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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

Go the Limit(後編)

2007-05-18 14:08:07 | 戦後アスキラ
「だ、って」
 言い逃れをしようとする僕に、アスランは諦めたように身体を離して。
「これでも?」
 着ていたハイネックのシャツを脱ぎ捨てて。
 素肌に身につけられたペンダントを人差し指で突き上げた。
 僕が貰ったのと、同じデザイン。
 嵌っているのは、エメラルドじゃなくて。
 アメジスト。
「ちなみに裏はこう」
 ひっくり返して、見せてくれた裏には
『K.Y』
 Kira Yamato。
「カガリにこれ見せて、今日の夜は見逃してもらったんだ」
「え?」
「カガリもラクスも、知ってるよ」
 ペンダントを摘んでいた指で、僕の頬を撫でて。
「全部、言ってきた。ラクスにも」
「なん、て」
「キラは俺がもらうって」
 ひゅ と僕が息を吸い込んだのと同時に、また唇を塞がれて。
 今度は押し倒された。
 ソファとテーブルの狭い隙間で、身動きが取れない。
 しつこくキスをされて、ぎゅっと強く目を閉じると、アスランの舌が歯列の隙間から入り込んできて。
 僕の舌を捕らえて、絡められる。
「あ、んん・・・」
 背中からぞわっと何かが湧き上がって、僕は縋るようにアスランの肩を掴む。
「や、んっ」
 キスが嫌なわけじゃない。
 願ったり叶ったり。
 僕はこのキスを喜ぶべきだ。
 だけど湧き上がる何が怖くて、逃げ惑って結局アスランの背に縋る。
 縋ればアスランの身体がさらに密着して、それに比例するようにさらに何かが湧き上がって。
 もうどうすることもできない。
 いろんな感情が入り乱れて、僕は混乱して、仕舞いには泣き出してしまって。
「泣くなよ」
 気づいたアスランが唇を離して、涙を舐め取った。
「怖い?」
「こわい」
「なにが?」
「わかんない・・・」
「俺が怖い?」
 ふるふると首を横に振ると、アスランは笑って
「じゃあ、俺に逃げればいい」
 そう言って、思い切り抱きしめてくれた。
 僕の着ているシャツ一枚越しに、アスランの熱や鼓動が伝わって、それが僕を甘やかして。
「好きだよ、キラ」
 甘い甘い一言で、『幼馴染で親友』の枠を超えれば。
 僕の心はヘリウムよりも軽くなった。

 枠を超えるのは容易いことだった。
 この差し出された手を取るだけ。
 たったそれだけのことで、僕らは『幼馴染で親友』のボーダーラインを超えた。
「あ、っ」
 シーツに押し付けられて、部屋の篭った空気に晒された素肌を舐められて。
 それだけで、声が上がる。
「アス、ま、だっ」
「待たない」
「だ・・・シャワー、くらい!」
「必要ない」
 僕の往生際の悪い声も、アスランの脳には届かない。
 執拗に僕のいたるところを舐めて、時々指で弄んで。
 その仕草ひとつひとつに上がる僕の声に、満足そうに笑う。
「いい声」
 臍のあたりを舐めていたアスランが身体を伸ばして僕の耳元で囁いて、軽く耳部を齧る。
「軍人は、ピアス、できないんだっけ」
「は・・・あ、」
「残念」
 どういう意味 と途切れ途切れ、息を吐きながら訊けば
「キラの身体に、穴開けたかった」
 独占欲に満ちた答えが返ってくる。
「こんなものじゃ足りない」
 僕の首に掛かったままのペンダントを指で摘んで
「もっと、俺のものにしたい」
 トップに、唇を寄せる。
 その仕草が、やけに色っぽくて。
「じゃあ、もっと」
 強請れば、アスランが笑った。
「いいの? もっとして」
「いい。全部、して」
 心臓がうるさい。
 血管の中を、血液が走ってるのがわかる。
 脳に霞がかかったみたいに、思考が鈍る。
 シーツを握っていた手を緩めて、そっとアスランの背に回して。
「もう、全部。アスランの全部が、ほしい」
 言えば、あとは簡単だった。
 箍が外れたアスランと、アスランに飢えた僕は。
 互いを貪りあうだけ。
 酸欠で死ぬんじゃないかってくらいしつこくキスをして。
 その間にアスランに前を弄られて、限界を感じて熱を吐き出す。
 その絶頂の間にもキスは続いて、声を上げることもままならなかった。
「しまった。声、聴きたかったのに」
 残念そうに言って、僕の吐き出したもので汚れた指を、アスランは舐める。
「ま、いいか」
 ぺろりとその美味しいはずない味を舌で確認して、
 ぐっと僕の足を持ち上げて、自分の肩に掛ける。
「怖かったら、すがり付いていいから」
 無理な体勢をさせられて、ただでさえ羞恥心とかでいっぱいになっている僕の、自分でも触ったことのない部分にアスランの指が触れた。
「やっ!」
 濡れた指でゆるゆると詰られて、その滑りを使って指が。
「あ!」
 入り込む。
 僕の中に。
「アス、や、やだ!」
「痛い?」
「・・・たく、ない、けど!」
「怖いなら縋ってろ」
 ぐっと指を深く侵入させて。
「んあ!」
 折り曲げられて、僕は自分でも信じられない声を上げた。
「イイ声」
 アスランの、熱っぽい目が、細められる。
「もっと聴かせて」
「やー! あ、あっ」
 ぐるりと中を蹂躙されて、反射的に縋りついたのはやっぱりアスランの背だった。
「そう、それでいい」
 耳に、アスランの息がかかる。
 熱い。
「力、抜いて」
 言われても、どうやったらいいのかわからない。
「息吐いて。ゆっくり」
 恐る恐る、本当に、息をするのが怖いなんておかしいけど、僕はそっと息を吐く。
 その、一瞬に。
「あー!!」
 二本目の指が侵入した。
「アス、アス、ラ・・・!」
「痛いか?」
 ふるふると反射的に首を振って答えると、アスランは「いい子だ」と言ってさらに中をかき回す。
 そのたびに僕は悲鳴を上げて、汗で湿ったアスランの背に縋りついた。
 手のひらから、アスランの鼓動とか熱とか、汗の感触とかが伝わって。
 その興奮が伝わって。
 僕を甘やかす。
「キラ」
 指でかき回される間に僕はまた熱を吐き出していて、目にはまた涙が滲んでいて。
 それでも目はアスランを捉えようとする。
「限界。容れて」
 細められた目には、熱が宿っていて。
 その瞳には、僕しか映っていなくて。
 反射的に、ごく自然に、頷いてしまった。
 唇を啄ばまれて、至近距離でアスランが笑う。
 その笑顔で緊張の糸が解れた。
 勢いよく指が抜かれて。
「愛してるよ」
 囁きと共に。
 アスランの熱が、僕を侵した。
 境界線がなくなる。
 喉の奥から、僕は悲鳴を搾り出して。
 アスランの背に、傷がつくくらい爪を立てた。
 もう、なにも怖くないのに。
 揺さぶられている間、ずっとアスランに縋りついて。
 ただ、アスランの熱と、その息を感じていた。
 耳には結合の卑猥な音と、互いのペンダントがぶつかり合う音だけが届いた。

