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「イミテーションゲーム エニグマと天才数学者の秘密」

2015年05月24日 20時21分32秒 | 映画(2015)
天才は秘密に存在してこそ花が咲く。


これが事実に基づいた物語というのだからすごい。50年以上の時間を経て開放された第2次世界大戦中の驚くべき秘密。

英国の天才数学者がドイツ軍の暗号システムを打ち破り、連合国側の勝利に大きく貢献したというのが表の事実だが、問題はその裏だ。

暗号解読が敵側に知れれば新しいシステムに換えられてしまうということで、解読の事実自体が極秘事項となったのである。

すべての通信に反応するのではなく、読み取った通信文書を選り分けるという作業。それは、機密保持のためにはある程度の国民の犠牲は致し方ないという判断に結び付く。

通信文の解析で国民が命の危機にさらされている事実を知る。いま知らせれば、その人の命は確実に救える。しかし、その結果として敵側が暗号システムを変更すれば、その先の何千、何万もの命に影響が及ぶかもしれない。

国として、組織として、英国はこの冷酷ともいえる秘密を貫き通したことで大戦を勝利した。しかし、その裏で国民の命が国によって選別され、死なずに済んだかもしれない人が死んだのである。

改めて国とは何なのかと考えてみる。

国は、国の政府は、国民の最大利益を追求することが責務である。最大利益とは必ずしも全員の利益ではない。時には切り捨てが必要となる。

しかしそんなこと表向きには絶対言えることではない。この秘密がもし戦時中に漏れていたとしたら、とてつもなく大きな批判を浴びていたことだろう。

わが国でも秘密保持法が問題となった。国益にかなうとの理由で秘密裏に何をされるか分からないと言えば確かにそのとおりである。

ただ、判断が分かれる複雑な話は、秘密を解いたところで解決できるものではない。むしろ生じるのは混沌と停滞が関の山であろう。

主人公のアラン・チューリング教授は、自分の才能のすべてを注いでこの任務を遂行する。しかし人間には情がある。どんなに合理化を進めてもどこかに残る感情はどこへ行くのか。

映画は、アランの少年時代、任務に当たっている時代、数年後の暮らしの3時代を行き交う。脚色や設定が巧みなため(もちろん演者の演技も)か、何の解説がなくとも混乱せずにすんなり話に入っていける。

過去では、天才故のいじめと、ただ一人理解してくれた友達クリストファーへの複雑な感情。戦後では、謎に包まれた独りの暮らし。それぞれの時代に一つずつ秘密を仕込んで、同時進行で次第に明らかになるアランの真実。

天才は一人では天才たり得ない。才能を目覚めさせたクリストファー、開花させた同僚のジョーンたち。暗号解読までであれば美しい成功物語である。

しかし作品は、残酷なその後にもスポットを当てる。自らが開発した暗号解読機「クリストファー」と暮らし、更なる開発に心血を注ぐ日々。

同性へのわいせつ容疑で捕らえられたアランが刑事に問い質す。「自分は機械か人間か」。

利用され翻弄され続けた戦時は過酷だったが、それでも人間的で生きる意味があった。晩年のアランは、天才故ではなく同性愛者として苦痛を被った。そして新しい理解者が現れることはなかった。

かくして天才は国によって消費された。国益に最もかなう形で。

(90点)
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