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ZONE-ZERO

ガン種中心二次創作サイト簡易版。アスキラ中心です。

ぼや記。

2007-04-30 21:50:11 | ぼや記
「4月中に終わらせる!」
とブログで豪語しましたが、終わりませんでした・・・。
もうちょっとだけお付き合いくださいー。
連載終わらせて、後日談をちょこっと書きたいと思ってます。
同棲アスキラ!
同棲アスキラは学園のほうと、戦後のほう(キラさまバースディに上げるものの続き)の2パターンを考えていたりします。
家事分担が真逆。
へたれアスランとしっかりもの(俺様)アスラン、両方好きなんだもの!

学園アスキラより、キラさまバースディ用のやつの方が先に書きあがってしまった。
非常識事態です。
気が早すぎる!!

DESTINY  12

2007-04-30 21:10:32 | 学園アスキラ(完結)
 早めの時間に出て、のんびりアスランの家までの道のりを歩けば、一時間近くかかった。
 約束ギリギリ。
 大きな門の前でごくっと息を飲んで、インターホンを鳴らす。
 少しの間のあと
『はい』 
 出たのはアスラン。
「キラ、です」
『ちょっと待って』
 なんとなく、敬語になってしまった。
 すぐに門が開く。
「いらっしゃい」
 アスランが、緊張した面持ちで迎えてくれた。
 促されるまま門を潜れば、予想以上の敷地。
「どうぞ」
 これまた大きな玄関を開けられて、そっと中に入る。
 ふっと、違う空気になった。
 僕の家とは、明らかに違う。
 人の住んでる気配がしない。
「こっち」
 靴を脱いで出されたスリッパを履いてアスランのあとをついていくと、広いリビングが広がっていた。
「お客様?」
 ソファに座っていた人が、腰を上げる。
 アスランそっくりの、女の人。
 一目で、お母さんだとわかった。
「キラ・ヤマトです・・・」
 ぺこりと頭を下げると、アスランのお母さんはにこりと笑った。
 あ、笑った顔もそっくり。
「はじめまして。アスランの母の、レノアです」
「座って。お茶淹れるよ」
「あ、うん」
 促されて、お母さんの前に座る。
 キッチンに消えていくアスランの背が、朝見たときよりさらに緊張しているのがわかった。
「アスランと、同じ年?」
「いえ、ひとつ下です」
 訊かれて反射的に答えると、お母さんは「あら」と驚いて
「貴方が年下の子を連れてきたのは、初めてね」
 とキッチンのアスランに声をかける。
「連れてきた友達自体、少ないでしょう」
「ラスティくんと、ディアッカくんと、イザークくんくらいね」
「ラスティはともかく、あとの二人は押しかけてきたんですよ。それに、ラスティだって最近は来てないじゃないですか」
 僕はその親子の会話に、違和感を感じた。
 どうして親子で、アスランは敬語なんだろう。
「母さん、お邪魔?」
「いえ、居てください」
 お茶を持ってきたアスランが、退散しようとしたお母さんを引き止めた。
「お話が」
「お友達の前でする話?」
「キラがいるからできる話です」 
 僕とお母さんの前にカップを出して、アスランは僕の隣に座った。
「どんなお話?」
「楽しくない話ですよ」
 アスランが、一口紅茶を啜って口を湿らせる。
 その手が、微かに震えていた。
「率直に言います」
 カップをソーサーに音もなく戻して、アスランは冷えた瞳でお母さんを見据えた。
「俺はザラを継ぎません」
 その言葉に、お母さんは表情を崩さない。
 アスランは立ち上がって、キッチンの棚から大き目の封筒を出してきて、お母さんの前に置いた。
 封筒には、僕の志望校、国立の工学大学の名前が印刷されていた。
「こんなもの、どうしてキッチンに?」
「あの人が絶対に寄り付かない場所だからです。部屋はいつ荒らされるかわかりませんから」
 再び僕の隣に座って、アスランは笑った。
 皮肉を込めた笑い。
「大学まで行って直接貰ってきました。郵送でも学校を通しても、すぐに足がつくでしょうから」
「私に、どうしろと?」
 封筒の中のパンフレットを取り出して、お母さんはそれを眺める。
 アスランのほうは見ない。
「お名前を、貸していただきたい」
「名前?」
 ふっと、お母さんが顔を上げる。
 困惑した表情。
「部屋を借りるにしても、奨学金をとるにしても、保証人が必要です。未成年のうちは、保護者の名前が必要なんです」
 僕らは子供だ。
 一人じゃなにもできない。
 今のアスランが、ひとりでこの話ができないみたいに、ひどく、無力だ。
 一人じゃ生きられない。
「アルバイト一つでも、保護者の承諾が必要になる。そのとき、名前を貸していただきたい」
「この家を出て、奨学金を取って、アルバイトをして苦学生になる?」
「そういう人はごまんといます」
 それは僕の台詞だった。
「部屋を借りる際にかかる初期費用は、いままでいただいた小遣いをお借りします。掛かった分だけ、働いて返します」
「この家を出れば、貴方は何もかも失うわよ?」
「失いません。むしろ得る方です」
「なにを得るの?」
 その問いに、ふっとアスランの表情が緩んだ。
「自由と、夢と、大切な人を」
「大切なひと?」
「キラです」
 ばくっ と、僕の心臓が跳ねた。
「キラが、決心するきっかけをくれました。ここで諦めたら、彼に愛想をつかされます。それだけは、避けたい」
「ただのお友達じゃ、ないようね」
「お見せしましょうか?」
 関係を とアスランが笑う。
 口元を歪ませて。
 挑発するように。
「すこし、待ってて」
 返事をせず、お母さんは立ち上がる。
「お父様に告げ口するんじゃないから、安心なさい」
 そう残して、リビングを出て行く。
 それを見送って、僕はふとアスランの手を見た。
 膝の上で握られた手は、やっぱり震えていた。
 その手に、そっと、手を重ねる。
「怖くないよ」
 そう、子供にでも言い聞かせるみたいに言って、その手を包み込む。
 それだけでアスランの震えが止まって。
「根性なしで、ごめん」
 情けなく笑うアスラン。
 ああ、そうか。
 彼はずっと、笑顔ですべてを誤魔化してきたんだ。
 困ったときとか、すぐに笑うのはもう癖になってる。
 弱い人だなぁ。
 つられて笑って、そっと、指を絡めた。
 ほっと、アスランが息を吐いた。
「キラがいてくれてよかった」
「僕、なにもしてないよ」
「言っただろ、居てくれるだけでいいって」
 ぎゅっと、アスランが手を強く握りこんでくる。
「俺は一人じゃ、なにもできないから」
 なんでもできるように見せかけて。
 そうやって周りに人を集めて、自分は一人じゃないと確認して。
 踏み込まれると弱い自分を見られるのが怖くなって、突き放して。
 やっぱり一人になってきた人。
 そうやって、流されるままにここまできてしまった。
 ああ、どうして僕は。
 もっと早くあのときの勇気を搾り出さなかったんだろう。
 どうしてもっと、早くこの人に出会えなかったんだろう。
 もっと早ければ。
 アスランがここまで傷つくことも、なかったかもしれないのに。
「お待たせ」
 ゆっくりとした歩調で、お母さんが戻ってくる。
 離そうとした手を、アスランがぐっと引き寄せた。
 放したくない。
 ひとりにしないで。
 そう、言うように。
「これを、貴方に譲ります」
 もといた場所に座って、お母さんは持ってきた封筒を差し出す。
 その動作の合間に僕らの手を見て、表情を緩めて、中身を出してくれた。
「・・・権利書?」
 空いた方の手で出された書類を取って、アスランは確認する。
 なにか難しいことが書かれた紙。
「母さんが私費で買ったマンションです」
「・・・な!」
「いつ離婚しても困らないように、いつか必要になるかもしれないと思って、3年前に買いました」
「3年?」
「貴方が、お父様に夢を話した、すぐ後です」
 アスランは言葉を絶する。
「すぐに権利譲渡の法的手続きをします。家具類も揃っています。生活に不自由はないはずです」
「ちょっと待ってください!」
「いくらでも名前は使いなさい。直筆サインが必要なときは、ここではなく、研究所のほうへ」
「母上!」
 初めて聞く、アスランの本気で焦った声。
「本気ですか!」
「なにがですか」
「名前だけでいいと言ってるんです! こんなことバレたら、父上に・・・!」
「アスラン」
 理解できない と言うアスランに、お母さんはやさしい声で呼びかけた。
「私はね、パトリックより、貴方のほうが大切なのよ」
 穏やかで、寂しそうな声。
「あなたは!」
 その言葉に、アスランがカッとしたように叫んだ。
「いつだって、俺の味方をしてくれたことはなかった!」
「貴方がそこまで追い詰められているとは、思わなかったのよ」
 ちらり と、僕とアスランの、繋いだままの手を見て。
「貴方がそこまで弱い子だとは、思わなかったの。貴方はいつでも、笑っていたから」
 ぐっと、アスランが言葉を飲み込む。
「気づかなかった私の過失よ。親失格ね」
 だから と、お母さんは続ける。
「これくらいの償いは、させて頂戴」
 僕はこっそり、アスランが持ったままの書類を見た。
 載っている住所は、大学のすぐ近くだった。
 あの辺は大きなマンションが並んでいて、この広さだととんでもない値段になる。
 テーブルに置かれた、間取り図を見た。
 3LDK。
 一人で住むには広すぎる。
 もしかしたらお母さんは、本当にお父さんと離婚して、アスランとここに住むつもりだったのかもしれない。
 いつか、アスランの本気の訴えを、聞くつもりだったのかもしれない。
 なんだ。
 こんな身近に、味方はいたんだ。
 味方だけど、二人とも臆病だから、言い出せなかったんだ。
 アスランの手が、ふと離れる。
 両手で書類を持って、難しい顔をして書類をあれこれ見て。
「この通帳は?」
 一番下になっていた一通の通帳を見つけた。
 アスランがそれを開いて、ページを捲って、最後に記帳された金額に目を見張る。
 それをこっそり覗き見て、僕は本気で驚いた。
 みたことないくらい、ゼロが並んでて、一目じゃ桁がわからない。
「全額、母さんの給料から出した、貴方の学費と生活費です」
「受け取れませんよ、こんな金額!」
「受け取りなさい」
 ぴしゃり と、お母さんは間髪いれずに叱るみたいに言う。
 通帳を閉じて表紙を見れば、名義はアスランになっていた。
「その通帳の存在は、パトリックは気づいていません。そういう風に、知り合いのいる銀行に入れました」
「しかし」
「よく聞きなさい」
 アスランの反論を、お母さんは許さない。
「できることは、物権の譲渡、そのお金を渡すこと、学校に入る際とアルバイトをする場合に必要になる保護者として名義を貸すこと」
 この通帳に記載されてるだけのお金があれば、入学金と4年分の学費と、4年分の生活費、まるごと出してもお釣りがくる。
「パトリックの手が届かないようにすることはできません」
「・・・っ」
「戦う勇気は、ある?」
 アスランは、ぎゅっと僕の手を掴んで。
「一人じゃないなら、大丈夫です」
 そう、言い切った。
「その子を、これ以上巻き込む気?」
「ここまできたら、毒を食らわばです」
 お母さんの問いに、僕が答えた。
「それに、僕が言い出したんです。巻き込んでくれって」
 だから
「一緒なら、なにがあっても大丈夫だよね」
 アスランに笑いかける。
 きょとんとしたアスランの表情が崩れて
「うん」
 本当の、安心しきった顔を向けてくれた。
「俺、毒?」
「あ、ごめん。言葉のアヤ」
「毒、たしかに、毒かな」
「ごめんー」
 くすくす笑いあっていると、お母さんはふっと肩の力を抜いて
「貴方のそんな顔を見たのは、初めてね」
 親とは思えない言葉だった。
「我が子ながら、情けないこと」
「すいません、不肖の息子で」
「まったくだわ」
 ふっと笑いあったアスランとお母さんは本当にそっくりで。
 親子揃って、情けない顔だった。



