寒い頃になるといつも思いだす
高校生の時の友人の一生です
彼は海の近くで生まれ育った
将来は海洋生物の研究をしたいという夢があった
部活動でもウインドサーフィンを楽しんでいた
その日も夕方から練習が始まったのだが
ある部員が岸に戻ってこない
部長だった彼は
顧問の先生に促されるように沖に探しに出かけた
間もなく風向きが変わり、突風も吹き始める
二人の高校生は岸に戻らず一夜が明けた
岸辺で待つ家族にも
救助隊の様子が
遺体を捜査する雰囲気に変わるのが感じられた
地元の漁師が
母親が捜索舟に乗ると、遺体が揚がる
という言い伝えをつぶやくのが耳に入る
受け入れがたく
信じたくなかったが
母は少しでも早く息子に会いたいと船に乗りこんだ
程なくして彼は見つかった
冷たい、冷え切った姿で、母の元に帰ってきた
母親は半狂乱で彼を抱きしめた
それから15年も経つのに
彼の母親は
真冬でも温かい湯船に浸かることができないという
” かすかなる 不安あるかに
這ひまどふ
羽蟻を見れば 祈るかたちし ”