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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

壊れた世界の動かし方。 12(完結)

2007-07-30 18:44:05 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 反抗期の子供を叱ってくる と言えば、部下はあっさり帰宅を許してくれた。
 残業手当は、すこし色をつけてやらなければ。
「・・・帰っておまえがいるのは嫌な気分だな」
「お互い様だ」
 帰宅すれば、リビングにイザーク。その横に、手錠でイザークに繋がれたキラがいた。
「逮捕か?」
「隔離しているだけだ」
 クラッキングをかけていたパソコンは半壊。
 いつもどおり という言い方は嫌だが、はやりIPの逆探知は叶わなかった。
 証拠がないのだ。
 現行犯と言ったが、シンが証言しない限り、犯罪としては成り立たない。
「とんだ跳ね返りだな」
「まったくだ」
 上着を脱いで緩んだままのネクタイを外し、ついでにボタンを二つ外して。
「説教だけじゃ聞かないみたいだ」
 キラの目の前に、逃げられないように立てば
「調教でもしろ」
 イザークは手錠を外し
「ああ、俺は貴様が少年嗜好になっても偏見はしないから安心しろ」
 言い捨てて、出て行った。
 音のない、煌々と蛍光灯が光る部屋で。
 ふたり、息を殺す。
 拗ねた顔で横を向き、ソファに座ったままのキラと。
 キラの前にただ立つアスラン。
 すい とアスランの手が動いたとき、キラがびくり と逃げ腰になった。
 その反応を見て
 大きく、一振り。
 その頬を、叩いた。
「・・・っ」
「そんなにここを出て行きたいか」
 静かな、低い声。
 怖い と、思う。
 逃げたい。嫌だ。こんなの嫌いだ。
 なのに。
 嫌われたくない。ここにいたい と思うのは、どうして。
「出て行くなら、鍵を返せ。ふらふら入ってこられちゃたまらない」
 俺はそこまで心が広い人間じゃない。
 キラは無言のまま、ポケットに仕舞っていた鍵を掴み出す。
 小さな鈴が、ちりん と鳴った。
 これを返せば。
 自由の身。
 そして
 待つのは、孤独だ。
「や、だ」
「わがままも大概にしろ」
 キラの手から強引に鍵を取り返そうとするアスランに、キラは抵抗した。
「やだ! 返さない! 絶対嫌だ!」
「ならどうしてあんなことをする!」
「だって! なにかしたかったんだもん! アスランになにか返したかったんだもん!」
「迷惑だ! あんなやり方!」
 もみ合っているうちに、キラの手から鍵が滑って
 小さな鈴の音と共に、リビングの床に落ちた。
 あ と思って
 キラは飛びつくように、その鍵を守る。
 これだけなのだ。
 アスランと繋がるものは。
 帰る場所の鍵は、これだけ。
「俺が怒っているのはわかるな」
「・・・うん」
「どうして怒っているかもわかるな」
「・・・うん」
「どう償う」
 どう と言われても。
 キラは、なんにも持っていない。
 この部屋にあるものはすべてアスランが買い与えてくれたもので、キラが自力で手に入れたものはなにもないのだ。
 なにひとつ持たない自分と。
 この、大人が。
 遠いなぁ と、思う。
 大人になりたい とは思ったけど。
 自分が子供だと自覚したのは、初めてだった。
 どうしよう。
 無力じゃないか。
 ぎゅっと、鍵を握り締めるしかできない。
 ちっぽけな鍵を守るのが、精一杯。
「ごめんなさい」
「その一言で俺の苦労が消えるとでも?」
 アスランと、アスランの部下と、シンと、イザークと。
「何人に迷惑をかけたと思ってる」
「ごめんなさい」
「反抗したいなら的を絞れ!」
 怒鳴られて、キラは身をすくめる。
「むやみに他人を巻き込むな!」
「っ・・・」
「反抗っていうのは、一種の甘えなんだ。誰彼かまわず甘えるな」
 アスランがゆっくりとキラに歩み寄る。
 また殴られる。
 そう思ったのに、触れた手は、キラの頭を撫でて。
「イザークから少し聞いた。友達、シンっていうんだってな」
「うん・・・」
「年は?」
「16。高校生」
「じゃあ、平日は無理か」
「?」
「保護者として、お詫びしなきゃいけないだろ」
 すとん とキラの目の前にアスランは座り込んで
「食事でもご馳走しよう。キラの友達だからな。ちゃんと謝らないと」
「・・・保護者だから?」
「半分は俺の責任だからな」
 パソコンにウィルスを流し込んだ件ではない。
 キラの教育を間違った。
 その償いだ。
「ただしパソコンは自力で弁償しろ」
「はい」
「イザークへの礼は、俺が頼んだから俺がするから」
「え、だって」
「あいつは金がかかるぞ」
 無理だろ。
 言われて、キラは言い返せない。
「約束を、しよう」
「やくそく?」
「言いたいことは、はっきり言い合う。俺も、キラにちゃんと言うから」
 だから、おまえもちゃんと言って。
 こんどは、ちゃんと聞くから。
「ごめんな」
 アスランの一言で。
「・・・ごめんなさい」
 初めて、心から謝った。

 友達を家に呼ぶのは、初めて。
「すいません、こんなこと・・・」
「いや、こちらが悪いから」
 数日後予定が合う日に、シンを夕食に招いた。
 ・・・が。
「なんでおまえたちもいるんだ」
「キラのトモダチだからー」
 ラスティにディアッカ、それに多忙なはずのイザークまでいる。
 ダイニングでは席が足りないので、リビングだ。
「えーと・・・」
 シンは、大人に囲まれてなんだか緊張しているみたいだ。
「ほんとごめんね。えっと、二ヶ月くらい待ってくれると助かるんだけど」
「いーよ、貯金で買いなおしたし。そのかわり今度課題手伝えな」
「うん」
 聞けば情報処理科の学生なのだという。
「学校に部活に妹の世話にバイト? なにそれ、超多忙学生じゃん」
 指折り数えて、ラスティはうげっ と顔をしかめる。
「部活は弱小だからたまにしかないし、妹の世話ももう中学生だからほとんどしなくていいし」
 けっこう暇っす。
「小遣い稼ぎかー。俺らもやったよな、アスラン」
「やったな。おまえに巻き込まれてな」
 最後の皿をテーブルに置いて、ようやくアスランはキラの隣に腰を下ろす。
「アスラン、どんなバイトしたの?」
「ファミレス、ファーストフード、カラオケ、コンビニ、ビラ配りにあとは事務系」
「げ」
「俺がバイトするとき誘ってたんだよ」
「おまえバイト狂だったもんなー」
 ディアッカは一点集中型。
 イザークに至っては、バイト経験はないらしい。
「小遣い稼ぎっていうか、欲しいものがあって」
「なに」
「単車です」
 シンの言葉に、おっ と、ラスティとディアッカが食いついた。
「なに狙ってる?」
「え、インパルス・・・」
「地味ー!!」
 ラスティは叫び、ディアッカは「年寄りくせぇ」と批難した。
 アスランによるとラスティは学生時代、オレンジ色に染めたバイクを乗り回し、ディアッカは大学時代からハーレーに乗っているらしい。
 両極端だ。
 三人はバイクトークに花を咲かせるが、イザークひとり黙々と酒を呑んでいるのが、キラには怖かった。
 悪いことは、もうするなと言われた。
 それを、裏切ってしまった。
「えっと、ごめんなさい」
 キラが謝っても、イザークは黙ったまま。
 視線でアスランに助けを求めれば
「怒鳴らないのは、怒れないんだよ。なんだかんだ言ってキラがかわいいんだ、こいつ」
「わかったような口をきくな」
 八宝菜が塩辛いぞ。
「で? キラのその後はどうなんの」
 ディアッカに話を振られ、キラは
「ここにいる」
 とだけ返す。
「と言っても、引っ越すんだけどな」
「は?」
 なんだそりゃ。
「ここじゃキラの勉強部屋もないからな。近場にいい部屋見つけたから、そこに来週引っ越すんだ」
「へーぇ。ここでもいいと思うけどな」
「狭いだろ」
「常に一緒の空間! いい! なんか愛が生まれそうでいい!」
 勝手にトリップするラスティは、放っておいて。
「キラの高校入学も、決まったんだ」
「あ、面接したってやつ?」
 先日、キラは高校入学のための試験を受けた。
 といっても、通信のほとんどは面接のみだ。
「特技でハッキングって言ったときはどうしようかと思ったな」
「だってそれしか思いつかなかったんだもん」
 ぶう と膨れて八宝菜を食べて
「アスラン、ちょっとしょっぱい」
「どれ?」
 キラの箸から、平気で食べるアスランに
「愛、もう生まれてんじゃねぇの・・・?」
 ディアッカは苦い顔をした。
 
 愛 と呼んでいいかはわからない。
 
 学校が始まって、キラは少し変わった。
 バイトにも慣れ、それなりに友達もできた。
 月に二回登校。その際受けるテスト対策も欠かさない。
 アスランとも、時々喧嘩をする。大概は翌朝になったらなかったことになっているが。
 時折料理にも挑戦し、そのたび指に小さな傷を作る。
 一生懸命さを向ける方向を間違えないようになった。
 一人の夜も、怖がらなくなった。
 ・・・見知らぬ人は、まだ少し怖いらしい。
「キラ」
「なに?」
 今からバイトだというキラに、アスランは不意に声をかける。
 いつもならアスランの休みにキラが合わせるのだが、今日は予定が入った友達と交代したらしい。
「ほしいものあるか?」
「ほしいもの?」
「学校の入学祝。忘れてただろ」
 ああ とキラは声を漏らして
「アスラン」
「ん?」
「だから、アスランがほしい」
 こういうところは、変わっていなかった。
 それにすこし安堵する自分に、呆れたりして。
「・・・わかった」
 諦めるように、アスランは返して。
「帰ってきたら覚悟しろよ」
 宣戦布告をして。
 キラの唇をちょい と摘んで
「好きだよ。たぶん」
 初めて言った言葉に、キラは口をぱくぱくさせて
「たぶんってなにさー!」
 叫びながら、玄関を飛び出した。
 たぶん。
 きっと。
 ・・・絶対。
 閉じたドアに向かって、もう一度
「好きだよ」
 言って、アスランは自分の気持ちを確かめた。
 たぶん、あの夜から。
 出会ったその瞬間から。
 なにもかもが、運命だったと思うしかない。
 自分に言い聞かせて、ふとキラがサイズの違う自分の靴を履いて飛び出してしまったことに気づいて。
 さぁ、どうやって笑ってやろうかと。
 玄関で待ち構えた。 


敗北感でイッパイなまま、完結です・・・。
どうしても8月7日までに終わらせなければ・・・ という使命感が邪魔してくれました。
後日談は、たぶんありません。・・・たぶん。




