帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺五)下の心かまへてわろくて

2012-02-13 00:02:00 | 古典

  



                                 帯とけの枕草子拾遺五)下の心かまへてわろくて



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ずに、この時代の人々と全く異なる言語感で読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子(拾遺五)したの心かまへてわろくてきよげにみゆる物


 文の清げな姿

 内々の意味があって、悪くて、うわべ清げに見えるもの、唐絵の屏風(裏の絵は下品)。石灰の壁(白壁の内は荒廃)。盛物(供物の内は雑品)。檜皮葺の屋の上(檜皮の下は腐敗)。江尻の遊びめ(裏で春を売る業)。


 原文

 したの心かまへてわろくてきよげにみゆる物、からゑの屏風。いしばひのかべ。もり物。ひはだぶきの屋のうへ。かうじりのあそび。


 心におかしきところ

 下の心があって悪くて、清げに見えるもの、裏は好色な絵の唐絵の屏風。白壁の内庭は荒れている。片時盛り立った物。緋肌吹きの女のうわべ。春売る女の容姿のよい。


 言の戯れと言の心

 「した…下…裏面…内々…下部」「石灰…白…清潔」「もり物…盛物…供え物…盛り上がったもの…おとこ…実ははかない物」「ひはだぶき…檜皮葺き…緋肌吹き」「緋…濃い赤色…ひ…女」「ふき…葺き…吹き…息ぶき…うめき…さけび」「屋…女」「上…うわべ…表面」「かうじりのあそび…江尻の遊び女…川尻など船着き場にたむろする春売る女たち」。



 土佐の国守だった紀貫之一行は、帰京の際、淀川を船で溯って山崎という船着き場で牛車に乗り換えた。その時の様子を、土佐日記(二月一六日)で、次のように描いている。

京へ上るついでに見れば、山崎の、こひつのゑも、まがりのおほじのかたも、変わらざりけり。「うり人の心をぞしらぬ」とぞいふなる。かくて京へゆくに、島坂にて、人あるじしたり。かならずしもあるまじきわざなり。


 上の文も、一義に読んでは意味が伝わらないでしょう。言の戯れの内に趣旨が顕れるように作られてある。

 「こひつのゑ…お櫃の絵(絵看板でしょう)…小卑つの枝…けちないやしいおとこども…ちまたにたむろする男たち」「まがりのおほじ…曲がりの大路…まともではない大路の女」「大…褒め言葉ではない」「路…女」「うりひと…売り人…物売りの人…春を売る女…遊び女…曲がりの大路」「心をぞしらぬ…(春売る女の)気がしれない」「いふなる…(一行の女たちの)言うのが聞こえる」「あるじしたり…饗応した…もてなした」「かならずしもあるまじきわざなり…必ずしもあるべきではない業である…売春は世の中に必ずしもあるべきではない業である」。


 伝授 清原のおうな
 
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。