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日本の秘密「造り変える力」(3)

2013年09月25日 | いいとこ取り日本
馬淵睦夫氏の『いま本当に伝えたい感動的な「日本」の力』に刺激され、氏のいう日本文化の「造り変える力」の源泉がどこにあるのかを探る気になった。このブログでは、日本文化のユニークさを8項目の視点から考え続けているが、結局、日本文化の「造り変える力」の大元もここにありそうな気がする。以下8項目に沿いながら「造り変える力」の源泉を追う。

(1)漁撈・狩猟・採集を基本とした縄文文化の記憶が、現代に至るまで消滅せず日本人の心や文化の基層として生き続けている。
(2)ユーラシア大陸の父性的な性格の強い文化に対し、縄文時代から現代にいたるまで一貫して母性原理に根ざした社会と文化を存続させてきた。

これらに関しては前回すでに書いたが、(1)に関して少し付け足しておきたい。現代日本人に縄文人の心性が地下水脈のようにして受け継がれている。その事実がどうして日本人の「造り変える力」に関係があるのか。

たとえばケータイにストラップをつけるのは、日本以外ではあまりない。海外では、ケータイは単なる機械だという。しかし日本人は、そこに自分の気持ちを入れる、命を与える。現代の若者はケータイにストラップをつけることを、ただそうしたいから、そうしないと何となく物足りないと感じるからやっているのだろう。しかし、そこに日本人の伝統的な心が働いている。

そういう傾向が、今すこしずつ復活している。ネイルアートも「痛車」も「初音ミク」もそういう傾向の表れかもしれない。ヴォーカロイド「初音ミク」とCGによるこだわりのコラボは、コンピューターのプログラムによってまさに命を吹き込む作業で、かつての職人の心、もっとさかのぼれば縄文人の心が、現代の最先端によみがえっているのかもしれない。

菊とポケモン―グローバル化する日本の文化力』で著者アン・アリスンも次のように言う。日本人はケータイに、ブランド、ファッション、アクセサリーとして多大な関心を払い、ストラップにも凝ったりする。そうしたナウい消費者アイテムにも、親しみ深いいのちを感じてしまうのが日本人のアニミズムだ。このように機械と生命と人間の境界があいまいで、それらが新たに自由に組み立て直されていく、日本のファンタジー世界の美学を著者は「テクノ-アニミズム」と呼ぶ。日本では、伝統的な精神性、霊性と、デジタル/バーチャル・メディアという現代が混合され、そこに新たな魅力が生み出されているのだ。

世界が絶賛する「メイド・バイ・ジャパン」 (ソフトバンク新書)』の基本コンセプトは、オタク文化と製造業の融合だったが、それを一言でいうならまさに「テクノ-アニミズム」ということになるだろう。かつての「たまごっち」というサイバー・ペットの世界的な流行も、日本的な「テクノ-アニミズム」が世界に受け入れられていく先駆けだったといえなくもない。

以上のいくつかの例が示しているのは、現代の最先端のテクノロジーと農耕文明以前の、人類の最古層の心性との、他国ではありえない驚くべき結びつきである。その意外な組み合わせから、世界から見て思いもよらぬアイディアや製品が生まれてくるのだ。農耕文明以前の文化の記憶は、ユーラシア大陸ではほとんど失われてしまっている。ヨーロッパも中国も、お隣の朝鮮半島でさえその例外ではない。だからこうした組み合わせによる発想自体が、日本以外では生まれようがないのだ。そこに日本人の「造り変える力」の一つの秘密がある。

(3)ユーラシア大陸の穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とも言うべき文化を形成し、それが大陸とは違う生命観を生み出した。

ユーラシア大陸に比し、日本列島に生きた人々が古来、本格的な牧畜を知らなかったことは、日本文化のユニークさを特徴づける大きな要素になっていると思う。縄文人が牧畜を取り込まなかったのか、弥生人が牧畜を持ち込まなかったのか。いずれにせよ牧畜が持ち込まれなかったために豊かな森が家畜に荒らされずに保たれた。豊かな森と海に恵まれた縄文人の漁撈・採集文化は、弥生人の稲作・魚介文化に、ある面で連続的につながることができた。豊かな森が保たれたからこそ、母性原理に根ざした縄文文化が、弥生時代以降の日本列島に引き継がれていったとも言えるだろう。

一方、ユーラシア大陸の、チグリス・ユーフラテス、ナイル、インダスなどの、大河流域には農耕民が生活していたが、気候の乾燥化によって遊牧民が移動して農耕民と融合し、文明を生み出していったという。遊牧民は、移動を繰り返しさまざまな民族に接するので、民族宗教を超えた普遍的な統合原理を求める傾向がが強くなる。

