夕刊フジ
東シナ海情勢が緊迫している。中国海軍の艦艇が15日未明、鹿児島県の口永良部島(くちのえらぶじま)周辺の領海に侵入したのだ。9日にはフリゲート艦を沖縄県尖閣諸島周辺の接続水域に侵入させるなど、挑発行為をエスカレートさせていたなかでの暴挙。15日に習近平国家主席が63回目の誕生日を迎えたこともあり、東シナ海での中国海軍の動きとの関連を指摘する声もある。
「今後も中国艦艇の動きに十分注目し、警戒監視に万全を期す」
中谷元・防衛相は15日、中国軍艦による領海侵入についてこう語った。
これに先立つ9日には、ロケット砲や艦対空ミサイルを装備する最新型戦闘艦「ジャンカイI級フリゲート艦」が尖閣諸島・久場島北東の接続水域に侵入し、緊張が高まっていた。
度重なる挑発に岸田文雄外相は「状況をエスカレートさせている最近の中国軍の動きを懸念する」と危機感をあらわにした。
防衛省によると、15日午前3時30分ごろ、口永良部島西方の領海に侵入したのは中国海軍の「ドンディアオ級情報収集艦」1隻。全長130メートルで電子情報の収集が主な任務とされる。
沖縄周辺海域では海上自衛隊と米国、インド両海軍の共同訓練「マラバール」が実施中で、中国軍艦は、同訓練に参加していたインド艦船2隻の後方を航行。こうしたことから訓練の模様を監視していた可能性がある。
2004年に沖縄県先島諸島周辺の領海に原子力潜水艦が侵入して以来2度目となる中国軍の暴挙。しかし、軍事衝突の危機は当時よりも格段に高まっている。
軍事ジャーナリストの世良光弘氏は「中国軍は、9日の接続水域への侵入から1週間もたたずに仕掛けてきた。04年の潜水艦による領海侵入と違って、今回は堂々と水上航行している。それに中国軍の情報収集艦は情報収集が主任務と言えども、機関砲を装備しており、戦闘にも対応できる。海上警備行動が発令されていれば交戦状態になった可能性がある」と指摘する。
習氏は国家主席のポストを手中に収めて以降、「反腐敗運動」による腐敗官僚の撲滅を名目に政敵を次々と追い落とし、自身への集権体制を強めてきた。
今年3月の全国人民代表大会(全人代)では、20年までの経済戦略を示す「第13次5カ年計画」の策定のかじ取り役が、党序列ナンバー2の李克強首相率いる国務院から習氏直轄の党中央全面深化改革領導小組に移行していたことが明らかになった。経済政策を主導してきた李首相から実権を奪った格好で「習氏への集権を象徴する出来事」として注目を浴びた。
習氏の独裁化に拍車がかかっているだけに、15日の習氏の個人的な“記念日”と東シナ海での中国軍の動きとの関連もささやかれている。
世良氏は「中国軍と中国共産党政権は密接に結びついている。東シナ海での中国軍の動きに、政権側の何らかの思惑が絡んでいる恐れは十分ある」と指摘する。
中国事情に精通する評論家の宮崎正弘氏は「習氏は最近、清廉潔白な人物の代名詞として語られる戦国時代の政治家・屈原と自身を重ね合わせるような言動をしている。自分を神格化させようとしているようだ。現政権の権威を高めるため、東シナ海での軍事的成果を利用する思惑もあるのではないか」と語る。
国際法を無視し蛮行を続ける中国。世界から孤立化する焦りも習氏の暴走を助長している可能性がある。