帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

新・帯とけの「伊勢物語」 (五十五)  思ひかけたる女のえうまじうなりてのよに

2016-06-10 19:05:37 | 古典

             
 
                         帯とけの「伊勢物語」
  

 紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の歌論と言語観で、在原業平の原作とおぼしき「伊勢物語」を読み直しています。
 
 
先ず、紀貫之は、歌の表現様式を知り言の心を心得る人は、いにしえを仰ぎ見て、この時代の歌が恋しくなるだろうと述べた。古今和歌集仮名序の結びの原文は「歌のさまを知り、ことの心を得たらむ人は、大空の月を見るが如くに、いにしへを仰ぎて今を恋ひざらめかも」。この原点に立ち戻って歌を聞き直すことである。


 
伊勢物語(五十五)思ひかけたる女のえうまじうなりてのよに

 
むかし、おとこ(昔、おとこ…武樫おとこ)、思ひかけたる女の(想いを懸けていた女が…思い欠けた女が)、えうまじうなりてのよに(得られそうにも無くなった世に…江・枝、旨しう・うまく、なった夜に)
 思はずはありもすらめど言の葉の 折りふしごとに頼まるるかな
 (想ってはいないだろうけれど、言葉の折り節毎に、期待されることよ・あの頃に戻りたい……思いを・思っていないだろうけれど、事の端の、折り伏し毎に、頼みにされているようだなあ・有頂天を)


 
貫之のいう「言の心」を心得て、俊成のいう「言の戯れ」を知る
 「かけ…懸け…欠け…不足」「えうまじう…え得まじう…得られそうにない…え旨しう…枝旨そうにする」「じ…打消し推量…(得られ)ないだろう…しう…()しくする」「え…得…枝…おとこ…江…おんな」「うま…旨…上手…美味…快」「世…男女の仲…あの頃…夜」「思…想…感」「こと…言…言葉…事…人の行為」「は…葉…端…果て方」「をりふしごと…折り節毎…機会ある毎…折り伏し毎…こと尽きる毎」「たのまるる…期待される…望み捨てられない…頼りにされる」「かな…感嘆・感動を表す」。

 
たぶん、女御として、片や近衛府の武官として、同じ宮の内でお仕えしていた時の、男の忍ぶ恋の歌。皆が若き頃、あの人を背負って逃げたことを知る人は、本人とその兄たちしかいないだろう。その人に対する愛憎は消えることはない。この章は、男心の愛の部分である。

 
(2016・6月、旧稿を全面改定しました)