壊れた世界の動かし方。 11

2007-07-28 19:51:28 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 久々にこの音を聞いた。
 ピッ という、無機質な警告音。
 すぐに卓上の電話が内線通信を知らせる。
「どうした」
『ヤツです!』
 ざっと、血の気が引くのがわかった。
 返答もせず通話を切り、システム管理室に急ぐ。
 病気の再発だ。
「あの馬鹿・・・!」
 口汚く吐き出して、足早に廊下を歩きながら、アスランは携帯電話を取り出す。
 システム管理室の扉を開くと同時に、メモリから最短で相手に電話した。
 呼び出し音を聞きながらメインモニターを確認すれば、案の定。
 このやり方は、一人しか知らない。
『もしもし?』
「どういうつもりだ!」
 返ってきた暢気な声に、アスランは怒鳴りつける。
「今すぐやめろ!」
『ありゃ、もうバレた』
 悪びれもしな相手は、それでもどんどんこちらのシステムを破壊し、書き換えていく。
『だってそれ、効率悪いんだもん。大丈夫。損はさせないから』
「違法行為だ!」
『だってアスランには得になるよ?』
「損得の問題じゃない!」
 実際、システムに異常はない。
 むしろ善くなっていってはいる。
 だが警告音は鳴り響いたままだ。
 対ハッキングシステムと、対クラッキングシステムの警告音だ。
「どこからやってる」
『内緒』
「友達はどうした」
『今おやつ買いにいってる』
「友達の家か・・・」
 迂闊だった。
 他人の家からやるとは思わなかった。
『パソコンの調子悪いから見てくれって言われて。ついでだからネットしていい? って訊いたら、壊さなきゃいいって』
「やめろ」
『やだ』
 会話の間にも、システムは書き換えられていく。
 これは本当に、今現在組まれているシステムなのか。
 スピードが異常だ。
『ストレス溜まった。発散するまでやめない』
「パソコン買ってやる!」
『アクセス制限かけて? 割りに合わないよ』
 完全な反抗期だ。
 過剰な抑制が招いた事態。
 どうやら自分は、子育てには向かないらしい。
「通報するぞ」
『すれば? 僕をイザークに売れるなら』
 舐められたものだ。
 が、実際、今のアスランに通報する気はない。
 情が、邪魔をする。
 堕ちたものだ。
「どうすればやめる」
『だからそのシステム書き換えたら』
「おまえが組んだものを、その後管理できる人間がいると思うか!」
『じゃあ今すぐ僕を雇えば?』
「中卒を雇う気はない」
『交渉決裂』
 ブツン。
 オフボタンを押したのではない、携帯電話を折りたたんだ、礼を欠いた切り方。
「くそっ」
 アスランはジャケットを脱いでその辺に放り、さらに堅苦しく締めたネクタイを緩め
「代われ」
 エンジニアを、席から外す。
「お知り合い・・・ですか?」
 社員が控えめに、しかし不安を隠せない表情で訊いてくる。
「ただの子供だ。一応、俺のアドレスで警視庁のジュール氏に連絡を」
「居所は・・・」
「子供が暴走したと言えば勝手に調べる」
「わかりました」
 イザークに直接連絡すれば、逮捕はしないだろう。
 借りはいくつ目だ。
「借金は嫌いなんだがな・・・」
 久々の攻防が、始まった。 

 このやり取りは、久々だ。
 プログラムに長けたアスランだが、どうしてもキラの先を読むことができない。
 キラが書き換えたものを元に戻す。
 その間に、キラは先を書き換える。
 イタチゴッコ。
 アスランは指をキィの上で滑らせながら、ひとつ大きな息を吐いた。
 おちつけ。相手はゲーム感覚なんだ。
「俺のデスクの引き出しから、赤いディスクを持ってきてくれ」
「はい!」
 手出しできない部下が走る。
 最近思い立ち、組み上げたシステムの存在を思い出す。
 そうだ。手は打ってあったはずだ。
 攻防を繰り返している間に、部下がばたばたと戻ってきて、一枚のディスクを差し出した。
 [JUSTICE]
 悪さには、正義の鉄槌を。

「あれ、キラ、なにやってんの?」
「うん? ゲーム、かな」
 戻ってきた友達のシンが、お菓子とジュースが入った袋を下げたまま、モニターを覗き込んだ。
「うげ、なにこれ」
「だからゲーム」
「いやこれ、ゲームじゃないから」
 袋から出したジュースのボトルキャップを開けて、シンは呆れたまま
「ハッキングっていうやつ?」
「正確にはクラッキング」
 なお悪い。
 バイトのシフトが同じで、年も近く、ゲーム好きで意気投合した。
 訳ありで他人の家に居候していて、日中は暇だというキラを自宅に誘った。
 話しているうちにパソコンに詳しいと知り、そういえば最近処理速度が下がっていると相談したのが、運の尽き。
「あ、処理速度ね。入れてたデータが重かっただけだよ」
「あ、入れすぎ?」
「エッチな動画とか入れすぎ」
 そこまで見たのかよ。
 高校入学と同時に買ってもらったパソコンだ。
 自分専用のネット回線がうれしくて、思春期のシンはついつい怪しげなサイトを覗いてしまっていた。
「ウィルスとかはなかった。チェッカーくらい入れたほうがいいよ」
「あー、高いんだよな、アレ」
「フリーのやつ、今度教えてあげる」
 話しながらも、キラの指は止まらない。
 なんだこの動き。
 指の動きを目で追うことができない。
 モニターを見ても、なにがなにやら。
 一応シンは高校で、情報処理を勉強している身なのだが。
「で、これってどこに繋がってんの?」
「僕の保護者の会社」
「げ。追い出されてもウチ来るなよ」
「えー。マユちゃん見せてよ」
「絶対ダメ」
 シンの妹は、部活で帰りが遅くなるという。
 出来れば、会わせたくない。
 カワイイ妹に、こういう人種は、触れさせたくない。
 シンの嗅覚は、確実にキラの危うさを嗅ぎ分けていた。
 イッパンジンじゃない。
 どこか、別の世界に住む人種だ。
「っと」
 シンがボトルの炭酸飲料を飲んだとき、キラの手が止まる。
「なに」
「あー・・・」
 キラがため息を吐き、少しキィを叩いて
「ごめん。パソコン、壊れるかも」
「はぁ!?」
 慌ててモニターを覗き見ると、先ほどより早い速度で画面がスクロールしていく。
「なにこれ」
「えーと、ウィルス?」
「はぁ!?」
「ごめん。やれるだけ、防いでみるけど。中のデータとかって、バックアップ取ってる?」
「課題入ってんだけど!」
「ほんとごめん」
 一枚ディスク貰える?
 そう言われて、シンは慌てて空きのディスクを差し出す。
「できるだけバックアップ取る。大事なデータ教えて」
 Cドライヴのあちこちに散らばったファイルの中から、切実に守りたいものだけ、シンは選んだ。
 エロ動画は、この際卒業することにする。
「やっばいなぁ。大人を舐めてた」
 ウィルスまでディスクに書き込まれていないことを確認して、キラは思案する。
 防御するべきか。
 攻撃するべきか。
「いーからさぁ。壊れたら弁償しろよー」
「うん。それは必ず」
 するり と、キラの手が動いた。
「アスランのいじわる」
 いじわるな人は、きらい。
 やさしいところは、好きなのに。 

「おっ・・・と」
 アスランは、止まりかけた手を、無理やり動かす。
 キラの動きが変わった。
 こちらのシステムではなく、ウィルスの駆除を優先したらしい。
 友達に窘められでもしたか。
 その間に、アスランは次の手を打つ。
 壁が必要だ。時間稼ぎの。
 メインシステムのあちこちに配置されたブロックのいくつかは、キラに壊されてしまった。
 今残っているものの補強が必要だ。
 今日は残業だな と、アスランは苦く思う。
「壊された箇所の修復を頼む」
「やってます」
 仕事の早い部下はありがたい。
 キラの動きが止まっている間に、と思ったとき、傍らに置いた携帯電話が着信を知らせる。
 反射的に、手にとって通話ボタンを押す。
 誰だ、このクソ忙しいときに。
「はい」
『ガキが暴走しただと?』
 イザークだ。
「ああ。俺は教育者には向かないようだ」
『キラのバイト先は、貴様の家の近くのコンビニでよかったな?』
「そこでできた友達の家にいるらしい」
『貴様の奢りで、今度は豪遊だな』
 ふっ というイザークの嘲笑と共に、通話が切れる。
 子供の悪戯で、アスランの財布は肺炎寸前だ。
「あと少し、粘ってくれ」
「なにか策でも?」
「すぐ終わる」
 とっととこれを終わらせて。
 じっくりと、大人の怖さをおしえてやる。

 キラがなにかのプログラムを組み始めて、20分がすぎた頃。
 心中穏やかではないシンの心臓が跳ねた。
 インターフォン。
「はいはーい?」
 ばたばたと部屋を出て、玄関を開ける。
 見たことのない男。
「失礼する」
 スーツ姿の男が胸元から出したものを見て、シンはぎくりとした。
 テレビドラマなんかでみるのと、同じだ。
「ちょ、俺無実ですよ!」
「わかっている」
 提示した手帳を仕舞って、警察の男はどかどか家に入る。
「部屋は」
「・・・二階、階段右」
 反抗すれば公務執行妨害。
 そんなことくらい、シンだって知っている。
 音もなく階段を登る男について、シンも階段を登り
「そこまでだ」
 テレビドラマでありがちな台詞を、生で聞いた。
「げ、ぇ」
「逮捕されたくなければ大人しくしろ」
「逮捕しないの?」
「されたいか」
「すれば」
「すればアスランの下には居られなくなるぞ」
「・・・いいもん」
 拗ねてみたが、通用しなかった。
 ギリ と腕を掴み上げられて、キラは思わず悲鳴を上げる。
「痛い!」
「痛くしているんだ」
 イザークは容赦ない。
 片手でキラの手を掴み上げ、空いた手でパソコンの電源を強制的に切った。
「あー!」
「うるさいぞ」
 どうやら組んでいたものを保存していなかったらしいキラの悲鳴をBGMに、ポケットから携帯電話を取り出し
「現行犯だ」
 すぐに通話が繋がった相手に、それだけ言った。
 勝ち誇った笑みが、キラの神経を逆なでする。
 こういう大人は、嫌いだ。
「・・・ちょっと待て」
 相手にそれだけ言って、携帯をキラの差し出す。
「飼い主だ」
「ペットじゃない」
 受け取って、
「謝らない」
 ぶすくれたまま言えば
『最悪だ、おまえ』
 心の底から呆れた声が返ってきた。
『反抗したいなら、他人に迷惑かけないやり方をしろ。文句があるのは俺だろう』
「手段がなかった」
『せっかく出来た友達を巻き込んで・・・。ちゃんと謝れよ』
「半分くらいパソコン壊れたんだけど」
『自業自得だ。市販パソコン買うくらい貯金残ってるだろ。弁償しろ』
「アスランが壊したんじゃん」
『種を蒔いたのはおまえだ』
 ああ、この喋り方。
 本当に、見限られた。
 大嫌いだと思ったのに、なぜか胸の辺りがちくちくする。
 どうして。
 まだ、好きだなんて、思うの。
『帰ったら説教だ』
「帰らない」
『どこに行く気だ』
「その辺」
『本気で怒るぞ』
 もう怒ってるじゃん。
 呆れてるじゃん。
 最悪だって、言ったじゃん。
『イザークに代われ』
 言われるままイザークに携帯を返すと、二、三言交わして、通話を切る。
「小僧。すまなかったな」
「あ、いえ」
 一人カヤの外だったシンは、はっと我に返る。
「パソコンについては、早めに処置を取る。今日のところは見逃してくれ」
「あ、はい」
 言葉は丁寧だが威圧感があるイザークに、シンは恐縮してしまった。
 相手は国家権力者だ。
 反抗すれば後が怖い。
「キラ、行くぞ」
「どこに」
「アスランの家だ」
「や、だ!」
 必死に抵抗するが、イザークは
「本気で逮捕するぞ!」
 怒鳴りつけ、キラを引っ張って行ってしまう。
「えーと。キラ、またな」
「や、ちょっと! 痛い! シンごめん!」
 悲鳴だか謝罪だか。
 取り残されたシンは、半壊のパソコンをそっと撫でて
「短い命だったなぁ」
 真っ黒なモニターを見つめた。 


遅くなりましたが、お久しぶりねの更新です。
キラとシンを友達にするのが好きです。





壊れた世界の動かし方。 10

2007-07-24 21:18:23 | 年の差アスキラパラレル(連載)
「ああ、さっぱりしたな」
 帰ってきたアスランは、キラを見るなりそう言った。
 昨夜のことは、すでになかったことになっている。
 今朝の時点で、アスランはいつもどおりだった。
「前髪短くて、変な感じ・・・」
「それくらいが似合うよ。目がよく見えていい」
 ちょい とキラの前髪をいじって、アスランは満足気。
「あと、時間あったから、晩御飯つくってみた」
「キラが?」
「へたくそだけど」
 言われてキッチンに行くと、鍋にカレー。
「で、ご飯は?」
「・・・あ!」
「わかった。ご飯だけ買ってくる」
「ごめん」
「いや、ありがとう」
 くしゃくしゃとキラの髪を撫でて、アスランはまた外に。
 ドアが閉まって、お互い知らないところで、ため息をついた。
 
