Con Gas, Sin Hielo

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「ウォールフラワー」

2013年12月01日 18時33分56秒 | 映画(2013)
「無」の自分が「無限」の一部になるとき。


言うまでもないことだが、世の中は不公平だ。

神様は乗り越えられる人に試練を与えると言うが、それは得てして慰みに近く、克服できずに終わる者も多い。

本作の主人公・チャーリーは、幼くして負った心の傷に苦しみ続けてきた。

苦労の過程で身につけた処世術は、自らの立場を客観的に捉えて時間をやり過ごすこと。高校入学の時点で、卒業までの日数を数えて溜息をつく。

しかし彼は徹底して心を閉ざしているわけではない。どこかで希望の糸口を欲していて、ところどころに小さな小さな行動となって現れる。

それは授業中のノートへの筆記であり、足だけは運ぶパーティーやフットボールの試合である。

一風変わった上級生のパトリックに自分から近付いて声をかけるのも、そうした流れの中のはなし。「はみだし者」特有の何かを感じ取ったのかもしれない。

何かと痛々しいチャーリーを描きながらも、この物語が温かく優しい空気に包まれているのは、そんな彼自身が持ち続ける希望と、それに気付いて応え続ける周りの眼の多さにほかならない。

ちょっとした恋人との諍いが弟に悪い影響を与えるのではないかと心配する姉。

高校で新しい友達に出会えたことを心から祝福し、30ドルのプレゼントを買うからお金を貸してというチャーリーに50ドルを渡す父。

自分からなかなか前に進めないことを見抜いて、読書の課題を与えることで意欲を引き出そうとする国語教師。

そして、チャーリーの心の冒険を大きく後押しするのが、新しい友達のパトリックと義理の妹・サムだ。

彼らと、彼らが日常を共にする仲間は、一見奔放に振舞っているように見えながら、ひと皮めくれば10代独特の繊細な心が顔を覗かせる。

彼らの共感を得て、少しずつ「社会」へ適応していくチャーリー。仲間に溶け込んだからこそ訪れる皮肉な儀式も話を盛り上げる。

どこか懐かしく感じるとともに、誰ひとりとして他人の助けなしに成長した者などいないことを痛感し、改めてこれまで自分がめぐり会った人たちへの感謝の気持ちを思い起こさせる作品である。

「少年は残酷な弓を射る」以来のE.ミラー。いるだけで危うげなオーラが湧き出る存在感に驚かされる。声もいい。

(90点)
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