さらに彼らのリーダーは、最初は家畜の群れを統率する存在であったが、それが人の群れを統率する王の出現につながっていく。また、移動中につねに敵に襲われる危険性があるから、金属の武器を作る必要に迫れれた。こうした要素が、農耕民の社会と融合することによって、古代文明が発展していったという。これはまた、母性原理の社会から父性原理の社会へと移行していく過程でもあった。

牧畜を行う地域では、人間と家畜との間に明確な区別を行うことで、家畜を育て、やがて解体してそれを食糧にするという事実の合理化を行う傾向がある。人間と、他の生物・無生物との境界を強化するところでは、縄文人がもっていたようなアニミズム的な心性は存続できないのだ。

牧畜を行わず、稲作・魚介型の文明を育んできた日本は、ユーラシアの文明に対し次のような特徴を持った。

①牧畜による森林破壊を免れ、森に根ざす母性原理の文化が存続したこと。
②宦官の制度や奴隷制度が成立しなかったこと。
③遊牧や牧畜と密接にかかわる宗教であるキリスト教がほとんど浸透しなかったこと。
④遊牧や牧畜を背景にした、人間と他生物の峻別を原理とした文化とは違う、動物も人間も同じ命と見る文化を育んだ。

(4)大陸から海で適度に隔てられた日本は、異民族により侵略、征服されたなどの体験をもたず、そのため縄文・弥生時代以来、一貫した言語や文化の継続があった。
(5)大陸から適度な距離で隔てられた島国であり、外国に侵略された経験のない日本は、大陸の進んだ文明のの負の面に直面せず、その良い面だけをひたすら崇拝し、吸収・消化することで、独自の文明を発達させることができた。

次に異民族の侵略、征服を免れた日本という側面から、日本の「造り変える力」を探ってみよう。日本が大陸から適度に離れた島国であることは、日本文化に二つの特徴を与えた。

ひとつ目、日本は大陸の文化を侵略などによって押し付けられたことがなく、自分たちの必要に応じて「いいとこどり」(堺屋太一)することができたことだ。日本人は中国の文明も、間接的にインドの文明も、下っては西欧の文明も、抵抗なくむしろ憧れをもって自由に選んで受け入れていった。そして、他文明の原理原則にこだわらないから、さまざまな文明の要素をくったくなく併存させていったのである。おそらくそれは自分たちの縄文的心性を犯さない限りにおいてであった。だからあれほど熱心に西欧文明から学び取りながら、一神教そのものはほとんど拒否したのである。

自文化のアイティティを根底から脅かすものはほとんど無意識に拒否するという強固な傾向により、一神教だけではなく、奴隷制も宦官も科挙も日本には入ってこなかった。しかし、一度取り入れたものは、その背景にある原理原則にこだわらず自由に組み合わせて、そこから独自のものを生み出すことができた。それぞれの文化の背景にある宗教やイデオロギーに縛られずに、さまざまな要素を融合させてしまう柔軟さは、現代のポップカルチャーにもいかんなく発揮されている。例を挙げればきりがないが、たとえば宮崎駿のアニメ作品のなかにどれだけ神道的な要素や古代中国的な要素や西欧的な要素が融合しているかを見ればよい。

さて、日本が島国であることからくる二つ目の特徴は、日本が異民族による侵略がほとんどない平和で安定した社会だったというこである。異民族に制圧されたり征服されたりした国は、征服された民族が奴隷となったり下層階級を形成したりして、強固な階級社会が形成される傾向がある。たとえばイギリスは、日本と同じ島国でありながら、大陸との海峡がそれほどの防御壁とならなかったためか、アングロ・サクソンの侵入からノルマン王朝の成立いたる征服の歴史がある。それがイギリスの現代にまで続く階級社会のもとになっている。

異民族に制圧されなかったことが、日本を相対的に平等な国にした。異民族との闘争のない平和で安定した社会は、長期的な人間関係が生活の基盤となる。相互信頼に基づく長期的な人間関係の場を大切に育てることが、日本人のもっとも基本的な価値感となり、そういう信頼を前提とした庶民文化が江戸時代に花開いたのだ。

江戸の庶民文化が花開いたのは、武士が、権力、富、栄誉などを独占せず、それらが各階級にうまく配分されたからだ。江戸時代の庶民中心の安定した社会は世界に類をみない。歌舞伎も浄瑠璃も浮世絵も落語も、みな庶民が生み育てた庶民のための文化である。近代以前に、庶民中心の豊かな文化をもった社会が育まれていたから、植民地にもならず、西洋から学んで急速に近代化することができたのである。(中谷巌『日本の「復元力」―歴史を学ぶことは未来をつくること』)

幕末から明治初期にかけてヨーロッパとくにフランスを中心としてジャポニズムと呼ばれる現象が巻き起こった。これもまた、江戸時代の豊かな庶民文化が背景にあり、庶民の生活から生み出された浮世絵や工芸品だったからこそ、当時のヨーロッパ市民階級の共感を呼ぶものがあったのである。