あとちょっとだけお付き合いください・・・。
レノアさんはとても書きたかった人。
アスは完全に母親似だと思います(パトパパの立場って・・・)

DESTINY 11

2007-04-29 21:22:25 | 学園アスキラ(完結)
 翌朝。
 朝食を食べながら、帰ったらアスランの家に行くと母さんに言ったら
「じゃあ、気合入れなきゃね」
 となにやら張り切っていた。
 完全にバレてる。
 羞恥心と申し訳なさでいっぱいになっていたら、母さんは
「彼もいろいろ大変そうだけど。そういうときはあなたがしっかりしなきゃ駄目よ」
 と助言をくれた。
 僕の両親は恋愛結婚で、学生結婚。
 当時は親(僕の祖父母)の反対とか、色々大変だったらしい。
 べつにできちゃった婚とかじゃないんだから大学卒業まで待て とか言われたらしいけど、
父さんと母さんは周囲の反対を押し切って結婚した。
 何故なのかと訊けば、就職なんかで互いの世界が変わって、その距離を感じるのが怖かったのだと教えてくれた。
 相手を確実に繋ぎとめるなにかがほしかったのだと。
 確実に繋ぎとめるもの。
 僕とアスランには、絶対手に入らないもの。
 いいなぁ と思った。
 外国では同性婚ができる国もあるらしいけど、あいにくこの国は認めてない。
 うちの両親はともかく、アスランの家が黙ってるとは思えない。
 本当に、両親がうらやましくなった。
 
