帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子(拾遺一)夜まさりする物

2012-02-08 00:04:24 | 古典

  



                               帯とけの枕草子(拾遺一)夜まさりする物



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで、この時代の人々と言語感覚を全く異にして読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。


 前章の「下る」話で終わり、跋文(あとがき)に移る前に、取り残した章がある。次の(一)~(二九)は、或る伝本に、「一本、きよしと見ゆる物(百四十一)の次に」あるという。(拾遺一)~(拾遺二十九)と仮に名付けて読みましょう。

 


 清少納言枕草子(拾遺一)夜まさりする物


 文の清げな姿

 夜になると、色や良さが・増るもの、濃い色の練絹の艶。むしって精製された綿。女は額ひろく髪が麗しいの。琴の音。容姿悪い女の気配の良いの。ほととぎすの声。滝の音。


 原文

 夜まさりする物、こきかひねりのつや。むしりたるわた。おんなはひたひはれたるがかみうるはしき。きんのこゑ。かたちわろき人のけはひよき。ほとゝぎす。たきのおと。


 心におかしきところ

 夜増さりするもの、濃い色の掻きねりの艶情。むしるしとねの綿。女は額ひろく髪が麗しいの。うめく声。容姿悪い女の気配の良いの。ほと伽す且つ乞う、多気の声。


 言の戯れと言の心

 「かいねり…掻練…柔らかくした絹」「かい…掻き…接頭語…わけいる」「ねり…練り…ゆっくり…巧みなこと」「きん…琴…ぎん…吟…うたう…うめく」「ほととぎす…鳥…女…ほと伽す…郭公…且つ乞う…且つ媾」「たき…滝…女…多気…多情」。


 先に読んだ「清しと見ゆるもの」〔百四十一〕を読み直しましょう。

 きよしとみゆる物、かはらけ。あたらしきかなまり。たゝみにさすこも。水を物にいるゝすきかげ(清いと見えるもの、素焼きの土器。新しい金椀。畳にする薦。水を器に入れて透けている光……清いと思っているもの、彼腹毛。新しき兼用のうつわもの、多多身にさす子も。三つお、ものに入れる好き陰)。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。