 どうすればいいのか、わからない。
 アスランの正直な気持ちだ。
 キラをどう扱えばいいのか、わからない。
 今日も持ち帰りの仕事がある。これはキラに手伝ってもらいたいところだ。
 学校の申し込みが終了したことも、伝えなければ。
 しかし、その後のことを想像すると、どうにも だ。
 コンビニでパックの白米を買いながら、アスランはため息を吐く。
 そういえばキラがバイトするのはこの店だ。
 店内を見れば、店主らしき女性が一人。アルバイトらしき少年がレジに一人。
「ありがとうございましたー」
 活舌が悪いのか投げやりなのかめんどうなのか、うまく聞き取れない口調で少年が挨拶する。
 この少年は、ここ2.3ヶ月見るようになった新人だ。
「ありがとうございます」
 入口付近で作業していた女性にも、挨拶を受ける。こちらは至極丁寧。好印象だ。
 パックに入った白米が、ビニール袋の中でガサガサいう。
 帰り道は、街灯がしっかり点いていて、暗くない。
 徒歩5分。
 好条件と言えるだろう。
 ああ、なんだかんだでキラのことを気にしている自分がいる。
 情けないな と、アスランはまたため息を吐いた。
 誰かの侵入を、ここまで簡単に許すなんて。

 失敗した。
 せっかくアスランの役に立とうと思ったのに。
 キラは火にかけた鍋の中身をかき混ぜながら、もう一度ため息を吐いた。
 大人になるのって、楽じゃない。
 疲れて帰ったアスランに、また手間をかけさせてしまった。
 お風呂にお湯でも張ろうかな と思ったけれど、アスランがシャワー派なのを思い出し、やめる。
 どうすればいいかな。
 裏切るな とラスティに言われたけれど、具体的にどうすればいいのか。
 早く大人になって、役に立って。
 すこしでも、好きになってほしい。
 利用されるんじゃなくて、頼って欲しい。
 どうすればいいかな。
 頭の中が、鍋の中のカレーみたいにどろどろと、ぐるぐるとする。

 キラの作ったカレーは、すこし水っぽかった。
 それでもアスランは食べてくれた。
 そのあと頼まれて、アスランの仕事を手伝った。
 パソコンを弄るのは、好きだ。
「ああ、学校、勝手に決めたけど、よかったか?」
「どんな学校?」
「工業系。機械科の、ソフトを専門に教えてくれる、専門学校みたいなところ」
 パソコンは、好きだ。
 命令したとおりに動いてくれる。
「アスランがいいって思ったなら、大丈夫」
 パンフレットを渡されたけれど、通信で滅多に通うことのない学校だ。
 月に一度程度実習で通う学校は、ここから電車で一本。
 キラの負担にならないように選ばれた学校だ。
「ああ、そこ。バグが出るんだ」
「うん?」
 パンフレットから視線をモニターに戻して、キラはうーん と唸ってから
「こっちのプログラムが邪魔してるんだよ」
 カタカタと、キィを叩く。
「助かるな。うちのSEに任せたら時間かかってさ」
「こういうの好きだし。いつでも言って」
 にっこりと笑うと、アスランがすこし引いた。
「ご褒美は、いらないから」
 付け足すと、安堵のため息。
「バイトでお金ためたら、自分のパソコン買ってもいい?」
「ネットに繋ぐのは駄目だぞ」
「なんでー」
「悪さするから」
 その悪さでアスランに出会えたから、キラはあの過去をあまり悪いものと捉えていない。
 ほかの悪さは、嫌な気分にはなったけれど。
「自宅ネットも禁止で、ネットカフェは出入り禁止で、どうすればいいのさー」
「携帯ですればいいだろ」
「たかが知れてるー!」
 実際問題、キラはネット中毒者だ。
 すべての情報をネットを介して得ていた身に、今の生活は退屈でしかない。
「学校始まったら解禁してやる。通信には欠かせないからな」
「どうせアクセス制限かけるんでしょ」
「当然」
 うー と唸りながら、それでもキラはキィを叩く。
 時折頼まれる仕事の手伝いだけが、パソコンと触れ合う唯一の機会。勘が鈍らないように、リハビリも兼ねている。
 ネットカフェへの出入りは、イザークの権力で妨害されている。都内すべてのネットカフェのブラックリストに、キラは載ってしまった。
 フリーでネット回線を使えるところも多いが、まず携帯端末がない。
 欲しいな と思うが、反対されるのは目に見えているし、無断で買えば没収だろう。
 ここまで完璧に妨害されて、キラは正直鬱憤が溜まっている。
 どこかで、発散したいなぁ。
 漠然と、キラは思った。  

 アルバイトを始めたキラは、とても安定して見えた。
 初めは戸惑っていたが、慣れた頃に友達も出来、至極平穏。
 そんな日が続いた、2月末。
 携帯にキラから一本のメールが入った。

『友達の家に行ってきます。帰るのは7時頃』
 
 アルバイト先で出来た年下の友達と遊びの約束でも入ったらしい。
 いいことだと思う。
 世界が広がることは。

『俺も少し遅く帰る。夕飯は何か買って帰る』
 
 そう返信して、ひとつ息を吐いて。
 数時間後に、事件は起きた。 


ちとオフで時間とれなくなりそうなので、今のうちに更新です。
ペースが保てなくてすいませんー。



壊れた世界の動かし方。 9

2007-07-23 17:51:11 | 年の差アスキラパラレル(連載)
R-15です。




 キラの眼差しは、嫌いではない。
 それに流されたと言っても、いいわけにはならないだろう。
 献身的な子も、従順な子も、好きだ。
 手を出すいいわけには、ならないだろうが。
「俺を犯罪者にするのか・・・」
「お金取るわけじゃないもん・・・」
 口答えするキラの首筋を舐めると、ぴくり とキラの身体が強張った。
「怖いか?」
「・・・うん」
 素直な子は、好きだ。
「誘ったのはおまえだからな」
「うん」
 そっと、キラの細い腕が、アスランの背に回る。
「僕のせいにしていいよ」
 責任をとらなくていいのも、楽でいい。
 考えようによってはこれ以上都合のいい相手はいない。
 愛情なんてなくても、行為はできる。
「んん・・・ん、ん」
 唇を吸って、その間にシャツの下に手を差し込んで。
 定石どおりの手順で、その胸を撫でれば、当然だが膨らみはない。
 ああ、男だったな とそのとき改めて認識した。
 それでもきゅっと突起を摘めば、キラは大きく反応する。
 どうやら敏感な体質らしい。
 これは今までキラで遊んできた男たちは、楽しい思いをしただろう。
「アス・・・アスラ・・・」
「大丈夫。焦るな」
 腹のあたりを撫でても、キラは声を上げる。
「指、つめた・・・」
「ああ。体温低いんだ、俺」
 おまえの身体は熱いな。
 耳元で囁いて、手をスラックスの下に差し入れると、いよいよキラの身体が逃げようとした。
「こら。誘ったのは誰だ?」
「ごめ・・・」
 腰を無理やり引き寄せ、ついでに下着ごと脱がしてやる。
 こういうことは久しぶりだが、身体が覚えているものらしい。脱がすのは嫌いではない。
「なんだ、もうこんななのか?」
「やぁっ・・・」
 反りたった雄を軽く握ってやると、キラは大きく反応する。
 年の割には、小さいほうだ。
「や、放して・・・っ」
「駄目。ほら、いいから・・・」
「んーっ」
 柔らかく指を動かして先を誘えば、キラはアスランの背にしがみついてきた。
 それを甘受して、抱き返して。
「男は勝手に濡れないんだ。潤滑剤なんて、うちにはないぞ」
「あ、ああっ」
 だったらこうするしかないだろう?
 そう言って強く刺激を与えれば。
 キラはあっさりと熱を放った。
「ほんとうに溜まってたんだな」
「ん、だって・・・」
 僕だって男だもん。
 言い返すキラに笑って、腰を抱え上げて。
「痛くても泣くなよ」
 返事を待たず、指を一本、そこに突き入れた。
「あっ!」
 遠慮なしの刺激に、キラは上手く声を上げることもできない。
「や、やだ、や・・・っ」
「嫌じゃないだろ? 力抜け」
 できるだろう?
 アスランの言葉に、キラはぶんぶんを首を横に振る。
「痛・・・っ、あっ」
 かまわず指を動かして、中を慣らしてやる。
 指を食いちぎらんばかりの締め付けは、慣らしておかないと自分がヤバいとアスランに教えてくれる。
「息吐いて」
「はっ、あ・・・」
 言われるままにキラが息を吐いた瞬間を狙って、もう一本。
 びくり と、キラの身体が跳ねた。
 背中に回った指が、強く握りこまれる。
「他の男にも、こうだったのか?」
「なに、わかんな・・・」
「これじゃ、入れるほうも痛いだけだぞ」
 これで金をとられちゃたまらないだろう。
 言って、中をかき回す。
 そのたび、キラは大きな声を上げて泣く。
 窓を閉めておいてよかった。開いていたら近所にこの声が駄々漏れだ。
 かき回して、キラが一層声を上げるところを重点的に攻めて。
 もういいだろう というところまで慣らすと、アスランは一気に指を引き抜いた。
「ひぁっ」
 それすら刺激になるのか、キラは天井を仰ぐ。
 その喉にキスを落として。
「少し待って」
 身体を離すと、キラが不安に満ちた目で見てくる。
「その分じゃ、家捜しはしてないんだな」
「?」
 汚れた指をティッシュで拭いて、アスランが向かったのはテレビを置いている棚の端。
 引き出しの一番下。
「使用期限は、大丈夫なはず」
 取り出したのは。
「あったんだ、ゴム・・・」
「悪いな。俺も経験者だから」
 箱の中身はもうあまりない。
「使い古し?」
「過去の遺物」
 一枚千切って。
「キラ。本当にいいんだな?」
 いまさらな質問に、キラはきょとんとする。
「後悔しないな? イザークに告げ口もなしだぞ」
「うん」
「もう悪さをしないと誓うな?」
「うん」
「イイコだ」
 頭を撫でて、キスをして。
 これは間違った教育だな と改めて思って。
 かなり無理やりな体制で、キラを泣かせた。 

「おーす。迷わなかった?」
「うん」
 ラスティの働く店は、繁華街の隅にある。
 立地はいまいちだが、腕のいい美容師を多く抱えている人気店で、予約を取るのも難しいらしい。
「忙しそうだけど、いいの?」
「今は暇なほう」
 ラスティは笑って店内に迎えてくれるが、とても暇そうには見えない。
 大盛況だ。
「この時間、俺の客がキャンセルはいちゃってさ。運いいぜ、おまえ」
 席を薦められ、ちょいちょいと髪を弄られて。
「アスランよりは楽だな」
「アスランの髪も切ってるの?」
「アスランもイザークもディアッカも。一番手を焼くのはイザークかな。ストレートすぎて誤魔化しきかねぇ」
 ふんふん とキラの髪質を確かめて
「んじゃ、始めるか」
 ケープをかけられる。
「カワイイ系? カッコイイ系?」
「アスランはどっちが好きかな」
「そらカワイイ系だろ」
「じゃ、そっち」
 あらあらマジだよ とラスティは笑いながら、髪を濡らしていく。
「ほんで?」
「ん?」
「アスランはどうだったよ」
「どうって?」
「下ネタ」
 かっ と、キラの顔が高潮する。
「・・・わかるものなの?」
「匂いとか、フェロモンとかでな」
「なにそれ・・・」
「ほんで? どうだったよ」
 店の一番隅。小声で話せば、にぎわう店内では他人に聞かれることはない。
「すっごいサド」
「やった! 俺の勝ちじゃん!」
「誰と賭けてたの」
「某D氏」
 シャキン と、鋏が入る。
「べったべったに甘い系か、めちゃくちゃ俺様サド系かで」
「前者はないと思う」
「俺は一瞬そっちに賭けかけたんだけどな」
 あいつ、おまえに甘いし。
 そんなこと言われても、事実は後者だった。
 やさしくされたとは、とても言えない。
「感想は?」
「半分かなー」
「半分?」
「うれしいのと、悲しいのと。半分」
「なんでよ」
 邪魔な髪をヘアクリップで留めながら、ラスティは首を傾げる。
 願ったり適ったりではないのか?
「だって、アスランは僕が好きなんじゃないもん」
 ご褒美でキスしてくれて、強請ったからしてくれただけ。
「子供のわがままに付き合っただけってカンジ」
「なるほど」
 左右のバランスを確かめながら、ラスティは頷く。
「要するに、心も身体も欲しいってことか」
「どうすればいいかな」
「それに成功したやつ見たことねぇからなー」
 なんとも言えねぇ。
「アスランって、中学とか高校のとき、どんなだった?」
「こら、動くな」
 ぐりん と振り返ったキラの頭を捕まえて、
「わけわかんねぇやつだったよ」
 正面を向かせながら、ラスティは振り返る。
「頭よくて人当たりよくて。いいやつだけど、一線引くのは忘れない。俺は無理やり内側に入ったけどな」
「一線?」
「使えないやつは他人。使えるやつは身内」
 そういうヤツだよ。
「なんでそれで友達やってるの?」
「俺、変わったヤツって好きなんだよ」
 おまえ含む。
「イザークもツンケンしてるくせにけっこうやさしいしさ。ディアッカは波長が合ったんだけど」
「似てるもんね、ふたり」
「一緒にすんな」
 ハゲ作るぞ。
「目、ちょっと閉じて」
「ん」
 言われるままに目を閉じると、前髪を切られる感触。
 はらはらと、髪が鼻を掠めて散っていく。
「今でも変わらねぇよ。おまえが使えるやつだって判断したから、傍に置いてんだろ」
 ラスティの言葉には、容赦がない。
「で、これで言うこと聞くって判断したからしたんだろ。そこ、裏切るなよ」
「・・・うん」
 目開けていいぞ。
 言われて瞼を持ち上げれば、鏡に映った自分の姿。
 髪を切ったぶんだけ、よけい幼く見える。
 子供の、自分。
 大人になりたいと、そのとき初めて思った。
 彼に、ほんとうに必要とされる人間に、なりたいと。