 一人で登校して教室に入ると、ミリアリアが一番に飛んできた。
「よしよし、泣いた形跡なし」
 僕の顔をじっくり観察して、満足そうに言う。
「その分だと、うまくいった?」
「さらに大きな壁ができました」
 降参して、僕は暴露する。
 机についてサイたちも交えて、極めて小さな声で昨日のことを告白する。
 アスランの喫煙は内緒で。
 途中カズイは真っ赤な顔をして、トールなんかはアスランの言葉に口笛を吹いたりして。
「で、彼の親に喧嘩売りに行くわけ?」
 とミリアリアが訊いてきた。
 僕は首を横に振る。
「じゃなくて、わかってもらう。ザラ家の跡取りとしてのアスランを諦めてもらう」
 あの大きな家の跡取りではなく。
 ただのアスランとして見てもらう。
「それに、戦うのは僕じゃないよ。アスラン自身だ」
「加勢に行くんだろ?」
「加勢じゃなくて、ただの応援」
 サイの言葉も否定する。
 アスランの親を前にしても、僕は一言も言葉を口にする気はない。
 頭に血が上らなければ。
「しっかりね」
「うん」
 ミリアリアの応援をありがたく受け取ったところで、担任が教室に入ってきた。
 今日は半日休だけど、明日は文化祭明けの校内模試なんだから浮き足立つな と言われた。
 ごめんなさい先生。
 期待されてるのは重々承知してますけど、今回は主席を明け渡す覚悟です。
 たまたま主席で合格できて入った学校で、アスランを見つけた。
 彼の噂はすぐ耳に入って、ずっと学年主席だと知って、少しでも彼に近づきたくて主席を死守してきたけど。
 今の僕にはそれよりもっと大事なことがあるんです。
 今回ばかりは勘弁してください。
 こっそり心の中で謝って。
 文化祭の後片付けを始めた。
 窓の外を見れば、校庭で生徒会と執行部がキャンプファイアーの後片付けをしていた。
 指示を出すアスランの背中。
 飛んでいって抱きつきたい衝動を、僕はぐっと堪えた。
 何故だか、こんな遠目なのに、その背中に不安を抱えているように見えて。
 アスランが、ひどく遠く思えて。
 ああ、父さんと母さんはこんな気持ちだったのかと思って。
 僕も「相手を確実に繋ぎとめるなにか」がほんとうにほしくなった。 

 片付けのできたクラスから順次解散。
 僕のクラスは11時前には解散になった。
 足早に帰って、家の玄関を乱暴に開けて、どたどた階段を上って部屋に飛び込んでさぁ服を選ぶぞ! と思ったら。
 クローゼットのドアに、すでに服が一揃え架かっていた。
 シンプルで、いい子ぶった服。
 あからさまに、戦闘服。
 僕は母さんの用意したらしい服をクローゼットに押し込んだ。
「あら、母さんの用意したのは気に入らなかった?」
「友達の家に行くのに、あれは気取りすぎ」
「友達?」
 下に下りると、早めのお昼ご飯の支度をしていた母さんが僕の服をじっと見た。
 僕の趣味に合わせた、思いっきり普段着。
「友達、ねぇ・・・」
「なに・・・」
 反芻する母さんに、冷や汗たらたらで視線を向ければ、母さんはにっこり笑って
「息子をお嫁に出すのは、変な気分ね」
 と爆弾発言してくれた。
「だから! なんでそういう風にとるわけ!?」
「だってそうなんでしょう?」
 鍋の中のパスタを、くっつかないようにかき混ぜながら、母さんはさらりと言う。
「知ってるわよ。夜中に電話してることも、喧嘩して泣いてたことも」
 うっと言葉がつまる。
「仲直りして、今日はおうちにお呼ばれ」
「・・・・・」
「その分じゃ、御宅にお母様か誰か、いらっしゃるんでしょ?」
 バレバレだった。
「約束は何時?」
「一時に、アスラン家」
 仕方なく素直に答えると、ざっとパスタをお湯から上げて、母さんはてきぱきと手作りのトマトベースのソースをかけた。
 それを受け取ってテーブルに並べて、ついでに冷蔵庫からオレンジジュースを出す。
「なにか、大変なことなの?」
 テーブルにつきながら、母さんは押さえ気味の声で訊く。
 僕もテーブルについてジュースをグラスに注ぎながら
「解決したら、報告する」
 そうとしか答えられなかった。
 今、大人の意見は聞きたくない。
 母さんは「しっかりね」と言うだけだった。


「今月中に終わらせる」と豪語しましたが、無理でした・・・。
もちっとだけ続きます。



予告。

2007-04-27 18:49:46 | ぼや記
キラさまバースディが出来上がり始めたので、早くも予告(半月以上早い)(気が早すぎる)

「たいちょーお。帰りましょーよー」
 「あれ?」
「あれじゃないですよ。ルナ、帰っちゃいましたよ」
「なんか食って帰ります?」
 「っと、ごめん」
 「もしもし?」
『キラ?』
『今どこ?』
 「え、まだ、本部」
『まっすぐ帰っておいで』
 「え?」
『寄り道するなよ』