 真夜中。
 気がつくと、アスランがいなかった。
 一瞬夢かと思ったけど、起き上がったときに走った体中の痛みが現実だと教えてくれた。
 汗とかいろんなもので汚れていた身体は、きれいに拭かれていた。
 ベッドサイドを見ると、バスローブが用意されていた。
 アフターケアがなってるなぁ。
 慣れてるのかな。
 ・・・誰と?
 怖くなって、僕はバスローブを着て、ベッドから抜け出す。
 あちこち痛む身体を引きずるようにして寝室を出ると、リビングから風が流れてきた。
 閉めていたはずの、ベランダに続く窓が開いている。
 そっとベランダを覗くと、スラックスにシャツを引っ掛けだだけのアスランの背中。
 知らない人みたいで、ますます怖くなる。
「起きた?」
 振り返らないまま、アスランが声を発した。
「アス・・・」
「寒くない?」
「・・・ない」
「俺が怖い?」
 見透かされて、僕は返答に困る。
「アスラン、だよね?」
「そう。キラの『幼馴染で親友』の」
 アスランは振り返らない。
「まだ、ただの『親友』?」
「そこから抜け出したいなら、おいで」
 勝手に足が動いた。
 両手を伸ばして、アスランの背中を抱きこむ。
「アス、怖い」
「うん」
「こっち向いてよ」
「今、顔見られたくない」
「どうして」
「情けない顔してるから」
「そんなの、全部知ってるよ」
 ふっと、アスランが笑った気配がした。
 動いた手が、そっと僕の頭を撫でる。
「悔しいもんだな、『旧知の仲』っていうのは」
 アスランが振り返る。
 両腕で、しっかり僕を抱きしめてくれる。
「かっこつけることもできない」
「しなくていい」
 アスランの肩に顔を埋めて、笑う。
 抱きつく腕に力を込めて。
「つくりもののキミはいらない」
「・・・うん」
 こめかみにキスを受けた。
「まだ怖い?」
「・・・ううん」
「最初、なにが怖かったんだ?」
 こつんと額を合わせる。
 えーとね と僕は言葉を選んだ。
「初めて行く場所って、緊張しない?」
「身を守るための勝手がわからないからな」
「うん。だから」
「・・・そっか」
 境界線を越えるのに、予習もできなければ下調べもできなかった。
 できるわけない。
 こんな、曖昧で単純なこと。
 誰もが知ってて、誰も知らない。そんな術。
「僕、超えられた?」
「俺と一緒にね」
「じゃあ、もう怖くない」
 なんにも、怖くない。
 アスランがいれば、なにも怖くない。
 あの戦場でもそうだったように。
 あのときは、背中をむき合わせて戦っていたけど。
 今度は、肩を並べて。
 手を取り合って。
 生きていける。
「アスラン」
「うん?」
 アスランと一緒に。
 同じだけの強さで。
「愛してる」
 その一言で、僕らは本当に境界線を超えた。
 『幼馴染で親友』から。
 『共に生きていく人』に。

ハッピバースディ、キラさまー。