すいませんすいません。ほんとフリーダムですいません・・・。

壊れた世界の動かし方。 8

2007-07-20 17:53:48 | 年の差アスキラパラレル(連載)
「食事会」のはずが、すっかり「呑み会」になってしまった。
 イザークはいつもより高めの酒を注文するし、ディアッカとラスティはいつもより勢いよく酒を煽る。
 アスランは車で来ているので、酒はほんの少し最初に呑んだだけで、あとはずっとキラと同じものを注文した。
「キラさー、いつなら時間空いてる? マジ、髪切りたい! うずうずする!」
「おまえのそれ、病気だよなー」
「フェチって言えよ、せめて」
 酒の入ったラスティは、いつにも増してよく喋る。
「後ろばっさりいけよ。白いうなじが見えたほうがいろいろ得するぜー」
 酒の入ったディアッカは、いつにも増して品性下劣になる。
 そして、イザークは
「貴様等! セクハラでも逮捕できると知っているか!?」
 いつも悪酔いするほど呑まないのに、今日は随分酔っていた。
「おまえら・・・飛ばしすぎだ」
 三人のテンションの上がり具合に、アスランはぐったり。キラはいまだびくびくしている。
「ほんで? 二人はどこまでの仲?」
「へ?」
 ずい とディアッカに目の前まで迫られ、キラは反射的に顔を上げる。
「関係! どこまでヤッた?」
「ディアッカ!」
「あー、うんとね」
「キラも答えるな!」
 アスランは慌てた。
 まさかキラに迫られ、挙句押し倒されたなどと暴露されては、今後いい笑いものだ。
「あんだよ。やましいことでもやったのかよ」
「それはいいな。未成年者に手を出していれば貴様を逮捕できる」
「やめてくれ。俺は潔白だ」
 イザークの獲物を見つけた目に、アスランは思わずホールドアップする。
 やましいことは、一切していない。
 していないのだが。
「・・・なんだ、キラ」
 さきほどから、じっとキラが大きな目で見つめてきているのが気になる。
「みんなに訊きたいんだけどさ」
「なんだ?」
 嫌な予感がしつつ、アスランが先を促せば
「アスランって、何人くらいと付き合ってた?」
 沈黙。
 爆笑。
「なんだキラ! おまえ、アスランにマジかよ!」
「好きなやつの過去は気になるよなー!!」
「ラスティ、おまえが一番付き合いが長いんだ。暴露しろ」
「了解!」
「やめてくれ!!」
「あのな。俺は中学からの付き合いなんだけどさ」
 アスランの静止もかまわず、ラスティはおもしろそうに話し出す。
 アスランは腹を括った。
 括る前に、自分の過去を走馬灯のように思い出し、汚れていないことを確認するのは忘れない。
「モテたぜー。つうか俺等全員モテたけど!」
「やっぱり? アスラン、かっこいいもんね」
「この顔でこの性格で、おまけに頭よくて運動できりゃ、モテるよなー」
 涼しげなアスランとは対照的な顔つきのディアッカが、皮肉っぽく酒を煽る。
「しょっちゅう呼び出しされてたよな」
「全部断ってたよ」
 なっ とラスティに話を振られたが、アスランはばっさり。
「好みの子、いなかったの?」
「理想高いんだよな、こいつ」
 駄目駄目、と、ラスティは手を振る。
「なんだっけ? 化粧が濃いのが嫌い? テンション高すぎる女嫌い? スカートが短すぎる? 香水くさい?」
 あとなんだっけ?
 ラスティは指折り数え
「あと、指だな」
「指?」
 ラスティの言葉に、キラは思わず自分の指を見た。
「あるんだと。好みの指ってやつが」
「ふぅん・・・」
 じっと自分の指を見ても、それがアスランの好みなのかはわからない。
 グラスを持つアスランの指と比べて。
「アスラン、深爪」
「爪が長いとキィが打ちにくいんだ」
「好みの指って、どんなの?」
「言わない」
「教えてよー」
「絶対駄目」
 かたくなに、アスランは拒んだ。
 言えるものか。
 キラの手が、自分の好みど真ん中だなんて。

 結局解散は終電間近になった。
 清算を終えたアスランに、ラスティとディアッカは酔った勢いで
「ゴチ!」
 と頭を下げた。
 三人を駅まで送る途中、イザークが不意に
「貴様はキラを買ったのか?」
 と、真面目な顔で訊いてくる。酔いは覚めたらしい。
「買ったわけじゃない。ただ、才能を預かっただけだ」
 買ったなどと人聞きの悪い。
「では、飼うのか?」
「ペットじゃない。人間の子供だ」
「貴様が子供を受け入れるとはな」
 フン と、イザークは皮肉っぽく笑う。
 アスランはいつだって、弱いものを自分の内側に迎え入れることはなかった。
 自分と同じレベルまで来ることができる人間。
 自分の上を行く人間。
 そればかり見続けてきた。
 そうしなければ、生きていけない気がしていた。
 それが。
「あれは子供だ。貴様とレベルが同じとは思えん」
「子供でも、パソコンの前に座らせれば一級品だ」
「禁止したとキラが言っていたが?」
「まだ悪さをする可能性があるからな」
 パソコンに触れることは、まだ禁止したままだ。
「だが、そのままでは鈍るぞ」
「わかってる。時期を見て、監視しながらリハビリさせる」
 あの才能は、正直惜しい。
「いつもながら、己のためならなんでも利用するヤツだな」
「そういう男だよ、俺は」
 そう。なんでも利用してきた。
 生まれも育ちも性格も、顔だって人脈だってなんだって。
 そうして生きてきた。
「貴様も十分汚れていると俺は思うぞ」
「そうか?」
「ああ。キラと同じくらいにはな」
 俺は身を売ったりしていない と言いかけて、やめた。
「あーもーめんどくせー! アスラン、車で送れよ!」
「俺の車に5人はきつい」
 ラスティの叫びにも似た声に、呆れつつ。
「色々面倒かけたな」
「貴様から礼を言われるのは気持ち悪い」
 改札の向こうに消えるイザークたちを見送って、アスランとキラは車に向かった。
 電車に乗り遅れないよう、駅に駆け込む人に逆らって。
 その波に、キラが押し流されないように。
 無意識に、手を繋いで。

 翌日の昼に掛かってきたのだというバイトの合否は、合だった。
 大喜びのキラに、特別に寿司をご馳走してやった。
 魚が苦手なアスランは、別にうどんを頼んだ。
 接客のバイト経験のあるアスランがコツを教えてやると、キラは真剣な顔で聞く。
「あ、明日ラスティのお店行ってくる」
「ああ、髪切ってもらうのか」
「さっき電話したら、明日なら時間あるからって」
 特別にタダだって!
 キラのテンションは上がりっぱなしだ。
「かわいくしてもらえよ」
「男にかわいいって、ないんじゃない?」
 それもそうか。
 だが、ラスティなら任せても大丈夫だろう。
「キラ。食べたらちょっと頼みたいことがあるんだ」
「なに?」
「うちの会社で、ちょっと躓いてるプログラム。キラならどうするか、意見貰いたいんだ」
「いいよ!」
 特技を頼られるのは、うれしいらしい。
 食事を終えて、パソコンの前。
 ブロックを外す手順は、キラには見せない。
「これなんだけど」
「んー?」
 後ろを向いていたキラが振り返り、モニターを見て
「これ、効率悪いよ。バグ出るかも」
「キラならどうする?」
「いじっていい?」
「コピーだから、いいよ」
 席を譲れば、キラはカタカタとキィを打ち始めた。
 初めて見る、その動き。
 アスランの会社のどの社員より、早い。そして正確だ。
「こっち消しちゃってね」
 ピッ と一行、打ち込まれたものを消して
「こうしちゃえば、早いよ」
 そうして新たに一行打ち込んで。
「で、こういうのを組み込めばほとんどのウィルスはブロックできるし」
 目にも留まらぬ とはこういう動きを言うのだろう。
「で、仕上げにこうして・・っと」
 タン! と、キラが勢いよくエンターキィを押した。
「完成。どう?」
「ちょっと見せてくれ」
「うん」
 席を再び交代して、それを見て。
 アスランは驚いた。
 無駄がなく、正確。そして独創性に優れている。
 マニュアル通りでは、こうはいかない。
「すごいな。どこで勉強したんだ?」
「最初は本読んだりしたけど、途中でネットのそういうサイト見てコツ覚えた」
 あとは独学。
 たいした教育もなく、これか。
「怖いな・・・」
 きちんと勉強させれば、どうなるか。
「これ、使っていいか?」
「使える?」
「ああ」
 じゃあ、いいよ。
 キラははにかむ。
 その笑顔の向こうの意図を察して
「ああ、ご褒美とお礼な」
 言って、座ったままキラの頭を引き寄せて。
「ん」
 口付けてやる。
 正直手を焼いていた件をあっさり解決してもらったので、特別に深く。
「ん、ん・・・」
 歯列をなぞって、舌を吸い上げて。
 唇を離すと、かくんとキラの膝の力が抜けた。
「アス・・・上手過ぎ・・・」
「そうか?」
「っていうか、付き合った子いないのに、どこで経験したの・・・」
「大人には大人の経歴ってものがあるんだよ」
 あまり威張れたことではないが。
「ほら、風呂入ってこいよ」
「ちょ、まって・・・」
 本格的に力が抜けたらしい。
 やりすぎたかな と思う。
「ほら、摑まって」
「んー」
 身体を支えてソファに座らせてやると、キラはふぅ と息をついた。
「ねぇ」
「なんだ?」
「イイコにしてたら、もっと先もしてくれる?」
 なにを言い出すかと思えば。
「そんなにしたいのか?」
「アスランとしたい」
 呆れた視線をやると、返ってきたのは真剣な眼差し。
「好きだから。アスランとしたい」
「おまえ、トラウマとかになってないのか?」
「?」
「金で買われて好きにされて。嫌な思い出ないのか?」
「あるよ」
 きっぱりと、キラは言う。
「嫌だったよ。気持ち悪いと思ったよ」
「だったら・・・」
「だから」
 立ち尽くすアスランのシャツの裾を、きゅっと掴んで。
「そういうの、全部消して欲しい」
 怖いのも汚いのも嫌なのも全部。