というわけで、シンを出しつつ、イザークが自己主張しつつ、腹黒俺様ザラさまで逝きます。
ちなみに
R-18。

DESTINY  10

2007-04-27 18:44:42 | 学園アスキラ(完結)
 結局目の腫れは退かなくて、僕は看板から外された。
 高校生活最初の文化祭はただの見学。
 裏方の仕事も教えてもらってなかったから、なにもできなかった。
 仕方ないので宣伝がてらチラシを持って校内をうろついていたら、アスランのクラスの前を通った。
 ゲームセンターは盛況だった。
 本当は行くつもりだったんだけど、僕は素通りした。
 すれ違う中学の先輩とかにチラシを渡して、あとはやることもなく。
 みっともなく腫れた目をこれ以上人に見られたくなくて、空き教室で携帯電話に落としていたゲームをやって過ごした。
 バッテリーが続く限りゲームをして、電池が切れたところで外を見る。
 きれいな夕焼け。
 オレンジ色が、目に染みた。
 校庭で、吹奏楽部がコンサートをやっていた。
 有名な映画の、テーマソング。
 あれって、結局主人公が死んじゃうんだっけ?
 ヒロインだけ助かるんだよね?
 そんな悲劇でなんでみんな感動できるんだろう。
 生きたままの別れですらこんなに辛いのに、死に別れなんか辛すぎて耐えられえるはずないのに。
 みんな、こんな気持ちになったことがないのかな。
 経験して、忘れちゃったのかな。
 僕もいつか忘れるのかな、この気持ち。
 早くそうなればいい。
 ファーストキスが「男」なんて事実、早く笑い話になればいい。
 そうしていつか、異性の恋人に「女の子とのキスはキミが初めて」とか笑って言うんだ。
 そう思いながら、僕はブレザーの下に手を滑らせてそっと胸を押さえる。
 二晩では消えなかった赤い印。
 これが消える頃には、思い出になる。
 普通のキスマークが一体何日で消えるものなのかなんて、知らないけど。
 きっと一週間も持たない。
 ぎゅっとシャツを掴んで、胸の痛みに耐えた。
 誰のものかも知らない席で蹲っていたら、校内放送が流れてきた。
『30分後より、後夜祭を始めます。全生徒は校庭に集合してください』
 アスランの声。
 校内放送なんて雑用、実行委員に任せちゃえばいいのに。
 時計を見ると、もう皆片づけを始めている時間だった。
 手伝いに行かなくちゃ。
 主だった片付けは明日の午前中で、明後日は文化祭明けのテストだから半日休になる。
 ざっと片付けて、みんな校庭に出るはずだ。
 立ち上がってクラスに向かう。
 ドアを開けたら、もう粗方終わってしまっていた。
「キラ。大丈夫?」
 テーブルクロスにしていた布を纏めていたミリアリアが、手を止め駆け寄る。
「うん。ごめんね、役に立たなくて」
「いいわよ、なんとなく察したし。喧嘩、じゃすまなかったんでしょ?」
 やっぱり女の子は勘がいい。
「うん。僕が悪いんだ」
「そうなの? 彼の態度だと、自分が悪いみたいだったけど?」
「違うよ」
 絶対違う。
「捨てられた猫みたいな顔だったけど?」
「え?」
「しゅんとして、縋るみたいな目してた」
 アスランが?
 僕は彼の顔を見なかったから、事実かわからない。
「仲直りしたら?」
「でも、最初っから今日までって約束だったし」
「一日分、損してるじゃない」
「僕が悪いんだし」
「仲直りしなさいよ。せめて友達くらいにはなれるわよ」
 ミリアリアが、自信ありげに言った。
「大丈夫。彼はキラのこと、きっと好きよ」
「そんなことない」
「あるの! あの人があんな顔したの、初めて見たもの」
 こつん と、人差し指で額を突付かれた。
「キラから話されて、私も注意してみるようになったけど。彼、なかなか人に触らないのよ」
「え?」
 そんなこと知らない。
「でもキラにはよく触ってたでしょ? 付き合ってる女の子の頭撫でてるところなんか見たことないわよ」
 女のほうはべたべた触ってたけど! とミリアリアは言う。
「キラには心開いてる。大丈夫よ」
 彼女の「大丈夫」は本当に「大丈夫」になってしまう。
 ミリアリアは人をからかったりはするけど、嘘はつかない。
 この三日で、女の子の鋭さは嫌ってほど実感した。
 僕は、その言葉を信じていい?
「約束、あるんでしょ?」
「・・・うん」
「行ってきなさい。で、仲直りしなさい」
「・・・はい」
 叱られた子供みたいに、僕は頷く。
 きっとミリアリアはいいお母さんになる。そんなことを思った。
 頭を垂れたままの僕の頭をぽんぽんとミリアリアが撫でてくれた。
 アスランより小さい手。
「じゃ、私たち後夜祭行くからね」
「うん。ありがと」
「どーいたしまして」
 にこっと笑って、ミリアリアは教室から出て行った。
 がらんとした教室。
 窓辺に寄ると、もうほとんどの生徒が校庭に出ていた。
 後夜祭の後、点呼はない。
 みんなそれぞれ散らばって、教室から荷物を回収して順次解散。9時には先生の見回りがあって、それまでに帰ることになってる。
 後夜祭は二時間。
 それまでに話をつける。
 きっぱり別れるか、それとも付き合い続けるか。
 友達なんてカテゴリ、僕の中にはもうなかった。
 無理だ。アスランとただの友達でいるなんて。
 きっと僕はずっとアスランが好きだ。いつかほかの誰かと付き合うことになっても、彼と重ねてしまうだろう。
 気持ちが少しずつ動き出す。
 隠さなきゃ、誤魔化さなきゃと思っていた気持ちが消えて。
 アスランへの想いだけが残る。
 ロッカーからカバン(中身はほとんど空)を取り出して、生徒会室を目指した。
 誰もいない廊下。
 不思議と足は重くなかった。
 階段を上って、角を曲がって。
 始まりの場所に還る。
 震える手でドアを開くと、
「え?」
 誰の姿もない。
 開いた窓。その向こうに、落ちかけた夕焼け。
 それと、微かに香るこの匂いは・・・
「キラ?」
 誰もいないと思っていた教室の隅から、声がした。
 びっくりして机の影を見ると、アスランが床に脚を投げ出して座り込んでいた。
「アスラン・・・」
「おいで」
 ぽんぽんと、自分の横を叩く。
 誘われるままに、僕はアスランの隣に座り込んだ。
 ちらっと、アスランを覗き見る。
 これは、ほんとうにアスラン?
 だって
「なに?」
 視線に気づいたアスランが、やわらかい笑顔で視線を返してくる。
「それ」
「ああ、嫌い?」
「っていうか、未成年」
 アスランの指に挟まれているのは、一本の煙草。
 もう半分くらい消えていて、よく見れば僕とは反対側に携帯灰皿があった。
「癖でさ。ごめん」
「癖って。知らなかった」
「学校じゃ、誰もいなくなってから吸ってたから」
 惜しむように深く煙を吸い込んで、短くなった煙草を灰皿に押し付ける。
 そして、仰向いて吸いきれなかった煙を細く吐き出した。
「きついやつなんじゃない? それ」
「そうかな」
 ごそ とアスランがズボンのポケットから箱を取り出す。
 僕でも知ってる、結構きついやつだった。
「成長期に、身体に悪いよ」
「一応平均身長だからもういいよ」
 くそう、平均身長に満たない僕には言い返せない。
 健康的に摂生してる僕が小さくて、不健康で不摂生してるアスランが平均身長だなんてなんかくやしい。
 遺伝子を恨むしかない。
 パチン とアルミの灰皿の蓋を閉じて、煙草と一緒にアスランはズボンのポケットにしまった。
「アスランが煙草吸うなんて、聞いたことなかった」
「付き合った子の前で吸ったことはないよ」
「え?」
「キラしか知らないことだよ」
 甘い声で、アスランが言う。
 僕だけ。
「なんて、母親はさすがに知ってるけどね」
「叱られなかった?」
「何度かね。諦めたみたいだけど」
 薄く笑って、アスランはもう片方のポケットから出したブレスケアのスプレーを口の中に吹いた。
 用意周到。
 それもポケットにしまって、今度は沈黙。
 なんとなく僕も黙って、投げ出された二人の足を見比べた。
 身長差を差し引いても、アスランのほうが長い。
 くやしいなぁ。
 ぼんやりそんなことを思っていたら、ふと、手に何か触れた。
 びくっと身体が勝手に震える。
 アスランの手が僕の手に重なって、ゆっくりと握りこんだ。
 冷たい手が、しっとりとしている。
「アス・・・」
 声まで震えた。
「あのさ」
 アスランが俯いて言う。
 付き合ってから僕の顔色を伺うように目を見て話していたアスランからは、想像もできないことだった。
「嫌いに、ならないでよ」
 え?
 聞き返したいのに、声が出なかった。
「ずっと、俺のこと好きでいてほしい」
 ぎゅっと、手を強く握られる。
「・・・好きだ」
 心臓が張り裂けるかと思った。
「好きなんだ、キラのことが」
 ゆっくりとアスランが顔を上げて、僕と目を合わせる。
 不安を抱えた目。
 ミリアリアが言っていた、「捨てられた猫みたい」な目。
「なんで、だって・・・」
 あんなこと言った僕のことを。
 好きだなんて。
「自分のことを話そうと思った子は、いままでいなかった」
 目を逸らさないで、アスランが言う。
「キラには、知ってほしかった。俺の全部」
 アスランに握られた手が震えていることに、僕は気づいた。
 違う。
 震えているのは僕じゃない。
 ・・・アスランが?
「俺のことを、今の俺を、キラならきっと叱ってくれると思った」
 意味がわからない。
「自分で嫌だった。でも一度走り出したレールは自分じゃ変えられない。その切り替えを、キラならしてくれると思った」
「ど、して・・・」
「今の俺と正反対で、それなのに向かう先が同じだから」
 アスランの目が、ふと緩んで
「俺の憧れの塊みたいに見えたんだ」
 どうしよう。
 顔が熱い。
 思考が働かない。
「ずっと、なんとなくそう思ってて。昨日ので確信した」
 僕の手を掴んでいたアスランの手が動いて、そのまま僕と指を絡めて、強く握りこむ。
「ずっと、そばにいてほしい」
 アスランの冷たい手と、僕の熱を持った手。
 その両方が汗ばんでいた。
「ひとつ、頼みがあるんだ」
「え?」
 急な話の飛び方に、思わず僕が声を漏らす。
「明日、一回家に帰ってからでいいから、うちに来てくれないか」
「アスランの家?」
「場所、覚えてる?」
 こくん と頷く。
 母さんの車の中から、景色も道順も頭に叩き込んだ。
「明日、母がいるんだ」
 アスランが何を言いたいか、繋いだ手からテレパシーみたいにわかった。
「話をする。その場に、キラにいてほしい」
「そんなの、親子の会話じゃん・・・」
「勇気が足りないんだ。俺はいくじがないから」
 情けなく、アスランが笑う。
 こんな緩んだ顔、初めて見た。
「キラの強さを、分けてほしい」
 返事に躊躇った。
 ここまでアスランが弱い人だなんて、想像してなかった。
 繊細で、臆病で。
「本気で親を裏切る力が、俺には足りないんだ」
 どこまでも、やさしい。
「僕、で、いいの?」
「キラじゃなきゃ駄目なんだ」
 恐る恐る、絡めた指に力を入れた。
「僕のこと、好き?」
 瞬間、視界が本当に暗くなって。
 呼吸を奪われて。
 ふと、煙の匂いがして。
「好きだよ」
 熱っぽい声で至近距離で囁かれて、僕の心の箍が外れた。
 繋いだ手を無理やり放して、両腕でぎゅっとアスランの背を抱きこんで。
「僕を、巻き込んで」
 そう、懇願した。
 やわらかいアスランの髪に顔を埋めて。
 必死に涙を堪えて。
 背に回ったアスランの手のひらをを感じて。
 強く抱きこまれて。
「離さない」
 そう、今まで聞いたどれよりも意志の強い声で、僕はアスランに独占された。