現代の日本も、江戸時代の庶民文化のあり方を引き継いでいる。近年、貧富の格差が拡大したとはいえ、世界の他地域に比べるとまだまだ階級差の少ない社会を形成している。とくに知的エリートと大衆との間の格差が少なく、教養の高い圧倒的多数の大衆が日本の社会を支え、また日本人の創造性の基盤となっている。「初音ミク」が新たな潮流になりつつあるのも、プロではない無数の人々が作曲し、CGを作り、協力しあいながら作品を作り上げていくからだろう。大衆相互の切磋琢磨が、日本人の「造り変えて新たなものを生み出す力」のひとつの源泉となっている。

ここまでの議論をまとめよう。まず日本人の縄文的な古層と現代の最先端のテクノロジーという類を見ない組み合わせが、創造性のひとつの源泉となっている。しかし、それだけではなく、その古層の上に、中国文明やインド文明や西欧文明のさまざまな要素が自由に融合されていった。そして、それらを学びとり、消化し、そこから自由な発想で新しいものを生み出すことのできる層の厚い大衆がいた。これらの特徴は、現代にまで引き継がれ、複合的に働くことで現代日本人の文化的な活力を形づくっている。

(6)森林の多い豊かな自然の恩恵を受けながら、一方、地震・津波・台風などの自然災害は何度も繰り返され、それが日本人独特の自然観・人間観を作った。
(7)以上のいくつかの理由から、宗教などのイデオロギーによる社会と文化の一元的な支配がほとんどなく、また文化を統合する絶対的な理念への執着がうすかった。
(8)西欧の近代文明を大幅に受け入れて、非西欧社会で例外的に早く近代国家として発展しながら、西欧文明の根底にあるキリスト教は、ほとんど流入しなかった。

以上の3項目については、合わせてかんたんに触れておきたい。

日本では、国内に戦乱はあったにせよ、規模も世界史レベルからすれば小さく、長年培ってきた文化や生活が断絶してしまうこともなかった。異民族との闘争のない平和で安定した社会は、長期的な人間関係が生活の基盤となる。相互信頼に基づく長期的な人間関係の場を大切に育てることが、日本人のもっとも基本的な価値感となったし、文化の活力となった。

一方で自然災害による人命の喪失は何度も繰り返された。しかし、相手が自然であれば諦めるほかなく、後に残されたか弱き人間同士は力を合わせ協力して生きていくほかない。東北大震災の直後に見せた日本人の行動が、驚きと賞賛をもって世界に報道された。危機に面しても混乱せず、秩序を保って協力し合う日本人、それは日本の歴史の中で何度も繰り返されてきた日本人の姿であった。地震を筆頭に 日本の自然は不安定であり、 いつも自然の脅威にさらされてきた。それが日本人独特の 「天然の無常観」(寺田寅彦)を生んだ。その無常観が、絶対的なイデオロギーを信じない、日本人の相対主義を強めたのかもしれない。

日本は、異民族との激しい闘争をほとんど経験してこなかったために、儒教であれれキリスト教であれ、宗教による強力な一元的支配を必要としなかった。イデオロギーなしに自然発生的な村とか共同体に安住することができた。強力な宗教やイデオロギーによる社会の再構築を経ず、村的な共同体から逸脱しないで、それをかなり洗練させる形で、大きくしかも安定した、高度な産業社会を作り上げてしまった。ここに日本のユニークさと創造性のひとつの源泉がある。

西洋人は、そしてユーラシア大陸の多くの民族も、宗教やイデオロギーのような原理・原則の方が優れていると思っている。ところが日本人は、イデオロギー的な宗教支配なくして、とくにキリスト教なくして、キリスト教から派生したはずの近代国家を形成した。農耕文明以前の、自然崇拝的な精神を基盤としたまま高度産業社会を発展させた。

この事実は、文明史的な観点からいってもきわめて特異なことだろう。その特異さは、文化的な観点からいってもきわだっている。宗教などによる一元的な価値観の支配なくして高度に現代的な社会を営み、しかも世界のあらゆる文化的アイテムを相対化して自由に使いこなしながら、相対主義的な価値観にたった作品を次々の生み出してく。

一元的な宗教を基盤とし、多少なりともハードな統合性をもった文化から見ると、日本のポップカルチャーはどこか無原則的に見えだろう。しかし、その何でもありの柔軟性や融合性の中から思いがけない発想の作品が生まれてくる秘密があるのだ。堅固な宗教的基盤を背景にする国々は、日本のアニメやマンガに接すると、自分たちがよって立つ文明原理を根底から揺さぶり動かされるような衝撃と、同時に魅力を感じるのかもしれない。

マンガ・アニメの創造性と相対主義的な価値観との関係は次の記事を参照されたい。

マンガ・アニメの発信力と日本文化(3)相対主義
マンガ・アニメの発信力と日本文化(4)相対主義(続き)
ジャパナメリカ02


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