決して失敗しないのがAI。
「私、失敗しないので」が得意文句だった女医が今度のスペシャルでは「失敗したので」と語るらしい。一度も見たことないドラマだが。
人工知能を巡る開発はおそらく日進月歩どころではない急激な速度で進んでいると想像する。今はチェスで人間と勝負することが話題となる程度だが、早晩人間は置いていかれるのだろう。
人工知能とは少し違うかもしれないが、自動運転の自動車が初めて死傷事故を起こしたというニュースがあった。なんでも光の反射で前方の白い車を認識できなかったとか。
自動車の機能としては極めて問題なのだが、そういった失敗がすべて消え去ったとき、それは人間にとって何を意味するものなのか。
世界最大のIT企業ブルーブック社の社長であるネイサンは、類稀なる頭脳と巨万の富をすべて人工知能の開発に注ぎ込む生活を送っていた。ある日、人里離れた土地に造られた研究所へブルーブック社の才能溢れる若き社員・ケイレブが招かれる。
単なる社員の慰労程度に考えていたケイレブに驚くべき任務が与えられる。彼は、ネイサンに見込まれて人工知能の性能を検査する試験官として呼ばれたのだ。
試験官が検体を人工の域を超える、つまり人間であると判断することで試験は合格となる。
ネイサンの最新作「エヴァ」は性能だけではない、完全な美に彩られた傑作であった。
外見は配線が露出し、明らかなAIであるエヴァ。そして、見込まれただけあって極めて優秀な技術者であるケイレブ。しかし、というかだからこそ、ケイレブはエヴァに惹かれていく。
隔絶された空間で、あらゆる人間の会話や行動のデータを入力された完全体と密度の濃い会話を繰り返すことで、ケイレブの精神状態は崩壊ともいえる変化を見せるようになる。
おそらくここまではネイサンの計算通りであったに違いない。しかし、ネイサンの小さな日常のほころびから事態は転がりはじめる。
「愛する」「愛さない」ではない第3の選択肢、「愛しているフリをする」の可能性を語ったのはネイサン自身であった。分かっていながら、エヴァの使徒となったケイレブの行動を抑えられなかった失敗。
他方、エヴァの本当の意図を読み切れずに、まんまと利用されて最後は研究施設に取り残されるケイレブ。
ネイサンもケイレブも失敗する。しかしAIにはない。能力の範囲でできることは確実に実現してみせる。
野に放たれたAIはバッドエンドのようにも見えるが、人間を超えてしまったら、わざわざ相手にする必要もなくなるかもしれない。そうなったら、人類はおとなしく生きていきましょう。
本作は何より物語が興味深いが、映像と音響にも洗練された美しさがあった。
とにかく研究施設とAIの造形の美しさが素晴らしい。ただ気になったのは、過去の作品があまり美しくないところ。趣味で作るのなら傾向が似てくる気がするのだが、天才の思考は常人には及ばないってことなのだろうか。
音響については、劇中で何度か話の転換点が訪れたときに、あからさまに恐怖心をそそるような音を流すときと、ほとんど無音の状態で話を進行させるときがあった。
前者は人間の目線、後者はAIから見た描写なのかなとなんとなく思った。感情の起伏なく他者を操り、人を刺すことも厭わないAIの静かな恐怖を巧みに表現していた。
映画が完全に近い美を追求するのは結構だが、科学分野はお手柔らかに、せめて自分が神になるというような驕りは持たないようにしてほしいところである。
(90点)
「私、失敗しないので」が得意文句だった女医が今度のスペシャルでは「失敗したので」と語るらしい。一度も見たことないドラマだが。
人工知能を巡る開発はおそらく日進月歩どころではない急激な速度で進んでいると想像する。今はチェスで人間と勝負することが話題となる程度だが、早晩人間は置いていかれるのだろう。
人工知能とは少し違うかもしれないが、自動運転の自動車が初めて死傷事故を起こしたというニュースがあった。なんでも光の反射で前方の白い車を認識できなかったとか。
自動車の機能としては極めて問題なのだが、そういった失敗がすべて消え去ったとき、それは人間にとって何を意味するものなのか。
世界最大のIT企業ブルーブック社の社長であるネイサンは、類稀なる頭脳と巨万の富をすべて人工知能の開発に注ぎ込む生活を送っていた。ある日、人里離れた土地に造られた研究所へブルーブック社の才能溢れる若き社員・ケイレブが招かれる。
単なる社員の慰労程度に考えていたケイレブに驚くべき任務が与えられる。彼は、ネイサンに見込まれて人工知能の性能を検査する試験官として呼ばれたのだ。
試験官が検体を人工の域を超える、つまり人間であると判断することで試験は合格となる。
ネイサンの最新作「エヴァ」は性能だけではない、完全な美に彩られた傑作であった。
外見は配線が露出し、明らかなAIであるエヴァ。そして、見込まれただけあって極めて優秀な技術者であるケイレブ。しかし、というかだからこそ、ケイレブはエヴァに惹かれていく。
隔絶された空間で、あらゆる人間の会話や行動のデータを入力された完全体と密度の濃い会話を繰り返すことで、ケイレブの精神状態は崩壊ともいえる変化を見せるようになる。
おそらくここまではネイサンの計算通りであったに違いない。しかし、ネイサンの小さな日常のほころびから事態は転がりはじめる。
「愛する」「愛さない」ではない第3の選択肢、「愛しているフリをする」の可能性を語ったのはネイサン自身であった。分かっていながら、エヴァの使徒となったケイレブの行動を抑えられなかった失敗。
他方、エヴァの本当の意図を読み切れずに、まんまと利用されて最後は研究施設に取り残されるケイレブ。
ネイサンもケイレブも失敗する。しかしAIにはない。能力の範囲でできることは確実に実現してみせる。
野に放たれたAIはバッドエンドのようにも見えるが、人間を超えてしまったら、わざわざ相手にする必要もなくなるかもしれない。そうなったら、人類はおとなしく生きていきましょう。
本作は何より物語が興味深いが、映像と音響にも洗練された美しさがあった。
とにかく研究施設とAIの造形の美しさが素晴らしい。ただ気になったのは、過去の作品があまり美しくないところ。趣味で作るのなら傾向が似てくる気がするのだが、天才の思考は常人には及ばないってことなのだろうか。
音響については、劇中で何度か話の転換点が訪れたときに、あからさまに恐怖心をそそるような音を流すときと、ほとんど無音の状態で話を進行させるときがあった。
前者は人間の目線、後者はAIから見た描写なのかなとなんとなく思った。感情の起伏なく他者を操り、人を刺すことも厭わないAIの静かな恐怖を巧みに表現していた。
映画が完全に近い美を追求するのは結構だが、科学分野はお手柔らかに、せめて自分が神になるというような驕りは持たないようにしてほしいところである。
(90点)