)、それはどういった損失だったのかは不明である。

ただ言えることは、米国債の購入が中国や産油国(特にドルペッグ国)の潤沢な資金によって買われていた為に、米国の長期金利が抑制された状態が継続し、結果的に「借り手の調達金利」までもが低い水準となってしまった可能性はあるかもしれない。つまり、ベースになる長期金利が低い水準である為、そこに上乗せされて貸出や投資に回る資金の調達コストがあまり高くはならなかった、ということである。これが借り手にとって甘い環境を作り出し、貸出も借り手の規律も緩んでしまった、ということであろう。

具体的な数字で例を書いてみる。
ある時点で、基準となる長期金利(長期プライムレートみたいなものでもいい)が4%、これにリスクプレミアムなどが上乗せされて、借り手は6%の金利で資金調達する、と。この借りた資金を別な投資対象に投資して儲ける、ということになる。投資や経済活動が過熱してゆくと、中央銀行は金融引き締めに動き、政策金利を引き上げる。すると、基準となる長期金利はつられて上昇することはあるだろう。以前には4%であったものが、金利引き上げによって6%となれば、これに同じリスクプレミアムが乗せられても、借り手にとっての調達金利は8%となり、それだけ投資対象が限られてゆくことになる。これを超えるリターンが期待できなければ、借りないからだ。そうやって引き締め効果が出るはずだったのが、政策金利を引き上げても基準となる長期金利が上がらず(国債の買い手が多数いて、どんどん買われていくため)、その結果投資活動が過熱しているのに借り手の調達コストが上昇していかない為に、これまでと同じリターン水準で投資が続けられていってしまう、ということになるだろう。

ある種の価格調整機構の機能不全みたいなものだな。
それは需要がどんどん増えていっているのに、価格が上がっていかない為に需要抑制には繋がらない、というようなことだ。調達コスト6%の時の借り手にとっての価格は1万ドルにつき600ドル。金融引き締めでコストが8%に上昇すると800ドルに値上がりする、ということになる。この800ドルを上回る投資対象以外には投資できなくなるので、借り手にとっては条件が厳しくなるということになるのである。つまり過熱を防げるということだね。けれど、こうした調達コストの値上がり(=金融引き締め)がうまく機能しないと、短期金利だけが上がるけれども長短逆転現象みたいなことになってしまって、借り手の調達コストの価格(=調達金利)が上がらないままとなる。借り手は安い方を選択すればいいだけだからだ。

これが、過剰貯蓄を原因とする国が米国債買いを行った結果、借り手の調達コスト価格の調節機構を麻痺させたようなものだ、というロジックなのではないだろうか。


⑥何が問題なのか?

ガイトナーが暗にほのめかしていたのは、「中国が為替を意図的にコントロールしているからだ」ということであろう。「オバマ大統領は知っている」という言い方をしていたけれども。

これは確かにそうだろう。
05年に、雀の涙ほどの「たった2%」の元切り上げを行って大義名分を果たしたふりをした中国だけれども、その後のドル元のレート調整は鈍いままであるからだ。これは中国側が意図的に変動幅を抑制しているのであり、結果として巨額の貿易収支黒字を生むのと、獲得外貨でドル(or米国債)を買うとか、米国企業やその他資源関連企業等の海外資産などを買ったりする資金に回されているようなものなのだから。

ドル元レートは05年の切り上げ時に1ドル=8.1100元で、現在は6.8371元である。約4年での変動幅はざっと16%に過ぎず、年に4%増価していけばいいという程度の調節しか働いていないのである。日本だと、プラザ合意以降の急激な円高に見舞われたりして、激しい変動の中を生き延びてきたのだけれども、中国はそういう変化を極力避けようとしてきたのだ。元の為替変動は、判りやすくドル円で喩えるなら、1ドル=150円だったのが、翌年には144円、次の年に138円、次に132円、次に126円という程度である。これが年に4%の増価であって、150円→126円という変化が4年越しで起こりました、というだけに過ぎないのである。全然大した変化ではないのだ(笑)。

中国にとっては、元安を維持する為に国内経済を犠牲にしているようなもので、インフレなどにも悩まされることになるのである。為替の調節機構が働けば、元高となってインフレが抑制されるし、国内経済にとってはプラスに働くだろう。貿易依存度を相対的に下げ、内需拡大には適しているはずなのだ。今の経済構造を続けても、いずれインフレに悩まされるようになるだけであろう。実際、08年には賃金上昇率が2ケタの伸びとなっていたり、消費者物価上昇率もかなり急激なものとなっていた。

なので、変動幅を大きくすることを受け入れるなら、貿易収支不均衡や対外投資不均衡などが緩和され、国内消費のウェイトを多くすることができるようになるだろう。輸出だけで伸びていこうとしても、どこかで限界は訪れるだろう。国民全員が豊かにはなっていかない。通貨高は均等に人々を裕福にするが、外貨獲得(貿易黒字)増大だけではごく一部の人間に富が集まるだけなのである。

これは、日本が得た教訓だ。
「輸出頼み」みたいな錯覚に陥ると、たった2割しかいない製造業のせいで、日本全部をダメにされてしまうわけだよ。
分散投資と同じ意味合いなので、できるだけセクターがバラバラの方が変動に対するバッファーが確保できるのだ。前にも書いたけど、株式の銘柄を分散するのと似ているし、農作物の作付けを「地域、品種、生産物」というように分散している方が危機には耐えられるはず。

なので、貿易ばかりに依存しない経済の方が、ドカンと一発当てられないかもしれないが、逆に変動には強くなるだろう。1銘柄だけに集中投資していれば、値上がり益も大きいけど、損失時にも大きくやられる、ということ。




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