へたれアスラン全開でお送りしています。
ここまでくるのに、まさかこんなに時間がかかるとは夢にも思いませんでした。
まだ続きます。(すいません)

統計学。(若干R18)

2007-04-25 18:43:22 | アスキラ
やっちゃってます注意報。

 テレビで女優だかタレントだか知らないけどきれいな女の人が言っていた。
『食べ方がガツガツしてる男ほど性癖は淡白』
 いままでいろんな男を見てきての感想らしいけど。
 アスランはその逆。
 小さい頃からきれいな食べ方してたけど、成長してからそれに磨きがかかっていた。
 上流階級の、洗練された食べ方。
 出されたものはきれいに食べるし(でも青魚とイクラだけは梃でも食べない)(本人曰く「アレルギー」)、
その動きも無駄がなくてすごくきれい。
 何度か真似してみたけど、一朝一夕でできる動きではなかった。
 わりとなんでもそつなくこなすアスラン。
 いつも涼しい顔をしていて、頭がよくて運動神経がよくて、でも人間関係はちょっと下手で。
 性的なこととは無縁そうな顔をしてる。
 そりゃ、見た目「やらしいこと大好き」って顔した男よりはマシなんだろうけど。
 僕だけは知ってる。
 アスランは「やらしいこと」が好き。
 周りにおおっぴらに言えないことが好き。
 例えば、実はお酒はめちゃくちゃ強いだとか、法的にNGの頃から喫煙者だとか。
 ・・・僕とセックスするときは性格が変わるとか。
 別に変態行為が好きなわけじゃない。アスランにそういう性癖はない。
 でも、男の僕と男のアスランがそういうことをするってことは、使うところはそういうことで。
 ・・・十分変態っぽい。
「なに、考えてるの」
「んっ」
 僕の首筋をべろりと舐めてアスランの熱の篭った瞳が睨みつけてくる。
「うわの空だけど?」
「アスランのこと、考えてた」
「ふぅん?」
 納得してない、信用してない目で笑って、僕の鎖骨の辺りに紅い跡を残す。
 僕とベッドに入ると、アスランは性格が変わる。
 少し意地悪で、独占欲を丸出しにする。
 普段見せない、興奮した目で僕を見る。
「俺の、なに考えてたの?」
 カリ と鎖骨を齧られて、僕の身体が跳ねる。 
「アス・・・、性格変わるな・・・って」
「なにそれ?」
 ゆるゆると前を弄られて、身体を震わせながら僕は答える。
 答えなきゃ、もっと焦らされる。
「普段、冷静なのに・・・っ、こういうときだけ、意地悪で・・・」
「うん?」
「僕と二人っきりのときだけ、やらしい・・・」
「そういうのがいいんだろ?」
 ぎゅっと強く握られて、僕は悲鳴に似た声を上げた。
「キラは、やらしいのが好きなんだろ?」
「や、あ」
「嫌なの?」
「・・・っ」
 否定できない僕がいる。
 アスランとこういうことをするのが好きな僕がいる。
 僕は食べるのが遅くて、あれこれ目移りしながら食べるタイプ。
 やっぱりあの統計は当たってる。
 二人とも食事にがっつかない分、性的なところが貪欲。
「してほしいこと、言ってごらん」
 耳元で熱い息を吹きかけながら、アスランが囁く。
 アスランは焦らすのが好き。
 でも知ってる。
 ほんとうは僕が欲しくて仕方ないこと。
 だから、僕はせがむふりしてアスランの欲しい言葉を言う。
「も、ほしい・・・」
 満足そうに、アスランが笑う。
 いやらしい顔で。
 深いキスで僕の呼吸を奪って。
 僕の中に入り込む。
 内臓を押し上げられる感覚には慣れた。
 不快感より、アスランが入ってくる快感が勝る。
 こうなったら、僕らは止まらない。
 アスランのほうが体力があるから、僕が気絶するまで、行為は続く。
 うわごとみたいにアスランを呼んで、僕は何度目かもうわからない絶頂の中で意識を手放した。
 アスランは、僕に貪欲。
 僕も、アスランに貪欲。
 あの統計は、間違ってなんかない。
 性関係なんか僕はアスランを含めて二人しか知らないけど、しみじみ痛感した。
 アスランは、何人知ってる?
 あの統計を、キミは信じる?   


