「多文化に挑む韓国(2)向き合わぬままの日本」
朝日新聞2013・04・28
ソウル市南部の加里峰堂(カリボンドン)。
中国から来た朝鮮族が多く住むことで知られ、街には漢字とハングルが溢れる。
この地域で在住外国人を支援するNPOのシェルター「地球村サランナヌム」を訪ねた。
午後10時過ぎ、ビルの4階で大きな鉄製の戸を開けると、すえた刺激臭が鼻をついた。
約50人の外国人男性達が毛布にくるまって眠る。
年間で延べ4000人近い人が泊まっている。
一階の食堂では3度の食事も提供する。
毎回200人近い人が利用するという。
代表を務める金牧師によれば、シェルターを頼る外国人の約2割が、韓国で約18万人を占めるとされる不法滞在者だ。
外国人への偏見も消えたわけではなく、金牧師は「韓国と日本の共通点は閉鎖的なところ。多人種、多文化、多民族の社会を受け入れるべきだ」と語る。
正規に就労する外国人が韓国内で置かれた境遇も、決して恵まれたものとは言えない。
韓国統計庁によれば、外交人就労者約79万人のうち、月給200万ウォン未満が約57万人。
福利厚生を受けられない労働者は数多い。
外国人が多い安山市の相談センターにも、雇用主との衝突に悩む外国人の声が数多く寄せられるという。
雇用許可制度は、雇用主による人権侵害や不法滞在の増加を防ぐため、政府による介入を強めようと設けられた。
だが、在住外国人の増加に対応しきれていない面もある。
雇用労働省の担当者は「外国人が増えれば、当然、不法滞在などいろいろな問題も起きる」と打ち明ける。
しかし、そうした風潮の中でも、韓国政府は「外国人政策委員会」や「多文化家族政策委員会」を設け、外国人との共生を図る政策を次々と打ち出している。
2007年には「韓国国旗法」の施行令を改正。
国旗に向き合って宣誓する時に読み上げる文章から「祖国と民族」という言葉を削除した。
「多文化社会」に向けた韓国の挑戦は、ゆっくりとだが、着実に歩を進めている。
向き合わぬままの日本
「移民を拒む日本は、政策を変えない限り、人口が減り続け、ついには滅びる」
シンガポールの元書首相の発言だ。
「少子高齢化の進む中で豊かさを維持するには移民が必要だ」、と日本を引き合いに3月、国民に説いた。
日本は2008年をピークに人口は減り、去年は一年で30万人近く減少した。
30年もたてば、1億人を切る。
経済のパイは、縮小する。
消費者も労働者も、減る。
近年の経済不振やデフレも、生産年齢人口の減少に関係しているとの見方が有力だ。
人口減を避けるには、少子化を緩和するか、外国人を迎え入れるしか道はない。
少子化対策は大切でも、労働力となるには年月がかかり、子どもを持つかどうかは個人の選択だ。
移民を受け入れれば、社会に摩擦が生じる。
欧米しかり。
シンガポールのリー元首相が懸命に説得を試みるのも、国民の反発が強いため。
日本はと言えば、難題から目をそむけ、思考停止に陥っているように見える。
根本的な議論が政治の場で交わされないし、役所の縦割りにそって、政府は場当たり的対応を繰り返す。
たとえば、経済連携協定で来日する外国人看護師や介護福祉士。
実際には労働力不足の解消が狙いでも、外国人が看護や介護の技術を習得することが目的と取り繕う。
欧米などの多くの国は、出身国の資格や訓練を認めて受け入れるが、日本は漢字で試験を受け、改めて合格しろという。
アジアでも少子高齢化が進み、看護、介護の需要は確実に増える。
厳しい条件をつけても日本にはいくらでも来るというのは、幻想に過ぎない。
単純労働者を受け入れないかわりに政府は、日系人に就労を認め、外国人の「技能実習生制度」で労働力の穴埋めをしてきた。
一方で、90年代に30万人近かった超過滞在外国人は今、約6万人に減った。
不況に加え、入管などが取締りを強めた結果だ。
違法だから、当たり前との見方はあろう。
しかし欧州や韓国などでは、一定の基準を設けて一斉合法化した例も多い。
迫害から逃れてきた難民申請者に有能な人材は多いが、日本の難民認定率は1%を下回り、先進国の中で極端に低い。
各官庁が難民申請や介護士資格を厳しく審査し、超過滞在者を送り返す。
役人は、それぞれの法に従い忠実に仕事をしている。
それでも全体とすれば国益にかなっているか、有為な外国人を締め出す結果になっていないか、視野を広げて見直す必要はないか?
日本の問題は「鎖国状態」もさることながら、人口減の局面でなお、政府も社会も移民を受け入れるか否かという問いに正面から向き合わないことにある。
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