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オール人力狙撃システム試作機

崩壊は止まらない

2007年03月01日 18時15分42秒 | 社会保障問題
巨大なダムが決壊する前兆のようなものかもしれない。はじめは小さな穴から漏れていくが、いずれ大規模に流れ出る。耐え切れなくなった壁が破壊されるのである。そうなってしまえば手遅れである。

雪崩が起こっていることを、なぜもっと真剣に考えようとしないのだろうか。警鐘はずっと前から鳴っていた。これまでのシステムが支えきれなくなった時、人材が枯渇する。教える人も、現場の担い手も、全てが失われた後になって気付いても遅いのである。


Yahooニュース - 産経新聞 - ICU医師全員退職へ 国循センター 執刀との分業困難

(以下に一部引用)

国立循環器病センター(大阪府吹田市)で、外科系集中治療室(ICU)の専属医師5人全員が、3月末で同時退職することが28日、分かった。同センターは国内で実施された心臓移植の半数を手掛けるなど循環器病治療の国内最高峰で、ICUは心臓血管外科手術後の患者の術後管理・集中治療を受け持ち、診療成績を下支えしてきた。同センターはICU態勢の見直しを検討している。

同センターによると、ICUには5人の専門医が所属。所属長の医長を含む2人のベテラン医師が辞職を表明したのをきっかけに、指導を仰げなくなる部下の3人の医師も辞職を決めたという。

 ベテラン医師2人は辞職の理由を「心身ともに疲れ切った」と説明しているという。

同センターのICUが対象とするのは、先天性心疾患や冠動脈・弁疾患、心臓移植、大血管疾患などさまざまな心臓血管外科系の難病患者。成人だけでなく小児も対象とし、外科手術後の患者の最も危険な時期の全身管理や集中治療を24時間態勢で行ってきた。ICUの入院病床は20床で、年間1100症例を超える重篤な患者を受け入れ、常に患者の容体の急変に備え、緊張を強いられる環境にあった。




多くの医療関係者が警告してきたように、支えてきたものが失われた時、「心が折れる」のである。その結果が、こうした雪崩現象となってしまうのである。国立循環器病センターは国内有数の施設である。そこで働く医師やスタッフたちも、勿論優秀な人たちであろう。このセンターで仕事ができることが誇りにはなっても、不名誉ということは普通では考えられないのである。にも関わらず、流出を「止められない」のである。雪崩現象が起これば、止めようがないのである。


何が直接の要因なのかは窺い知れない。憶測で申し訳ないが、私からみた要因をいくつか挙げてみたいと思う。

一つは、未来が失われたことだろう。それはこれだ。もう1年以上前だが。
話題シリーズ22

国立がんセンターだけではなく、他の医療センター施設も独立行政法人化するという計画なのである。

国立高度専門医療センター関係について

愚かしい。これは国家公務員を数で削る、という数値目標だけの為に考えられたことなのである。頭数を減らすには手っ取り早いからだ。省庁の中枢は事務系に握られているから、当然のことながら「省庁毎に割り当て」をされてしまえば、技術・現業?系の部門を削るに決まっているのである。独立行政法人になることが決まれば、例によって採算・経費削減・効率化せよ、みたいなのを事務方から押し付けられるのだ。どの道、将来の展望というのは開けてこないような気がするだろう。それに、大幅な制度改変ということになれば、文書の作成業務だの、どうでもいい会議だの、そういうのにも駆り出されるだろう。元がお役所事務なので、「~計画」を作って出せ、とか、「○○配置基準を作ってだせ」とか、なになにの概算経費を計算して出せ、とか、どういったことがあるのか実は全く知らないが、恐らくこういった「雑務」が膨大に増えるのではないか。連続勤務も過酷ではあるが、その他にこうした運営業務に関わる雑務もこなさねばならないことを思えば、馬鹿らしくなってくることは十分考えられるのではないか。


もう一つは、奈良県の「たらい回し」報道に関するものだ。
参考記事:続・奈良の妊婦死亡事件について

この時、最終的な受け入れ先として決まったのが、確か国立循環器病センターだけだった。他が全て受け入れられない、という状況であったからだ。ある程度高度な医療が可能な施設というのは限られる。近隣府県からの救急搬送が増加するということになれば、院内でさえ手一杯であるのに、限界を超えてしまうであろう。その上、転送されてきた患者が不幸にして死亡したりすれば、バッシングに晒される。誰に責任があったのか、どこでミスったのか、過失がないにせよ「犯人探し」が行われる。どこの医療機関も恐れて「ウチではできない、手に負えるものではない」と拒否すれば、最終的に行き着ける場所は最も高度な医療機関しかないのである。国立循環器病センターには、その拒否権はないのかもしれない。そうなれば、ありとあらゆる責任を押し付けられるのだ。他の誰も手出ししない、できないものばかりを引き受けねばならないのである。それには、スタッフ数や医師の人員が必要であるが、チームが編成できないような状況の中でもお構いなしに送られてくるのである。