エンドーさんの何気ないリクエストから、サイト初のR18っぽいもの。
鬼畜腹黒アスランが大好物です。   



DESTINY 9

2007-04-22 21:27:04 | 学園アスキラ(完結)
「おはよ」
「うわ、ひでぇ顔」
 文化祭当日は、7時半集合。
 すでにセッティングされた教室のドアを開けると、近くにいたトールが悲惨な顔をした。
「目ぇ真っ赤だぞ?」
「母さんにも言われて、一応冷やしてきたんだけど・・・まだ赤い?」
「うさぎみてぇ」
 そんな会話をしていたら、クラスの仕切り役のミリアリアが飛んできた。
「ほっぺたの次は目!?」
「ごめん、保健室行って氷貰ってくる」
「時間まで冷やしてなさいよ。キラはうちの看板なんだから」
 やだなぁ、それ。
 カバンを仕舞って(机はすでに「客席」状態だからロッカーに)、教室を出る。
 普通に保健室に行くには、生徒会室の前を通らなければいけない。
 僕はわざわざ遠回りをした。
 アスランに会う確立は少しでも減らしたい。
 見回りのときも裏に逃げ込もう。
 僕の腫れた目を見たミリアリアはきっと気づいただろうから、それくらい許してくれると思う。
 きっとトールも、遠くで準備に追われていたサイもカズイも気づいた。
 僕らが「期限」を待たずに終わったこと。
 昨日のお昼休みのあと、やっぱりあれこれ訊かれたけど、言葉を濁して「内緒」としか言えなかった。
 あのときは上手く笑えたと思ったけど、この目じゃごまかせなかっただろうな。
 保健室(準備の関係で怪我人が出ることを想定して、保険医も早朝出勤していた)で氷を貰って、片目ずつ冷やしながら教室に戻る。
「8時半になったら着替え。男子が先だから、それまで冷やしてなさいよ」
「うん」
 ミリアリアに念を押されて、僕は客席の一つになった椅子に座り込んだ。
 狭い教室をさらに狭く区切った仕切りの向こうで、女の子たちがクリームの味がどうのと騒いでいる。
 普段の僕なら味見に行くところだけど、とてもそんな気分にはなれない。
 目を閉じて両目を冷やしていたら、教室のドアが開く音がした。
「衛生管理の、最終チェックです」
 この、よく通る声は。
 一部の女の子の「きゃぁ」って黄色い声は。
 僕は見ないことにした。
「いいの? キラ」
 肩口で、カズイが囁く。
「いい。話したくない」
 小声で返すと、カズイは「気持ちはわかるけどさぁ」と呟く。
 むかむかは納まったけど、僕たちの関係は終わったんだから。
 もう他人なんだから、話すことなんてない。
 無視を決め込んで俯いた状態で目を冷やしていたら。
「キラ」
 カズイが、僕の肩をゆすった。
 氷の袋を目から外すと、僕の前にぴったりと揃えられた足。
 見なくても誰かわかる。
「・・・なに」
 低い声で問うと、空気を読んだカズイが退散した。
 目は合わせない。顔も上げない。
 教室中の空気がピリリとしていた。
「・・・大事な、話があるんだ」
「僕はもうない」
 いまさら「別れ話」なんて、したくない。
 滲みかけた涙を堪えるために再び氷で目を塞いだら、ふと気配が近寄って
「後夜祭始まったら、生徒会室に来て」
 耳元で、誰にも聞こえないような小声で囁かれた。
「待ってる」
 言うだけ言って、気配が遠のく。
 それを追いかけた手を、ぐっと堪えた。
 いまさら。
 僕にあの背中を追う権利なんかないのに。
 ドアが閉まる音がして、女の子たちが騒ぎ始めた。
「なにー? ヤマトくん、ザラ先輩と友達なのー!?」
「そういえば一昨日お昼来てたよねー!」
 僕は答えない。
 答えられない。
 嗚咽を堪えるので精一杯だ。
「キラ、我慢しなくていいよ」
 サイが優しい声で言う。
「恥ずかしいなら、ここはごまかしとくから」
 その言葉を聞いて、僕は教室から飛び出した。
 アスランを追うためじゃない。
 空き教室に飛び込んで、僕は声を上げて泣いた。
 アスランの声が、耳元で何度も蘇る。
 やさしい声で、何度も呼んでくれた。
 あのやさしさを裏切ったのは僕。
 傷つけたのは僕。
 自責の念で、心と頭がおかしくなりそうだった。
 ごめんなさい。
 それしか言葉が浮かばなかった。



久々の更新で短くてすみません。

DESTINY  8

2007-04-19 18:25:21 | 学園アスキラ(完結)
「キラ、ほっぺた」
 教室に入ると、ミリアリアがぴっと指差してきた。
「真っ赤よ」
「あ、やっぱ腫れてる?」
 そこで初めて頬を摩ると、熱を持っていた。
「ちょっと待てって、ハンカチ濡らしてきてあげる」
「え、いいよ」
「みっともない顔、彼に見せたいの?」
 そう言われたら、僕は黙るしかない。
 返答できない僕を他所に、ミリアリアは教室を出て行った。
「うっわ、派手にやられたなぁ」
 席についておにぎりを取り出す僕を、トールが顔を顰めて覗き込んできた。
「なに、朝飯食ってないの?」
「寝坊しちゃって。で、学校来たらこれ」
 頬を摩りながらラッピングを剥がしたおにぎりに食いつくと、サイとカズイも寄ってきて
「痛そー」
 と心優しい性格のカズイは自分が痛いみたいな顔をした。
「だれ?」
 冷静なサイが訊いてくる。
「名前知らない。アスランの元カノ。赤い髪の、けっこう美人系の、例の記録保持者」
「ああ、彼女」
 そう。僕の頬をぶってくれたのは、僕が知ってる「記録保持者」。アスランと付き合った期間が一番長い子。
 あの性格だと、別れないとか駄々捏ねて結局アスランに突き放されたんだろう。
「キラ、はい」
 戻ってきたミリアリアが、僕の頬にひやっとしたものを当てる。
「え? 氷?」
「ついでだから保健室まで行ってもらってきたわ。ちゃんと冷やさないと、明日まで腫れるわよ、それ」
「ありがと」
 受け取った、氷の入った袋で頬を冷やしながら、ジュースを口に含む。
 アスランお勧めのジュースは、甘くておいしい。
「腫れたほっぺたで接客されたら困るもの」
 ミリアリアの言葉に、ぎくっとする。
「楽しみねぇ、明日」
「僕は楽しみじゃない」
 明日なんかこなきゃいい。
 別に文化祭が嫌なんじゃない。
 だけど明日は「期限」の日。
 文化祭が終わったら、僕たちの関係もおしまい。
 そのうえ。
 僕らのクラスの出し物が、ちょっと問題で。
「いまさらだろ。腹くくれよ。俺なんかもう諦めたぜ」
「うー。もうちょっと身長があればなぁ」
 トールにぽんと肩を叩かれて、僕は最近癖になってきているため息をつく。
「サイはいいよね。背が高いから免除だもん」
「裏方も大変なんだよ。精神労働はないけど、変わりに女子にこき使われまくり」
「僕、明日休みたいなぁ」
 裏切り者なサイの横で、同志なカズイが本気で嫌な顔をした。
「サボったら家まで迎えに行くわよ」
 クラスの仕切り役のミリアリアの厳しい言葉に、僕ら三人は「うう」と肩を竦めた。
 アスランは生徒会長だから、企画書を出した段階で知っちゃってるんだろうなぁ、うちのクラスの出し物。
 お付き合い最終日は、アスランの大爆笑で締めか。
 まぁ、それもいいかもしれないよね。
 笑って終わりがいい。
 絶対泣いたり縋ったりしない。
 告白したその日に、僕はそう誓っていた。
 運がよければこのまま「お友達」になって、運が悪ければそのまま「他人」に戻るだけ。
 わがままは言わないって、決めたんだ。
 アスランを困らせない。
 あの子みたいに、無様な嫉妬なんかしない。
 僕はまだ熱を持ったままの頬を摩りながら、改めて心に誓った。