あわわわーわー。
誰かこのフリーダムを止めてー。
 





壊れた世界の動かし方。 7

2007-07-14 21:05:00 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 ウズミが会社に来た と言うと、キラの顔色は一変した。
 履歴書に記入する手が、止まる。
「叔父さん、なんて?」
「キラを頼むって」
「それだけ?」
「・・・うん」
 人として壊れている なんて話したことは、伏せたほうがいいだろう。
 お世辞にもいい言葉とは思えない。
「それとさ」
 下書きに誤字を見つけ、指摘しながら、アスランは話を変えることにした。
「明日、俺の友達が会おうって」
「帰るの遅いの?」
「キラも一緒にね」
「?」
「警察に世話になっただろ? あの時色々手配してくれたのが、高校時代の腐れ縁のヤツでさ」
 警察 という言葉に、キラは逃げ腰になる。
「大丈夫。逮捕するとかじゃないよ。あと、カメラマンと、美容師」
「なんか、変わってるね」
「うん。人脈としては変わってるかな」
「なんで僕?」
「俺が一緒に暮らしてるやつに興味あるんだってさ」
 ふぅん とキラは履歴書を書ききり、ふぅ と息をつく。
「学歴、寂しー」
「略歴だから、二行で終わりだもんな」
 小学校、中学校。
 それの卒業記録だけで終わる、学歴。
「これ、みっつかけるようにするんだ」
「就職のときはきちんと書かなきゃいけないから、もっと多いよ」
「ふぅん?」
 わかんない と、キラは消しゴムをかける。
「明日の夜7時。俺の会社の近くの駅の、西口。わかるか?」
「うん」
「それとさ」
「なに?」
「いい加減、携帯番号教えろ」
 待ち合わせに、知らないと不便だろ。
「んー・・・」
 キラは悩む。
 今まで、アスランはキラの携帯番号を訊くことはしなかった。
 履歴書の連絡先も、この部屋。
 不思議と、キラは携帯番号を教えたがらない。
「なんで嫌なんだ」
「個人情報?」
「いまさらだろ」
「だってさぁー」
 舌ったらずに、キラはぽつりと言う。
「かかってこなかったら、寂しいじゃん」
 一緒に暮らし始めてから、キラの携帯電話が鳴ったことはない。
 ああ、そういうことか と、アスランは納得して
「教えてくれなきゃかけられないだろ」
「教えたらかけてくれる?」
「必要なときはね」
「必要なときって?」
「これからどんどんできてくるよ。お互いに予定ができれば」
 すれ違うことも、多くなるから。
「僕もかけていい?」
「いいって言っただろ」
 まだ言うか とテーブルに頬杖をついてため息をつくと、キラは手元の携帯電話を弄って
「これ」
 と差し出した。
 キラ という名と。
 11桁の電話番号と。
 制限数限界まで入れられた、でたらめに文字を並べただけのメールアドレス。

 「クラッカー」キラに、イザークは納得いかない顔をした。
「これが例のガキか」
「キラだよ」
 待ち合わせた駅の出口。
 先に来ていたアスランの携帯を鳴らしたキラと落ち合った。
 その5分後に来たイザーク。
 仕立てのいいスーツ姿で、アスランの横に立つキラを見るなりの言葉だ。
「随分な子供だな」
「面と向かって言うな。キラの機嫌が悪くなる」
 キラは怯えたように、アスランの影に隠れている。
「挨拶が遅れたな。イザーク・ジュールだ」
「・・・キラ・ヤマトです・・・」
 差し出された手を、そっと取る。
「よし。サイバーテロの容疑で逮捕だ」
「イザーク!」
「冗談だ」
 ぱっと手を離してやったが、キラはよけいに怯えてしまった。
「大丈夫だよ。冗談が下手なやつなんだ」
「・・・うん」
「時間だな」
 キラを宥めるアスランを苦い顔で見ながら、イザークはアスランの後ろにある大時計を確認した。
 約束の時刻だ。
「行くか」
「あいつらはどうするんだ」
「いつもの店だ。勝手に来る」
 時間に遅れるやつが悪い。
 そう言ってすたすた歩いていくイザークに、「相変わらず厳しいな」とアスランはため息。
 キラはなにがなにやらで、アスランに誘われるまま街へ歩き出した。

 キラを追い回した、勝手知ったる街の一角。
 なじみの店だ。
 個室を占拠して、イザークはさっさと呑みはじめる。
「貴様の奢りの酒は格別に美味いな」
「飲酒運転するなよ」
「今日は電車だ」
 そう言って酒を煽るイザークは至極ご機嫌、キラはコーラを手に俯いたままだ。
 本当に人見知りなんだな と、アスランは思う。
「ちーす。遅くなったー」
「この遅刻魔が」
 個室の襖がからりと開き、立っていたのはディアッカとラスティ。
 派手な二人の登場に、キラはますます逃げ腰だ。
「お、噂のかわい子ちゃん」
「へー、いいじゃん!」
 いつもどおりディアッカはイザークの隣に座り、いつもアスランの隣のラスティは行き場なくお誕生日席。
 思い思いに注文をして(奢りなので遠慮がない)、さて とキラを見る。
「ふぅん。想像以上にかわいいな」
「前髪ウザいなー。せっかくの綺麗な目がよく見えねぇ」
 タラシのディアッカは値踏みするように、ラスティは職業病的観点で、キラを観察する。
「そういう目はやめろ。キラを怖がらせるな」
「お、保護者らしいじゃん」
 にやっ とディアッカは笑い
「ディアッカ・エルスマンだ。カメラマンをやってる。よろしくな」
 ぴっ と一枚の名刺を差し出す。
 キラはそれをおずおずと受け取り
「キラです・・・」
 とまた俯く。
 ディアッカの名刺は、プライベート用のものだった。
 キラのことが気に入ったらしい。
「俺、ラスティ・マッケンジー。今度髪切らせてくれよ」
 腕は保障するぜ と、ラスティも営業用の店のロゴがプリントされた名刺を差し出す。
「ああ、髪は切ってもらったほうがいいな。バイトするなら。面接どうだった?」
「結果、明日連絡くれるって」
「決まったら初仕事の前に切ってもらうといいよ。前髪伸びてるもんな」
「・・・うん」
 ちょい とキラの前髪を弄ってみれば、紫の瞳が怯えの色に染まっていた。
 相当、警戒している。
「なんだ?」
「知らない人、苦手」
「ああ、そうだったな」
 よしよし と、頭を撫でてやる。
「怖くないよ。根はいいやつらだから」
「うん」
 そのやり取りを見て、イザークはしかめっ面。ディアッカとラスティはおもしろそうに
「アスランって、いつもその調子で女口説いてたわけ?」
 などど言い出す。
「男を口説く趣味はない」
「いや、それ、口説いてるから」
 ラスティは全力で全否定する。
「口説いてなかったらあれだな。親馬鹿」
「過保護?」
「それそれ」
 くつくつと、ディアッカとラスティは笑う。
 どうとでも言ってくれ と、アスランは諦めることにした。
 遊ばれることには、もう慣れた。
「キラ」
「・・・はい!」
 不意にイザークに呼ばれ、キラの背が伸びる。どうやらイザークに怯えているらしい。
「悪いことはしていないな?」
 ブルーアイズに睨みつけられ、キラは泣きそうになりながら
「・・・はい」
 と頷く。
「そうか。もうするなよ」
「はい」
「敬語でなくてもいい」
「・・・うん」
 イザークもそれなりに、キラのことを心配していたようだ。
「迷惑かけて、ごめんなさい」
「かまわん。おかげで今日はタダ酒だ」
「・・・?」
 イザークの言葉の意味がわからず、キラはアスランに向き直る。
 あー とアスランは説明に困り
「ちょっと、世話になったからな。お礼だ」
「僕のせい?」
「キラのせいじゃないよ。キラのため」
 言葉は正しくな と、アスランは笑いかけてやる。
「今日のは親睦会ってやつ」
「しんぼくかい?」
「なかよくなりましょうって会」
 ラスティがキラにわかりやすく説明すれば
「友達?」
 キラはうれしそうに訊きかえす。
「そう。友達になりましょうの会」
 にっ とラスティが笑うと、キラはぱっと顔を明るくした。
 友達。
 キラにとって、初めての。


どうしてもラスティが書きたいんです。
ほんでDとラスティの書き分けができません。(喋り方似すぎ)
こっちの原稿より、イザークBD用の原稿が先に上がってしまいました。
気が早い! 気が早いよ私!!




壊れた世界の動かし方。 6

2007-07-10 22:11:19 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 ベッドに入れば、あっさりアスランの予感は的中した。
 ここまで行動の予測がつきすぎるのは、正直おもしろくもある。
 が、予測していながら打開策が浮かばない自分には腹が立つ。
「・・・キラ」
「んー?」
「やめろ」
 ベッドに寝転ぶアスランに馬乗りになって、キラはアスランの首に舌を這わせる。
「気持ちよくない?」
「そうじゃなくて」
「いいんだ?」
「キラ」
 ちゅう と吸われて、慌てて引き剥がす。
 跡など着けられてはたまらない。
「俺とキラはそういう関係じゃないだろう」
「そういうって?」
「俺はおまえを買っていない」
 才能はそのうち買うつもりだが、こういう報酬を出す気はない。
「だって。もう一週間居候だし」
 んー と考えて
「叔父さんのことまで考えて、僕の将来心配してくれてるし」
 それは才能を買うための準備だ。
「アスランのこと、好きだから」
「それは違うだろう」
「違わない」
「違う。やさしくされて情が移っただけだ。拾ってくれた人間に従う犬と一緒だぞ」
「違うもん」
 ぷい とキラは拗ねた顔をして
「子供でも情と恋愛の違いくらいわかる。アスランが好き」
「好きだからこういうことがしたいって?」
「うん」
「即物的だな」
「本能でしょ」
「男同士で本能もくそもあるか」
 おまけにおまえは受身じゃないか。
 男としての本能はどうした。
「恋愛なら女としろ。外の世界に出ればいくらでも出会いはある」
「それくれるのはアスランでしょ?」
「違う。おまえが選ぶんだ」
 わかんない とキラはさらに拗ねて
「・・・男とするのは嫌?」
「いい気はしない」
「やり方わかんないなら、教えるよ?」
「聞きたくない」
「一回だけ」
「調子付くだろう、おまえは」
 寝たままのアスランと、アスランの腹の上のキラで、一分間の睨み合い。
「わかった」
 沈黙を破ったのは、キラ。
 やっとわかったか とアスランが気を抜いた瞬間だった。
「その気にさせてやる」
「こら!」
 するり と、キラの手がアスランのシャツの下に滑った。
「キラ!」
「アスランそのままでいいよ。勝手にできるから」
 そう言って、勝手にシャツをたくし上げて。
「・・・っ」
 胸元に吸い付かれる。
「ここ、弱い?」
「馬鹿言うな」
「これは?」
 カリ と、齧られて。
「気持ちいいんでしょ?」
 身体をずらしたキラの手が、
「ここは反応してる」
 そっと、触れた場所。
「おまえ・・・!!」
「大人って正直じゃないよね」
 そのままなで上げられて、アスランは背筋にぞっと何かが走るのを感じた。
「ね、その気になった?」
 この子供。
 いったいどんな経験を積んできたのか。
 キラの話し方では単に「誘われた」としか解釈できなかったが、よく考えればキラが誘ったこともあるんじゃないのか?
 かわいい顔して。
 とんでもないガキだ。
「生でもいいよ。ここ、ゴムないもんね」
「男同士で生の意味がわかるのか・・・」
「わかるよ。大丈夫、ちゃんと一人で処理できるから」
 ということは、生でした経験もあるということだ。
 女ではないのだから、妊娠の心配はないだろうが。
「・・・病気とか、大丈夫か?」
「・・・さぁ?」
 ちょっと待て。
「平気じゃない? 具合悪いとかないもん」
 自覚症状の出ない感染症も多くある。
「やめろ。今ので一気に萎えた」
「その気になってたの?」
「・・・正直な」
 その手はやっぱり最高だよ。
「ただ、俺のためを思うなら、その手はプログラムにだけ使ってくれ」
「パソコン禁止したのアスランじゃん」
「おまえはすぐ悪戯するからだ」
 悪戯しないと誓うのなら、与えてやってもいい。
 あの技術が鈍るのは惜しいのだ。
「こういう悪戯も、もうするな。女とする前には病院で検査しろよ」
 相手がかわいそうだ。
 いいからどけ と冷ややかに言うと、キラはしぶしぶアスランの上からどいて
「・・・ゴム買ってくる」
 食い下がる。
「溜まってるのか?」
「・・・ちょっと」
 いっちょまえに男だ。
「風呂でも行って抜いて来い」
「一人でするのって、空しくない?」
「だからって俺を性欲処理に使うな。好きだと言うならなおさらだ」
 嫌がる相手を押し倒すのは、大人のすることじゃない。
 しゅんとなったキラは、アスランの隣にぺたんと座り込む。
「・・・けち」
「俺はケチだよ」
「潔癖症?」
「そうだよ」
「童貞じゃないよね?」
「それはおまえだろう」
 悪口並べればいいってもんじゃないぞ。
「いいから寝ろ」
「・・・はぁい」
 すっかり落ち込んだキラを、いつものように抱きしめてやって。
 アスランは、眠れなかった。