バレーボールの試合をするのに、6人必要なところを「お前らは生産性が低いから、5人で6人分の働きをせよ」とか言われて、どうにか試合をやり続けるが、少ない分だけ1人ひとりへの負担は大きくなるのだ。そこで更に1人ケガでチームを離れてしまうようなことがあれば、今度は4人でやらねばならないのだ。これが3人になれば・・・つまりチームとして成立しない状況になっていくことが明らかであるなら、全員が試合を放棄せざるを得ないのである。

実際、問題になった奈良県の妊婦をICUで受け入れたかどうかは判らない(救急部門が別にあればそちらかもしれない)が、当事者でなかったとしても「もう疲れたよ・・・」のネロ状態になったとしても不思議ではない。あの報道や騒ぎ方を見れば、「限界だ」というところに行き着いてしまうだろう。そして、実際そうなってしまった。「心身ともに疲れきった」との言葉にそれが顕れている。

メディアは、これを一体どのように考えているのであろうか。

高度な医療を担う最先端の現場で、撤退する医師が続出すれば日本の医療は大きく後退するだろう。その不利益を蒙るのは、国民なのだ。煽動して、注目を集めることだけに関心を持っていたメディアが、誤った方向へと世論を誘導し、国民から医療を奪ったに等しい。


政策面からは、医療費抑制策だけに固執していることが明らかであるが、これも大きな誤りであると改めて言っておきたい。今後の日本のサービス価格を押し上げるのは、健康・医療分野、そして教育分野なのだ。これが「非製造業」における成長分野の2本柱である。製造業は競争激化や相対的に安価な製品供給が進むので、新興国がとって変わるだろう。しかし、サービス分野は代替が困難な面があるため、成長が期待できるのだ。それ故、営利企業群が虎視眈々と狙っているのがこの2つの分野であり、「規制緩和」と称して参入し利益を貪ろうとしているのである。純粋に営利目的が存在理由ともいえる企業がこういう分野を手がけると、とんでもない結果が生まれそうではある。

医療分野での「生産性が低い」というのは、価格統制が厳しすぎる結果にすぎず、本来的にはもっと価格が上昇しなければならないはずである。医療全部のコストで考えると、安すぎるのである。製造業では技術革新などや競争によって従来1000円でしか作れなかったモノが、中国とか安い海外工場で作ったりすれば100円で作れる、ということが起こるのである。収入が同じであれば、定型的な消費財が安く手に入るのであるから、これまでモノに使っていた1000円が100円で済むのであるから、残り900円を他に投入するのは当たり前なのである。だが、それが理解できない経済界の人々や行政府にいる政治家や政策立案者たちが多いのである。財価格が相対的に低下していく中であれば、経済成長に伴って教育費や医療費といった財以外のサービスの相対的割合が増大するのは当たり前なのである(笑)。

大学教授の給料がべら棒に高いのは、教授の能力が高く職業固有の絶対的生産性が高いからではない(笑)。ただ単に、授業料が値上がりしただけだ。教育サービスの価格が高くなったのは、技術革新でも何でもない。むしろ、質的には劣化しているかもしれないが、他の消費財価格が相対的に低下した為に、教育に投入できる資金の割合が多くなっただけだろう。職業固有の生産性向上になんて全く貢献していないのが、教授である。政策を考える時、そういうことも考慮して頂けると大変有り難い。


いずれにせよ、医療崩壊が重要な医療機関、それも最先端を担うべき現場で起きていることに最大の注意を払うべきである。これ以上の警鐘はない、と考えるべきである。



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2 コメント

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Unknown (カレン)
2007-03-01 21:15:41
>今後の日本のサービス価格を押し上げるのは、健康・医療分野、そして教育分野なのだ。これが「非製造業」における成長分野の2本柱である。


私は健康・医療分野は今後伸びると思いますが教育はどうでしょう?むしろ公教育の強化で少しずつ塾が不要になるような。(少子化の要素の一つが教育費の高騰の為)日本の実践的でない大学教育や大学受験を目的にするシステムが無駄との理論が沸いてくると思いますが甘いかな?

それと日本に掛けているのは金融の運用力と個人消費を喚起する余暇だと思います。アメリカに比べ10ポイント以上低い個人消費と第三次産業の就業率。日本は残業が多く平日の余暇時間が無く、長期休暇も無い。物を買う消費スタイルよりサービスを買うスタイルのほうが国内でお金が回るわけで雇用も増えます。どうでしょうか?
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内需 (まさくに)
2007-03-02 17:22:34
>物を買う消費スタイルよりサービスを買うスタイルのほうが国内でお金が回るわけで雇用も増えます。

仰るように、おおよそその通りと思います。お答えはもうちょっと長くなるので、別な記事に書いてみたいと思います。
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