 昼休みになって、僕は素早く教室から出た。
 アスランが教室を覗くと、クラスの女子がうるさい。
「キラ」
 廊下で外を眺めながら待っていたら、アスランが紙袋を持ってやってきた。
「待たせた?」
「ううん」
 並んで歩く。
 昨日も感じたけど、女の子からの視線が痛い。
 当然だよなぁ。
 アスランと「二人っきり」で昼食な「男」って、珍しいもん。
 自販機でお茶(アスランは相変わらずコーヒー)を買って、上履きのまま中庭に出る。
 運のいいことに、誰もいなかった。
 適当に木に背を預けるかたちで座って、アスランが弁当箱を取り出す。
 アスランの分は、僕の予備の弁当箱。
 蓋を開けたら、いつもより気合が入っていた。
 母さん、わかりやすすぎるよ・・・。
「なんか、すごいね」
 箸をつけるのを躊躇いながら、アスランが呟く。
「崩すのもったいないな」
「残すより、キレイに食べたほうが母さん喜ぶよ」
 そう言うと、アスランも納得したみたいで
「ではいただきます」
 と手を合わせて手作りのエビチリを食べ始めた。(今日のテーマは「中華」らしい)
「キラのお母さんは、料理上手だね」
「ていうか、趣味なんだよ」
 新婚当初は料理教室にも通ったらしい。
「栄養士の資格持ってるし」
「へぇ。キラも料理するの?」
「僕は手伝うくらい。鍋かき回したり、ジャガイモの皮剥くくらい」
 時々パン生地を捏ねるのを手伝わされたり。
「じゃあ、基礎は知ってるんだ」
「基礎だけね」
 細かい味付けとかは知らないけど。
「俺は家事が苦手でさ」
「アスランも苦手なことってあるんだ」
 意外 と言うと、アスランは
「俺にだってできないことはたくさんあるよ」
 って笑う。
「料理は目玉焼きが精一杯。掃除は嫌いだし、洗濯しても皺伸ばすの忘れる」
 うわ、壊滅的じゃん。
「普段どうしてるの?」
「食事は買ってきたり外食、洗濯は母さんが起きてからまとめてするし、掃除は・・・自分の部屋の足の踏み場は確保してる」
 想像できないなぁ、散らかったアスランの部屋なんて。
「生活感ない家だから、ほとんどの部屋は散らかることないし」
 ああ、そういうことか。
「明日のお弁当、どうする?」
 恐る恐る訊いてみる。
「甘えちゃっていいのかな」
 文化祭当日は皆忙しいから、時間関係なく適当に持ってきたものを食べたり、出し物の喫茶店で食べたりが普通。
 でもそれって、アスランの普段の食生活より悪い気がする。
「母さんは張り切ってるけど」
「でも、一緒に食べる時間ないと思うんだ」
 たしかに。
 今日も午後から準備に大忙しで、明日なんて生徒会と実行委員会はあれこれ忙しい。
 一般生徒な僕と同じようにはいかないだろうな。
「朝も、一緒に登校できないし」
「え、そうなの?」
 箸を止めて訊くと、アスランは
「明日は最終チェックで、6時登校なんだ」
 うわ、なにそのスケジュール。
「後夜祭は時間できるよ。見回りは先生がするし」
「そ、っかぁ・・・」
 沈んだ心をごまかすために、僕はお茶を一気飲みする。
「時間とかは、明日にならないとわからないけど、一緒にいられるよ」
「うん・・・」
「見回りのときにでも言いに行くから」
 ぎく。
「見回り、来るの・・・?」
「そりゃ行くさ。飲食関係の出し物ならなおさら」
 僕のクラスは喫茶店。
 衛生管理とかなんとか、うるさいのは百も承知だけど。
「楽しみだな、キラの女装」
 うわー!! やっぱりバレてたー!!
 そのとき僕は本気で明日が来ないことを祈った。
 すぐにでも地球が自転と公転をやめればいい。
 本気で思った。
 僕のクラスの出し物は喫茶店。
 それも、「女装男装喫茶店」だ。
 女子の制服が入る男子が女子の制服を着て、男子の制服が合う女子が男子の制服を着て接客する。
 それから外れた小さすぎる女子とか、大きすぎる男子が裏方を担当する。
 最初「逆転メイド執事喫茶」って案が出たんだけど、衣装の問題で却下となり、それならと打開案でミリアリアが提案したのが通ってしまった。
 僕の身長は16歳男子平均より低いから、問答無用で女装決定。
 クラスの女の子の制服を借りることになっている。
 しかもなぜか僕だけ校則より10センチ近くスカートが短い。なんでって、これもミリアリアの提案。
 「足のきれいな男はミニスカート」。
 女子の独断と偏見により、該当者は何故か僕だけ。
 恨むよ、ミリィ。
「というわけで、明日のお弁当はゴメンナサイってお母さんに伝えて」
「わかった」
 がっくりと肩を落とした僕を、アスランはくすくす笑う。
「楽しそうな企画じゃないか」
「見るほうはね。やるほうは全然楽しくない」
 ただの喫茶店だったら、楽しかったかもしれないけど。
 よりによって女装。
 しかもそれをアスランに見られるなんて。
 羞恥プレイだ。
 ああ、アスラン、そういうの好きそうだよね。
 うちの学校の制服がセーラー服じゃないのだけが救いだ。セーラーだったら、もう変態プレイだ。
「アスランはクラスの出し物、ノータッチ?」
「生徒会と実行委員会のメンバーは免除」
「なにするの?」
「ゲームセンター」
 いいなぁ、それ。
「クラスのやつらがうちから持ち寄ったゲームを客にやらせるだけの、手抜きだよ」
 ああ、ますます魅力的。
「キラ、ゲーム好きなんだっけ?」
「うん」
「じゃぁ時間が空いたらおいで。新作揃えてるから」
「ほんと!?」
「PS2を基本に、WiiとPS3とXBOXもある」
 うわ、すごい。
 Wiiは僕も持ってるけど、PS3とXBOXはまだ持ってないんだ。
「あとDSとPSP。それだけじゃ面白くないから、奇をてらってファミコンもある」
 どういうゲームセンターだよ。
 それじゃゲーム機展示会じゃん。
「DSとかPSPは盗難防止チェーン付いてるけどね」
 私物を文化祭で盗られたらたまんないだろ? とアスランは言う。
 たしかに、DSは注文しないと手に入りにくいもんなぁ。持ってるけど。
「あとなんだっけ。バーコードのやつも誰かが持ってくるって」
「げ」
 なんだそれ。本気で展示会じゃん、そんな希少品持ってくるなんて。
「こっちは見張ってるだけだけど、居座る人が多そうでちょっと心配なんだ」
「ゲームって、やり始めると止まんないしね」
「らしいね」
 ん?
「アスラン、ゲームしないの?」
「うちにゲーム機はないよ」
