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引き続き、「日本のまつろわぬ神々」の中の菅田正昭氏の「ハヤムシ・青ヶ島に息づく正体不明の神」という文章をご紹介させていただきます。
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(引用ここから)
このトウダイ所には現在、東台所神社が鎮座している。
そして祭神は一応大己貫神(おおなむちのかみ)ということになっている。
この祭神は、明治初年、官命を奉じて伊豆七島式内官社調査のために八丈島まで渡って来た、国学者の萩原正平が、トウダイ所神社を村社として申請するために当てた祭神である。
正平が「オオナムチ」を当てた理由は推測するしかないが、新神・浅之助、とその後を追った恋人・おつなの両名が、青ヶ島では縁結びの神の役割をしていることから、大国主を想起させ、
次に「ハヤムシ」という名から大国主の和魂である蛇体(古代人の感覚では蛇も虫の一種)の大物主神を考え、更に大国主=大物主の別称である大己尊神(おおなむち)をあてようとしたのかもしれない。
ともあれ、東台所神社の祭神を大己尊神とすることで、明治8年12月28日づけで、東台所神社は足柄県令柏木氏から、青ヶ島総鎮守の大里神社とともに村社との指定を受けるのである。
ところが、青ヶ島では今日でも、誰一人として東台所神社の祭神は「オオナムチ」とは思ってもいないのだ。
新神・浅之助・おつな神・「ハヤムシ」の三柱を祭神と考えているのだ。
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それどころか、青ヶ島では明治初年の神仏分離以前の、江戸時代の神仏習合の信仰が、神主、卜部、社人、巫女、などの祭祀集団と共に残っているのだ。
そのため青ヶ島は、民間信仰のレベルでは神の島と言われるほど、伊豆諸島では一番神を祀った場所がたくさん点在している。
人口200人を大幅に割ってしまった全国最小村の島なのに、人間より神の方が多いと言われるほどなのである。
「神の島」であるにも関わらず、国や都の公式文書を見ると、現在の青ヶ島にはただの一か所の宗教施設も存在していない。
すなわち、青ヶ島を除く伊豆諸島・小笠原諸島では、人間が住んでいる島なら最低一か所以上の神社とか寺が宗教法人として登録されているのに、青ヶ島はゼロになっているのである。
昭和20年までは村社が二か所もあったのに、である。
実はこれは交通不便が理由だったらしい。
青ヶ島では昭和47年の村営連絡船の就航まで、40日前後の欠航が年に数回もあった。
当然、それ以前は3か月程度の外部からの遮断も珍しくなかった。
そのために昭和31年の参議院選挙まで、青ヶ島の人々には選挙権が無かった。
公職選挙法施行令の特別条項の規定によって、国政、都政レベルでの選挙権が奪われていたのである。
当時、無線電信の施設もなかったので、投票結果を送ることができないという理由からだった。
こうした不便さによって、青ヶ島は宗教法人の登録手続きから除外されてしまった。
おそらくその通知さえ来なかっただろうし、たとえ届いてもすでに時遅しではなかっただろうかと思われる。
しかしそれゆえに「ハヤムシ」は「ウシトラノコンジン」や「キミマンモン」と同じ位相になっていると言えるのだ。
もちろん「ハヤムシ」は、中山みきや出口ナオを出現させることはできなかったが、それでも同じ役割を、今も果たしているのである。
青ヶ島の巫女たちは恐山のイタコや沖縄のユタと同じく、民間信仰における神がかりの巫女である。
と言うより青ヶ島という離島空間のシステムからいえば、青ヶ島の巫女は琉球王朝時代のノロに近い。
いずれにせよ、神々と交信できるという点では、神社神道の若く美しい巫女とはまったく違う。
そして「ハヤムシ」は青ヶ島では、この神がかりに深く関係している。
実は八丈島にも、少し前までは託宣する巫女がいたらしい。
しかも、そういう女性たちがいずれも青ヶ島系で、この「ハヤムシ」を祀っていた。
八丈島の一般島民もまた、ひそかにこの神を信仰していたりするのである。
八丈島や青ヶ島では、神社の社殿の裏手に、玉石垣の「石場」と呼ばれる、本来は信仰の中心地だった聖地がある。
そこには苔むした祠が奉納されているが、その苔をはがして神名を見ると、圧倒的に「ハヤムシ」と彫られていることが多い。
その「ハヤムシ」が病気を治したり、しばしば託宣をするのだ。
更にこの「ハヤムシ」は、小笠原の父島の、定頼神社の境内にも祀られている。
そこには新神「ハヤムシャ様」を祀った石場宮があって、それに彫られた由緒を見ると、これが大正7年に啓示によって建てられたことが分かる。
昭和20年の敗戦を契機に、アメリカ軍の目を恐れた島民によって地中に埋められ、昭和43年6月26日の小笠原諸島返還の日に、その事情を知っている欧米系島民(都・村では在来島民と呼ぶ)によって掘り起こされたという、いわくつきの因縁の祠である。
もう紙数が尽きたが、「ハヤムシ」は青ヶ島固有の“隠れたる神”として、今なお息遣いを細々としているのだ。
そして青ヶ島には「タコトンゴ」などという全く何語かも分からない意味不明の、あたかもオーストロネシア系の音韻を髣髴とさせる神までも、存在しているのである。
(引用ここまで)
(写真は同書イラストより)
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