 翌日、アスランの会社に来訪者があった。
「わざわざお越しいただかなくても・・・」
「いえ、大事な甥のことです」
 ウズミ・ナラ・アスハ本人だ。傍らに控える人物を見れば、
「キサカです」
 と頭を下げられた。
 応接室に通すと、キサカが大きな封筒を差し出した。
「キラの保護に関する書類です。先ほどすべて書き換えてきました」
「噂通り、仕事がお早い」
 目を通し、アスランは笑う。
「あの子は、元気ですか?」
「元気すぎるほどですよ」
 元気すぎて昨日は襲われた とは、口が裂けても言えないが。
「私は、娘にすべてを継がせるつもりです」
「最初からキラを当てにしていないと?」
「そうではない。あの子は育てればよい才能を発揮します。ただ・・・」
「ただ?」
「人として、どこか、壊れている」
 ああ と、アスランは納得する。
「政治家には向きません」
「育てればどうにでもなりますよ。まだ子供です」
「私では、どうしてもカガリと比べてしまいます」
 常に前向きで、女性らしいとは言えないが、さばさばした性格の娘。
 足を止め、俯き、人の前に出ることを嫌うキラ。
「キラは、私の妻の姉の子です」
「奥様は亡くなられたと聞きましたが」
「カガリを生んですぐに。カガリを育てるのを、キラの母親に手伝ってもらっていました」
 あの二人は、姉弟同然。
「私の家で、キラは息苦しかったことでしょう」
「・・・アスハ派のなかに、よくない方がいると言っていました」
「私の力不足です」
 家に出入りする、知らない大人からの汚い期待。
 比較する声。
 値踏みする視線。
 繊細な子には、どんな重圧だったか。
「それを、私がどうにかできると思った理由をお聞きしても?」
「ジュール氏に確認をとりました」
 またイザークか。
「貴方も、ご両親を亡くされたと」
「・・・ええ」
「その際、ザラの親族とも縁を切ったと」
「そうですよ」
 アスランはもともと良家の生まれだ。
 両親亡き後、ザラの家の跡取りとして、親族の大人たちによくないことを散々吹き込まれた。
 それが嫌で、親族と縁を切り、会社を立ち上げ、自立した。
 キラには、単に情が移っただけではない。
 重なったのだ。自分と。
 そして哀れんだ。
 子供であることを。
「貴方なら、あの子の痛みがわかると思いました」
「わかりませんよ、あんな子供の考えることなんて」
「少なくとも、あの子は心を開いている」
 開きすぎだ。
「自立するまで とは言いません。成人するまでの2年間、お願いできませんか」
「・・・2年?」
「その間の養育費はお支払いします。学校に行くと言うなら、費用も出します」
「金の話はしていません」
「あの子が大人になるまで。それまででいい」
 大人?
 あと2年?
「たった2年で、あれが大人になると?」
 くつくつと、アスランは笑う。
 なるほど。キラが嫌がるわけだ。
 身内からして、なにもわかっていないではないか。
「あれは18歳じゃないですよ」
「・・・?」
「クソガキです。精々中学生だ。本能と目先の欲だけで走ってこけている、子供ですよ」
 たった2年で巻き返せるものではない。
「高校は行かせます。本人もその気ですし。その後のことは、追々」
 アスランは必要書類にサインを入れる。
「両親が亡くなったとき、俺はまだ子供でした」
 年齢的には、成人していたけれど。
「子供だったから、己の無力を呪い、大人になろうと必死にもがきました」
 力を、手に入れたくて。
「あれはそういった野心のかけらもない。現状に甘える子供です」
 大人になりたくないと、時を止めた。
 完全な甘ったれ。
「いい才能を持っている。高校はそこを専門的に伸ばしてくれるところを選びます」
 インクが乾いたのを確認して、アスランは書類の一部を自社の封筒に入れる。
「無事大人になれたら、その先はあの子に選ばせます。それが大人でしょう」
 自社の封筒を、ウズミに差し出し。
「連絡は定期的に入れさせます。それ以外は、一切手出ししないでいただきたい」
 二度と。
 あの子供を、毒に触れさせるな。

 気疲れして帰ったアスランに迎えたキラは
「明日バイトの面接行ってくる」
 と言い出した。
「・・・バイト?」
 遅めの夕飯の弁当を、キラは嬉々と開けている。
「近くのコンビニ。夕方から夜」
「夜?」
「18だし、男だし。昼間は女の子が多いけど、夜は男のほうがいいんだって」
 店の前に募集出てて、話聞いたら履歴書もって明日来てくれって。
「遅くなるのか?」
「んー? 9時くらい?」
 アスランの帰宅時間と、ほぼ同じ。
「学校入るのって、時期あるじゃない。今から願書出しても入れるの4月でしょ?」
「ああ、まぁ・・・」
「それまで社会勉強ー」
 えへへ と、キラはうれしそうに言う。
「気が早いな」
「だって。アスランが大人になれって言ったじゃん」
「急げとは言ってないよ」
 アスランの弁当をじっと見るキラの、ハンバーグの上にから揚げをひとつ乗せてやれば、キラはまた笑う。
「高校行ってないけどって言ったら、高校生もいるから大丈夫って」
「そっか」
 夜 というのはあまりいい気はしないが、キラがやる気なのはいいことだと思う。
「で、履歴書買ってきたんだけどさ」
「うん?」
「書き方教えて?」
 そこからなのか。
「いいよ。風呂入ってからな」
「うん!」
 こっくりと頷いて。
 キラは自分のハンバーグを一口分、「おかえし」とアスランの弁当箱に置いてくれた。


なんかかわいいことしてますけど、原稿上では「イタタタ」な事態です。どうしよう、これ・・・。



壊れた世界の動かし方。 5

2007-07-07 20:19:02 | 年の差アスキラパラレル(連載)

 その日の夜、アスランは一件の電話をした。
 キラの従姉妹の養育係、キサカにだ。
 キラは緊張した面持ちで、アスランにべったりとくっつく。
 携帯電話を操作して、コール5回。
『・・・どなたですか』
 低い、男の声。
「ザラといいます。キラ・ヤマトを保護しています」
 単刀直入に言えば、相手が息を飲んだのがわかった。
「キラ、話して」
 電話を差し出すと、キラはおずおずと受け取り
「・・・キラです」
 小さな声で、話す。
「ずっと、ごめんなさい。でも、そこに戻りたくない」
 相手が何を言っているのかは、アスランには聞えない。
「大丈夫、いい人。やさしいし、ちゃんとした人」
 アスランのもとにいることを心配されているのは、すぐにわかった。
 キラはちらりとアスランを見て
「今日もね、僕の服とか靴とか、ゲームとか、買ってくれた」
 それだけ聞けば、まるでアスランがパトロンのように聞える。
「違うよ。変なことない。えーとね、社長さん」
 少年嗜好の変態とでも思われたか。
「僕じゃうまく説明できないや」
 はい と、キラが電話をアスランに返す。
「こちらの番号は、警視庁のイザーク・ジュールに教えてもらいました」
『ジュール氏のお知り合いでしたか』
「彼のことを相談したら、貴方に話せばいいだろうと」
『キラさまのことは、私が面倒を見させていただいていました』
 アスハの一人娘と、同じ扱い。
 それは周囲がキラにどれだけ期待していたかをうかがわせるものだ。
「キラは帰りたくないと言っています」
『しかし、それでは貴方に迷惑が・・・』
「迷惑という概念はとうに超えました。かわいいものですよ、慣れれば」
 かわいい と言っただけで、キラの顔がみるみる赤くなった。
「アスハ氏に、伝言をお願いできますか」
『承ります』
「キラ・ヤマトを、正式に私の元に置きたいと思っています。そこは、この子にとって毒でしかないでしょう」
 アスランの言葉に、キラが勢いよく顔を上げた。
「正直、そちらを去ってからいいことをしていません。私がもみ消したものもいくつかあります」
「アス・・・っ」
「キラは政治家になることを望んでいません。この子が望む世界に、生きてほしい」
 キラが言葉を飲む。
「任せていただきたい。定期的に連絡はさせます。ご返答をお待ちしています と」
『・・・わかりました』

「アスラン、僕を引き取るって・・・」
「うん」
 通話を切って、キラはアスランの服をきゅっと掴んで。
「僕、アスランの子供になるの?」
「どうかな。アスハさん次第だ」
 今のキラの保護責任は、アスハにある。
 キラはもう18なのでひとり立ちすることも可能だが、キラはあまりに幼い。
 狭い世界で生きてきたせいで、あまりに世の中を知らなさ過ぎる。
 それに。
「中卒じゃ、まともな職には着けないしな」
 今の時代、最低高卒。
 アスランの会社も、入社試験の段階で高卒以上の学歴を求めている。
「学校っていうのは、勉強だけじゃなくて、社会的なルールとか、常識とか、マナーを習う場なんだ」
 落ち込むキラをそっと抱きしめてやって。
「もし、アスハさんの許可が下りたら、住民票とかをうちに移せばいい」
「・・・?」
「その間に、キラの保護者っていうか、連帯責任者になれるように手続きする」
 キラの年では、もう社会では大人扱い。
「そうしたら、学校に行かないか?」
「学校、やだ・・・」
「うん。普通の高校じゃあキラは浮くだろうから、通信とか」
「通信?」
「自宅で勉強するやつ。時間かかるけど、高卒の資格がもらえる。時々は学校に行かなきゃいけないけど、そういうところに行く人はみんな訳ありだから」
 定時制でもいいが、あそこはあまりガラがよくないと噂に聞くし。
「学校に行く間に、少しアルバイトもすればいい。短時間でできるやつ」
「・・・打ち込みとか?」
「じゃなくて、接客。キラは人との関わりがなさすぎるから」
 肉体労働だけど、人との接触は多いから、いい刺激になる。
「そうやって、ちょっとずつ大人になればいいよ」
 今はまだ、子供だけど。
 いつか、大人になって。
「・・・大人になって、僕はどうすればいいの?」
 また、ひとりぼっち?
 そういうキラに、アスランは困った。
 ここまでは一大人として話したが、ここから先は、自分の欲だけの話になりそうで。
「僕、大人になったらここから追い出されるの?」
「いや、そうじゃなくて・・・」
 どうするかな と、アスランは逡巡する。
 言って、いいだろうか。
 言えば認めることになる。
 単に情が移っただけではないと。
 自覚することになる。
「俺の会社に、入ればいいと思って・・・」
「え?」
 腹を括る覚悟で、アスランは話す。
「キラは、いい才能を持ってる。それを、貸してほしいんだ」
 キラほどのプログラミングの才能は、そうそう落ちていない。
 正直、惜しい人材だ。
「資格とかは、ちょっとずつ取ればいいし・・・」
「僕、アスランの力になる?」
「十分ね」
 十分すぎるほど。
「ここにいてもいいの?」
「キラさえよければの話だけど」
「アスラン!」
 がばっと、キラがアスランに抱きつく。
 アスランはその勢いを受け止め切れず、ソファに倒れた。
「こら!」
「うれしい!」
 純粋に。
 誰でもない、アスランに必要とされていることが。
 うれしい。
「僕、学校行く」
「その前に、アスハさんの許可がいるけどな」
「大丈夫。叔父さん、僕とカガリにはてんで甘いんだもん」
 摺り寄せてくるキラの頬が、興奮しているのか、熱い。
 よほどうれしかったらしい と、アスランがキラを抱きしめようとしたとき。
「一個! 一個、お願い!」
 がばり と身体を起こして、アスランを押し倒したまま、キラはアスランの目を覗き込んだ。
「・・・なんだ?」
 予感がする。
 嫌ではないのだけど。
「キスしていい?」
 的中。
「なんでキスなんだ・・・?」
「がんばる勇気ほしい」
 お願い と、キラがさらに顔を近づける。
 その、紫の瞳に、アスランは弱い。
「・・・ちょっとだけだぞ」
「ありがと!」
 言って、キラが唇を寄せてくる。
 なんで俺が押し倒されているんだ と、釈然としないまま受けていると。
「っつ!?」
 するり と、キラの舌が入り込んできて。
 ぴったりと身体を寄せて、アスランの舌に自分の舌を絡ませて。
「・・・ん」
 甘い声を漏らす。
 これはひょっとしなくても。
 誘われているのか?
 躊躇うアスランにかまわず、キラは執拗にアスランの口の中をかき回す。
 まぁ、キスを許可したのは自分だし と、ほんの少しサービスしてやることにして。
 軽く舌を絡ませてやれば、キラの身体が跳ねた。
 誘い方は知っていても、テクニックはまだ子供。
「ん、っふ・・・」
 軽く吸い上げて唇を離すと、キラはくたりと身体を完全にアスランに預けた。
「悪戯がすぎるぞ」
「だって・・・」
「だって?」
「好きなんだもん」
 キスが?
「アスランのこと、好きなんだもん」