 あっさり返すアスランに、僕は自分の部屋のゲームたちを思い出す。
 えーと、携帯できるやつもあわせて・・・10台超えてる。
「パソコンでやったりとか」
「も、しない。ゲームって呼べるのはチェスとかトランプくらいかな」
 信じられない。
 現代の高校生の住む環境とは思えない。偏見かもしれないけど。
「経験はあるよ。友達の家で何度かやったから」
 ああ、よかった。かろうじて現代人だ。
「それより、キラ」
 ほっとする僕に、アスランが真面目な目を向けてきた。
「そのほっぺた、どうした?」
 ぎく。
「ちょっと、喧嘩・・・?」
「だれ」
「うーと・・・」
 弱いんだよなぁ、この目。
 射抜くような、強い眼差し。
「知らない子。女の子」
「俺絡み?」
「まあ、そう、かな?」
 箸を置いて、アスランの手がそっと僕の頬を摩った。
 熱はもうないけど、まだちょっと赤い。チリッと痛んだ。
「ごめん。そういうことまで気が回らなくて」
「いいよ。僕も覚悟してたし」
 嫉妬とか、女の子特有の感情は仕方ない。
「アスランさぁ、自分のこと、付き合った子にあまり話さないでしょ」
「え?」
 突然の話題に、ふとアスランの手が離れる。ああ、冷たくて気持ちよかったのに。
「女の子って、そういうの聞きたがるくせに自分のこと喋りまくるもんね。アスラン、家のこととかあまり話さないでしょ?」
「あ、ああ。何人かの子は、父の仕事知ってたみたいだったけど・・・」
 いるよね、「金持ち好き」の女の子。
「昨日言ったよね、僕だけのやつがいいって」
 とん、とキスマークの残る胸のあたりを指で突付いて、僕は真剣に言う。
「進路とか、訊いていい?」
「訊いてどうするんだ?」
「別に。知りたいだけ。好きな人のことはなんでも知ってたい」
 アスランは少し困った顔をする。
 アスランの嫌いな「わがまま」だって自覚はある。
 でもせっかくアスランが家族のことを話してくれたんだ。
 どうせならアスラン自身のことも知りたい。
「キラは、進路決めてる?」
「機械科がある国立。プログラマー目指す」
「それ、お父さんが?」
「ううん。僕が勝手に希望して、父さんも応援してくれてる」
「そ、か」
 ふと、アスランの表情に影が落ちる。
「アスランは、お父さんの会社、継ぐの?」
「そういうことになってる」
 裏のある言い方。
「嫌なんだ」
「うん、まあ」
 煮え切らないなぁ。
「本当は何がしたいの?」
 僕の問いに、アスランはコーヒーで口の中を湿らせて、戸惑いがちに言葉を紡いだ。
「機械をやりたいんだ。キラみたいにプログラムじゃなくて、ハードのほうを」
「ロボットとか?」
「うん。大型の二足歩行ロボとか、小さいペットロボとか、作ってみたい」
「やればいいじゃん」
「できないんだ」
 本当に、アスランは諦めたように言う。
「ザラ家の長男は、代々あの会社を継ぐことになってる。俺は一人っ子だから、大学は経済学部」
「お父さんの命令?」
「子供の頃から、そう言われてる。父にも、親戚関係にも」
「お母さんは?」
「母は・・・なにも言わない」
 アスランの表情が、今度こそ消えた。
「何も言わないんだ。あれをしろとか、これはするなとか。ただ、見てるだけ」
 僕の胸のあたりがムカムカしてきた。
「一度だけ反抗して、父に機械をやりたいと言ったら、怒られた。そのときも母は見てるだけだった。叱ることも、擁護することもなかった」
「それで、アスランは従っちゃうんだ?」
「経済的に負担するのは両親だ。保護者に従うのが子供だろう?」
 ああ、駄目だ。
 我慢限界。
「なにそれ!」
 僕は声を荒げた。
 アスランがビックリした顔をするのもかまわず、僕は怒鳴る。
「親に従うのが子供!? 子供を応援するのが親じゃん! 間違ってるよ!!」
「キラ」
「なに言いなりになってんの!? 経済的負担? そんなん、奨学金取ってバイトして、親に反抗して学校行ってる人なんか山ほどいるよ!」
 親から全面的にバックアップされてる僕が言うのは、説得力がないかもしれない。
 だけど黙っていられない。
 アスランの親にもむかつくけど、アスラン本人にも僕はむかついていた。
「なに甘えたこと言ってんの? アスラン怖いだけじゃん! 嫌われるのが怖いだけじゃん!!」
 ぐっと、アスランが何かを言いかけた。
「告白してくる子を断らないのもそうでしょ? 角が立って、非難されるのが怖いからでしょ? そんで踏み込まれるのが怖いから期限つけるんでしょ!?」
 こうなると僕は止まらない。
 普段おとなしい分、キレると怖いってトールも言ってたほどだ。
「なにイイコぶってんの? アスランほんとはもっと野心家じゃん! そんなこと、僕だって気づいてるよ!」
 やさしい顔して、本当は腹黒いことを僕は知ってる。
「戦えばいいじゃん! 一人が怖いなら僕も巻き込んでいいよ!! 巻き込んでよ!!」
 それだけアスランに近づきたい。
 少しでも支えになりたいんだ。
 冷静でやさしいきみが、本当は怖がりなことを知っているから。
 気づいてしまったから。
「素直になりなよ!!」
 そこまで言って、僕はぜぇ と息をついた。
 アスランは表情を消して、黙ったままだ。
 嫌われた。
 そう思って、アスランの膝から空になった弁当箱を奪って、自分の分と一緒に袋に押し込んで
「そんな人だと思わなかった! 見損なった!!」
 そう吐き捨てて、僕はその場から逃げた。
 アスランの言葉は聞きたくなかった。
 これでお別れだ。
 三日目を待つことなく、僕らは終わったんだ。
 僕のわがままのせいで。
 その証拠に、その日の夜はメールも電話も来なかった。
 僕は一晩中枕を涙で濡らし続けた。 

ぼや記。

2007-04-18 18:34:15 | ぼや記
☆くんと石田しゃんがただ羊を数えてくれるだけのあのCD。
誰か買った方、聞いた方いらっしゃいませんか。
いったいいくつまで数えてくれるのかが気になってしかたありません。
アスキラで妄想。

「羊が389匹」
「ひつじが390っぴき・・・」
「羊が391匹」
「ひつじ・・・394・・・」
「キラ、みっつ飛んでる」
「ふぇ?」
「ああ、いいや。羊が395匹」
「んー・・・」
「こら、寝るな」
「も、だめ・・・」
キラさま就寝。
というわけで終了。

というものなのでしょうか・・・!!
聴きたい!!
でも睡魔がやってくる前に妄想が頭ん中で暴走して眠れないよ!!