 キラの言葉を、アスランは曲解することにした。
 拾われた猫が、飼い主に懐くのと同じだ。
 そう思わなければやっていられない。
 好き だと?
 それこそ、情が移っただけじゃないか。
 単に人にやさしくされてうれしくて、自分に希望を抱いてくれたことがうれしくて。
 錯覚しただけだ。
 子供の恋など、一瞬の錯覚だ。思い込みだ。
 そう自分に言い聞かせながら、シャワーを止めた。
 さて、どうするか。
 キラは先に風呂に押し込んだので、もう寝室にいるか、ゲームをしているだろう。
 ゲームをしているならいい。
 ベッドの上で、自分を待っていたら?
 正直、あまり言い気分ではない。
 キスまでならじゃれ合いで許すが、それ以上となると。
「困った拾いものだな」
 いい才能を拾ったと思ったが、とんだはねっ返りだ。
 子供のくせに大人の世界を知っているだけに、性質が悪い。
 髪を乱雑に乾かして、スラックスにシャツ一枚を引っ掛けてリビングに戻る。
 ソファに、キラがいた。
 買ってきた携帯ゲームに熱中している。
 やっぱり子供だ と思いながら、冷蔵庫からビールを出すと
「僕もそれほしい」
 顔を上げたキラが、ビールを指す。
「これは駄目」
「なんで」
「未成年だろ。これは酒だ」
 未成年の飲酒についてとやかく言える経歴ではないが、ここは大人として言うべきところだ。
「ついでに、おまえが酒に強いタイプだとは思えない」
「飲んだことあるよ」
「・・・なにを」
「えーと。カクテル?」
 甘い酒で酔わされ、襲われたわけか。
 子供だましのような手段に、あっさり引っかかった。
 やはり、子供だ。
「これは苦いよ」
「そうなの?」
「だから駄目」
 厳しく言って、350ミリの缶の中身を一気に飲み干す。
「一口」
「もう残ってないよ」
「うー」
 拗ねるキラに、これは身体でわからせないと駄目か と諦めながら、缶を耳元で振ってみる。
 ちょろちょろと、ほんの数滴、残っている音がする。
「ちょっと残ってる」
 ほら と缶を差し出してやると、キラの顔はぱっと明るくなる。
 そして缶を高く掲げて、口に数滴落として。
「にがいー」
「だから言っただろ」
 ビールの中でも、苦さが強いメーカーを、アスランは好む。
 ほら とグラスに注いだオレンジジュースを、キラは口直しとばかりに飲み込む。
「こっちのほうがおいしい」
「だろう?」
 子供だからな。
「そろそろ俺は寝るよ。明日早朝会議なんだ」
「あ、じゃあ僕も寝る!」
 ゲームを放って、キラはばたばたと寝支度を始める。
「まだ早いぞ?」
「いい。寝る」
 いつもの就寝時間より、1時間は早い。
 それでもキラは一緒に寝ると言う。
 アスランはいよいよ本気で地雷を踏んだ気分になってきた。

短いですけど、ここまでー。
忙しかったりネタが出なかったり体調崩してたりで、上手いことテンションが上がりません。
うう、難産・・・。




壊れた世界の動かし方。 4

2007-07-03 18:12:16 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 キラは明け方目を覚ました。
 本能的に、「ここから出て行かなければ」と思う。
 隣で眠るアスランに、「ごめんなさい」と「ありがとう」と囁いて。
 寝室からリビングに出れば、昨夜二人でラーメンを食べたテーブルに置かれたものを見つけた。
 鍵とメモ。

 『出て行く気なら、これを持って行け。いつでも来ていい。
  寂しかったら電話しろ。
  危ないことはするな』

 その下に書かれた、携帯電話の番号。
 ただの他人なのに。
 大嫌いだという、子供なのに。
 アスランは、こんなにもやさしい。
 自分がしようとしていることはそのやさしさへの裏切りだと。
 自分を組み敷いてきた男たちと同じことだと。
 やっと気づいて。
 キラは寝室に走り、眠るアスランに抱きついた。
「う、わ!?」
 寝こみを襲われたアスランは、なんだ? と声を上げる。
 そして、しがみつくキラに気づいて。
「どうした?」
 出て行くんじゃないのか?
 そう訊けば。
「ごめんなさい」
「・・・うん」
「わがまま言っていい?」
「なんだ?」
「僕、ここに帰りたい」
 キラの言葉の意味を汲み取って。
「いいよ」
 そう、返してやれば。
 キラは今度こそほんとうに声を上げて泣いた。

「例のガキを居候させてる?」
「・・・ああ」
 ことの報告に開いた呑み会で、イザークは言葉を失った。
 あのアスランが。
 他人のことなど興味なし で貫いてきたアスランが。
 よりによって子供を?
「・・・ついに頭がイカれたか」
「俺もそう思う」
 ラスティはおもしろそうに話を聞き、ディアッカは時折困惑した顔をした。
「保護者なし、学歴なし、おまけにヤバいことまでやってるガキかぁ・・・」
 イザークに「決して逮捕するな」と言い含めて、キラがクラッカーであることも話した。
「PCまで綺麗に破壊されたらしいから、キラが犯罪者だという証拠は残ってないんだけど・・・」
「十分犯罪だろ、売春は」
「最近では援助交際って言うんだ」
「一緒だろ」
 ディアッカが珍しくもっともなことを言う。
「それさぁ、後見人? に連絡とかしたほうがいいんじゃね?」
「相手は政治家だぞ? どうやって」
「あー・・・」
 ラスティは返答に困る。
「ガキに連絡させたらいいだろう」
「嫌がるんだよ」
 キラを居候させて1週間。
 その間に何度も説き伏せ、アスハ家に連絡するように言ったが、頑として聞かない。
 しかたないと思ってキラの数少ない所持品である携帯電話で調べようとしたら、指紋照合のロックがかけられていた。
 大方、携帯電話の中にもアスハに繋がる番号は残っていないだろう。
「政治家の跡取りになるのがそんなに嫌か」
「敷居が高すぎるんだそうだ」
 「あそこは家ってカンジがしない」と、キラは言う。
「おまけに、同い年の従姉妹がいるらしい」
「ほぅ?」
「その子は父親の跡を継ぐつもり満々で、どうにも・・・」
「邪魔者扱いか」
 気まずいのだそうだ。
 ただでさえ年頃の女の子の家に、同い年の男の自分が居候。
 あの臆病者には、それはたいしたストレスだっただろう。
「むこうは友好的らしいんだけどな」
「思春期ねぇ」
 遠い過去だな と、ディアッカは遠い目をする。
「・・・貸しを増やすか?」
「なに?」
 ふと、イザークが切り出す。
「今日の呑み会代と、次回、キラを交えて食事会。その費用を貴様が全額負担でどうだ」
「なにがどうできるって言うんだ?」
「知人にな、アスハの秘書官がいる」
「早く言え!!」
 アスランは怒鳴って、ポケットから出した財布をテーブルに叩き付けた。
「好きなだけ呑め!!」
「だそうだ。貴様ら、俺に感謝しろ」
「やったね! タダ酒!!」
「おねえさーん、追加!!」
 なにもしていないディアッカとラスティに奢るのは癪だが、その程度でキラをどうにかできるなら安いものだ。
 この状態を長く続けられるとは、アスランも思っていない。
 イザークは携帯電話を操作し
「これだ。キサカという人物に繋がる。俺の紹介だと言えばいい」
 表示された番号を、アスランは素早く携帯電話に記録した。

 少し遅めの時間に帰れば、部屋は真っ暗だった。
「キラ?」
 玄関に靴はあった。アスランは帰宅するたび、キラの靴がそこにあるのか確認するのが癖になっていた。
 暗いリビングを抜けて寝室のドアをそっと開ける。
 膨らんだ布団。
「ただいま、キラ」
 蹲るようにしてぎゅっと目を閉じているキラの髪をそっと撫でると、涙の滲んだ目がこちらを恐る恐る見てくる。
「どうした?」
「怖い」
「なにが」
「ひとり、こわい」
 この子供は、留守番をひどく嫌がる。
 出かけてもいい、帰ってこい と渡した鍵は、何度か使ったらしい。
 アスランが留守にしている間、昼間はそうでもないが、夜暗くなると、キラはひどく臆病になる。
「暗くするからだ。電気つけて、テレビでも見てればいいだろ」
「なんで遅かったの・・・?」
「ああ、友達と会ってたんだ」
「ともだち?」
「高校時代からの腐れ縁。キラのこと話したら、会いたいってさ。今度みんなで食事しようって」
 キラは未成年だから、酒は呑めないからな。
 そういうと、キラは戸惑った。
「初めての人、こわい」
「俺がいるから、大丈夫だよ」
 怯えるキラにいつもの態度は逆効果だと、同居を始めて3日目で判明。
 それからアスランは、帰宅してからはキラにやさしくすることを心がけていた。
 「落ち込んだり怯えたりする子供はどうしたらいい?」
 そう子持ちの部下数人に訊けば、やれ「結婚したのか」「子供がいたのか」と大騒ぎ。
 言葉を濁して「訳有の子供を預かっている」と説明し、夜怯えるのだと相談すれば
 「怯える子供は、抱きしめてやるのが一番ですよ」
 と言われた。
 男を抱きしめる趣味はないが、これは子供だと自分に言い聞かせ、キラの身体をそっと抱きしめてやる。
 それだけで、キラはほっと息をつく。
 やはり子供だ。
「キラ。後見人の人に、連絡しろ」
「いや」
「キーラ」
「やだ」
 このやりとりは、もう何度したかわからない。
「じゃあ俺がするぞ」
 言えば、キラがばっと身体を離した。
「・・・どうして・・・」
「俺にも情報網というやつはある。ちょっと調べた」
 調べたのは、イザークなのだけど。
「アスハといえば政治家の家系だな。迷惑かけられないのはわかるよ」
「・・・っ」
「でも、きっと心配してる」
「・・・嫌だ」
「帰りたくないならそれでいい。ただ、ここにいること、元気なこと。それだけは伝えないと」
「やだ! 連れ戻される!」
「大丈夫。そんなことはさせない」
 キラは堅くなに、「いやだ」と繰り返す。
「なにがそんなに嫌なんだ」
「カガリが・・・」
「カガリ?」
「アスハの、一人娘。・・・かわいそうだもん・・・」
「ああ、年頃の子は敏感だからな」
「そうじゃない」
 ふるふると、キラは首を横に振る。
「カガリは悪くない」
「じゃあ、なにが」
「おとな」
 大人? と、アスランは鸚鵡返しする。
「アスハの偉い人たちが、僕を養子にして、跡継ぎにしようって」
 カガリは父の跡を継ごうと、一生懸命なのに。
 そんな女の子のカガリは無視して、「男だから」という理由だけで後継させようとさせる、大人たち。
 それが自分を利用しようとしていることは、キラにはすぐわかった。
「いい学校行って、いい政治家になれって。それで、アスハを継げって」
「・・・それで高校行かなかったのか」
「叔父さんもわかってくれて、学歴なかったら政治家になれないしって」
 それでも裏口入学させられそうになって、あわてて逃げたのだという。
「人とか、怖くって」
 大人が、汚いものに見えて。
「もう、あそこはやだ」
 ぼろぼろと、キラは泣きはじめてしまった。
「戻りたくない・・・」
「ああ、わかった」
 しゃくりあげるキラを抱きしめる。
 キラも、アスランにしがみついて泣く。 
 声も上げずに。
「キサカ という人物は、危険か?」
「キサカさんはカガリの養育係で、大丈夫・・・」
「わかった」
 なんとかするから、もう眠ったほうがいい。
 そう言ってベッドに寝かせれば
「アスラン」
 隣に誘われる。
 一週間。キラはアスランに抱きしめてもらわなければ眠れなくなっていた。
「・・・シャワー浴びてくる。すこし待ってて」
「わかった」
 何度も言ったが、アスランに男を抱きしめる趣味はない。
 が、これはもう諦めている。
 これは子供だから と。
 「子供」という括りは、ひどく便利なものだった。

 翌日は、アスランの貴重な休み。
 朝食の席で「キラの日用品を買いに行こう」と持ちかければ、キラは素直に頷いた。
 歯ブラシなどの細かなものは買い置きがあった。
 だが、服などはいままでアスランのものを貸していた。
 身長差10センチ以上のキラには、アスランの服は大きい。
 外出する際に不恰好だろうとは思っていたのだ。
「ほしいものあるか?」
「パソコン」
「駄目」
 キラにパソコンは与えられない。
 いつあの暗く汚い世界に戻るかわからないからだ。
「だってアスランのパソコン、ロック掛かってるんだもん。メールとかさぁ」
「メールなんて仕事の依頼ばっかりだろ。友達いないって言ってたじゃないか」
「そうだけどぉ・・・」
「駄目だ」
 裏の仕事は、連絡がつかなければ同業の別の人間にすぐ話が回る。
 一度連絡がつかなくなったハッカーなどは、大概引退か逮捕か と認識される。
 知名度も必要だが、どこの世界でも信用第一。
 聞けばかなり名は売れていたらしいが、それも時間が経てば消えるだろう。
「じゃあ、ゲーム」
「ゲーム?」
「携帯用のでいい。ゲームしたい」
「好きなのか?」
「うん!」
 この家にゲームはない。
 それは暇だっただろうと、アスランは思う。
「わかった。服と靴と、ゲームだな」
「うん」

 そうして二人で出かけて、買い物をして。
 立ち寄ったカフェでキラが甘いものが好きだと、アスランは初めて知って。
 服を買うついでに面白半分にキラの身長を測ってみれば、163センチ。
 遺伝的に小さい男は珍しくないが、キラの場合不摂生、成長期の栄養不足が原因だとすぐにわかった。
 身長の割りに、足は標準サイズなのだ。
 粗方買い物を終えて帰宅して、不器用なキラにあれこれ教えながら一緒に食事を用意して。
 まるで家族のようだと、アスランは漠然と思った。
 親子のような。
 仲のいい兄弟のような。
 ・・・パートナーのような。
 そんな気が、した。


ほらほら、「キラに甘いザラ」の臭いが・・・。
エンドーさんがいまだにキサカさんの名前を間違えるので、ここではっきり脳に焼き付けてもらおうと思います。

壊れた世界の動かし方。 3

2007-07-01 21:14:06 | 年の差アスキラパラレル(連載)
 自分の足で探すとは言っても、キラがまだネットカフェにいる可能性は低い。
 だが、諦めきれない。
 苛立ち、足を止め、アスランは携帯電話を取り出した。
「悪い、俺だ」
『どうした』
 電話の相手は、イザーク。
 警視庁に勤める、高官だ。
「例の子供がまた出た。会社の近くなんだが、詳しい所在が掴めない」
『高くつくぞ』
「逮捕はするなよ」
『非行に走りそうな子供を保護して保護者に引き渡せばいいんだろう』
「誰が保護者だ」
 くくっ と笑って、イザークが通話を切った。
「くそっ・・・」
 よりによって、イザークに大きな借りを作ってしまった。
 高くつくな とたしかに思う。
 だけどそれに代えられないほど、アスランは苛立っていた。
 どこにいる。
 なにをしている。
 ・・・泣いて、いないだろうか。
 ピリリ と、携帯電話の無機質な着信音が、アスランの思考を塞き止めた。
 いまの感情は、なんだ?
「俺だ」
『一件ヒットです。つい30分前に出たそうです』
 部下からの報告では、アスランがいまいる位置からそう遠くない。
「了解した。悪かった」
『いえ。今日は退勤ということにしておきますから』
「頼む」
 物分りのいい部下は、こういうときありがたい。
 携帯を操作して、もう一度イザークに繋げる。
「30分前の居所がわかった」
 住所を言えば、
『近くに派出所がある。そこの人員を動かす』
 と簡潔な返答があった。
 
 キラが保護された という電話が入ったのは、それからさらに30分後だった。
 イザークからだ。
 さきほどのネットカフェからさほど離れていないファーストフード店で、発見されたという。
 派出所に走れば、そこにはしょぼんとしたキラがいた。
「ジュール氏から連絡を受けた、ザラです」
「お待ちしてました」
 イザークの息のかかった署員が、身元引き受け書類を差し出す。
 手早くサインして、キラの方を向きなおり。
「顔を上げろ」
 低く言えば、情けない表情がこちらを向いて。
 バンッ!
 と、アスランはその頬を叩いた。
「いい加減にしろ!!」
「ザラさん、あの・・・」
「なんだあのメッセージは!」
 署員が慌てて静止するが、アスランの頭には血が上ったままだ。
「ふざけるな!」
「ふざけてない!!」
 今にも泣き出しそうな声で、キラが叫ぶ。
「あれしか思いつかなかったんだもん! 会いたかったんだもん!!」
「会社まで来ればいいだろう!」
「子供があんなところそうそう行けると思わないでよ!」
 このあいだは「子供ではない」といい、今度は「子供だから」という。
 どこまでも自分都合の思考に、腹が立つ。
「きちんと話し合ってください。あまり子供を刺激すると、同じことの繰り返しですから」
 署員の言い分ももっともだ。
 話し合う必要がある。
「ご迷惑をおかけしました。キラ、行くぞ」
「・・・どこに?」
「うちだ」
 おまえは帰るところなんかないだろう。
 その言葉にキラは素直に立ち上がり、とぼとぼとアスランの後を着いて来た。
 叱られた子供の顔で。

 車でうちに連れ帰り、すっかりしょぼくれたキラにホットミルクを出してやった。
 キラの顔色が、ひどく悪い。
 当たり前だ。この寒さのなか、キラは薄着すぎる。
「それ飲んだら、風呂に入って来い」
「・・・はい」
 服は以前より変わっていたが、ぼさついた頭をみればまともな生活をしていなかったことは容易にわかった。
 ネットカフェ難民なんて甘いものではない。
 これではホームレスではないか。
 湯を溜めた風呂にキラを押し込み、一息ついてイザークに電話する。
「・・・悪かったな。うちに連行した」
『貴様に貸しを作るのはいい気分だな』
「怖いな。手加減してくれ」
『悲鳴を想像しただけでぞくぞくする』
「この変態」
 なにを要求されるか とアスランが覚悟したとき。
『少し調べたぞ』
「え?」
『貴様の話と、キラという名から、調べてみた』
「興信所の代金は払わないぞ」
『なんのための権力だと思っている』
 職権乱用じゃないか、それ。

 イザークの話はこうだ。
 本名、キラ・ヤマト。18歳。
 3年前交通事故で両親を亡くし、天涯孤独。
 後見人は母方の親戚の、アスハ家。
 アスハ家といえば、名の知れた政治家の家だ。迷惑をかけたくない というキラの言い分も納得できた。
 男がいないアスハ家の養子に という話もあったが、キラは頑なに拒んだ。
 仕方なく後見という形をとり、アスハ家が面倒を見ていたが、その屋敷から2年前に姿を消したという。
「姿を晦ますのは得意なわけか・・・」
 中学も休みがちで、ギリギリの出席日数で卒業した。
「人見知りのヒキコモリ・・・」
 キラの持ち出した両親の遺産の入った通帳の残高を調べれば、それはみるみる減り、時折まとまった金が入金される。
「おまけに生活能力なし か」
 まとまった金が入る というのは、キラが言っていた「つまみ食われた」報酬だろう。
 そして、そのうちそれはクラッキングという犯罪で得た金になっていったはずだ。
「たいした過去だ」
 自分など、かわいいものだと思う。
「お風呂、ありがと・・・」
 キラの声に、アスランは我に返った。
「髪、ちゃんと乾かせ。風邪引くぞ」
「うん」
 がしがしと、キラはタオルで頭を拭く。
 不器用な手つき。
 この手であんなプログラムを打っていたとは、思えないのだが。
「腹減ってないか?」
「ちょっと空いた・・・」
「俺はかなり空いてる。誰かさんのおかげで昼抜きなんだ」
 皮肉を混ぜて笑って、アスランは出前のチラシを何枚か投げてやる。
「好きに選べ」
「いいの?」
「ああ」
「じゃあ、お寿司」
 嫌なガキだ。
「俺は魚が苦手なんだ」
「えー。じゃあねぇ・・・」
 あれこれ悩む姿は、どうおまけして見ても中学生だ。
「ラーメン」
「そんなのでいいのか?」
「味噌コーン」
「わかった」
 ジャンクフード好きなことはよくわかった。
 チラシを受け取って電話をして。
 程なく届いたラーメンを、二人で啜った。
 おかしな絵だということは、アスランも感じていた。
 だが、目の前でラーメンを食べるキラの顔が、なんだかうれしそうで。
 まぁいいか と、思ってしまったのだ。

 アスランが風呂に入っている間に、絶対に姿を晦ますな と言いつければ、キラは素直に従った。
「ほら、来い」
「え?」
「ひとりで寝るの、嫌なんだろう?」
 男と寝る趣味はないが、ひとりで寝かせてすすり泣かれるのは気分が悪い。
 ベッドの空けたスペースをぽんぽんと叩いてやれば、やはりキラはうれしそうに入ってくる。
「あったかい」
「ネットカフェに毛布なんてないからな」
「うん」
「・・・最後に布団で寝たのは?」
 キラは押し黙る。
 やましいことがあるときの、子供の癖だ。
「1ヶ月半。その間なにしてた」
「・・・ふらふら」
「ふらふら男について行ったか」
「・・・うん」
「馬鹿!」
 パシン と、軽く頭を叩く。
「ここに来ればいいだけだろう!」
「泊めてくれたの?」
「子供を放置できるわけないだろう」
 なあんだ と、キラは安心したように、アスランに擦り寄る。
「いろんな人に会ったけどねぇ」
 おずおずと、アスランにしがみついて。
「抱きしめて寝てくれる人なんていなかった」
 みーんな、やるだけやってお金くれてそのまんま。
「人とごはん食べたのも久しぶり」
「馬鹿だよ、おまえは」
「うん。馬鹿だった」
「過去形じゃない。現在進行形馬鹿だ」
「ひどい」
「怖かったりさみしかったりするときは、素直に泣け」
 その細い身体を抱き寄せてやって。
「子供は大声上げて泣くものだ」
 アスランの言葉に、キラはひっ と息を飲んで。
 声を上げることなく、ただしくしくと泣きはじめた。

 キラが寝付いたのは、日付が変わる直前。
 そのやわらかい髪を撫でてやれば、キラは縋りつくように身を寄せる。
 ああ、そうだ と思い、アスランはベッドから起き上がろうとした。
「・・・どこいくの?」
 寝ぼけたようなキラが、アスランのシャツの裾を掴んで訊く。
「どこにも行かない。大丈夫だ」
「こわい」
「ひとりじゃないよ。ちゃんと、一緒にいる」
 そう髪を撫でて言い聞かせれば。
 再び寝息を立て始める。
 ひどく、臆病な子だと思った。

 自宅のネット回線に、ブロックをかけた。
 ここからハッキングなどされてはたまらないからだ。
 そうして、リビングの隅の棚から、鍵を取り出す。
 これが使われる日はこないと思っていたのだが。
「しかたないか」
 二つの鍵に、失くさないように小さな鈴をつけて。
 メモ用紙に、自分の携帯電話の番号と、言葉を記した。


うちのお約束、「キラさまに甘いアス」の臭いが出てきましたよ・・・。
ここらへんで修正しなきゃ・・・。